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5章 冒険者初級編
第73話 お手柄
しおりを挟む「やったか……?」
「おい、そのセリフは起き上がってきそうだからやめてくれ」
「なら、こうすればもう起き上がってこまい」
そう言ってフレイシーは、ワイルドベアーの首元めがけて斧を振り下ろした。
断面からは血が勢いよく吹き出し、その斧を汚した。
「どうだい、これで大丈夫だろう?」
斧についた返り血を払いながら、フレイシーがこちらを見つめてくる。
「あぁ、そうだな……。これで大丈夫だ」
「ちょっとフレイシー君! 血がかかるところだったにゃ……戦闘中じゃないときくらいは気にかけてほしいにゃ」
「おっと失礼した、次からは気をつけよう」
俺としては返り血以前の問題なのだが、キリーカも含めて気にしている様子はないようだ。
「うぅ……直視しちゃったぁ……」
……前言撤回、一名同じ感性のやつがいたようで少し安心した。
「あれ? 足裏になにか付いてます……」
キリーカがワイルドベアーの足元に何かを見つけたようで、皆でぞろぞろと集まる。
見てみると、何か草のようなものがペタリと貼り付いていた。
「あれ? コレどっかで見たことないか?」
「ねぇレイちゃん、これってもしかして――」
「これは薬草だな!」
「ちょっと! ボクのセリフ取らないでしょ!」
フレイシーとルリアの言う通り、これは薬草だ。
とはいっても、完全に踏み潰されているので、これでは使い物には……。
「あの……もしかすると、なんですけど――」
「あった! あったよみんな!」
キリーカが、ワイルドベアーの足跡を辿れば薬草の群生地にたどり着くのではと提案してくれたおかげで、今まさにその場所へとたどり着くことが出来た。
「お手柄だな、キリーカ」
「えへへ……」
「これだけあれば、報酬も弾みそうだね!」
「うむ、美しい気づきであった……そしてこの光景もまさしくビューティフォー!」
「お前はそれしかないのかよ」
「まぁまぁ、今は依頼達成を喜ぼうよ」
「……それもそうか、それじゃあ早速採集開始だな!」
フレイシーとキリーカが見張り役となり、残った三人で薬草を採集した。
予めギルドの人から、全ての株は取らないようにと注意されていたため、いくらかの株は残しておく。
どうやら全ての株を採集してしまうと、薬草の群生地が徐々に減少してしまうそうだ。
それでも袋いっぱいになるくらいには薬草を採集し終えた俺達は、再びワイルドベアーのいた場所へと戻った。
「それにしても、よく倒せたよねぇ……」
横たわるワイルドベアーを見下ろして、ルリアが呟く。
「そうだな。今回は連携がうまくいって、攻撃を受けたのもフレイシー一人に一回だけだったからな。途中でスーや俺が攻撃を受けたり、そもそも奇襲を受けていたらどうなっていたか分からないけどな」
「それもキリーカが早い段階で気づいてくれたおかげだな」
「いえ……私よりも、見事な作戦を考えついたお兄様の方がすごい、です」
「たしかに、あの短時間ですぐに指示が出せるのは才能かもね!」
「キリーカもスーも、あんまりおだてるなよ。戦闘に至ってはみんな凄かったよ」
「まぁまぁ、これ以上やってても永遠に褒め合い合戦になっちゃうから、みーんな凄かったってことにしとこ?」
「そうだな。そういうことで、あとはこのクマの……手でいいか。これを持って帰って終わりか?」
「んー、一応ワイルドベアーは食べられるから、部位を持って帰れば引き取ってもらえると思うよ?」
「あんまり荷物が増えるのはちょっと気が引けるな」
「なら、もうかたっぽの手だけ持ってくにゃ。お小遣いお小遣いー」
「まぁそれくらいならいいか。頼めるか、フレイシー」
「うむ、任せてくれ」
斧を軽く振り下ろして腕を回収すると、最低限の血抜きを行ってから袋へと詰めた。
「どうして、深いところにしかいないようなモンスターが、こんな浅いところにいたのでしょうか」
帰り道、ふと先頭を歩いていたキリーカが、顔だけをこちらに向けて疑問を投げかける。
「んー……キラーラビットを追いかけてたら、浅いところにたまたま出ちゃったとか?」
「多分、たまたまじゃないと思うよ」
「どういうことだ、ルリア」
「キラーラビットも元々は深いところに生息してたけど、そこにワイルドベアーが出てきちゃって逃げ出したキラーラビットが浅いところに出てきて、キラーラビットを食い尽くしたワイルドベアーがまた更に獲物を追いかけるために浅いところにでてきた、って感じじゃないかな」
「なるほど! それならば合点がいくというものだ」
「ただ、そうなると……結局のところどうしてワイルドベアーが出てきたんだ?」
「何か森の奥の方で起こってるのかもしれないね。生態系が崩れるような何かがさ」
「それならそれも含めて報告しないとだね。もしかしたら、追加報酬ももらえたりして……!」
「スーって結構がめついよな」
「がめついはひどいにゃ! 生きていく為にお金は必要だにゃ!」
後ろを歩いているスーにぽかぽかと背中を叩かれる。
「ごめんごめん、ただやたらと報酬に対して執着があるような気がしたからさ」
「お金は大事にゃ、お金があればー好きな武器や防具だって揃えられて、パーティーの生存率だって上がるんだよ? 持っているに越したことはないにゃ!」
「まぁ、確かに……?」
何かやたらと熱弁されてしまった。
まぁ、浪費癖があるよりかは多少がめつい……じゃなくって、お金にうるさいぐらいのほうがいいのかもしれない。
もし金庫番をやらせるならスーがいいだろうなと考えながらコレアスの森を抜けた。
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