上 下
19 / 279
第一章

レベル19

しおりを挟む
「なに、心配はいらぬ。転移先は旧王城の中だ、コアの間まではさほど距離がない。しかもこの日の為に、国でも一、二を争う腕の持ち主が集まってくれている」

 えっ、こんな王子に?

「信じられないかな? だが、ボクには分かる。彼らが敵か味方か。その為のスキルをボクは持っているからね」

 そのスキルの名も『危機察知・極』であるとか。
 自分に対し、害意を抱いている者がいるとすぐに分かるんだとか。
 しかし少々効果が強すぎで、実際の危機の時には恐怖で身が竦んで動けなくなるとか。

「なので、ボクは戦闘には役に立たないからあしからず」

 うん、それはもう見た目ではっきりと分かっております。
 オレは左右をがっしりとした兵士に押さえ込まれ、そのまま魔方陣のある部屋まで連れて行かれる。

「ちょっと、だからオレのカードは……」
「黙っていろ」

 オレの背中に硬い物が押し当てられる。
 ちょっと王子様、この方達、ほんとに味方なんでしょうか?
 転移魔方陣の間はすでに発動状態の様で、その魔方陣は光り輝いている。

「さあ、王子こちらへ」
「うむ」

 王子が魔方陣に乗り、続いてオレとオレを取り巻く兵士さんもそこに乗る。
 その瞬間、オレと王子が魔方陣から蹴りだされた。

「なっ、なにを!?」

 ああ、やっぱり味方じゃなかったようですね……
 オレは周りを見渡す。
 そこは先ほどまでの綺麗な王宮の部屋ではなく、血糊があちこちにこびりついて、壁も天井もボロボロになっている汚い部屋であった。

 王子が慌てて魔方陣へ駆け寄る。
 だが、その上に乗っている兵士達は蜃気楼のようにすり抜けてしまう。

「こっ、これはなんの真似だ!」
「バカな弟だ、手間が省けて良かったよ」
「なっ、ま、まさか……兄、上……そんなっ、ボクのスキルにはなにもっ!」

 兵士さんの一人が顔に手を持っていき、指でトントンと頬を叩く。

「仮面だよ、感情を封鎖する仮面。だからお前の危機察知にひっかからないんだよ」
「そ、そんな物が!?」
「そもそも、おかしいと思わなかったのか? 国でも一、二を競う兵士達がお前に肩入れするなど」
「ほんとにめでたい王子様だな。あのような無様な様を晒しておきながら、王となろうとするなど」

 なんでもこの王子様、危機察知のスキルで食事に毒物が入っている事を事前に気づいたのだが、恐怖で色々出てしまったらしい。
 しかもその場が、長女の成人の儀で、各国の重鎮を招いた場であったそうな。
 食事の毒物に付いては秘密裏に処理されたのだが、王子の醜態についてはフォローがなかったそうな。

「なっ、君は、同じようにバカにされた事があって、一緒に見返してやろうって!」
「ププッ、そんな作り話、信じちゃったんですか?」

 だんだんと王子様がかわいそうになってきた。
 しかしあいつらひどすぎじゃね? ちょっと腹が立ってきた。

「おい、そこのドラゴンスレイヤー」

 誰だよオレのドラスレをバカにする奴は。ドスンといくんぞ、ドスンと。

「助かりたいか?」

 そう言って、赤黒いチョーカーを投げつけてくる。
 これは……奴隷契約の?

「この転移魔方陣は一方通行だ。こちらからそっちへは行けるが、そちらからこちらへは来られない」

 頑張れば歩いて帰って来られない距離ではないが、その間にいるモンスターを二人でなんとか出来るかな。と、別の兵士がニヤニヤしながら言ってくる。

「これを付けたら迎えに来てくれたりするのでしょうかね」
「いいや、お前についてはその必要がない。二年前、王宮に来た時に鎖を繋げさせてもらった」

 そう言って一つの輪っかの様な物を取り出す。

「この魔道具は特定の人物を即座に呼び寄せる事が出来る。即ち、私の意思で、いつでもお前をここへ呼び寄せることが可能だということだ」

 なるほど、ソレを使って、店から王宮まで呼び寄せた訳ですね。
 つーかいつの間に。やっぱ王族は信用ならないな。

「女の方は不良品だったようですぐに切れてしまったようだがな」

 それはたぶん、ラピスをカードに戻した時に解除されたんだろうな。

「その奴隷のチョーカーは特別品だ。ソレをしている限り、私の命令には逆らえなくなる。さあ、どうする」

 これ見よがしに3枚のカードを見せつける。

「これが無ければ、お前も困った事になるだろう」
「………………」

 オレは足元にあるチョーカーを拾い上げる。
 そしてオレはそのチョーカーを――――付き返すのだった。

「なんの真似だね?」
「このチョーカーとそのカード、交換といきませんか?」
「そこに残ると?」

 王子様が涙と鼻水に濡れた顔をオレに向けてくる。
 汚いんでちょっと離れてくれませんかね?
しおりを挟む

あなたにおすすめの小説

【完結】婚約を解消して進路変更を希望いたします

宇水涼麻
ファンタジー
三ヶ月後に卒業を迎える学園の食堂では卒業後の進路についての話題がそここで繰り広げられている。 しかし、一つのテーブルそんなものは関係ないとばかりに四人の生徒が戯れていた。 そこへ美しく気品ある三人の女子生徒が近付いた。 彼女たちの卒業後の進路はどうなるのだろうか? 中世ヨーロッパ風のお話です。 HOTにランクインしました。ありがとうございます! ファンタジーの週間人気部門で1位になりました。みなさまのおかげです! ありがとうございます!

【完結】私だけが知らない

綾雅(りょうが)祝!コミカライズ
ファンタジー
目が覚めたら何も覚えていなかった。父と兄を名乗る二人は泣きながら謝る。痩せ細った体、痣が残る肌、誰もが過保護に私を気遣う。けれど、誰もが何が起きたのかを語らなかった。 優しい家族、ぬるま湯のような生活、穏やかに過ぎていく日常……その陰で、人々は己の犯した罪を隠しつつ微笑む。私を守るため、そう言いながら真実から遠ざけた。 やがて、すべてを知った私は――ひとつの決断をする。 記憶喪失から始まる物語。冤罪で殺されかけた私は蘇り、陥れようとした者は断罪される。優しい嘘に隠された真実が徐々に明らかになっていく。 【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ 2023/12/20……小説家になろう 日間、ファンタジー 27位 2023/12/19……番外編完結 2023/12/11……本編完結(番外編、12/12) 2023/08/27……エブリスタ ファンタジートレンド 1位 2023/08/26……カテゴリー変更「恋愛」⇒「ファンタジー」 2023/08/25……アルファポリス HOT女性向け 13位 2023/08/22……小説家になろう 異世界恋愛、日間 22位 2023/08/21……カクヨム 恋愛週間 17位 2023/08/16……カクヨム 恋愛日間 12位 2023/08/14……連載開始

『絶対に許さないわ』 嵌められた公爵令嬢は自らの力を使って陰湿に復讐を遂げる

黒木  鳴
ファンタジー
タイトルそのまんまです。殿下の婚約者だった公爵令嬢がありがち展開で冤罪での断罪を受けたところからお話しスタート。将来王族の一員となる者として清く正しく生きてきたのに悪役令嬢呼ばわりされ、復讐を決意して行動した結果悲劇の令嬢扱いされるお話し。

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

《勘違い》で婚約破棄された令嬢は失意のうちに自殺しました。

友坂 悠
ファンタジー
「婚約を考え直そう」 貴族院の卒業パーティーの会場で、婚約者フリードよりそう告げられたエルザ。 「それは、婚約を破棄されるとそういうことなのでしょうか?」 耳を疑いそう聞き返すも、 「君も、その方が良いのだろう?」 苦虫を噛み潰すように、そう吐き出すフリードに。 全てに絶望し、失意のうちに自死を選ぶエルザ。 絶景と評判の観光地でありながら、自殺の名所としても知られる断崖絶壁から飛び降りた彼女。 だったのですが。

妹しか愛していない母親への仕返しに「わたくしはお母様が男に無理矢理に犯されてできた子」だと言ってやった。

ラララキヲ
ファンタジー
「貴女は次期当主なのだから」  そう言われて長女のアリーチェは育った。どれだけ寂しくてもどれだけツラくても、自分がこのエルカダ侯爵家を継がなければいけないのだからと我慢して頑張った。  長女と違って次女のルナリアは自由に育てられた。両親に愛され、勉強だって無理してしなくてもいいと甘やかされていた。  アリーチェはそれを羨ましいと思ったが、自分が長女で次期当主だから仕方がないと納得していて我慢した。  しかしアリーチェが18歳の時。  アリーチェの婚約者と恋仲になったルナリアを、両親は許し、二人を祝福しながら『次期当主をルナリアにする』と言い出したのだ。  それにはもうアリーチェは我慢ができなかった。  父は元々自分たち(子供)には無関心で、アリーチェに厳し過ぎる教育をしてきたのは母親だった。『次期当主だから』とあんなに言ってきた癖に、それを簡単に覆した母親をアリーチェは許せなかった。  そして両親はアリーチェを次期当主から下ろしておいて、アリーチェをルナリアの補佐に付けようとした。  そのどこまてもアリーチェの人格を否定する考え方にアリーチェの心は死んだ。  ──自分を愛してくれないならこちらもあなたたちを愛さない──  アリーチェは行動を起こした。  もうあなたたちに情はない。   ───── ◇これは『ざまぁ』の話です。 ◇テンプレ [妹贔屓母] ◇ふんわり世界観。ゆるふわ設定。 ◇ご都合展開。矛盾もあるかも。 ◇なろうにも上げてます。 ※HOTランキング〔2位〕(4/19)☆ファンタジーランキング〔1位〕☆入り、ありがとうございます!!

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません

きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」 「正直なところ、不安を感じている」 久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー 激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。 アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。 第2幕、連載開始しました! お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。 以下、1章のあらすじです。 アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。 表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。 常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。 それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。 サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。 しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。 盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。 アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?

処理中です...