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4章 異世界葛藤編

第55話 いつもの朝

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 朝の日差しが目元にかかり、目が覚める。
 起きあがろうとするが、片腕にかかる重さを感じ、一旦諦める。

 人の腕を抱き枕代わりにして、なんとも気持ちよさそうにルリアがくぅくぅと寝息を立てている。

 壁掛け時計を見れば、そろそろルリアも起きなくてはいけない時間である。

 俺はルリアの肩を、ユサユサと揺する。

「おい、朝だぞ。そろそろ起きないと遅刻するぞー」

「んん…、あと、ごふんん…」

「何テンプレみたいな事言ってんだ」

 痛くない程度に、ルリアの額にチョップをかましてやると、ぐぇという声を漏らす。

「やだー、もーちょっと、レイちゃんと同衾するぅ」

「だから同衾言うな」

 ぐずっているルリアを引き剥がそうとするが、中々離れようとしない。

 仕方が無いので、そのままズルズルと引きずると、流石にキツくなってきたのか、諦めて手を離し、床に倒れ込む。

「レイちゃんのきちくぅ…かいしょーなしー…」

「おい」

 恨めしそうな声を背に受けながらも、顔を洗って、朝ごはんの準備をはじめる。

 準備といっても、パンと目玉焼きという簡単セットである。

 フライパンに落としたタマゴにほんのり焼色がついてきたところで、塩とコショウをかける。

 黄身が白くなったあたりでフライ返しでお皿に盛り付けて完成だ。

 この数ヶ月でだいぶ上達したと自己満足に浸る。

 最初は目玉焼きすらまともに作れなかったので、自分にとっては大きな成長であった。

 お皿をテーブルに並べていると、未だに床に伏せたままのルリアが、絞り出すように声を発した。

「ごはん、できたのぉ…?」

「あぁ出来たぞ。だから早く顔洗ってこい」

「んぃー…」

 相変わらず気の抜けた返事である。

 ルリアは両手をぷるぷるとさせながら、なんとか上体を起こすと膝を床につけて、よちよち歩きで水浴び場へと向かった。

 その様子に呆れてしまうも、ふと口元が緩んでいるのに気づく。
 あぁ、いつもの日常に戻ってきたのだと、改めて実感した。

 その後は二人並んで朝食を済ませ、身なりを整えてから、互いの仕事場へと向かうのだった。





 そんな日常をまた繰り返し、気づけば暑さも落ち着き始める十月じゅうがつになっていた。

 ついに、スキルチェックの伝授をしてもらう日がやってきた。
 その為のお金が貯まったのだ。

 もしこれでスキルを習得出来たら、今後自分自身でスキルの状態を確認できるようになる。

 但し、スキルチェックの才能が皆無であった場合、お布団パワーをもってしても、習得は不可能という訳なので、今日は俺の運命が決まる日でもある。

 大げさかもしれないが、これが出来るのと出来ないのとでは、雲泥の差がある。
 なにせ永久にスキルチェックの費用がかからないだけでなく、スキルバレをする可能性もグンと減る訳だ。

 俺は胸を高鳴らせながらその時を待っていた。

「それじゃあ、準備はいーい? レイちゃん」

「あぁ、いつでもいいぞ」

 俺の前に、蒼色と銀の装飾が付いた杖を持ったルリアが立っている。
 何でも魔法系スキルの効果上昇効果のついた杖だそうで、伝授を行う際に使っているものらしい。

 そして杖を俺の頭の上にかざすと、スキルの伝授を始めた。
 時間にして僅か数秒…、ルリアが深く息を漏らすと、そのまま杖を支えにしゃがみこむ。

「ふえぇ…終わったよぉ…」

 どうやら、以前聞いていた通り伝授スキルを使うとかなり疲弊するようだ。
 というより、こんなにすぐ終わるものなのかと呆気にとられていた。

「これで、使えるようになってる、のか…?」

「成功してたらねぇ」

「どうやって確かめるんだ?」

「自分の胸元に手を当てて、スキルチェックって言えば発動するから、それで確かめたらぁ?」

「うーん…ひとまず、一眠りしてから確かめようかな…」

「弱気だなぁ」

「うっせ」

 俺はレベル一に届かないレベルであったケースを考えて、念のためにお布団で一眠りして、スキル経験値ブーストをかけることにした。

 ただ、まだ寝るには早い時間出会ったため、2時間程で目が覚めてしまった。

「はぁ…諦めて試してみるか」

 ルリアはというと、スキルチェック伝授で疲れ果てて今もベッドの上で寝転がっている。

 俺は胸元に手を当てて、発動の言葉を唱えた。

「…スキルチェック」
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