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第七章

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「なるほど、レンカイアは自分の子供じゃないと思われている訳か……」

 あれから案内役のおじさんに、レンカイアについて詳しい話を教えてもらえた。
 どうやらレンカイアは、一度この国に戻って来ていたらしい。
 奴隷商人も売れそうにないんで、ここに連れて来て、こっそり逃がして家に戻ってもらおうと考えていたようだ。

 しかしここで問題が発生した。
 スキルだ。レンカイアはスキルを持っていない事が確定している。
 それがどういう経緯かレンカイアの父親に伝わっていたようだ。

 もしかしたら父親は、レンカイアが奴隷となっているのを知って放置していたか……レンカイアを奴隷にした影の張本人か。

 なぜなら、その父親はレンカイアが自分の子供ではないと疑っていたらしい。
 元々レンカイアの母親は、この案内役のおじさんの婚約者だったような。
 それを横から貴族の力で奪っていったとのこと。

 さらにレンカイアが生まれたのが非常に微妙な時期だったとか。

 もしかしたら我が子ではないかもしれない。
 そうだ、奴隷に落とせば、金を出さずスキルの有無を調べられる。
 スキルが無いならそれは――――我が子ではない。

 と、思ったかどうかは想像であるが、可能性の一部としては否定しきれない。

 事実、家に戻ってきたレンカイアを、本人では無いと否定し、亡きものにしようとしたとか。
 結局レンカイアは、ほうほうの体で奴隷商の元に戻り、そのままこの国を脱出したらしい。

「あ、あんたらをダークエルフの元へ連れて行かなければ……レンカイア坊ちゃんにアサシンを差し向けると……」

 なるほどなあ。
 こりゃまずいな、レンカイアの居場所をゲロッちまったぞ。
 やけに居場所を聞いてきたのは、アイツの無事を心配した訳じゃなくて、アイツを無事にしなくする為だった訳だ。

「うっ、ううっ、すまねえ! レンカイアお坊ちゃんの無事を知らせてくれたあんたらをこんな目に合わせて!」

 もうオレッチはどうなってもかまわねえ、敵うことなら、レンカイアの事をよろしく頼む。と泣きながら訴えてくる。
 オレはそんなおじさんの肩に手を置く。

「あんたは何も間違った事はしてねえよ」

 オレ達はただ、エルフに会いに行きたいと言った。
 そしてあんたはそのエルフに会わせてくれた。
 ダークエルフだって、エルフには違いあるめえ。

「お、おめえ……」

 レンカイアの事だってオレに任せておけ、アイツはオレの友人だ!
 指の一本だって触れさせやしねえぜ!
 おいおい泣きながらオレにしがみついて来るおじさん。出来れば、しがみ付かれるなら可愛い女の子がいいんだが。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「どんな感じだラピス?」
「あのヤロウしくじったのか、なんて言ってますね」

 戻ったところ、客室に通された後、結構待たされる事となった。
 その間、ラピスは地獄耳を利用して盗み聞き。
 どうやら、おじさんさんの言った事は本当で、今尚、どうすればオレ達を亡き者に出来るか相談中のようだ。
 尚、そのおじさんとは森の出口で別れた。自分は死んだ事にしておいて欲しいと言って。

「仕方ないラピス、案内してくれないか?」

 見張りのおっさんをアポロの魔法で眠らせて、ご相談中の領主の執務室へ向かう。
 そして部屋の前まで来たら思いっきり扉を蹴り開ける。

「なっ、なんだ君は!」

 おうおう、外まで丸聞こえなんだよ。ええ、いったい誰を暗殺するって?
 おたくさあ、そんな事をして問題にならないとでも思っているの?
 下手すりゃ戦争よ? あのカユサルが唯で済ます訳が無いだろう。

 なんか出合え、出合えって言っているが、アポロの魔法で部屋の外には声が届かないようにしている。

「な、なぜ誰も来ないんだ!?」

 ドン! とドラスレで領主の机を真っ二つにするラピス。

「ひっ、ヒィイイ!」
「あんたとレンカイアの件は、あえてオレ達が首を突っ込む話ではないかもしれない」

 コクコクと頷く領主様。

「しかしながら、オレとアイツは今や友人だ。アイツを傷つけるという事は、オレ達を傷つけると同じ意味だ」

 あんたも貴族なら分かるだロ? と凄みを利かせる。
 ガクガクと震えだす領主様。

「それとな……」

 バンと机に手を突く。

「自分の子かどうかも判断がつかねえのかあんたは! その目はなんの為に付いている!」

 おじさんには悪いが、レンカイアは確かにこのおっさんの子供だ。
 なぜ分かるかって? そりゃ見れば分かる。良く似ているんだよ、顔つきがな。

「し、しかし、スキルが……」
「貴族の嫡子がスキルを持って居ないのは別にありえない事ではない」

 可能性が高い、というだけで、貴族でもスキルを持たずに生まれてくる場合も有る。

「ところで話は変わるが、ヘルクヘンセンのゼラトース家っての知ってるか」

 ゴクリと喉を鳴らす領主様。
 その様子だと知っているようだな。
 今、ゼラトース家ってのは世界中の貴族連中の、恐怖のシンボルとして有名となっている。

 貴族にとって家長の言葉は何よりも優先される。それが今までの常識であった。
 家長が黒と言えば、白い物も黒くなる。
 たとえ長男であろうとも、家長がウンと言わなければ跡は継げない。

 だが、ゼラトース家の長男はそれを覆した。
 他国に亡命、国同士の諍いを利用して家長の座を奪ったと言う。
 色々と誇張も混ざって、貴族の家長には耳の痛い話となっている。

 万が一、自分の息子にも同じ事をされたら……とか、日々怯えている奴等も居る。
 まあ、怯えるだけの心当たりがあるんだろうな。
 コイツのように。

「れ、レンカイアが他国の力を借りて、ここに舞い戻ってくると……?」
「それはないな。本人は今の暮らしに満足している。態々気分が悪いこの地へ戻ってくることは……まずないだろう」

 ただし、と付け加える。
 そしてオレは机の上に置いていた手をどける。

「オレが介入しなければの話しだがな」

 オレが手をどけたその場所には、ゼラトース公爵家の紋章が置かれていたのであった。
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