めがたま。

ぬこぬっくぬこ

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第30話

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「そんな事をされたらお家取り潰しどころか一族郎党晒し首だ!」

 男性は土下座してやめてくれと縋ってくる。
 王家に捧げようって物を横取りしようとしたのだ。当然、貴族だとバレれば只じゃ済まない。
 そして隣にぐるぐる巻きにしている人達を指差す。

「こいつらは俺達と同じで、あんたらのお宝を狙ってた奴らだ。見たところそちらの護衛はそこの英雄1人。それじゃすべてを守る事はできねえ」

 そこで見逃してくれたら自分がこの屋敷の護衛をしようと。
 盗人に守ってやろうって言われてもなあ……
 案の定、お父様に袖にされている。

「そこの英雄さん! あんたならなんとか、頼む! このとおりだ!」

 そこで、人の良さそうなオレに頼み込んでくる。
 なんでも、何時でも殺れるというのに見逃してくれた。その慈悲に縋って助けて欲しい。このままでは結局、命がなくなるのは一緒だと。
 別にオレは何時でも殺れる状態ではなかったのだが……いやまてよ。

 オレはふと、庭になっているスイカのような野菜に照準を合わせる。

 ―――ボンッ!

 当たった瞬間後ろ半分が弾け飛びました。
 うん、通常弾でもかなりの威力だな。そういやウサ公の頭も弾けてたな。あれからレベルアップも結構しているし。
 最近はウルフやモンスターなどの硬い敵ばかりと戦ってたからなあ……これ、普通に当たったら人死ぬな……

 なんでも男性は周りの状況より少し先の未来を予測できる能力の持ち主だとか。
 それでオレが発砲した先を予想したらしい。
 足に当たれば足が無くなる。肩に当たればまず死亡。うん、これは本格的にゴム弾プリーズって書いて飾っとかないとなあ。

「あのお嬢様は、今、王都で成り上がってるファイナース家の人よね」

 シュマお嬢様が恐る恐るこっちに近づきながら声をかけてくる。
 その言葉に男性は一瞬声を詰まらせたが、続けて答える。

「その通りです。俺の、俺の命なら差し上げます! なにとぞ、なにとぞお嬢様だけは!」

 そう言って地面に頭をこすりつける。

「そのお嬢様はどうしているの?」
「……暴れるのでおとなくしてもらっております」
「あなたが戻らなくてもその人は平気なの?」

 男性は苦しそうな顔を見せる。

「分かった、ならば君の命を貰おう。それで手打ちだ」

 と、それまで無言を貫いていた若旦那が言い出す。

「お兄様……!?」

 えっ、お兄様この人、手打ちにするの?
 と、びっくりしたのもつかの間、

「君の命が尽きるまで、この館を守ってもらう。帰ってそう主人に伝えるんだ」

 ほんと、お兄様もお人がいいですなあ。
 男性は何度も頭を下げながら街へ戻っていく。

「信用してもいいんですかお兄様」
「見たところ彼らの絆は深そうだ。告発を選んでも、彼をあそこで殺害しても後々やっかい事が増えるようにしか思えない」

 守ってくれるって言うんだから守ってもらえばいい。下手に敵対して捨て身でこられても堪らない。
 向こうの正体は我々一家、及びその使用人が知っている。
 あちらのアキレス腱を押さえたようなものだ。今後、迂闊に手は出せぬだろうと。

 一家もろとも……という手もあるだろうが、今や我が家は王家の覚えもいい優良家。なにかあれば王家に調べられる。

 むしろ、この機会に我が家と良い関係をと持ち出してくるかもしれない。
 王都の貴族など攫い攫われはしょっちゅうだ。
 それでも仲がいい振りをしているのだから。

 と、いう若旦那の予想は正しかったようで、

「お初にお目にかかります。ハルシア・ファイナースでございます」

 その日の晩、もう片割れのフードの女性が尋ねてくるのだった。

◇◆◇◆◇◆◇◆

「ラルズを……私の従者の命を奪わなかった事を……まずは感謝申し上げます」

 なんでも昼間の男性、このお嬢様の昔からの従者で、落ちぶれて身売りってとこまで来ていたファイナース家を立て直した立役者なんだと。
 まあ、やり方はごらんのとおりなので、決して人には褒められたものではないが。
 しかしながら、自分にとってはかけがえの無い存在。失っていれば自分はどうしたか想像もつかないなど。

 若旦那は少々引きながらも答える。

「僕だって一旦は落ちるとこまで落ちたんだ。それを救ってくれたのは、すぐ隣にいた少女だった」

 一度目のダンジョン探索で、仲間を失った若旦那は引篭もったらしい。
 それを立ち直らせてくれたのが共に冒険したアルーシャさんだったのだ。

「君の気持ちは良く分かるつもりだ。ならば、だ。もう彼に危険な事をさせるのは辞めて欲しい」

 そう言ってハルシアお嬢様の手をとる若旦那。
 あっ、なんかハルシアさん、夢見心地で若旦那を見てる。あれはまずいんじゃね?
 若旦那もオレのポーション水で生活している所為か、ここ最近、お肌に磨きが掛かっておいでだ。
 元がいいから、そんな近くで見つめられるとイチコロでござる。

「そ、そうですか。そうですよね! ええ、」

 なんかハルシアお嬢様は手で髪を透かしながらモジモジしておいでだ。

「彼には今後この屋敷の護衛を頼むことになる。聞けばファイナース家はもう十分立ち直ったはずだ。どうだろうか、ここらで呪縛の鎖から解き放ってもいいと思うのだが」
「この屋敷で、ですか……あのぉ、それでは私も……」
「ああ、構わないとも。屋敷の客間を提供しよう」
「はい、ありがとうございます! わたくし、精一杯お仕えさせていただく所存でございます!」

 ああ、なんか話がまずい方向に進んでいる気がする……
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