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4章 異世界葛藤編

第57話 冒険者認定試験

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「えっと…、これなら、冒険者認定試験もなんとかなります、かね?」

 壊れた的を拾い上げながら、デグに問いかける。

「いや、なんとかなるっつーか、普通に受かるんじゃねぇか? こんなん見たことねーぞ」

 デグが、こめかみを掻きながらぼやくように言う。

「そう、なんですか?」

「投擲魔法、とでも言えばいいのか…? 投擲物を意図的に魔力でコントロールしてるのか。色々工夫次第で強くなりそうだな…」

「工夫…、例えばですけど、ナイフとかにも付与出来たりしたら…」

「そりゃ、球なんかよりは強いだろうな。やってみっか?」

 早速デグがナイフを数本用意してくれる。
 先程の的はこわれてしまったため、新たな的も用意してくれた。

 実は、刃付きの武器は今日始めて扱う。
 その為、少し緊張もしたが、今はワクワクの方が勝っていた。

 俺はナイフを投げる手に集中して、的へ向かって思いっきりナイフを振り投げた。
 すると、ナイフはまっすぐと的の中央を突き抜けて、更にもう一度、的に向かって飛んでいく。
 つまり、ナイフが戻ってきたという訳で…。

「あっぶな…っ!」

 間一髪でそれを避けたが、元々いた足元にはナイフが突き刺さっている。
 確かに使い方次第では協力だが、しっかりと操作を出来るようにならなければ、危険極まりない技だと感じた。

「おいおい、大丈夫か?」

「はい、なんとか…。これは、しっかりと鎧を着て訓練が必要、ですね」

「そうだな。試験中今みたいな事が起きたら一発で失格だからな」

「ですよね…。試験はいつ開催されるんですか?」

「直近だと…来週末だな」

「それなら、まだ時間はありますね」

「そういうこった。空いてる時は付き合ってやるから、とことん鍛錬しな」

「はい!」

「折角だ。とびっきりのもんに仕上げようぜ…!」

 俺はそれからというもの、キリーカ食堂での仕事を少し抑えめにしつつ、冒険者認定試験に向けて、訓練に励むことにした。

 最初はなかなか思うように動いてくれなかった投擲物も、日々スキルを成長させていくにつれて、次第に操作が効くようになってきた。

 途中、デグからのアドバイスで新しい特訓も行っていたが、成功率はなかなか上がらなかった。

 そして、時がすぎるのは早いもので、あっという間に試験の日がやってきた。

「レイチャン、忘れ物はなぁい?」

「大丈夫だ、何度も確認した」

「そっか。それじゃあ頑張ってね。ボクも後で行くからさ」

 後ろ手を組みながら、ニイと笑顔を浮かべてルリアが見送りをしてくれている。
 後でくるという事は、応援にでも駆けつけてくれるのだろうか。

「ありがとう。じゃ、行ってくるよ」

 俺は手を振るルリアを背に、ギルドへと向かった。




 ギルドに着くと、いつもの訓練所の道に『冒険者認定試験会場』と書かれた看板が立っていた。

 ついに当日なのだと改めて実感する。
 少し身震いするも、ペチンと自分の頬を叩いて身を引き締め、会場に続く道へと進んだ。

 会場となる大きな訓練室に入ると、自分よりも遥かに優秀そうな冒険者候補たちが既にぞろぞろといた。

 剣にはじまり、槍や弓、大きなハンマーを持っている人までいる。
 種族も様々で、見たことが無い種族の人もいた。

 全身ローブに身を包んでいる背中に弓を装備している正体不明の人物もおり、気になって見ていると、視線に気づかれたのか目深にローブを被り直して、そそくさと人混みに紛れて消えてしまった。
 ちょっと失礼だっただろうか。悪いことをした。

 開始を待つ間にも続々と試験を受けに来る人たちが後を断たず、推定で百人は超える大所帯となり、会場は既に熱気に包まれていた。

 辺りを見渡していると、遠くの方にスーが見えた。
 向こうもこちらに気づいたようで、手を振ってくれたので、こちらも軽く手をあげていると、後ろから何者かに抱きつかれた。

「おっまたせぇー、レイちゃん」

「ルリア?! 応援しにきてくれたのか?」

「んーそれもあるけどぉ…」

 そういって、ルリアが数歩俺から離れる。
 振り返りルリアを見ると、背中に以前分析スキルを伝授してくれた時に使用していた杖を装着している。
 服装もいつもよりフリフリが少なめで機動性のある格好になっている。

「実は、ルリアちゃんも一緒に、認定試験を受けるのでしたー」

「……」

 …え?
 俺はキャピーンと決めポーズを取るルリアの前で、ただ呆気に取られていた。

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