上 下
156 / 279
第十章

レベル156

しおりを挟む
 カシュアが、戻って来た聖剣を抱き締めてキスをする。
 キメェから止めろ!
 益々聖剣に嫌われるぞ?

「さてと、それではカシュアのレベル上げと行きましょうか。少々敵のレベルは高いですが聖剣の敵ではないようですしね」
「当たらなければどうという事も無い。なんて言う変態が現れない限り大丈夫だね!」

 おいバカ止めろ、変なフラグを立てるんじゃない。
 ほんとにそんな変態が現れたらどうしてくれる!
 と、思った時だった。

 突如、上空に黒い渦巻きが現れた! フラグ回収早いな。

「時空魔法か!?」
「時空魔法を使うアンデット!? 明らかに上位種ですね……」
「お前があんな事言うからだぞ!」

「ええっ、ボクの所為なの?」

 その黒い渦から人型の何かが現れる。
 そこから現れたのは、真っ黒なドレス、真っ黒な長い髪を携えた、一人の美しい女性であった。

「人間……なのか?」
「アンデット…には見えませんが……古代王国では、如何に死体を腐食させないかといった技術を研鑽していたと聞きます。人間そっくりのアンデットがいても不思議ではありません」
「え~と、敵、なんだよね?」

 カシュアが聖剣と盾を構える。
 人型の上位アンデットと言えば、リッチかバンパイアか……
 今のカシュアで勝てるだろうか?

「どう思うラピス?」
「実はスカウターの熟練度が上がったのか、モンスターのレベル表示がされるようになったんですよね」

 ほうほう。

「それによりますと、リッチロード、レベル92、スキル時空魔法・極と表示されています」
「うん、逃げようか」

 幾らなんでもダブルスコアは無いだろう。

 レベルが倍以上離されていたら、たとえ聖剣を持ってしても勝てはしない。
 つーか92って何よ? もうほとんどカンストレベルじゃね?
 ゲームで言ったらラストダンジョン並、どうやら今のオレ達では、ここは厳し過ぎたようだ。

「ちょっと待ってください。何か様子が変ですよ?」

 地面に降り立ったその美女は、片膝をつき、ずっと頭を垂れている。
 トイレでも我慢しているのか?

「いや、それは無いと思うよ?」

 その美女は、そっと頭をもたげると、

「お待ちしておりました、聖剣の君よ」

 そう言ってくるのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「先代の聖剣の担い手が約束をしていた?」
「はい、その通りでございます」

 ロゥリを除いたオレ達は今、先ほどの美女に連れられて、暗い螺旋階段を下に降りて行っている。ロゥリの奴は外で待機だ。
 なんでもこの美女の言う事には、先代の聖剣の担い手、所謂、聖皇国の始祖、竜王ニースの主人であったその人から、いずれここに留まっている魂を解放してもらう事を約束していたらしい。

「例え自分が無理でも、その子が、子孫が、何時かは必ず私達を解放しに来ると。貴方様方はその為に、ここへ来られたのではないのでしょうか?」
「ああ、うん。まあ、やる事は同じだけどね」

 その昔、南の大地は、ここに居たアンデット達の所為で、人が住めるような状況ではなかったらしい。
 それを憂えた先代の聖剣の担い手が、ここを支配してたリッチロードに戦闘を挑み、長い死当の末、かじろうて討ち勝ったと言う。

「その伝承なら聖皇国に広く伝えられていますね。不毛の大地に住むアンデット達を討伐し、その時に共に戦った部下達が南の国々を打ち立てたと言う」
「南の国々は、聖王国のプロパガンダだと言って認めて無いけどね!」
「確か、自分達は古代王国の末裔だとか言ってるのでしたっけ?」

 それを聞いて美女はフフッと笑う。
 今の南の人々には古代王国の血は流れていない。
 なぜならば、それらは皆、ここで骸と成り果てているのだから。

 そう自嘲気味に呟く。

 人は誰しも自分に都合のいい様に解釈をする。
 それが証明のしようも無い過去の事なら、なおさらだ。
 歴史は出来るのではなくて、作るものだと言ったのは誰のセリフだったか……

「まあそれはいい。今更出来上がった歴史をどうこう言っても誰も耳を貸さないだろう」

 それよりも、先代がどういう経緯でそんな約束をする事になったかだ。

「私はその時倒されたリッチロードの娘なのです」
「えっ!?」

 先代は、リッチロードにかじろうて勝てはしたが、未だ周りは無数のアンデットに囲まれた状態。

 リッチロードの意思は、次代の王である自分に引き継がれることになった。
 このまま戦えば聖剣の担い手を屠る事はたやすい。
 だが、屠ったとしても、また一人、アンデットが増えるだけ。

「ならばと思い、交渉を持ちかけたのです」

 古代王国では、たとえ死しても魂は肉体に残る。と信じられていた。

 それもそのはず、実際に魂は肉体に固定されていたのだから。
 故人を弔う特定の儀式が、思いもよらない魔術となってしまっており、魂は空へと還る事が出来ず、死体という牢獄に捕らわれる事になっていたのだと。
 そんな誰かを憎むわけでもない、望まずして亡霊と成れ果てた魂を解放する代わりに身の安全を保障しようと。

「なぜなら私も、そういった亡霊のひとつでしたから」

 ……なるほどな。それを先代は受け入れ、いずれ彷徨える魂を解放する事を約束した訳か。

「まあボクは聖皇国とはなんの縁も無いけど、それぐらいなら容易い御用さ!」
「それは誠ですか? ありがとうございます!」

 またお前、安請合いして……知らないぞ後で泣いても。

「ただ、少々問題が発生しまして」

 なんて言いながら階段を降りたその先、巨大な扉に手を掲げる。
 ギギギィという重い音を立てながら、ゆっくりと開くその扉の向こう。

「あれから千年近くが経ちました。長い年月を経た事によって人への憎しみが薄れた魂も集って来て……」

 広大な地下空間。まるでどこまでも広がるかのように終わりの見えない世界。その中には……

「その数、100万と5千。これらがみな、解放を心待ちにしている魂なのです」

 多過ぎだろッ!
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

夫の色のドレスを着るのをやめた結果、夫が我慢をやめてしまいました

氷雨そら
恋愛
夫の色のドレスは私には似合わない。 ある夜会、夫と一緒にいたのは夫の愛人だという噂が流れている令嬢だった。彼女は夫の瞳の色のドレスを私とは違い完璧に着こなしていた。噂が事実なのだと確信した私は、もう夫の色のドレスは着ないことに決めた。 小説家になろう様にも掲載中です

【完結】伝説の悪役令嬢らしいので本編には出ないことにしました~執着も溺愛も婚約破棄も全部お断りします!~

イトカワジンカイ
恋愛
「目には目をおおおお!歯には歯をおおおお!」   どごおおおぉっ!! 5歳の時、イリア・トリステンは虐められていた少年をかばい、いじめっ子をぶっ飛ばした結果、少年からとある書物を渡され(以下、悪役令嬢テンプレなので略) ということで、自分は伝説の悪役令嬢であり、攻略対象の王太子と婚約すると断罪→死刑となることを知ったイリアは、「なら本編にでなやきゃいいじゃん!」的思考で、王家と関わらないことを決意する。 …だが何故か突然王家から婚約の決定通知がきてしまい、イリアは侯爵家からとんずらして辺境の魔術師ディボに押しかけて弟子になることにした。 それから12年…チートの魔力を持つイリアはその魔法と、トリステン家に伝わる気功を駆使して診療所を開き、平穏に暮らしていた。そこに王家からの使いが来て「不治の病に倒れた王太子の病気を治せ」との命令が下る。 泣く泣く王都へ戻ることになったイリアと旅に出たのは、幼馴染で兄弟子のカインと、王の使いで来たアイザック、女騎士のミレーヌ、そして以前イリアを助けてくれた騎士のリオ… 旅の途中では色々なトラブルに見舞われるがイリアはそれを拳で解決していく。一方で何故かリオから熱烈な求愛を受けて困惑するイリアだったが、果たしてリオの思惑とは? 更には何故か第一王子から執着され、なぜか溺愛され、さらには婚約破棄まで!? ジェットコースター人生のイリアは持ち前のチート魔力と前世での知識を用いてこの苦境から立ち直り、自分を断罪した人間に逆襲できるのか? 困難を力でねじ伏せるパワフル悪役令嬢の物語! ※地学の知識を織り交ぜますが若干正確ではなかったりもしますが多めに見てください… ※ゆるゆる設定ですがファンタジーということでご了承ください… ※小説家になろう様でも掲載しております ※イラストは湶リク様に描いていただきました

婚約破棄されたら魔法が解けました

かな
恋愛
「クロエ・ベネット。お前との婚約は破棄する。」 それは学園の卒業パーティーでの出来事だった。……やっぱり、ダメだったんだ。周りがザワザワと騒ぎ出す中、ただ1人『クロエ・ベネット』だけは冷静に事実を受け止めていた。乙女ゲームの世界に転生してから10年。国外追放を回避する為に、そして后妃となる為に努力し続けて来たその時間が無駄になった瞬間だった。そんな彼女に追い打ちをかけるかのように、王太子であるエドワード・ホワイトは聖女を新たな婚約者とすることを発表した。その後はトントン拍子にことが運び、冤罪をかけられ、ゲームのシナリオ通り国外追放になった。そして、魔物に襲われて死ぬ。……そんな運命を辿るはずだった。 「こんなことなら、転生なんてしたくなかった。元の世界に戻りたい……」 あろうことか、最後の願いとしてそう思った瞬間に、全身が光り出したのだ。そして気がつくと、なんと前世の姿に戻っていた!しかもそれを第二王子であるアルベルトに見られていて……。 「……まさかこんなことになるなんてね。……それでどうする?あの2人復讐でもしちゃう?今の君なら、それができるよ。」 死を覚悟した絶望から転生特典を得た主人公の大逆転溺愛ラブストーリー! ※最初の5話は毎日18時に投稿、それ以降は毎週土曜日の18時に投稿する予定です

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】クビだと言われ、実家に帰らないといけないの?と思っていたけれどどうにかなりそうです。

まりぃべる
ファンタジー
「お前はクビだ!今すぐ出て行け!!」 そう、第二王子に言われました。 そんな…せっかく王宮の侍女の仕事にありつけたのに…! でも王宮の庭園で、出会った人に連れてこられた先で、どうにかなりそうです!? ☆★☆★ 全33話です。出来上がってますので、随時更新していきます。 読んでいただけると嬉しいです。

貴族に生まれたのに誘拐され1歳で死にかけた

佐藤醤油
ファンタジー
 貴族に生まれ、のんびりと赤ちゃん生活を満喫していたのに、気がついたら世界が変わっていた。  僕は、盗賊に誘拐され魔力を吸われながら生きる日々を過ごす。  魔力枯渇に陥ると死ぬ確率が高いにも関わらず年に1回は魔力枯渇になり死にかけている。  言葉が通じる様になって気がついたが、僕は他の人が持っていないステータスを見る力を持ち、さらに異世界と思われる世界の知識を覗ける力を持っている。  この力を使って、いつか脱出し母親の元へと戻ることを夢見て過ごす。  小さい体でチートな力は使えない中、どうにか生きる知恵を出し生活する。 ------------------------------------------------------------------  お知らせ   「転生者はめぐりあう」 始めました。 ------------------------------------------------------------------ 注意  作者の暇つぶし、気分転換中の自己満足で公開する作品です。  感想は受け付けていません。  誤字脱字、文面等気になる方はお気に入りを削除で対応してください。

ヤケになってドレスを脱いだら、なんだかえらい事になりました

杜野秋人
恋愛
「そなたとの婚約、今この場をもって破棄してくれる!」 王族専用の壇上から、立太子間近と言われる第一王子が、声高にそう叫んだ。それを、第一王子の婚約者アレクシアは黙って聞いていた。 第一王子は次々と、アレクシアの不行跡や不品行をあげつらい、容姿をけなし、彼女を責める。傍らに呼び寄せたアレクシアの異母妹が訴えるままに、鵜呑みにして信じ込んだのだろう。 確かに婚約してからの5年間、第一王子とは一度も会わなかったし手紙や贈り物のやり取りもしなかった。だがそれは「させてもらえなかった」が正しい。全ては母が死んだ後に乗り込んできた後妻と、その娘である異母妹の仕組んだことで、父がそれを許可したからこそそんな事がまかり通ったのだということに、第一王子は気付かないらしい。 唯一の味方だと信じていた第一王子までも、アレクシアの味方ではなくなった。 もう味方はいない。 誰への義理もない。 ならば、もうどうにでもなればいい。 アレクシアはスッと背筋を伸ばした。 そうして彼女が次に取った行動に、第一王子は驚愕することになる⸺! ◆虐げられてるドアマットヒロインって、見たら分かるじゃんね?って作品が最近多いので便乗してみました(笑)。 ◆虐待を窺わせる描写が少しだけあるのでR15で。 ◆ざまぁは二段階。いわゆるおまいう系のざまぁを含みます。 ◆全8話、最終話だけ少し長めです。 恋愛は後半で、メインディッシュはざまぁでどうぞ。 ◆片手間で書いたんで、主要人物以外の固有名詞はありません。どこの国とも設定してないんで悪しからず。 ◆この作品はアルファポリスのほか、小説家になろうでも公開します。 ◆過去作のヒロインと本作主人公の名前が丸被りしてたので、名前を変更しています。(2024/09/03) ◆9/2、HOTランキング11→7位!ありがとうございます! 9/3、HOTランキング5位→3位!ありがとうございます!

処理中です...