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5章 冒険者初級編

第65話 美しき男

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 なしくずし的にリーダーにさせられてしまったが、仕方なく受け入れる事にした。
 その代わりにスーをサブリーダーに任命して、サポートをお願いする。

「それじゃあ冒険者パーティーの登録申請をしてこないとねー。ボクがやってきてあげようか? ついでに受付辞めることも伝えなきゃだし」

「そうか。やっぱり辞めるんだな、受付嬢の仕事」

 今の仕事をどうするのか、薄っすらと気になってはいたが、どうやら辞めることにするようだ。

「まぁ待遇がいいって理由だけでやってた仕事だし、正直向いてないし?」

「なんだ、自覚あったのか」

「む、そう言われるとなんかムカつくなぁ」

 ルリアが口を尖らせジトリと俺を睨む。

「悪い悪い、でも待遇良かったんだろ? 本当にいいのか?」

「いいのいいの。それに、多分受付嬢の枠が空いて喜ぶ人も多いだろうしー? 結構人気ある仕事なんだよ?」

 ルリアが苦笑いをしながら手を横に二回振る。

 つまるところ花形の仕事というわけか。
 スキルのおかげで優遇されていることに対して妬まれてると聞いていたが、そういった背景も合わさっていたのかと理解する。

「それじゃあ任せてきてもいいか? 俺らは……早速仕事でも見てみるか?」

「んー、それもいいけど一度訓練所でお互いの動きの確認をしてもいいかも」

 早速スーがサブリーダーらしい提案をしてくれる。

「確かにそれもそうか」

 言われてみると、スーとフレイシー同士を除けば互いの戦っている姿は見ていない。
 キリーカやルリアに至っては想像もつかない。

「俺様のビューティフルな技を見せてやるぜ」

 フレイシーがポーズを決めながら歯を見せニカッと笑みを浮かべる。
 ……悪いやつじゃ無いんだけどなぁ。

「じゃあ先に訓練所だけ確保しといてよ。多分他のパーティも似たような事考えるだろうし、空きが無くなる前によろしくー」

「それもそうだな。んじゃ、行くとしますか」

 酒場の会計を済ませてルリアと一旦別れると、俺達は訓練所へと向かった。



「お、早速か? 来るとは思ってたけどよ」

 訓練所の受付にはデグが座っていた。

「はい。まずは互いの戦闘スタイルの確認をしようと、スーが提案してくれまして」

 スーが俺の肩越しにひょっこりと顔を出してデグに手を振る。

「賢明な判断だな。仲間同士、理解を深める事はとても大事だ。それに、いきなり仕事を受けにいくようなやつは、大抵最初の任務で失敗するからな」

 ぐさりとデグの言葉が胸に突き刺さる。

「そーですよね、はは」

 笑ってその場を誤魔化すと、デグが不思議そうな顔をした。
 すみません、私は真っ先に仕事を見に行こうとしていたダメダメリーダーです。

「まぁ今なら訓練所はまだ空きがあるから……ここでいいか。ほらよ、部屋の鍵だ」

 デグが壁にかかっていた鍵を放るようにして渡してくるので、すかさずキャッチする。

「ありがとうございます。後からルリアがくると思うので、この部屋に案内をお願いします」

「やっぱあいつも同じパーティーか……。あいよ、伝えとく」

 鍵を受け取った俺たちは、早速訓練室へと向かった。
 部屋に入ってしばらくはルリアを待つ為に、各々ストレッチをしたり基礎トレをしたりしていた。

 フレイシーに至っては、とんでもない重さの鉄の重りを両手に持ったまま部屋をダッシュで往復しており、とんでもないバイタリティだと驚嘆する。

 ふと、そういえばフレイシーにキリーカのことを伝えそびれているという事を思い出す。

 俺は一人弓の手入れをしているキリーカに歩み寄り声をかけた。

「なぁキリーカ。そういえばフレイシーにはまだ例の事伝えられてないよな?」
「あ、お兄様。……そうですね、今のうちに話ておいたほうがいい、ですよね……」
「そうだな。一人だけ知らないってのも可哀想だしな」
「はい、ちゃんと話してみます……行ってきます、ね」

 そう言ってフレイシーの元に近づいていくが、肝心のフレイシーがキリーカが呼び止めるのに気が付かず、ビューティフォーと奇声を上げながら走り込みするのを一向に辞めない。

 キリーカがめげはじめるのが見えたので、助け舟を出すことにした。

「おい、そこの美しい戦士くん。ちょっと話があるから止まってくれ」
「今美しいと言ったかね? この美戦士フレイシーに何か用かな」
「……用があるのは俺じゃなくて、お前の後ろにいるキリーカだよ」
「おやキリーカ君、どうしたのかな? 何か聞きたい事があるのかな? 美しさの秘訣かい?」
「えっ、いや、その……」
「待て待て。聞きたい事じゃなくて、伝えたい事があるんだよ」
「そうか……少し残念だが、聞こうじゃないか。どうしたんだい?」
「あの、ですね……実は――」





「なるほど。この俺様も初めて聞く話だ。それで、それがどうかしたのかな?」
「「えっ」」
「ん?」

 俺も大概だっただろうが、余りにも軽い返答に二人して驚きの声を出す。

「いや、気にしないんだったらいいんだ。キリーカの生まれについて、よくない感情を持つ奴が多いんだ。だから――」
「生まれなんぞに大した意味なんて無いだろう?」

 フレイシーが、心底不思議だと言わんばかりに腕を組んで答える。

「重要なのは、どう生きてきたかだ。キリーカ君が立派に美しく生きてきたのなら、どこに恥ずべきことがあると言うのだね」
「……そう、ですね。はい、ありがとうございます」

 不安そうにしていたキリーカの表情が一気に明るい笑顔になった。
 それを見て、俺も思わず顔が緩む。

「お前をパーティーに誘って良かったと、今心から思えたよ」
「そうだろうそうだろう、何せ俺様は美しいからな」
「あぁ、お前は最高に美しい戦士だよ。フレイシー」
「はい、とても……素敵だと思います」
「ハッハッハッハ、ビューティフォー!」



「お待たせーって、なんだか仲良くなってんね」
「そうだねー、仲良くなるのは良いことだにゃ」
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