お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷

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4章 異世界葛藤編

第59話 本当は怖い(?)認定試験

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 遠隔部門の試験官はデグではないようで、中性的な顔立ちの青年のようだ。

「僕が、今日の試験監督を務める、『ナフィス=フォルレント』です。まぁ皆さんそんなに緊張なさらずに、いつもの実力を発揮することを期待します」

 目を細めて、笑顔なのだか、何か不気味さを感じた。
 違和感というのだろうか、俺が今見ている光景と、事実にズレを感じた。

「さ、試験を開始しましょうか。まずは、これを避けてください」

 ナフィスが、目を細めた笑顔のまま両手でパンと音を鳴らすと、足元から嫌な感覚を感じ、咄嗟にその場から体を動かすと、次の瞬間には地面から紫色の透き通った結晶のようなものが飛び出してきた。

 突然のことに呆気にとられつつも、周りを見渡すと半分近くの人達が、結晶に突き刺さっている。
 しかし血は出ておらず、結晶は肉体的な損傷を与えてはいないようだったが、誰一人として動けている人はおらず、苦しそうにうめき声をあげている。
 恐らく、魔法的な何かだろう。
 しばらくすると、結晶は霧のように消え、結晶が刺さっていた人たちは一人残らず倒れた。

「はい、今のが避けられなかった人は失格です。また今度、頑張って下さいね」

 終始笑顔を崩さずにいるナフィスに、思わずブルリと身体が震えた。

「死にはしませんが、かなり痛いし体も動かないと思いますから…って気絶しちゃってるみたいですね、はは。後でちゃんと回収してあげますから試験が終わるまで待っていてくださいね」

 この人…鬼か悪魔だ。
 脱落した人達を見て、ゴクリという息を飲む音が聞こえ、全員の気が引き締まるのを感じた。

「さて、次は…こんなのはどうてすか?」

 ナフィスは、指をパチンと鳴らすと、空中に魔法で出来た矢を無数に作り出す。
 そしてそれらは、それぞれ一定の数ずつ、俺たち受験者に向けられていた。

「…十、九…」

 おもむろにカウントダウンが始まった。

 いち早くこのカウントの意味に気づいた人が、魔法で自分に向けられている矢を撃ち消し始める。

「八、七…六…」

 俺も慌てて、腰元に用意しているポーチから小石を取り出し、魔力を込めて投げつける。

 一つ一つ落としていたのでは間に合わないと感じ、俺はデグと共に特訓した技に託すことにした。

「五…四…」

 小石が矢にぶつかった後、すぐに遠隔で魔力をかけ直しルートを変更させ、そのまま次の矢へ…この繰り返しを行い、短い時間で一気に魔法の矢を追撃し消していく。

「三…」

 たった一回の投擲で、複数のターゲットへの攻撃を可能とする技、マルチターゲットだ。
 ちなみに、名前はデグが考えてくれた。

「二…」

 無数にあった魔法の矢も、あと僅かだが、このままでは間に合わないと感じ、俺は更に追加で小石を投げつけ、まだ不慣れな二重操作を行う。

「イチ…ゼロ…」

 ゼロのカウントとほぼ同時に、最後の一矢を弾き落とすことに成功する。
 失敗した者は、残った矢に体を貫かれ、悲鳴があがり、人体が地面とぶつかる音が続けて聞こえた。
 相変わらず外傷は見えないが、どうみても痛そうなので、仕組みは分からないが絶対に受けたくはない。
 これで残ったのは十数名以下となった。

「あれ、随分と減っちゃいましたねー。残念です」

 本当に残念に思っているのか分からないような笑顔でそう言ってのける。
 俺の指導員がデグで良かったと今になって感じる。

「では、そろそろ試験はもう終わりにしましょうか」

 ナフィスは、笑顔のまま拍手を俺たちに送っている。
 試験が終わったのかと気を抜いている人もいるが、俺を含めて数人はむしろ警戒が強まっているようだった。

 何か先程の言葉には、違和感を感じたのだ。
 二度ある事は三度あるとはよくいったもので、案の定気がつくと先程まで目の前にいたはずのナフィスが視界から消える。

 俺は咄嗟にナイフを両手で持つと、身体をひねって自分を軸に円を描くようナイフを高速回転させ、攻撃に備えた。

 これが、デグと共に編み出した防御技だ。
 …命名はされてはいない。

 そして石も取り出し、いつでも投げられるように構えた所で、数人が声もなく倒れるのが見えた。

 そして、まだ立っている数人を確認していると、いつのまにか再び最初の位置にたっているナフィスが拍手をしていた。

「おめでとう、君たちは合格です。試験は終了しました」

 試験の終了を告げられても警戒を解こうとしない俺たちに向かって、「本当ですよ…?」と、表情を緩めて『本当の』笑顔を初めて見せた。

 それを見て、俺たちはようやく警戒をといて、一息ついた。

「今回は優秀ですねー。いつもの倍以上合格です」

 いつもどれだけ落とされているのかは容易に想像出来た。

 改めて辺りを見渡すと、ローブを目深に被った性別不明の弓術士、気の強そうな魔術師の女性、チャクラムのような武器を持った青髪の女性、紫髪に黒い服を纏ったなんだかホストっぽい魔術師の男性、緑髪の中性的な穏やかそうな杖を持った男性、この五人だけが残っていた。

 つまり、俺を含めて六人だけが合格となった。

「さ、今日から冒険者になる皆さん、こちらへ。書類の作成に行きましょうか」

 俺たち六人は、ナフィスに先導されてギルド窓口の方へと歩みを進めたが、一度会場の方を振り返り、二人の身を案じた。
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