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第十章

レベル159

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 ラピスがステッキを構えたその時だった。
 地面の裂け目から淡い光の粒が少しずつ立ち昇る。
 どうやら地下で浄化された魂が地上にまで昇ってきた模様。

 それらは徐々に数を増して行き、最後には当たり一面、光の乱舞となる。
 オレもラピスも、その景色に圧倒されて声の一つも出ない。

「綺麗ですね……」

 私の最後には、もったいないぐらいの風景です。と目の前の美女は小さく呟く。
 やがてそれらは天に昇り、辺りを昼間のように照らす。
 その輝きに向かって手を差し伸べる美女は、まるで絵本の中から出てきたかの様な幻想的な雰囲気を醸し出している。

「さあ、お願いします。皆が行ってしまう前に、私も空へと還してください」

 そう言ってオレ達に向かって微笑む。
 ラピスが少しだけ逡巡したそぶりを見せるが、すぐに意識を切り替える。

「……分かりました。私はカシュアのように優しくはできませんが、許してください」
「おっと、それは困りますなあ」
「お坊ちゃま!」

 ガッっと強い衝撃があったかと思うと、天地がさかさまになる。

 そのまま凄い勢いで地面が通り過ぎていく。
 ぐっ、いってぇええええ! いったい、何が!?
 遅れて全身に痛みが走る。

『パワードスーツ・オン!』

 どうやら何者かに吹き飛ばされた模様。
 吹き飛ばされながらパワードスーツの強化をオンにする。
 オレの体を刺青のようなものが包みこむ。

 ふと顔を上げると目の前にでっかい剣が! うぉっ!?

『鉱石M!』

 とっさに鉱石Mを変形させてそれを防ぐ。が! なんと、防御力を強化させている鉱石Mがひしゃげる。
 うぉっ、マジか!?
 すぐにオレは距離を取るように動く。

 立ち上がったオレの目の前に居たのは……青白いオーラを纏った白銀の鎧騎士であった。

「ラピス!」

 ラピスに助けを求めようとしたところ、あっちはあっちで大乱闘。
 首の無い、黒い鎧を着た騎士が5体ほどラピスと戦闘を繰り広げている。
 そしてその向こうには、真っ黒なローブを纏った魔法使い風の男が一人。

「まだ逝くには早過ぎますぞ、エフィール姫」
「バルデス……これは一体、何の真似です!」
「いえいえ、このバルデス、姫の一大事と思い駆けつけた忠臣でございますぞ」

 そう言って薄く笑う。
 美女はその男を睨み付ける。

「忠臣だと言うのなら、私の言う事を聞いて下がりなさい!」
「いえいえ、苦言を呈するのも忠臣の務めでございます故」

 姫様の方も会話に急がしそうで助けは望めない。

「お坊ちゃま、逃げてください! そいつのレベルは120です!」
「ええっ!?」

 ロゥリはどうした!? えっ、どっか遠くへ行ってるようで帰ってくるまで時間がかかる?

 あのクソドラゴン、待機してろって言っただろ!
 召喚しようにも攻撃の手が緩まなくて余裕が出来ない。
 パワードスーツの能力と、鉱石Mの変形でかじろうてかわしてはいるものの、ちょっと間違えればバッサリやられそうな勢いだ。

「くっそ、120レベルとか予想外すぎるだろ!」

 鉱石Mを刀にする暇も無く防戦一方でござる。
 ラピスの方も、聖剣機能のあるステッキを放り投げてドラスレで応戦している。
 いくら聖剣機能があってもステッキじゃダメージにならないか……

「キサマァ、ナカナカヤルナァ」

 何やら楽しそうな声が聞こえる。
 遊んでんじゃねえぞ、クソが!
 悪あがきで足元の砂を蹴り上げる。
 えっ、アンデットにそんなものは利かない? いいんだよ、ただの嫌がらせだから。

 だが、砂が鎧の隙間に入るのを嫌がってか少し隙が出来た。

 その隙に鉱石Mを刀にして切り裂きながら脇をすり抜ける。
 おお、傷一つついてねえや。
 レベル差ありすぎだろ?

 ラピスの方が、なんとか一体を屠ったようで残りは4体になっている。
 やっぱドラスレか聖剣がなければダメージが通らない。
 オレはそのまま鎧騎士に背を向けて駆け出す。
 むろんそいつもオレを追ってくる。が!

 ―――ドガッ!

 オレはラピスが落としていたステッキの端を踏む。
 すると片方が持ち上がり、うまい具合に騎士の鎧の隙間に突き刺さった。
 ハッ! 油断するからそうなるんだぜ! ざまあみさらせ!
 刺さった場所から光の粒が漏れだす。が!

 あっさり抜きやがった。むろん光の粒も消えた。
 ステッキが刺さったぐらいじゃ大したダメージになってない模様。
 まあ世の中、そうそううまい事いきませんよねえ?
 万事休すかと思われたその時、突如オレの体を中心に黒い渦が発生する。

「抵抗しないでください、安全な場所まで飛ばします!」

 その渦はオレの全身を飲み込んで行く。
 視界の全てが真っ暗闇になっていき、それが晴れた時、そこには、さきほど居たような完全武装の首の無い騎士が、オレとラピスを取り囲んでいるのだった。
 お姫さん、これ、ほんとに安全な場所なのでしょうか?

「何事じゃ?」

 ふと見ると、玉座らしき場所に中学生ぐらいの少女が座って頬杖をついている。

 立派な王冠や豪勢なマントを装備しているが、どこか不釣合いな感じがする。
 王冠が大き過ぎるのか、顔を通り越して肩の上に乗って、まるで首輪の様。
 服装は全部ダボダボで所々紐でしばっている。

 どこか不釣合いというか、不釣合いなとこしか存在しない。

「先ほどの時空魔法はねえ様のものかのう」

 そんな不釣合いな子供が訝しげな視線でこっちを見て来る。

「おいラピス、アレは?」
「リッチロードと表示されますね。先ほどの方の妹さんでしょうか?」
「アレとはなんじゃアレとは! 失礼な奴じゃな!」

 プリプリと怒りながら立ち上がり、マントをはだけさせ―――ようとしてこけた。
 マントでかすぎだろ?
 だがその少女は何事も無かったかのように立ち上がり、

「わらわの名はローゼマリア・フォーゼリア! この死せる王国、フォーゼリアの現王であるぞ!」

 そう言うのであった。
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