上 下
169 / 279
第十一章

レベル169

しおりを挟む
「よし、じゃあオレがロゥリに圧勝したら訓練は無しな!」
「いいだろう」

 最近は、ペンテグラムのおっさんから毎日スパルタの訓練を施されていた。
 くっそこのおっさん、嫌だつってんのに無理やり首根っこ掴んで引き摺っていくんスよ。
 あれかな? 裏技で倒されたのを未だに根に持っているのかな?

「この俺を退けたんだ、そこいらの奴に負けてもらっては困る」
「ちょうどいいんじゃないですかね。お坊ちゃまの剣はほぼ独学です、今後、対人戦も考えれば正規の剣術を知っておくべきです」

 いいんだよ、人間を斬る事はないんだから!
 いざとなったら伝家の宝刀、逃げ足があるんだから。
 えっ、逃げ切れた事なんてないじゃないですかだって?
 どうしてだろうなあ……逃げ足は速いほうだと思うんだけどなあ。

 とにかく、オレには訓練なんて必要ないのっ!
 今からそれを証明してやるゼ!
 ロゥリが呆れたような視線でオレの方を見てくる。
 フッ、そんな余裕をこいているのも今のうちだ!

 オレは前回の戦闘で数倍レベルアップしているんだからな!
 えっ、だったらなんでペンテグラムと直接勝負をしないのかって?
 例の三種の神器があっても勝てそうにないからだよ!

 このおっさん、スキル持ってないくせにめちゃ強いの。
 レベル120は伊達ではない。
 というか、もうあんなギリギリな戦闘はしたくない。

『出でよ! マンドラゴラギター!』

 ――ギュイィィーン!

 フハハハ! まずはこれだ! くらえ共振攻撃!
 えっ、それがどうしたって?
 まあ見てろ! このギターの攻撃を受けて無事で居られるかな!?

 しかし、一向にロゥリにダメージが入っている様子が無い。
 おかしい、なんでこいつ平気な顔をして立っていられるんだ。鈍感かな?

「何やっているんですかお坊ちゃま? 戦わないのですか? オープニング曲でも作っているのですか」

 いや、戦いはすでに始まっているんですよ?
 ほら、固有振動数って言うかなんていうか。
 音で物質を破壊? みたいな。

「音で人体を破壊ですか? う~ん、無理じゃないですか?」
「えっ?」

 ガラスや、金属のように、素材が均一で振動しやすい物であれば共振反応で破壊する事は可能である。しかし、人体は様々な性質で出来ている。
 鼓膜や血液、といった一部の部位のみというのなら分かるが、人体全てを対象にするのはかなり難易度が高い。
 しかも人体の固有振動数は人によってまばらであるとか。

「そもそも、音響攻撃と共振はまた違いますよ?」
「でもあの姫様アンデット、ちゃんと落ちたよ?」
「ううむ……それはあれじゃないですか、ただお坊ちゃまの音楽に感動して落ちたのじゃ?」

 ええっ!? いや、それはそれで嬉しいけどさあ。
 えっ、こっちからいっていいかだって?
 いやちょっと待て、もう一つあるから。

『パワードスーツ・リミットブレイク!』

 その瞬間、全身が真っ黒に染め上がる。
 そして弾丸のような速度でロゥリに迫る。
 慌てたロゥリが防御の姿勢を取ろうとした所、サッと後ろに回りこみ、わき腹をくすぐる。

 おおっ、凄いスピードだ!
 まるで周りがスローモーションになったかのよう。
 そして力も上がっている。

 重量操作で体重が上がっているはずのロゥリの体を軽く持ち上げる。

「フハハハ! どうだ、手も足もでまい!」

 リミットブレイク、三分間程の間、スピードと筋力が数倍に跳ね上がる模様。
 そして、懸念であった体への負担などのデメリットも無い。
 クールタイム無しの連続使用も可能で、使ったカシュアも随分驚いていた。

「見たか! これがオレのじつりょ・、ん?」

 いでっ! いででで!
 突然両足に激痛が走る。
 遅れて全身にも激痛が!

「あだだだ! 何だコレ! 肉体への負担はないんじゃ?」

 地面をのた打ち回るオレを見てカシュアが一言。

「ププッ、騙されてやんの」
「カシュアてめぇええええ! いだだだ!」

 つ~か、三分どころか一分も経ってないぞ!
 そういやカシュアの奴、途中から全身が光っていたな。

 てっきりリミットブレイクのエフェクトだと思っていたんだが、アイツ、自分自身に回復魔法掛けてやがったな!
 うおっ! いかん、まるで全身が肉離れしたかの様な痛み!
 怒りで力が入ると超痛てぇえ!

 おいちょっと待てロゥリ、なんだその手は?
 止めろ、来るな! こっちへ来るんじゃない!
 すいません、私が悪うございましたっ! 訓練だってなんだって受けます! だから触らないでっ!

 あっ、やめっ、止めてください、止めろ! あっ、

「アッッ――――――ッ!!」

◇◆◇◆◇◆◇◆

「おのれカシュア」
「あっ、そんな事言っていいの、回復魔法止めるよ?」
「すいませんカシュア様、よろしくお願いいたします」

 くっそ、痛みが治まったら覚えていろよ。

「ボクを人体実験に使おうとするからバチが当たったんだよ」
「当たったんじゃなくて当てたんだろ?」

 まあ確かに、とりあずカシュアっていうのは良くないかもしれない。
 とはいえ、他にやってくれそうな相手がいないんだよなあ。
 えっ、だったら自分でしろって? ごもっともですね。

「別にキミの頼みであるのならボクもやぶさかではないんだよ」

 キミとボクの仲だし、頼られるのは悪い気はしないしね。なんてちょっと悪戯っぽい表情で言ってくる。

「だけどね、ご褒美ぐらいくれてもいいと思うんだよね! ほらここにブチューとか!」

 ええい止めろ! 顔を近づけてくるんじゃない!

「何やっているんですか二人共、とうとうホモに目覚めたんですか?」
「ちっ、ちげ~し! というか、今のこいつは女だから、たとえそうなってもホモではない」

 ないはずだ!

「そうだよラピス君! ボクはもう身も心も女性になってしまったんだから!」
「「えっ?」」

 なにやら頬を染めてこっちを見つめてくるカシュア。

「実はボク、こないだの一件以来、キミを見ると……こう気持ちが押さえられなくなるんだ」

 そう言ってどんどん顔を近づけてくる。
 やめろ唇をつきだしてくるんじゃねえ!
 いだだだ! くそっ、体が痛くて動けねえ!

「はあ、いいかげんにしなさいカシュア、あまりお坊ちゃまをからかうんじゃありませんよ」
「アハハ、バレちゃったかね」

 なんだ冗談か。
 というかコイツ、最近やけに絡んでくるなあ。
 ウザさも倍増でござる。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「しかしアレですね~、カシュアまで、好きな子にはイジワルしたいタイプだとは意外でしたね」
「えっ、な、なんのことかな~」


――――――――――――――――――
――――――――――――――――――

クイーズ君の受難は今後も続きます☆
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

愛していました。待っていました。でもさようなら。

彩柚月
ファンタジー
魔の森を挟んだ先の大きい街に出稼ぎに行った夫。待てども待てども帰らない夫を探しに妻は魔の森に脚を踏み入れた。 やっと辿り着いた先で見たあなたは、幸せそうでした。

【完結】言いたいことがあるなら言ってみろ、と言われたので遠慮なく言ってみた

杜野秋人
ファンタジー
社交シーズン最後の大晩餐会と舞踏会。そのさなか、第三王子が突然、婚約者である伯爵家令嬢に婚約破棄を突き付けた。 なんでも、伯爵家令嬢が婚約者の地位を笠に着て、第三王子の寵愛する子爵家令嬢を虐めていたというのだ。 婚約者は否定するも、他にも次々と証言や証人が出てきて黙り込み俯いてしまう。 勝ち誇った王子は、最後にこう宣言した。 「そなたにも言い分はあろう。私は寛大だから弁明の機会をくれてやる。言いたいことがあるなら言ってみろ」 その一言が、自らの破滅を呼ぶことになるなど、この時彼はまだ気付いていなかった⸺! ◆例によって設定ナシの即興作品です。なので主人公の伯爵家令嬢以外に固有名詞はありません。頭カラッポにしてゆるっとお楽しみ下さい。 婚約破棄ものですが恋愛はありません。もちろん元サヤもナシです。 ◆全6話、約15000字程度でサラッと読めます。1日1話ずつ更新。 ◆この物語はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆9/29、HOTランキング入り!お読み頂きありがとうございます! 10/1、HOTランキング最高6位、人気ランキング11位、ファンタジーランキング1位!24h.pt瞬間最大11万4000pt!いずれも自己ベスト!ありがとうございます!

あ、出ていって差し上げましょうか?許可してくださるなら喜んで出ていきますわ!

リーゼロッタ
ファンタジー
生まれてすぐ、国からの命令で神殿へ取られ十二年間。 聖女として真面目に働いてきたけれど、ある日婚約者でありこの国の王子は爆弾発言をする。 「お前は本当の聖女ではなかった!笑わないお前など、聖女足り得ない!本来の聖女は、このマルセリナだ。」 裏方の聖女としてそこから三年間働いたけれど、また王子はこう言う。 「この度の大火、それから天変地異は、お前がマルセリナの祈りを邪魔したせいだ!出ていけ!二度と帰ってくるな!」 あ、そうですか?許可が降りましたわ!やった! 、、、ただし責任は取っていただきますわよ? ◆◇◆◇◆◇ 誤字・脱字等のご指摘・感想・お気に入り・しおり等をくださると、作者が喜びます。 100話以内で終わらせる予定ですが、分かりません。あくまで予定です。 更新は、夕方から夜、もしくは朝七時ごろが多いと思います。割と忙しいので。 また、更新は亀ではなくカタツムリレベルのトロさですので、ご承知おきください。 更新停止なども長期の期間に渡ってあることもありますが、お許しください。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【長編・完結】私、12歳で死んだ。赤ちゃん還り?水魔法で救済じゃなくて、給水しますよー。

BBやっこ
ファンタジー
死因の毒殺は、意外とは言い切れない。だって貴族の後継者扱いだったから。けど、私はこの家の子ではないかもしれない。そこをつけいられて、親族と名乗る人達に好き勝手されていた。 辺境の地で魔物からの脅威に領地を守りながら、過ごした12年間。その生が終わった筈だったけど…雨。その日に辺境伯が連れて来た赤ん坊。「セリュートとでも名付けておけ」暫定後継者になった瞬間にいた、私は赤ちゃん?? 私が、もう一度自分の人生を歩み始める物語。給水係と呼ばれる水魔法でお悩み解決?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

オタクおばさん転生する

ゆるりこ
ファンタジー
マンガとゲームと小説を、ゆるーく愛するおばさんがいぬの散歩中に異世界召喚に巻き込まれて転生した。 天使(見習い)さんにいろいろいただいて犬と共に森の中でのんびり暮そうと思っていたけど、いただいたものが思ったより強大な力だったためいろいろ予定が狂ってしまい、勇者さん達を回収しつつ奔走するお話になりそうです。 投稿ものんびりです。(なろうでも投稿しています)

処理中です...