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5章 冒険者初級編
第67話 飲み会
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酒場は昼間よりも熱気に包まれていて、酔っぱらい達の喧騒でどよめいている。
吟遊詩人もアップデンポで軽快な曲を演奏していて、盛り上がりを後押ししている。
そんな中、円型のテーブルを皆で囲み、乾杯の音頭と共にグラスを合わせる。
キンッという景気の良い音が不規則に響き、各々自分のペースで飲み始めた。
「っぷはー、おかわり!」
「ふぅ、おかわりだ」
フレイシーとルリアは一杯目を一気に飲み干し、既にウェイターへ二杯目を注文している。
俺とスーは一口二口、キリーカはちびちびと飲んでいる。
次々と運ばれてくる酒のつまみを挟みながら、さっきのは見事だったとかこんな事も出来るんじゃないかだとか、これからどんな冒険が待っているのかといった話で盛り上がる。
「レイちゃーん、もっと飲みなよぉ……にひひ」
早速酒に飲まれているやつが物理的にも絡んでくるので、ひじで突き返す。
こんなに飲んでいては、また明日は二日酔いだろうな……。
「また調子に乗って飲み過ぎると、明日辛いぞ」
「お酒飲む時に明日のことなんてー、考えちゃーだめだよぉ……いまをたのしまなきゃあ」
「ルリア嬢、良いことを言うではないか! レイジ君ももっと弾けたまえ!」
「フレくんいいことゆーねぇ! へへへ、楽しいねー」
「……忠告はしたからな」
ルリアの事はもう放おっておくことにする。
左腕に絡みついてきているのは少しうっとおしいが、家でも飲む時は大体こんな感じになっていたので、変に慣れてしまっていた。
フレイシーは既に五杯目を空けているが、あまり変わった様子は見られない。
少し声のボリュームが大きくなったくらいで、どうやら酒豪のようだ。
そんなやつに合わせてルリアが飲むものだから、すでにデロンデロンになっている。
「ルリアちゃん、お酒弱いんだねぇ」
スーが三杯目のグラスをかたむけながら言う。
少し頬が赤らんでいるが、まだ大丈夫そうだ。
小魚を揚げたものをつまみに、フルーティな香りのするお酒を飲んでいる。
「そうなんだよ。んで、大抵もう少ししたら潰れるぞ」
「よく一緒に飲むんだ?」
「居候してるからな、たまに付き合ってる」
「ルリアちゃんのとこに居候してるのってレイ君だったんだー」
「え、なんだその口ぶりは……なんか不穏なんだが」
「……知らないほうがいいこともあるにゃ」
「おい気になるだろ! スー!」
「甘くておいしいです……」
「そこのウェイター君、おかわりだ!」
「ボクもー!」
「ルリアはそのへんにしとけ! すみません、こっちには水をお願いします」
「ちょっとー、レイちゃん? 勝手なことぉぁゆるしゃなぁよ……!」
「もう呂律も回ってねーじゃねぇかよ」
「あ、スーはこの小魚おかわりで」
「……あまあま、です」
「キリーカも飲みすぎるなよ?」
「……大丈夫、です……はい……大丈夫」
キリーカが、いつの間にかうつらうつらとしている。どうやら酒を飲むと眠くなる体質だったようだ。
「寝たかったら寝ててもいいぞ、後で起こしてやるから」
「……ねむく、ないです。大丈夫……んぅ……」
段々とテーブルにしずんでいくキリーカを見て、スーが優しい表情を浮かべながら頭をぽふぽふと撫でる。
「これは、スー達はあんまし酔っちゃだめかもにゃ」
「まぁ潰れる程じゃなければ、いいんじゃないか? 最悪潰れてもここならなんとかなるだろ」
そう言って俺はグラスを一気にあおった。
「たしかに、今日くらいはハメを外しちゃってもいいかもしれないけど、せっかくならこの雰囲気を覚えておきたい気持ちもあるなー」
「……ま、記念すべき結成一日目の夜だもんな」
「あとサブリーダーに任命されちゃったし?」
「それは悪かったって……でも俺だって流れで任命されたんだからお互い様だぞ?」
「冗談にゃ。別に気にしてないし、選んでくれて頼られてるなーってちょっと嬉しかったところもあるよ?」
「……ほんとか?」
「半分だけ」
「半分かよこのやろう」
「にゃはは」
周囲の喧騒に混じって、仲間とともにくだらなくて楽しい時間を過ごす。
――こんな時間を過ごしたのはいつぶりだろうか。
ふと、雪のふる夜道を一人歩いていた生前の事を思い出す。
俺の存在ごとかき消されていたような、冷たい孤独の日々。
喧騒を避け、人を避けてきた日々。
それが今はどうだろうか。
暖かい喧騒の中、俺を受け入れてくれる仲間と共にどんちゃん騒ぎをしている。
この世界に転生をしてきてから色々な事があったが、全てが今までに無い経験でとても満ち足りた日々を過ごしている。
失敗をした事もあったが、それも自分が成長するきっかけになれた。
ケンカをした日もあったが、おかげでより仲良くなるきっかけにもなった。
生前や転生直後の先行きが見えない不安な日々を送っていた頃に比べれば、このままの日々が続くだけでも充分満足だ。
でも……きっとこの先、もっと楽しいことや面白い事がきっとあると今は思うようになった。
異世界に来ていつの間にか、年甲斐も無く欲張りになっていたようだ。
こうして仲間と騒げるこんな時間をずっと続けていく為に……、仲間を守れるように……、俺はもっと強くなろう。
そして強さだけじゃなく、人として成長出来るようになりたい。
どこかに落としてなくしてしまっていた、人生を楽しむ為の熱量が少しずつ戻っていくのを感じながら、俺はショットグラスを一気に喉へ落とした。
吟遊詩人もアップデンポで軽快な曲を演奏していて、盛り上がりを後押ししている。
そんな中、円型のテーブルを皆で囲み、乾杯の音頭と共にグラスを合わせる。
キンッという景気の良い音が不規則に響き、各々自分のペースで飲み始めた。
「っぷはー、おかわり!」
「ふぅ、おかわりだ」
フレイシーとルリアは一杯目を一気に飲み干し、既にウェイターへ二杯目を注文している。
俺とスーは一口二口、キリーカはちびちびと飲んでいる。
次々と運ばれてくる酒のつまみを挟みながら、さっきのは見事だったとかこんな事も出来るんじゃないかだとか、これからどんな冒険が待っているのかといった話で盛り上がる。
「レイちゃーん、もっと飲みなよぉ……にひひ」
早速酒に飲まれているやつが物理的にも絡んでくるので、ひじで突き返す。
こんなに飲んでいては、また明日は二日酔いだろうな……。
「また調子に乗って飲み過ぎると、明日辛いぞ」
「お酒飲む時に明日のことなんてー、考えちゃーだめだよぉ……いまをたのしまなきゃあ」
「ルリア嬢、良いことを言うではないか! レイジ君ももっと弾けたまえ!」
「フレくんいいことゆーねぇ! へへへ、楽しいねー」
「……忠告はしたからな」
ルリアの事はもう放おっておくことにする。
左腕に絡みついてきているのは少しうっとおしいが、家でも飲む時は大体こんな感じになっていたので、変に慣れてしまっていた。
フレイシーは既に五杯目を空けているが、あまり変わった様子は見られない。
少し声のボリュームが大きくなったくらいで、どうやら酒豪のようだ。
そんなやつに合わせてルリアが飲むものだから、すでにデロンデロンになっている。
「ルリアちゃん、お酒弱いんだねぇ」
スーが三杯目のグラスをかたむけながら言う。
少し頬が赤らんでいるが、まだ大丈夫そうだ。
小魚を揚げたものをつまみに、フルーティな香りのするお酒を飲んでいる。
「そうなんだよ。んで、大抵もう少ししたら潰れるぞ」
「よく一緒に飲むんだ?」
「居候してるからな、たまに付き合ってる」
「ルリアちゃんのとこに居候してるのってレイ君だったんだー」
「え、なんだその口ぶりは……なんか不穏なんだが」
「……知らないほうがいいこともあるにゃ」
「おい気になるだろ! スー!」
「甘くておいしいです……」
「そこのウェイター君、おかわりだ!」
「ボクもー!」
「ルリアはそのへんにしとけ! すみません、こっちには水をお願いします」
「ちょっとー、レイちゃん? 勝手なことぉぁゆるしゃなぁよ……!」
「もう呂律も回ってねーじゃねぇかよ」
「あ、スーはこの小魚おかわりで」
「……あまあま、です」
「キリーカも飲みすぎるなよ?」
「……大丈夫、です……はい……大丈夫」
キリーカが、いつの間にかうつらうつらとしている。どうやら酒を飲むと眠くなる体質だったようだ。
「寝たかったら寝ててもいいぞ、後で起こしてやるから」
「……ねむく、ないです。大丈夫……んぅ……」
段々とテーブルにしずんでいくキリーカを見て、スーが優しい表情を浮かべながら頭をぽふぽふと撫でる。
「これは、スー達はあんまし酔っちゃだめかもにゃ」
「まぁ潰れる程じゃなければ、いいんじゃないか? 最悪潰れてもここならなんとかなるだろ」
そう言って俺はグラスを一気にあおった。
「たしかに、今日くらいはハメを外しちゃってもいいかもしれないけど、せっかくならこの雰囲気を覚えておきたい気持ちもあるなー」
「……ま、記念すべき結成一日目の夜だもんな」
「あとサブリーダーに任命されちゃったし?」
「それは悪かったって……でも俺だって流れで任命されたんだからお互い様だぞ?」
「冗談にゃ。別に気にしてないし、選んでくれて頼られてるなーってちょっと嬉しかったところもあるよ?」
「……ほんとか?」
「半分だけ」
「半分かよこのやろう」
「にゃはは」
周囲の喧騒に混じって、仲間とともにくだらなくて楽しい時間を過ごす。
――こんな時間を過ごしたのはいつぶりだろうか。
ふと、雪のふる夜道を一人歩いていた生前の事を思い出す。
俺の存在ごとかき消されていたような、冷たい孤独の日々。
喧騒を避け、人を避けてきた日々。
それが今はどうだろうか。
暖かい喧騒の中、俺を受け入れてくれる仲間と共にどんちゃん騒ぎをしている。
この世界に転生をしてきてから色々な事があったが、全てが今までに無い経験でとても満ち足りた日々を過ごしている。
失敗をした事もあったが、それも自分が成長するきっかけになれた。
ケンカをした日もあったが、おかげでより仲良くなるきっかけにもなった。
生前や転生直後の先行きが見えない不安な日々を送っていた頃に比べれば、このままの日々が続くだけでも充分満足だ。
でも……きっとこの先、もっと楽しいことや面白い事がきっとあると今は思うようになった。
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こうして仲間と騒げるこんな時間をずっと続けていく為に……、仲間を守れるように……、俺はもっと強くなろう。
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