上 下
43 / 279
第三章

レベル43 竜の住処

しおりを挟む
「よく来たなドラゴンスレイヤー。護衛などいらぬと言ったのだがな」
「ドラスレは重いんで持って来てません」
「ハッハッハ! 冗談がうまいな貴様」

 洞窟の入ったばかりの広場で兵士達が大量に鎮座している。
 そこには、一際豪華な装備を身に纏った女性が一人。
 たぶんアレが護衛対象だろうと近づいた所、そんな事を言ってくる。

「やはり重いかその称号、此度の戦、益々楽しみになってきたな」
「何の事か知りませんが、あんなの持てる奴はどこにもいませんよ」
「ハッハッハ! 気に入ったぞ! 貴様は随分謙虚な奴だな!」

 なんだか、ちょっと話が噛み合ってない気もする。

「よし! 出立の準備をせよ!」
「まだ冒険者達が集まっていない様ですが?」
「必要ない! たかが岩竜ごときに冒険者の手を煩わすまでもないだろう」

 随分自信家なお姫様だ。
 岩竜ってそんなに強くないのかな?
 と、そこへ一人の兵士がオレに近づいてくる。

「やはり、師匠でしたか……」
「ん、もしかしてリーヴィか。お前も呼ばれたの?」
「志願致しました。たぶんこうなるだろうと思ったので……師匠、私の傍から離れないでください」

 お前……いい奴だな!
 頼むよ、オレそんなに強くないから。
 ほんとどうしようかと思っていた所なんだ。

「なんでオレが呼ばれたんだろうな……アレかな? やっぱ2年前手柄を横取りしたの恨まれてんのかな?」
「師匠が居なければかの竜は王都に向かい、多くの犠牲を出したでしょう。なのに師匠を恨む者など誰も居ませぬよ」
「だといいんだがなあ」

 ちょっとお姫様、そんなにドンドン先頭を歩かないでくださいよ。
 なんで指揮官が一番先頭に居るのよ?
 後方勤務だとばかり思っていたんですが……

 そこへモンスターの集団が現れる。

「仕方ない、やるか」

 オレは腰の剣を抜き身構える。
 しかし、

「貴様は何もせずとも良い、むしろ手を出すな。私は貴様の手を借りずかの称号を手に入れる!」

 それをお姫様が遮る。
 えっ、護衛しなくていいんスか?
 じゃあオレ何しに来たの? 帰っていいスか? えっ、ダメ? ですよね。

「護衛が必要な場面など訪れぬ! 見ておれ!」

『シャドウスキル・猛槍!』

 お姫様が手を前に突き出しそう叫ぶ。
 その瞬間、地面から無数の黒い楔が突き出したかと思うと、モンスター達を次々と串刺しにする。
 いくつかが掻い潜って来るが、兵士達と共に素早い動きで斬り捨てていく。

「我がスキル『影技・極』影を自由に操る事が出来るスキルだ。光の差さぬ洞窟ではまさに無敵であると言っても過言ではない!」

 なるほど、これならオレの出番はなさそうですね。
 となると、急に気持ちが軽くなってきた。
 ふうむ……そうだな、もっとお姫様に頑張ってもらう為に……

『出でよ! マンドラゴラ・ギター!』

 ――ギュイィィーン!

 突如、戦闘中にギターをかき鳴らすオレを、お姫様一同、不信な目付きでこっちを見てくる。
 オレはそんな奴らに、グッと親指を立ててニカッと笑ってやる。

「補助魔法です(大ウソ)」

 オレはお姫様達の戦闘に合わせて例のテーマを演奏する。
 そう誰もが聞いた事が有る、戦闘のテーマだ! えっ、聞いた事無い? あっ、日本人限定です!
 そうするとお姫様、キレッキレな動きでモンスター共を屠って行く。

「確かに、体が軽くなった気がするな」
「気持ちが逸りますな。まるで戦えって急かされている気分です」

 でしょうでしょう。
 これを聞くと戦意高揚になるんですよね~。
 イケイケどんどんな時はコイツを、慎重に戦わなければならない場合はコッチを。
 ボス戦のテーマとか最高の奴がいっぱいあるよね!

 ゲーム中、一回しか聞かないのに凄くいい音楽とか、超もったいないけどだからこそ盛り上がったよな。

「そのギターにはそんな効果が付与されているのですか……!?」

 リーヴィが驚いた表情で聞いてくる。

「いいや、ギター自体にはそんなスキルは存在しない。ついでに言えば正確には補助魔法ですらない」
「えっ!?」
「これは……音楽が持つ、そのままの力だ」

 音楽の……力? と聞き返してくる。

「そうだ。音楽には人を奮い立たせる力が有る」

 オレは戦闘に向いた激しいリズムを掻き立てる。

「音楽には人を慰める力がある」

 オレはゆっくりとしたバラードを力強く響き渡らす。

「音楽には人を笑顔にさせる力がある」

 オレは軽快なポップミュージックを奏でる。

「響くだろ? 心に、それを人は、音楽の魔法と呼ぶんだ」

 リーヴィは何か思いつめたような表情で前を向く。
 そして、そのまま前線に走っていく。
 ちょっと、何処行くの? オレの護衛は?

「姉貴、俺も戦う」

 なんか、お姫様が凄く驚いた顔をしている。

「……いいのか、今まで散々隠してきたのだろう? 実力を。私の目の前でたとえ手加減したとしても・」
「手加減はしない、全力で戦う!」
「…………何がお前をそうまで変えた?」

「音楽だ……俺は師匠の音楽を体に感じて戦いたい!」
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたけど、逆に断罪してやった。

ゆーぞー
ファンタジー
気がついたら乙女ゲームやラノベによくある断罪シーンだった。これはきっと夢ね。それなら好きにやらせてもらおう。

【完結】もう…我慢しなくても良いですよね?

アノマロカリス
ファンタジー
マーテルリア・フローレンス公爵令嬢は、幼い頃から自国の第一王子との婚約が決まっていて幼少の頃から厳しい教育を施されていた。 泣き言は許されず、笑みを浮かべる事も許されず、お茶会にすら参加させて貰えずに常に完璧な淑女を求められて教育をされて来た。 16歳の成人の義を過ぎてから王子との婚約発表の場で、事あろうことか王子は聖女に選ばれたという男爵令嬢を連れて来て私との婚約を破棄して、男爵令嬢と婚約する事を選んだ。 マーテルリアの幼少からの血の滲むような努力は、一瞬で崩壊してしまった。 あぁ、今迄の苦労は一体なんの為に… もう…我慢しなくても良いですよね? この物語は、「虐げられる生活を曽祖母の秘術でざまぁして差し上げますわ!」の続編です。 前作の登場人物達も多数登場する予定です。 マーテルリアのイラストを変更致しました。

千年ぶりに目覚めたら子孫達がやらかしてました

End
ファンタジー
 かつてこの世界に君臨していた俺が目覚めると三百年たってました。  話を訊くと、俺の子供が色々やらかしていました。  ぶち殺そうと思いましたが...力を失っていました。  どうしたものかと町にいけば、どう考えても別世界でした。  ステータス? スキル? 適正?  何それ?  え? 実は三百年じゃなく千年たってるんですか?  俺の子孫達が覇権を競っているんですか?  取り敢えず冒険者になって金稼ごうと思えば...  そうですか俺のステータスだと無理ですか。  仕事の経験ですか?  あえて言えば暴虐の王ですかね。  勿論過去の話しですよ。  生きていく方法がわからねぇー    ◆◆◆  初めての小説です。  色々試行錯誤しながら書いているため文節、表現方法等が落ち着いていません。  そんな文ですが、お気に入りにに登録してくれた方の為にも、最低でも話の内容だけは、破綻しないよう書きたいと思います。

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

ぬいぐるみばかり作っていたら実家を追い出された件〜だけど作ったぬいぐるみが意志を持ったので何も不自由してません〜

望月かれん
ファンタジー
 中流貴族シーラ・カロンは、ある日勘当された。理由はぬいぐるみ作りしかしないから。 戸惑いながらも少量の荷物と作りかけのぬいぐるみ1つを持って家を出たシーラは1番近い町を目指すが、その日のうちに辿り着けず野宿をすることに。 暇だったので、ぬいぐるみを完成させようと意気込み、ついに夜更けに完成させる。  疲れから眠りこけていると聞き慣れない低い声。 なんと、ぬいぐるみが喋っていた。 しかもぬいぐるみには帰りたい場所があるようで……。     天真爛漫娘✕ワケアリぬいぐるみのドタバタ冒険ファンタジー。  ※この作品は小説家になろう・ノベルアップ+にも掲載しています。

処理中です...