上 下
44 / 279
第三章

レベル44

しおりを挟む
 なにあいつ、つえぇえ。
 現れるモンスターを次から次へとなぎ倒していく。
 えっ、リーヴィの奴あんなに凄かったの?

 やべえ、そういや年上なのに呼び捨てにしてたわ。今度からリーヴィさんと呼ばないとな。

 それにしてもお姫様も凄い。
 シャドウスキルだっけ? それをまったく使ってないのに、瞬殺してござる。
 他の兵士さんまったく仕事してないよ?

 さすが本物のプリンセス。プリンセス(笑)とは大違いだ。誰の事とは言わない。

「凄いですね音楽とは、こんなに心も体も軽くなれる」

 いや、凄いのは君の基本性能だと思う。

「やはりそのギターがいいのでしょうか?」
「ん? まあ、いい楽器はいい音を奏でるのは当然かな。でも……」

 オレ手拍子を打つ、そして偶に剣を指で弾く。

「これだけでも音楽は作れる」
「……自分、目から鱗です」

 まあまあ、そんな硬くならなくても。ほんと真面目だなあコイツ。

「久しぶりにいい汗かいたな。今後も偶にはこうして付き合ってくれ!」
「いいですよ」
「えっ!?」

 お姫様が目をまん丸に見開く。
 どうやら冗談のつもりで言ったらしく、了解が得られるとは思ってもみなかったようだ。

「えっ、お前、ホンモノ? もしかして偽者じゃないだろうな?」

 なんだか顔が引き攣っている。そんなに珍しい事なのだろうか?
 いやでも、お姫様なんだし、命令すればいつでも可能だと思うのだが。

「もう、別に隠す必要はなくなりましたから」

 ふむ、隠していたのならしょうがない。

「素直なお前は逆に気持ち悪いな。まあいい、よしっ! お前達、今日はここで終わるぞ! 野営の準備をせよ!」
「ハッ!」

 その後も、圧倒的兵力と突出した二人の戦闘で、最深部に辿り着くまでにさほどの時間も掛からなかった。

「ふうむ……手ごたえが無いな……仮にも竜の寝床、もっと強力なモンスターが居てもおかしくはないのだが」
「岩竜は竜の中でもランクが低いと聞きます!」
「そうか、まあ贅沢は言ってられんな。よしっ! 戦闘準備をせよ!」
「ハッ!」

 お姫様の号令と共に攻城兵器が運ばれていく。
 そんな物まで準備できるのは、さすがは一国の軍である賜物だな。
 どうやら、ほんとにオレの出番はなさそうでござる。良かった、ほんとに良かった。

「竜は見つけたか?」
「ハッ、うまく擬態しているようですが、壁際に竜の反応をしている岩があります!」
「よしっ、ならば目覚めの一撃を加えてやるとするか」

 攻城兵器がとある岩に向けられる。
 その攻城兵器は、巨大な一本の槍が斜めに立て掛けられているだけだった。
 どうすんのかな? なんか魔法で打ち出すのだろうか?

 と思ってたら、地面から幾つもの黒い帯状のものが槍に絡み付く。
 どうやら影を操って射出する模様。
 その影によって限界まで弾き絞られる、いくつもの攻城兵器。

「これで死んでくれるなよ」

 そうニヒルに笑うお姫様。
 次の瞬間、一斉に槍が放たれる。
 それは狙いたがわず、一つの大きな岩に次々と突き刺さる。
 するとだ、

「グォォオオオ! ギャァアアオォオオ!」

 その岩が動き出したではないか。
 激しく暴れながら俺達を睨み付ける二つの赤い瞳。
 槍が突き刺さった岩の部分は大きく裂け目が出来ている。

「戦闘準備! 来るぞ!」

 岩から足が生えたかと思ったら、ドスンドスンとこちらに向かって走ってくる。
 しかし、

「オォオオ……グォオオ」

 地面から生え出した黒い帯が岩竜に絡まり動きを封じてしまう。

「フン、たわいもない。それでも竜種か? 2年前はもっと歯ごたえがあったぞ」

 兵士達はその動きを止めた岩竜に向かってランスを無数に突き立てる。
 ささった場所からボロボロと岩が崩れていく。

「さてと、それではドラゴンスレイヤーの称号を頂きにいくとするか? お前も来るか?」

 姫様は隣のリーヴィに問いかける。
 そのリーヴィはオレの方を向き、

「今回はギターを鳴らされないのですか?」

 そう聞いてくる。

「いやな、何か嫌な予感がするんだよな。いや、具体的にどうとも言えないんだがな……なんていうか、岩がなんか不自然な気が……」

 オレのそのセリフを聞いて眉をしかめるリーヴィ。
 するとハッと何かに気づいた表情で慌てて前を向く。
 まさかと呟いたリーヴィは駆け足で姫様の元へ向かう。

 その瞬間だった!

 突然、岩竜が姫様の影の拘束を断ち切ってジャンプする。
 その岩竜が地面についた瞬間、割れた。地面がだ!

「姉貴!」

 その岩竜を中心として地面が割れ、地面と共に下に開いた大きな穴に落ちていく岩竜。
 周りにいる兵士達を道連れにして。
 その穴に落ちかけた姫様の手を掴みこちらへ思いっきり引きこむリーヴィ。
 しかし、反動でリーヴィが穴に向かって落ちて行ってしまう。

「カユサルッ!」

 姫様がそう叫びながら穴の中へ飛び込もうとする。
 慌ててオレはお腹に抱き付きそれを止める。

「はなせっ! 貴様、離せというのに!」

 いや危ないでしょ! いたっ、イダダダ、やめろよ!

「落ち着いてください! イダッ、やめっ、……いい加減にしろよ! このワガママ娘!」
「なん、だと……」

 あっ、すいません、口がすべったッス。
 そんな怖い顔でみちゃイヤン。
 ふと、バサッ、バサッという音と共に辺りに風が拭き付ける。

 顔を上げると、そこには――――黒く輝く鱗を纏った一匹のドラゴンが宙に浮いていた。

「ブラック……ドラゴン……!?」
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

義母に毒を盛られて前世の記憶を取り戻し覚醒しました、貴男は義妹と仲良くすればいいわ。

克全
ファンタジー
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。 11月9日「カクヨム」恋愛日間ランキング15位 11月11日「カクヨム」恋愛週間ランキング22位 11月11日「カクヨム」恋愛月間ランキング71位 11月4日「小説家になろう」恋愛異世界転生/転移恋愛日間78位

闇の世界の住人達

おとなのふりかけ紅鮭
ファンタジー
そこは暗闇だった。真っ暗で何もない場所。 そんな場所で生まれた彼のいる場所に人がやってきた。 色々な人と出会い、人以外とも出会い、いつしか彼の世界は広がっていく。 小説家になろうでも投稿しています。 そちらがメインになっていますが、どちらも同じように投稿する予定です。 ただ、闇の世界はすでにかなりの話数を上げていますので、こちらへの掲載は少し時間がかかると思います。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...