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5章 冒険者初級編
第74話 祝杯
しおりを挟む無事に街へと帰還した俺達は、早速その足でギルドへ報告に向かった。
ギルドのカウンターに向かうと、いつも倉庫にいたユナさんが席についていた。
もしかすると、ルリアの空いた穴を埋める形で異動になったのかもしれない。
「あ、ルリアさんのところのパーティですね。今戻られたのですか?」
「はい。こちらでお会いするのはなんだか新鮮というか、不思議な感じですね」
「そうですねー……私もしばらくは違和感がありそうです。ただこちらの方が倉庫の時より気楽にやれそうですし、所謂出世でもありますので頑張りますけどね」
倉庫で受付をしていた時よりも生き生きとしているように見えるので、本当のことなのだろう。
少し言い回しも堅さが無くなっている気がした。
「あぁ話が逸れてしまいましたね。依頼の報告ですか?」
「はい、まずは依頼されていたものの納品と……それから報告をしないといけない事がありまして。実は――」
俺は今日起こった出来事を頭から説明する。
不足していた箇所は、スーやルリアが補填してくれた。
「なるほど……ワイルドベアーですか。確か……もっと深部に生息しているモンスターですよね」
「異動したてなのに、お詳しいですね」
「異動希望を出してましたので、ちゃんと予習していたんですよ。と言っても、まだ初級クラスの冒険者が行くようなところまでしか把握できてないですけどね」
「それでも凄いよ。ボクなんて覚えるのにすごく苦労したもん……」
こいつに関しては覚えるのが難しかったというより、やる気がなかったのではと思ったが、藪蛇と思い言うのはやめておいた。
「ありがとうございます。とりあえず、この事はしっかりとギルド上層部へも報告をあげておきますので、また何か進展がありましたらお伝えいたしますね。貴重な情報をありがとうございました」
◆◇◆◇
ギルドでの報告を終え、今はギルドの酒場で報酬が入った皮袋をテーブル中央に置いている。
案の定パーティーの金庫番を誰にするかという話になったが、俺がスーを推薦すると特に誰の反論もなくそのまますんなり決まってしまった。
ちなみにパーティーとしての貯金を三分の一、残りをパーティー全員で分配するという方法で報酬は分ける事になった。
今ちょうどスーがその計算をしているところだ。
待っている間に、俺たちは今日の無事を祝う食事会の注文をしておくことにする。
「にゃふふ…思ってたよりたんまりだにゃー。にゃふふふ…」
スーのテンションがなんだかおかしくなっている。
食事が運ばれてくる頃には、冷静さを取り戻しているといいのだが……。
「それにしても、だいぶ上乗せしてもらえましたね。本来の依頼量の合計くらいプラスで貰えちゃいました……」
「それだけ情報というものは重要だということだろう」
「フレイシーの言う通りだと思うぞ。実際、この情報次第では新しい対策が練れるだろうからな」
「何にせよ、冒険初日でこんなに活躍しちゃうボク達ってもしかして凄い?」
「あんまり調子に乗ってると足元を救われるぞ。今日だってキリーカが早めに気づいてくれてモンスターがキラーラビットを食べるのに夢中だったから助かったが、運が悪けりゃ正面からぶつかるか奇襲されててもおかしくなかったからな」
「もー冗談だってばー、ボクもちゃんと理解ってるからー」
といいつつ顔がにやけているので、本当かどうかは怪しいところである。
とはいえめでたい日であることには違いないので、あまり水をさすのも良くないと思いこれ以上は追求するのをやめておく。
「しかし皆素晴らしいビューティフルな活躍だった事には変わりあるまい」
「それは同意するよ」
……いや同意していいのか?
なんだかビューティフル用語に慣れてしまったが、いいのか……?
「これだけあれば半月は遊んで暮らせそうだにゃ……」
「それは……一日で稼いだにしては凄い大金ですね……」
「結構命がけだったけどな」
「あー……そう考えると、もっと貰っててもいいくらいだけど仕方ないよねぇ」
「まぁワイルドベアーの肉は下取りじゃなくって、調理に回しちゃったからな。その分は減っちゃったし、仕方ないかな」
実はワイルドベアーはギルドに売らずに、隣の酒場へと手渡しまさに今調理してもらっていた。
何故かと言うと、ユナさんに「ワイルドベアーの肉って高いですけど、美味しいんですよねぇ」と言われ、全員一致で食べる事に決めたからだ。
モンスターには勝てても、食欲には勝てなかったのだ……。
「はい、分配終わったよー。一応確認しといてねー」
スーからそれぞれの手取り分が振り分けられる。
ぱっと見だけでもそこそこの金額になっているのが分かる。
食堂で働く何日分になるだろうか……。
「す、すごい額ですね……これだけあれば、新しいお菓子作りの道具が買えそうです……」
「お、新しいお菓子か……完成したら食べに行くぞ」
「あ、ボクも食べたい食べたい!」
「スーももちろん行くにゃ!」
「ビューティフルなお菓子を所望する」
「変なもん所望すんな、フレイシー」
そんな話をしているうちに、ワイルドベアーの肉料理が運ばれてきた。
一つ目は、ワインでぐつぐつと煮込んだであろう煮物。
二つ目は、香草と共に焼いたサイコロステーキ。
そして三つ目は、トマトやレタス・チーズと共に挟まれたバーガーサンド。
どれも見た目の時点でかなり美味しそうだ。
香ばしい肉の香りも食欲をそそり、空のお腹がくぅくぅと鳴いている。
料理とともに、赤ワインやエールを中心とした大量のお酒も運ばれてくる。
どうせ飲むからとフレイシーが一気に注文したものだ。
テーブルの上に所狭しと並べられる。
「やっぱり頼み過ぎだぞ。ちょっと邪魔になってるじゃないか……」
「心配するな、すぐに飲み干すさ」
「ったく……まぁいいか。今日は小言はもう無しだ!」
俺がそう言うってグラスを手に持つと、皆察したのかグラスをかがげる。
「今日は本当に素晴らしい冒険初日になった。きっと俺たちならこれからどんな困難も乗り越えていけるだろう。今後の俺たちの冒険が今回のように良いものとなるよう……そして、今日の依頼達成を祝して――」
「「「乾杯っ!」」」
勢いよくグラス同士がぶつかり、景気の良い音が響いた。
そして一斉にお酒をあおる。
――今日も長い夜になりそうだ。
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