上 下
71 / 80
5章 冒険者初級編

第71話 不穏な影

しおりを挟む

その後も探索を続け、草むらから飛び出してくるキラーラビットを順に始末していく。
十体目を狩り終わる頃には角の処理にも少し慣れてきていた。
だからなのか、ふとした違和感に気づく。

「なぁ……この個体についてるひっかき傷みたいなの、スーの武器じゃないよな?」
「え、今日はまだこの子は使ってないから違うよ」

そう言って腰元につるしている鍵爪を手に取りながらスーは俺の問いに答える。

「そうなると……この傷、だれがつけたんだ?」
「ねぇねぇ、こっちの個体にもひっかき傷みたいなのついてるよ?」
「ほんとか? 見せてくれ」

ルリアが先程狩った中から一体を掴み、俺の元へと運んでくる。
指をさされた箇所を見れば、先程の個体とはまた別の場所に傷があった。
そして、どちらも新しい傷だった。

「近くで同じような任務してる冒険者がいて、取り逃がしたとか?」
「その可能性はあるかもしれないけれど、それなら近くに冒険者パーティーがいるってことだよね」
「そういや毎回キラーラビット達は草むらから飛び出してきてたよな。その冒険者パーティーから逃げ出してたのかもしれないな」
「……でももし、冒険者じゃないとしたら……どういうことになるんでしょうか」
「それはもちろん、キラーラビットよりも凶暴なモンスターが近くにいるということだろう! ハッハッハッハッ」
「えーっと、それは笑い事じゃぁないとボクは思うんだけどなぁ……」

一人呑気なやつは置いておくとして、それ以外の面々に緊張の色が浮かび始める。
もしもフレイシーの言う通りより危険なモンスターが近くにいるのであれば、それと遭遇したとき俺達が無事でいられる保証はどこにもない。

薬草の採集は出来ていないが、キラーラビットの討伐自体は既に最低限完了しているのだ。
すぐに帰還すべきではないかという考えが少しずつ色濃くなっていく。

「なに、そんなに心配することはない。このような浅い場所にさほど強力なモンスターは出現しないさ。現に数刻、安全に探索を行えていたではないか」
「まぁキラーラビットはモンスターの中でも下層も下層のモンスターだし、ちょっと強いくらいならなんとかなるか」

そう言われれば大丈夫なような気もしてくる。

「薬草採集……失敗になっちゃいます」

どうやら五人中三人は残って薬草採集とキラーラビット討伐を続けたいようだ。
確かに、コレアスの森に来てからまだ一時間が二時間そこらしか経っていない。
せっかくの冒険者としての初任務を、こんな短時間で済ませたく無いという気持ちは俺にもある。
しかし、未知の情報が出てきた今俺はどうすればいいのか悩んでしまった。

そうしているうちに、次第に話がまとまっていく。

「では薬草採集をしつつ、遭遇したキラーラビットは討伐を続けてゆこうではないか」
「キラーラビットの討伐が増えれば報酬も増えるかも……」
「初めての仕事……頑張りましょう」
「……あぁ、そうだな」

結局自分では決めきれず、その場の流れに合わせてしまう。
ルリアが心配そうな顔で見てくるので、頭を撫でてやる。

「大丈夫だ。みんな強いし、フレイシーの言う通り多少強いくらいならなんとかなるよ。本当に危なそうならすぐに引き返すよ」
「うん……そうだね。大丈夫だよね」

それからもしばらくの間、森の浅いところを重点的に調べて回るがとうとう薬草を見つける事ができなかった。
今はというと、結局既に通ってきた道を戻るかたちとなっている。

「残念、薬草見つからなかったにゃぁ……」
「キラーラビットは山程狩れたがな!」
「手がかなり獣臭くなっちまった……洗って取れるかなこれ」
「レイちゃん、くっさ」
「……」
「ちょ、無言で顔に手を近づけてくるのやめ――あ、ほんとにくっさいよ!?」
「ふふふ……」

すっかり凱旋モードになり、気が緩んでいた――その時だった。

「!? と、止まって下さい!」

キリーカが今日一の声を出す。
俺達は何事かと思い、戸惑いながらも臨戦態勢を取る。

「……前方に、なにかいます」
「なにかって、なにがいるんだ……?」
「わかりません。でも、すごく……怒ってます」

前方、つまりは森への出口に繋がる道に何かがいるとキリーカは言う。
ということは――

「なるほど。それと対峙しなければ、俺様たちは森から出られない状況になったというわけだな?」

「なんともわかりやすい状況説明をありがとう、フレイシー」
「ハッハッハ、礼にはおよばん」
「悪いなルリア、あそこで引き換えしてれば……」
「それは言いっこなし。ボクだってちゃんと意見を言わなかったし、次気をつければいいだけのこと! 今は眼の前のことに集中だよ、リーダー」
「……ありがとう」

俺は改めて現状を整理し始める。
そして考える。
このまま進むのか、それとも何かが去るまでどこかに潜むか……。

俺の言葉を皆が待っている。
皆の視線を浴びながら、俺は一つの選択をした。

「よし、進もう」
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます

蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜 誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。 スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。 そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。 「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。 スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。 また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。

神々の間では異世界転移がブームらしいです。

はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》 楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。 理由は『最近流行ってるから』 数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。 優しくて単純な少女の異世界冒険譚。 第2部 《精霊の紋章》 ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。 それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。 第3部 《交錯する戦場》 各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。 人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。 第4部 《新たなる神話》 戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。 連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。 それは、この世界で最も新しい神話。

練習船で異世界に来ちゃったんだが?! ~異世界海洋探訪記~

さみぃぐらぁど
ファンタジー
航海訓練所の練習船「海鵜丸」はハワイへ向けた長期練習航海中、突然嵐に巻き込まれ、落雷を受ける。 衝撃に気を失った主人公たち当直実習生。彼らが目を覚まして目撃したものは、自分たち以外教官も実習生も居ない船、無線も電子海図も繋がらない海、そして大洋を往く見たこともない戦列艦の艦隊だった。 そして実習生たちは、自分たちがどこか地球とは違う星_異世界とでも呼ぶべき空間にやって来たことを悟る。 燃料も食料も補給の目途が立たない異世界。 果たして彼らは、自分たちの力で、船とともに現代日本の海へ帰れるのか⁈ ※この作品は「カクヨム」においても投稿しています。https://kakuyomu.jp/works/16818023213965695770

神様のミスで女に転生したようです

結城はる
ファンタジー
 34歳独身の秋本修弥はごく普通の中小企業に勤めるサラリーマンであった。  いつも通り起床し朝食を食べ、会社へ通勤中だったがマンションの上から人が落下してきて下敷きとなってしまった……。  目が覚めると、目の前には絶世の美女が立っていた。  美女の話を聞くと、どうやら目の前にいる美女は神様であり私は死んでしまったということらしい  死んだことにより私の魂は地球とは別の世界に迷い込んだみたいなので、こっちの世界に転生させてくれるそうだ。  気がついたら、洞窟の中にいて転生されたことを確認する。  ん……、なんか違和感がある。股を触ってみるとあるべきものがない。  え……。  神様、私女になってるんですけどーーーー!!!  小説家になろうでも掲載しています。  URLはこちら→「https://ncode.syosetu.com/n7001ht/」

護国の鳥

凪子
ファンタジー
異世界×士官学校×サスペンス!! サイクロイド士官学校はエスペラント帝国北西にある、国内最高峰の名門校である。 周囲を海に囲われた孤島を学び舎とするのは、十五歳の選りすぐりの少年達だった。 首席の問題児と呼ばれる美貌の少年ルート、天真爛漫で無邪気な子供フィン、軽薄で余裕綽々のレッド、大貴族の令息ユリシス。 同じ班に編成された彼らは、教官のルベリエや医務官のラグランジュ達と共に、士官候補生としての苛酷な訓練生活を送っていた。 外の世界から厳重に隔離され、治外法権下に置かれているサイクロイドでは、生徒の死すら明るみに出ることはない。 ある日同級生の突然死を目の当たりにし、ユリシスは不審を抱く。 校内に潜む闇と秘められた事実に近づいた四人は、否応なしに事件に巻き込まれていく……!

視力0.01の転生重弩使い 『なんも見えんけど多分味方じゃないからヨシッ!』

ふつうのにーちゃん
ファンタジー
転生者グレイボーンは、前世でシュールな死に方をしてしまったがあまりに神に気に入られ、【重弩使い】のギフトを与えられた。 しかしその神は実のところ、人の運命を弄ぶ邪神だった。 確かに重弩使いとして破格の才能を持って生まれたが、彼は『10cm先までしかまともに見えない』という、台無しのハンデを抱えていた。 それから時が流れ、彼が15歳を迎えると、父が死病を患い、男と蒸発した母が帰ってきた。 異父兄妹のリチェルと共に。 彼はリチェルを嫌うが、結局は母の代わりに面倒を見ることになった。 ところがしばらくしたある日、リチェルが失踪してしまう。 妹に愛情を懐き始めていたグレイボーンは深い衝撃を受けた。 だが皮肉にもその衝撃がきっかけとなり、彼は前世の記憶を取り戻すことになる。 決意したグレイボーンは、父から規格外の重弩《アーバレスト》を受け継いだ。 彼はそれを抱えて、リチェルが入り込んだという魔物の領域に踏み込む。 リチェルを救い、これからは良い兄となるために。 「たぶん人じゃないヨシッッ!!」 当たれば一撃必殺。 ただし、彼の目には、それが魔物か人かはわからない。 勘で必殺の弩を放つ超危険人物にして、空気の読めないシスコン兄の誕生だった。 毎日2~3話投稿。なろうとカクヨムでも公開しています。

だって私、悪役令嬢なんですもの(笑)

みなせ
ファンタジー
転生先は、ゲーム由来の異世界。 ヒロインの意地悪な姉役だったわ。 でも、私、お約束のチートを手に入れましたの。 ヒロインの邪魔をせず、 とっとと舞台から退場……の筈だったのに…… なかなか家から離れられないし、 せっかくのチートを使いたいのに、 使う暇も無い。 これどうしたらいいのかしら?

異世界転生~チート魔法でスローライフ

リョンコ
ファンタジー
【あらすじ⠀】都会で産まれ育ち、学生時代を過ごし 社会人になって早20年。 43歳になった主人公。趣味はアニメや漫画、スポーツ等 多岐に渡る。 その中でも最近嵌ってるのは「ソロキャンプ」 大型連休を利用して、 穴場スポットへやってきた! テントを建て、BBQコンロに テーブル等用意して……。 近くの川まで散歩しに来たら、 何やら動物か?の気配が…… 木の影からこっそり覗くとそこには…… キラキラと光注ぐように発光した 「え!オオカミ!」 3メートルはありそうな巨大なオオカミが!! 急いでテントまで戻ってくると 「え!ここどこだ??」 都会の生活に疲れた主人公が、 異世界へ転生して 冒険者になって 魔物を倒したり、現代知識で商売したり…… 。 恋愛は多分ありません。 基本スローライフを目指してます(笑) ※挿絵有りますが、自作です。 無断転載はしてません。 イラストは、あくまで私のイメージです ※当初恋愛無しで進めようと書いていましたが 少し趣向を変えて、 若干ですが恋愛有りになります。 ※カクヨム、なろうでも公開しています

処理中です...