お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷

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4章 異世界葛藤編

第60話 試験総評

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 気がかりは残りつつも、訓練所へ続く道とは、ギルドの入り口を挟んで反対側に位置する通路へと進んでいく。

 なんとなくだが、若い人には気後れして、列は最後尾を歩いている。

 こちら側には初めて来たが、なるほど、大学の講義室のような作りになっている。
 何かを説明するのは適した場所だ。
 恐らく、これからの事について説明を受けるのだろう。

 ちなみに他の部門の受験者たちはまだ試験が終わっていない様で、ナフィスに促されてそれぞれが思い思いの席につく。

 俺は窓際の後ろの席に座った。

 皆それぞれ、バラバラに座っているのを見ると、どうやら知り合い同士はいないようだ。

 窓の外にある、樹木に巣を作って餌を与えている親鳥と、三羽の小鳥たちを見つめてながら頬杖をつく。

 親鳥が捕まえてきたであろうミミズのような虫を、小鳥たちが『ぴよぴよ』と鳴きながらついばんでいる。

 心温まる情景に癒やされながらも、改めて試験を振り返ると想定していたものよりも相当危険なものであったと感じた。

 スーはともかくとして、ルリアはあんなにも過酷な試験を無事にこなせているのだろうか。

 今頃医務室に運ばれているんじゃないだろうかという心配をよそに、ルリアが元気よく扉を開けて入室してきた。

 思わず立て肘がずるりとすっぽ抜ける。

「あ、レイちゃんだ! レイちゃんも受かったんだねー」

 大きな声で人のことを指さして、ぱたぱたと駆け上がってくる。
 周りの視線がこちらに集まり、顔が少し熱くなるのを感じた。

「ボクもがんばったんだyぐうぇ……なにするのさぁー」

 額を両手で抑えて、膨れ面をするルリア。
 場所も場所なので、軽いチョップ一撃で許してやることにする。

「こんなとこで大声出すんじゃねぇよ。目立つだろ」

「いーじゃんか、これからバンバン目立っちゃう予定なんだから!」

「は? それってどういう……」

「あ、君も合格出来たの? お疲れ様にゃ」

 どうやら近接組も試験が終了したようで、いかにもといったいかついメンツがぞろぞろと室内に入ってくる。

 というか、遠隔組に比べて多くないか……?

 結果的に、室内には学校のひとクラス分くらいの人数が揃う事になる。

 ルリア達に試験の事を聞いてみると、どうやら過酷だったのは遠隔組の試験だけだったのだと理解した。

 この部屋……いっそのこと教室と呼ぶべきか。
 教室の前方には、大きな掲示板が用意されていて、その両端に試験を担当した監督たちが並んでいる。

 デグにナフィス、それからルリアのところの監督であった花人族かじんぞくの『エノメナ』さんだ。

 花人族は、寿命が短い代わりに、人族と比べて睡眠時間が極端に短くでも問題ないらしく、また好奇心旺盛な者が多い種族らしい。

 花人族は、身体の三分のいちが植物で出来ていて、成人すると花を咲かせ、それが散る時に寿命も尽きるそうだ。

 エノメナさんは、金色の髪に、綺麗なピンク色の花を数輪咲かせている。
 顔の半分は前髪で隠しているが、木目になっているのが少し分かった。

「さて、まずは各分野ごとに、試験の総評からだ」

 デグが教室に響く声で、俺たちの注目を集める。
 ルリアが隣の席に座り、スーは俺の前の席に座った。

「その前に言う事があったな。みな、合格おめでとう。君たちは今日から冒険者だ」

 その言葉に合わせて、監督陣がそろって拍手をしてくれる。

 この年になって人から拍手をもらう経験等久しく無かった為、先程とは別の意味で少し気恥ずかしくなった。

 しかし……悪い気はしない。

「さて、まずは近接組についてだが……」

 近接組の総評から始まり、続いて回復や補助組の評価になる。
 その途中、スーとルリアに至っては、特に優秀だった者として名前が上げられていた中の一人になっていた。

 ルリアがこっそりと「同衾の効果、出ちゃったね」と、にひにひとした笑みを浮かべつつ耳元で囁いてきたので、デコピンで突き放しておいた。

 スーに至っては、自分の力で成し遂げた事なので、素直に立派だと思った。
 チートを使っている俺たちとは違って、本物の努力の結晶だ。

 そしてついに、遠隔組の総評へと移った。

「まずは本当にお疲れ様でした。本来、誰でも受かるレベルにしておいたんですが、今回は脱落者が多く残念でした」

 いや、あれのどこが誰でも受かるレベルなのだろうかと疑問に思っていると、次の言葉で納得することになる。

「遠隔組に関しては、危機管理や周囲の状況を正しく把握する能力が必要です。その為、まず最初に僕は、敢えて殺気や違和感を演出して、それを皆さんに一つの情報として与えていました。しかし、それに気づかずぼんやりとしていた人は失格となったわけです」

 あの時、ナフィスの笑顔に違和感を感じたり、足元から嫌な予感がしていたのも、すべてナフィスが敢えて演じて実行していたものだと知り驚きを隠せずにいる。

 一緒に試験を受けた同期達も、そわそわしているので、同じ気持ちなのだろう。

「次に、魔法の矢ですが。あれ、皆さんが立っている場所から少し離れるだけで回避できるんですよねー。追尾機能とかつけてないので、魔力が向かっていく方向とか探ればすぐに分かるんですけど、ほとんどの人が破壊でなんとかしてましたね」

 聞いてみればなんともあっけない種明かしなのだが、これで貫かれてしまった人たちは、それはそれで可哀想である。

「最後ですが、あれは言葉の中に隠された違和感を感じて、警戒を怠らなかった人には何も攻撃をしませんでした。気を抜いていた人たちには、こうして……トンッ、と手刀をお見舞いしましたが」

 結局のところ、状況把握能力を主軸に試されていたという訳か。
 冒険者認定試験にしては、なんてレベルのおかしい内容かと思ったが、種明かしをしてしまうとこうもあっけない。

「冒険者を目指すという皆さんが、ある程度の力を持っているのは当然です。ですが、我々遠隔組に必要なのは、周りの状況を冷静に判断して、周りをサポートしたりフォローする力です」

「さらに言えば、我々は身を守る術も、回復する術も、守りを固める術も持ち合わせていない事がほとんどでしょう。そんな中、油断によって致命傷を受ければ、そのまま命を落としかねません。そしてそれはパーティ自体の壊滅をも意味します。ですから、今日落ちてしまった人たちに、種明かしはしないであげてくださいね。それがその人のためにもなるのですから」

 ナフィスは、人差し指を顔の前にやり、内緒でというジェスチャーを取る。

「そんなところでしょうか。正直優秀者に関しては、今回全員と言いたいところですが、唯一魔法の矢を避けるだけに留めたが最優秀といったところですかね」

 ナフィスが、ローブの人を見て聞き慣れた名前を呼ぶ。

 思わず視線をローブの人の方に向けると、もじもじとしながらこちらを振り返る、見慣れた少女と目があった。
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