上 下
25 / 279
第一章

レベル25 第一章完結

しおりを挟む
「アレ? どうしたのエクサリー、そんな何人か殺ってきた様な顔して」
「誰も殺ってない」

 夜寝ようとしたら、部屋に枕を抱えたエクサリーが訪れて来た。

「一緒に寝る」

 そう言うとオレの布団に潜り込んで来る。
 えっ、ちょっ、ちょっとエクサリーさん?

「居なくなっちゃ、ヤダ」

 そう言ってギュッと抱きついて来る。
 えっ、なんなのこのかわいい物体!
 ウワッ、ヤバイ、我慢できなくなりそう!

 思わずギュッと抱き返してしまう。

「どこにも、行かないよ」
「ほんとに?」

 上目遣いで見上げてくるエクサリー。
 ズキューンってキタっす。
 もうこのままやっちゃってもいいでしょうか?

「あっ、お坊ちゃまとエクサリーが同衾している」

 そこへピョコンとラピスが登場。
 おまっ、空気読めよ!

「私も入りまーす」

 そう言って逆サイドに入ってくるラピス。
 狭いんだから無理だって!

「ラピスもありがとう」
「えっ?」

 エクサリーがラピスにお礼を言う。

「ラピスが居たから、居てくれたから、こうしてクイーズが無事に帰って来れたの」
「いえ、まあ、そうですけど……」
「それにあの時、躓いて転んだ私に、勇気を与えてくれたのもラピス」

 えっ、なんの話?
 なんでもオレがプロポーズしたみたいになった日、答えも返さず逃げようとして躓いて転んだ時、ラピスから、このまま逃げちゃっていいんですか? じゃあお坊ちゃまは私だけの物ですね、なんて事を言われたとか。
 あの枝でつついていた時、そんな事言っていたのか。

「ありがとうラピス、ありがとうクイーズ、二人が居てくれたから私は……」

 セリフの途中でスウスウと寝息を立て始めるエクサリー。

「きっと、何日もまともに寝て無かったんでしょうね」
「こっちこそありがとうだよ、エクサリー」

 オレはそっとエクサリーの髪をなで付ける。

「ああ、ちくしょう、なんとかエクサリーを幸せにしたいよなあ」

 生まれた時から、ずっと顔が怖いコワイって皆に避け続けられていた。
 親が盗賊だって敬遠されていた事もある。
 本来なら商家の娘として学校に通ったり、もっと商売上の仲間だってたくさん出来ているはずだ。

 だけど、いつだってエクサリーは一人ぼっちだった。

 そんなエクサリーだけど、決して俯かず、努力だけは一人前で。
 毎日顔のマッサージを欠かさない。
 目元もいつだって押さえている。

 子供が近くに来たら、怖がらせないよう顔を隠そうとする。
 お客さんには一生懸命笑顔を見せようとしている。
 前世でも今世でもこんな一生懸命生きている人間は見たこと無い。

「もう十分、幸せになっていると思いますけどね」

 ラピスがエクサリーの頬をつつきながらそう呟く。

「ほら見てください、こんなに幸せそう」

 その寝顔は、どこか微笑んでいるようで、怖い顔なんて影も形も無い。

「ずっとこんな風に微笑んで居られればいいのにな」
「えっ、いいんですか? 皆さんが知ってしまえば、取られちゃいますよぉ?」
「それは困る」

 オレは苦笑いしながらラピスに答える。
 それでも知って欲しいと思う。誰かに、皆に。
 エクサリーはこんなにも可愛いんだって。

「だったら、私にはクイーズしか居ないって言わせるぐらい頑張りませんとね」
「……そうだな」

 その時、エクサリーが、

「私にはクイーズしかいないの」

 そう呟いた。
 えっ、起きてる?
 エクサリーの頬に手を当ててみる。起きている気配は無い。寝言かな……

「クスッ、言われちゃいましたね」
「よし、オレも頑張らないとな。まずは手始めに……ラピスのレベルを40ぐらいまで上げるか」
「ええっ、商売の方頑張りましょうよ」

 何言ってんだお前、もっと知能上げて、前世知識をフル活用しようぜ。
 それにお前、このままだとメタルスライムに抜かれるぞ?
 いいのか? リーダーの権限だって持って行かれるかもしれないぞ。

「むむっ、それは由々しき事態ですね……」

 それから幾ばくかの日々が過ぎた。

「いやー、ここは天国か。ギスギスした宮廷闘争も無い! 料理はうまい! そして、いくら食べて太ってもカードに戻れば元通り!」

 何たるダイエット方を……
 最近食っちゃね、食っちゃねしている王子様もといお姫様である。

「ほら、今日は冒険者登録行くんだろ? 早く用意しろって」
「働きたくないでござるぅうう」

 お前もか!

「いいから行くぞ、自分の食い扶持ぐらい、自分で稼げ!」
「え~」
「え~言うな」

 ちょっと待てラピス、今日はこのプリンセス連れて行ってくれ。

「え~」

 お前までえ~言うな。

「分かった、オレも一緒に行くから。ほら行くぞ」
「「え~」」

 二人してハモんなよ!
 そもそもオレはお前達のご主人様なんだぞ。ちょっとは言う事、聞いてくれよ!
しおりを挟む
感想 23

あなたにおすすめの小説

セカンドアース

三角 帝
ファンタジー
※本編は完結し、現在は『セカンドアース(修正版)』をアルファポリス様より投稿中です。修正版では内容が多少異なります。  先日、出版申請をさせていただきました。結果はどうであれ、これを機に更に自身の文章力を向上させていこうと思っております。  これからも応援、よろしくお願いします。

深窓の悪役令嬢~死にたくないので仮病を使って逃げ切ります~

白金ひよこ
恋愛
 熱で魘された私が夢で見たのは前世の記憶。そこで思い出した。私がトワール侯爵家の令嬢として生まれる前は平凡なOLだったことを。そして気づいた。この世界が乙女ゲームの世界で、私がそのゲームの悪役令嬢であることを!  しかもシンディ・トワールはどのルートであっても死ぬ運命! そんなのあんまりだ! もうこうなったらこのまま病弱になって学校も行けないような深窓の令嬢になるしかない!  物語の全てを放棄し逃げ切ることだけに全力を注いだ、悪役令嬢の全力逃走ストーリー! え? シナリオ? そんなの知ったこっちゃありませんけど?

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

最強の職業は付与魔術師かもしれない

カタナヅキ
ファンタジー
現実世界から異世界に召喚された5人の勇者。彼等は同じ高校のクラスメイト同士であり、彼等を召喚したのはバルトロス帝国の3代目の国王だった。彼の話によると現在こちらの世界では魔王軍と呼ばれる組織が世界各地に出現し、数多くの人々に被害を与えている事を伝える。そんな魔王軍に対抗するために帝国に代々伝わる召喚魔法によって異世界から勇者になれる素質を持つ人間を呼びだしたらしいが、たった一人だけ巻き込まれて召喚された人間がいた。 召喚された勇者の中でも小柄であり、他の4人には存在するはずの「女神の加護」と呼ばれる恩恵が存在しなかった。他の勇者に巻き込まれて召喚された「一般人」と判断された彼は魔王軍に対抗できないと見下され、召喚を実行したはずの帝国の人間から追い出される。彼は普通の魔術師ではなく、攻撃魔法は覚えられない「付与魔術師」の職業だったため、この職業の人間は他者を支援するような魔法しか覚えられず、強力な魔法を扱えないため、最初から戦力外と判断されてしまった。 しかし、彼は付与魔術師の本当の力を見抜き、付与魔法を極めて独自の戦闘方法を見出す。後に「聖天魔導士」と名付けられる「霧崎レナ」の物語が始まる―― ※今月は毎日10時に投稿します。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

母親に家を追い出されたので、勝手に生きる!!(泣きついて来ても、助けてやらない)

いくみ
ファンタジー
実母に家を追い出された。 全く親父の奴!勝手に消えやがって! 親父が帰ってこなくなったから、実母が再婚したが……。その再婚相手は働きもせずに好き勝手する男だった。 俺は消えた親父から母と頼むと、言われて。 母を守ったつもりだったが……出て行けと言われた……。 なんだこれ!俺よりもその男とできた子供の味方なんだな? なら、出ていくよ! 俺が居なくても食って行けるなら勝手にしろよ! これは、のんびり気ままに冒険をする男の話です。 カクヨム様にて先行掲載中です。 不定期更新です。

異世界の貴族に転生できたのに、2歳で父親が殺されました。

克全
ファンタジー
アルファポリスオンリー:ファンタジー世界の仮想戦記です、試し読みとお気に入り登録お願いします。

美少女に転生して料理して生きてくことになりました。

ゆーぞー
ファンタジー
田中真理子32歳、独身、失業中。 飲めないお酒を飲んでぶったおれた。 気がついたらマリアンヌという12歳の美少女になっていた。 その世界は加護を受けた人間しか料理をすることができない世界だった

処理中です...