60 / 80
4章 異世界葛藤編
第60話 試験総評
しおりを挟む気がかりは残りつつも、訓練所へ続く道とは、ギルドの入り口を挟んで反対側に位置する通路へと進んでいく。
なんとなくだが、若い人には気後れして、列は最後尾を歩いている。
こちら側には初めて来たが、なるほど、大学の講義室のような作りになっている。
何かを説明するのは適した場所だ。
恐らく、これからの事について説明を受けるのだろう。
ちなみに他の部門の受験者たちはまだ試験が終わっていない様で、ナフィスに促されてそれぞれが思い思いの席につく。
俺は窓際の後ろの席に座った。
皆それぞれ、バラバラに座っているのを見ると、どうやら知り合い同士はいないようだ。
窓の外にある、樹木に巣を作って餌を与えている親鳥と、三羽の小鳥たちを見つめてながら頬杖をつく。
親鳥が捕まえてきたであろうミミズのような虫を、小鳥たちが『ぴよぴよ』と鳴きながらついばんでいる。
心温まる情景に癒やされながらも、改めて試験を振り返ると想定していたものよりも相当危険なものであったと感じた。
スーはともかくとして、ルリアはあんなにも過酷な試験を無事にこなせているのだろうか。
今頃医務室に運ばれているんじゃないだろうかという心配をよそに、ルリアが元気よく扉を開けて入室してきた。
思わず立て肘がずるりとすっぽ抜ける。
「あ、レイちゃんだ! レイちゃんも受かったんだねー」
大きな声で人のことを指さして、ぱたぱたと駆け上がってくる。
周りの視線がこちらに集まり、顔が少し熱くなるのを感じた。
「ボクもがんばったんだyぐうぇ……なにするのさぁー」
額を両手で抑えて、膨れ面をするルリア。
場所も場所なので、軽いチョップ一撃で許してやることにする。
「こんなとこで大声出すんじゃねぇよ。目立つだろ」
「いーじゃんか、これからバンバン目立っちゃう予定なんだから!」
「は? それってどういう……」
「あ、君も合格出来たの? お疲れ様にゃ」
どうやら近接組も試験が終了したようで、いかにもといったいかついメンツがぞろぞろと室内に入ってくる。
というか、遠隔組に比べて多くないか……?
結果的に、室内には学校の一クラス分くらいの人数が揃う事になる。
ルリア達に試験の事を聞いてみると、どうやら過酷だったのは遠隔組の試験だけだったのだと理解した。
この部屋……いっそのこと教室と呼ぶべきか。
教室の前方には、大きな掲示板が用意されていて、その両端に試験を担当した監督たちが並んでいる。
デグにナフィス、それからルリアのところの監督であった花人族の『エノメナ』さんだ。
花人族は、寿命が短い代わりに、人族と比べて睡眠時間が極端に短くでも問題ないらしく、また好奇心旺盛な者が多い種族らしい。
花人族は、身体の三分の一が植物で出来ていて、成人すると花を咲かせ、それが散る時に寿命も尽きるそうだ。
エノメナさんは、金色の髪に、綺麗なピンク色の花を数輪咲かせている。
顔の半分は前髪で隠しているが、木目になっているのが少し分かった。
「さて、まずは各分野ごとに、試験の総評からだ」
デグが教室に響く声で、俺たちの注目を集める。
ルリアが隣の席に座り、スーは俺の前の席に座った。
「その前に言う事があったな。みな、合格おめでとう。君たちは今日から冒険者だ」
その言葉に合わせて、監督陣がそろって拍手をしてくれる。
この年になって人から拍手をもらう経験等久しく無かった為、先程とは別の意味で少し気恥ずかしくなった。
しかし……悪い気はしない。
「さて、まずは近接組についてだが……」
近接組の総評から始まり、続いて回復や補助組の評価になる。
その途中、スーとルリアに至っては、特に優秀だった者として名前が上げられていた中の一人になっていた。
ルリアがこっそりと「同衾の効果、出ちゃったね」と、にひにひとした笑みを浮かべつつ耳元で囁いてきたので、デコピンで突き放しておいた。
スーに至っては、自分の力で成し遂げた事なので、素直に立派だと思った。
チートを使っている俺たちとは違って、本物の努力の結晶だ。
そしてついに、遠隔組の総評へと移った。
「まずは本当にお疲れ様でした。本来、誰でも受かるレベルにしておいたんですが、今回は脱落者が多く残念でした」
いや、あれのどこが誰でも受かるレベルなのだろうかと疑問に思っていると、次の言葉で納得することになる。
「遠隔組に関しては、危機管理や周囲の状況を正しく把握する能力が必要です。その為、まず最初に僕は、敢えて殺気や違和感を演出して、それを皆さんに一つの情報として与えていました。しかし、それに気づかずぼんやりとしていた人は失格となったわけです」
あの時、ナフィスの笑顔に違和感を感じたり、足元から嫌な予感がしていたのも、すべてナフィスが敢えて演じて実行していたものだと知り驚きを隠せずにいる。
一緒に試験を受けた同期達も、そわそわしているので、同じ気持ちなのだろう。
「次に、魔法の矢ですが。あれ、皆さんが立っている場所から少し離れるだけで回避できるんですよねー。追尾機能とかつけてないので、魔力が向かっていく方向とか探ればすぐに分かるんですけど、ほとんどの人が破壊でなんとかしてましたね」
聞いてみればなんともあっけない種明かしなのだが、これで貫かれてしまった人たちは、それはそれで可哀想である。
「最後ですが、あれは言葉の中に隠された違和感を感じて、警戒を怠らなかった人には何も攻撃をしませんでした。気を抜いていた人たちには、こうして……トンッ、と手刀をお見舞いしましたが」
結局のところ、状況把握能力を主軸に試されていたという訳か。
冒険者認定試験にしては、なんてレベルのおかしい内容かと思ったが、種明かしをしてしまうとこうもあっけない。
「冒険者を目指すという皆さんが、ある程度の力を持っているのは当然です。ですが、我々遠隔組に必要なのは、周りの状況を冷静に判断して、周りをサポートしたりフォローする力です」
「さらに言えば、我々は身を守る術も、回復する術も、守りを固める術も持ち合わせていない事がほとんどでしょう。そんな中、油断によって致命傷を受ければ、そのまま命を落としかねません。そしてそれはパーティ自体の壊滅をも意味します。ですから、今日落ちてしまった人たちに、種明かしはしないであげてくださいね。それがその人のためにもなるのですから」
ナフィスは、人差し指を顔の前にやり、内緒でというジェスチャーを取る。
「そんなところでしょうか。正直優秀者に関しては、今回全員と言いたいところですが、唯一魔法の矢を避けるだけに留めたキリーカさんが最優秀といったところですかね」
ナフィスが、ローブの人を見て聞き慣れた名前を呼ぶ。
思わず視線をローブの人の方に向けると、もじもじとしながらこちらを振り返る、見慣れた少女と目があった。
0
お気に入りに追加
817
あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。
アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。
両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。
両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。
テッドには、妹が3人いる。
両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。
このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。
そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。
その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。
両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。
両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…
両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが…
母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。
今日も依頼をこなして、家に帰るんだ!
この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。
お楽しみくださいね!
HOTランキング20位になりました。
皆さん、有り難う御座います。


異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!
あるちゃいる
ファンタジー
山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。
気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。
不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。
どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。
その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。
『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。
が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。
そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。
そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。
⚠️超絶不定期更新⚠️

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)
屯神 焔
ファンタジー
魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』
この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。
そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。
それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。
しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。
正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。
そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。
スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。
迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。
父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。
一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。
そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。
毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。
そんなある日。
『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』
「・・・・・・え?」
祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。
「祠が消えた?」
彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。
「ま、いっか。」
この日から、彼の生活は一変する。

知らない異世界を生き抜く方法
明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。
なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。
そんな状況で生き抜く方法は?

不死鳥契約 ~全能者の英雄伝~
足将軍
ファンタジー
【旧タイトル】不死鳥が契約してと言ったので契約してみた。
五歳になると魔法適性がないと思われ家族からその存在を抹消させられた。
そしてその日、俺は不死鳥と呼ばれる存在に出会った。
あの時から俺は、家族と呼んでいたあのゴミ達には関わらず生きていくと誓った。
何故?会ったらつい、ボコりたくなっちまうからだ。
なろうにも同時投稿中

転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。

異世界でタロと一緒に冒険者生活を始めました
ももがぶ
ファンタジー
俺「佐々木光太」二十六歳はある日気付けばタロに導かれ異世界へ来てしまった。
会社から帰宅してタロと一緒に散歩していたハズが気が付けば異世界で魔法をぶっ放していた。
タロは喋るし、俺は十二歳になりましたと言われるし、これからどうなるんだろう。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる