37 / 84
第37話
しおりを挟む ドワーフの隠れ里の長であるブロさんに許可をもらい、一緒に聖なる炎へ近づく。
シルフィード様は本当に暑いのが苦手みたいで、俺たちより一歩離れたところで見守ってくれることになった。
この炎の前でサラマンダー様に願いを飛ばすと姿を現してくれるらしいけど……俺が呼んでも来てくれるだろうか?
「若いの、男は度胸だ。サラマンダー様は心身共に強い者が大好きなお方だ。思い切って呼べば答えてくれるに決まってらぁ」
「親父はまた無茶を言う……」
側にいたマグさんがため息をつく。マグさんは親父と呼んでいるけど、ブロさんが父親なのかな?
俺の疑問が顔に出てしまったのか、ブロさんが豪快に笑い飛ばした。
「ブハハ! ああ、コイツはせがれだ。美人な人間の母ちゃんとの間にできた子でな。鍛冶の腕もいいから、側においてんだ」
「……どうも」
マグさんは軽く頭を下げてから、またすぐに作業へ戻ってしまった。
身体が大きいから緊張しちゃうけど、礼儀正しい人みたいだ。
「ったく、コイツは愛想がねぇんだ。許してやってくれ。さ、遠慮なくやってくれ」
「遠慮なくって……酒じゃないんだから……」
ウルガーが反射的にツッコミを入れたところで、俺は聖なる炎の前に立ち祈りを捧げる。
俺に用事があると言ってくれていたし、きっと来てくれるとは思うんだけど……緊張する。
「僕もわざわざ出てきたんだから、さっさと話をしてもらわないとね」
「そうですね」
俺は聖なる炎の前で跪き、両手を組んで祈りを捧げる。
炎はより大きく燃え上がり、ぶわりと弾けた瞬間に炎と共に炎のような赤を身にまとった人物が現れた。
「なんだ、結局お前も来たのかシルフィード」
「だって、意味深なことを言うから気になって。僕の可愛いレイヴンに妙なことを言わせないつもりでね」
炎のように赤い短髪と切れ長の瞳と、赤の軽鎧に身を包んだ戦士風の服装。
以前に見たサラマンダー様の人間の姿だ。
「サラマンダー様、レイヴンです。俺にお話があると伺いました」
「レイヴン、久方ぶりだな。このような形で呼び出してしまいすまないが、お前が気になっていることを話しておこうと思ってな」
「もったいぶらずにちゃんと教えてあげなよ? わざわざ寄り道してまでサラマンダーの話を聞きに来たんだからね」
「……分かっている」
サラマンダー様は強い者を好むお方だからこそ、魔族との戦いでもテオへ力を貸してくれる形で指輪から召喚に応じて下さったお方だ。
ブロさんも言っていた通り、俺も胸を張っていなければ召喚に答えてもらえなかっただろう。
俺はずっと塞ぎこんでいたから、サラマンダー様も姿を現さなかったのかもしれないな。
「お前が気にしているテオドールのことだ。あの戦いの後、私も暫くは眠りについていたのだが……一度だけ、指輪から存在を感じることができた」
「と言うと、やっぱりテオドール様は生きてるってことですよね? 良かったな、レイヴン。やっぱりあの人はしぶとい人だって」
ウルガーも背中を叩いて鼓舞してくれる。
信じてはいたけど、改めて聞くと安心する。しかも、サラマンダー様が指輪を通じてテオを感じたということは間違いなくテオが生きているという証拠になる。
「それだけなの? もっと具体的な場所とか分からない?」
「無茶を言うな。あいつはただの人間だ。祝福を授けている訳でもないのだから、たまたま感じることができたというだけのこと」
「その情報が聞けただけでも、俺たちが出向く意味があります。サラマンダー様、わざわざ知らせてくださってありがとうございます」
あの人はどこかで生きている――
だけど、すぐに戻れない事情でもあるのか? 生きてるっていうなら手紙の一つくらい書いたっていいのに……。
最悪の事態として、サラマンダー様が一度存在を感じた後にやはり何かあって……ということもあるけど。
その最悪の事態は今まで散々考えてきたことだ。今更どうということはない。
「サラマンダー、テオドールの存在を感じたのはいつ頃?」
「シルフィードに知らせた時だ。すぐに気配は感じなくなったがな」
「つまり……レイヴンが元気になった後だね。じゃあ、きっと大丈夫」
シルフィード様が優しく微笑みかけてくれる。
それだけで、これからの旅に意味があると力が湧いてきた。
シルフィード様は本当に暑いのが苦手みたいで、俺たちより一歩離れたところで見守ってくれることになった。
この炎の前でサラマンダー様に願いを飛ばすと姿を現してくれるらしいけど……俺が呼んでも来てくれるだろうか?
「若いの、男は度胸だ。サラマンダー様は心身共に強い者が大好きなお方だ。思い切って呼べば答えてくれるに決まってらぁ」
「親父はまた無茶を言う……」
側にいたマグさんがため息をつく。マグさんは親父と呼んでいるけど、ブロさんが父親なのかな?
俺の疑問が顔に出てしまったのか、ブロさんが豪快に笑い飛ばした。
「ブハハ! ああ、コイツはせがれだ。美人な人間の母ちゃんとの間にできた子でな。鍛冶の腕もいいから、側においてんだ」
「……どうも」
マグさんは軽く頭を下げてから、またすぐに作業へ戻ってしまった。
身体が大きいから緊張しちゃうけど、礼儀正しい人みたいだ。
「ったく、コイツは愛想がねぇんだ。許してやってくれ。さ、遠慮なくやってくれ」
「遠慮なくって……酒じゃないんだから……」
ウルガーが反射的にツッコミを入れたところで、俺は聖なる炎の前に立ち祈りを捧げる。
俺に用事があると言ってくれていたし、きっと来てくれるとは思うんだけど……緊張する。
「僕もわざわざ出てきたんだから、さっさと話をしてもらわないとね」
「そうですね」
俺は聖なる炎の前で跪き、両手を組んで祈りを捧げる。
炎はより大きく燃え上がり、ぶわりと弾けた瞬間に炎と共に炎のような赤を身にまとった人物が現れた。
「なんだ、結局お前も来たのかシルフィード」
「だって、意味深なことを言うから気になって。僕の可愛いレイヴンに妙なことを言わせないつもりでね」
炎のように赤い短髪と切れ長の瞳と、赤の軽鎧に身を包んだ戦士風の服装。
以前に見たサラマンダー様の人間の姿だ。
「サラマンダー様、レイヴンです。俺にお話があると伺いました」
「レイヴン、久方ぶりだな。このような形で呼び出してしまいすまないが、お前が気になっていることを話しておこうと思ってな」
「もったいぶらずにちゃんと教えてあげなよ? わざわざ寄り道してまでサラマンダーの話を聞きに来たんだからね」
「……分かっている」
サラマンダー様は強い者を好むお方だからこそ、魔族との戦いでもテオへ力を貸してくれる形で指輪から召喚に応じて下さったお方だ。
ブロさんも言っていた通り、俺も胸を張っていなければ召喚に答えてもらえなかっただろう。
俺はずっと塞ぎこんでいたから、サラマンダー様も姿を現さなかったのかもしれないな。
「お前が気にしているテオドールのことだ。あの戦いの後、私も暫くは眠りについていたのだが……一度だけ、指輪から存在を感じることができた」
「と言うと、やっぱりテオドール様は生きてるってことですよね? 良かったな、レイヴン。やっぱりあの人はしぶとい人だって」
ウルガーも背中を叩いて鼓舞してくれる。
信じてはいたけど、改めて聞くと安心する。しかも、サラマンダー様が指輪を通じてテオを感じたということは間違いなくテオが生きているという証拠になる。
「それだけなの? もっと具体的な場所とか分からない?」
「無茶を言うな。あいつはただの人間だ。祝福を授けている訳でもないのだから、たまたま感じることができたというだけのこと」
「その情報が聞けただけでも、俺たちが出向く意味があります。サラマンダー様、わざわざ知らせてくださってありがとうございます」
あの人はどこかで生きている――
だけど、すぐに戻れない事情でもあるのか? 生きてるっていうなら手紙の一つくらい書いたっていいのに……。
最悪の事態として、サラマンダー様が一度存在を感じた後にやはり何かあって……ということもあるけど。
その最悪の事態は今まで散々考えてきたことだ。今更どうということはない。
「サラマンダー、テオドールの存在を感じたのはいつ頃?」
「シルフィードに知らせた時だ。すぐに気配は感じなくなったがな」
「つまり……レイヴンが元気になった後だね。じゃあ、きっと大丈夫」
シルフィード様が優しく微笑みかけてくれる。
それだけで、これからの旅に意味があると力が湧いてきた。
0
お気に入りに追加
254
あなたにおすすめの小説
【取り下げ予定】愛されない妃ですので。
ごろごろみかん。
恋愛
王妃になんて、望んでなったわけではない。
国王夫妻のリュシアンとミレーゼの関係は冷えきっていた。
「僕はきみを愛していない」
はっきりそう告げた彼は、ミレーゼ以外の女性を抱き、愛を囁いた。
『お飾り王妃』の名を戴くミレーゼだが、ある日彼女は側妃たちの諍いに巻き込まれ、命を落としてしまう。
(ああ、私の人生ってなんだったんだろう──?)
そう思って人生に終止符を打ったミレーゼだったが、気がつくと結婚前に戻っていた。
しかも、別の人間になっている?
なぜか見知らぬ伯爵令嬢になってしまったミレーゼだが、彼女は決意する。新たな人生、今度はリュシアンに関わることなく、平凡で優しい幸せを掴もう、と。
*年齢制限を18→15に変更しました。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
政略より愛を選んだ結婚。~後悔は十年後にやってきた。~
つくも茄子
恋愛
幼い頃からの婚約者であった侯爵令嬢との婚約を解消して、学生時代からの恋人と結婚した王太子殿下。
政略よりも愛を選んだ生活は思っていたのとは違っていた。「お幸せに」と微笑んだ元婚約者。結婚によって去っていた側近達。愛する妻の妃教育がままならない中での出産。世継ぎの王子の誕生を望んだものの産まれたのは王女だった。妻に瓜二つの娘は可愛い。無邪気な娘は欲望のままに動く。断罪の時、全てが明らかになった。王太子の思い描いていた未来は元から無かったものだった。後悔は続く。どこから間違っていたのか。
他サイトにも公開中。
旦那様は大変忙しいお方なのです
あねもね
恋愛
レオナルド・サルヴェール侯爵と政略結婚することになった私、リゼット・クレージュ。
しかし、その当人が結婚式に現れません。
侍従長が言うことには「旦那様は大変忙しいお方なのです」
呆気にとられたものの、こらえつつ、いざ侯爵家で生活することになっても、お目にかかれない。
相変わらず侍従長のお言葉は「旦那様は大変忙しいお方なのです」のみ。
我慢の限界が――来ました。
そちらがその気ならこちらにも考えがあります。
さあ。腕が鳴りますよ!
※視点がころころ変わります。
※※2021年10月1日、HOTランキング1位となりました。お読みいただいている皆様方、誠にありがとうございます。
私を幽閉した王子がこちらを気にしているのはなぜですか?
水谷繭
恋愛
婚約者である王太子リュシアンから日々疎まれながら過ごしてきたジスレーヌ。ある日のお茶会で、リュシアンが何者かに毒を盛られ倒れてしまう。
日ごろからジスレーヌをよく思っていなかった令嬢たちは、揃ってジスレーヌが毒を入れるところを見たと証言。令嬢たちの嘘を信じたリュシアンは、ジスレーヌを「裁きの家」というお屋敷に幽閉するよう指示する。
そこは二十年前に魔女と呼ばれた女が幽閉されて死んだ、いわくつきの屋敷だった。何とか幽閉期間を耐えようと怯えながら過ごすジスレーヌ。
一方、ジスレーヌを閉じ込めた張本人の王子はジスレーヌを気にしているようで……。
◇小説家になろうにも掲載中です!
◆表紙はGilry Drop様からお借りした画像を加工して使用しています
【完結】間違えたなら謝ってよね! ~悔しいので羨ましがられるほど幸せになります~
綾雅(要らない悪役令嬢1/7発売)
ファンタジー
「こんな役立たずは要らん! 捨ててこい!!」
何が起きたのか分からず、茫然とする。要らない? 捨てる? きょとんとしたまま捨てられた私は、なぜか幼くなっていた。ハイキングに行って少し道に迷っただけなのに?
後に聖女召喚で間違われたと知るが、だったら責任取って育てるなり、元に戻すなりしてよ! 謝罪のひとつもないのは、納得できない!!
負けん気の強いサラは、見返すために幸せになることを誓う。途端に幸せが舞い込み続けて? いつも笑顔のサラの周りには、聖獣達が集った。
やっぱり聖女だから戻ってくれ? 絶対にお断りします(*´艸`*)
【同時掲載】 小説家になろう、アルファポリス、カクヨム、エブリスタ
2022/06/22……完結
2022/03/26……アルファポリス、HOT女性向け 11位
2022/03/19……小説家になろう、異世界転生/転移(ファンタジー)日間 26位
2022/03/18……エブリスタ、トレンド(ファンタジー)1位
貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。
黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。
この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。
最強令嬢とは、1%のひらめきと99%の努力である
megane-san
ファンタジー
私クロエは、生まれてすぐに傷を負った母に抱かれてブラウン辺境伯城に転移しましたが、母はそのまま亡くなり、辺境伯夫妻の養子として育てていただきました。3歳になる頃には闇と光魔法を発現し、さらに暗黒魔法と膨大な魔力まで持っている事が分かりました。そしてなんと私、前世の記憶まで思い出し、前世の知識で辺境伯領はかなり大儲けしてしまいました。私の力は陰謀を企てる者達に狙われましたが、必〇仕事人バリの方々のおかげで悪者は一層され、無事に修行を共にした兄弟子と婚姻することが出来ました。……が、なんと私、魔王に任命されてしまい……。そんな波乱万丈に日々を送る私のお話です。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる