55 / 80
4章 異世界葛藤編
第55話 いつもの朝
しおりを挟む朝の日差しが目元にかかり、目が覚める。
起きあがろうとするが、片腕にかかる重さを感じ、一旦諦める。
人の腕を抱き枕代わりにして、なんとも気持ちよさそうにルリアがくぅくぅと寝息を立てている。
壁掛け時計を見れば、そろそろルリアも起きなくてはいけない時間である。
俺はルリアの肩を、ユサユサと揺する。
「おい、朝だぞ。そろそろ起きないと遅刻するぞー」
「んん…、あと、ごふんん…」
「何テンプレみたいな事言ってんだ」
痛くない程度に、ルリアの額にチョップをかましてやると、ぐぇという声を漏らす。
「やだー、もーちょっと、レイちゃんと同衾するぅ」
「だから同衾言うな」
ぐずっているルリアを引き剥がそうとするが、中々離れようとしない。
仕方が無いので、そのままズルズルと引きずると、流石にキツくなってきたのか、諦めて手を離し、床に倒れ込む。
「レイちゃんのきちくぅ…かいしょーなしー…」
「おい」
恨めしそうな声を背に受けながらも、顔を洗って、朝ごはんの準備をはじめる。
準備といっても、パンと目玉焼きという簡単セットである。
フライパンに落としたタマゴにほんのり焼色がついてきたところで、塩とコショウをかける。
黄身が白くなったあたりでフライ返しでお皿に盛り付けて完成だ。
この数ヶ月でだいぶ上達したと自己満足に浸る。
最初は目玉焼きすらまともに作れなかったので、自分にとっては大きな成長であった。
お皿をテーブルに並べていると、未だに床に伏せたままのルリアが、絞り出すように声を発した。
「ごはん、できたのぉ…?」
「あぁ出来たぞ。だから早く顔洗ってこい」
「んぃー…」
相変わらず気の抜けた返事である。
ルリアは両手をぷるぷるとさせながら、なんとか上体を起こすと膝を床につけて、よちよち歩きで水浴び場へと向かった。
その様子に呆れてしまうも、ふと口元が緩んでいるのに気づく。
あぁ、いつもの日常に戻ってきたのだと、改めて実感した。
その後は二人並んで朝食を済ませ、身なりを整えてから、互いの仕事場へと向かうのだった。
そんな日常をまた繰り返し、気づけば暑さも落ち着き始める十月になっていた。
ついに、スキルチェックの伝授をしてもらう日がやってきた。
その為のお金が貯まったのだ。
もしこれでスキルを習得出来たら、今後自分自身でスキルの状態を確認できるようになる。
但し、スキルチェックの才能が皆無であった場合、お布団パワーをもってしても、習得は不可能という訳なので、今日は俺の運命が決まる日でもある。
大げさかもしれないが、これが出来るのと出来ないのとでは、雲泥の差がある。
なにせ永久にスキルチェックの費用がかからないだけでなく、スキルバレをする可能性もグンと減る訳だ。
俺は胸を高鳴らせながらその時を待っていた。
「それじゃあ、準備はいーい? レイちゃん」
「あぁ、いつでもいいぞ」
俺の前に、蒼色と銀の装飾が付いた杖を持ったルリアが立っている。
何でも魔法系スキルの効果上昇効果のついた杖だそうで、伝授を行う際に使っているものらしい。
そして杖を俺の頭の上にかざすと、スキルの伝授を始めた。
時間にして僅か数秒…、ルリアが深く息を漏らすと、そのまま杖を支えにしゃがみこむ。
「ふえぇ…終わったよぉ…」
どうやら、以前聞いていた通り伝授スキルを使うとかなり疲弊するようだ。
というより、こんなにすぐ終わるものなのかと呆気にとられていた。
「これで、使えるようになってる、のか…?」
「成功してたらねぇ」
「どうやって確かめるんだ?」
「自分の胸元に手を当てて、スキルチェックって言えば発動するから、それで確かめたらぁ?」
「うーん…ひとまず、一眠りしてから確かめようかな…」
「弱気だなぁ」
「うっせ」
俺はレベル一に届かないレベルであったケースを考えて、念のためにお布団で一眠りして、スキル経験値ブーストをかけることにした。
ただ、まだ寝るには早い時間出会ったため、2時間程で目が覚めてしまった。
「はぁ…諦めて試してみるか」
ルリアはというと、スキルチェック伝授で疲れ果てて今もベッドの上で寝転がっている。
俺は胸元に手を当てて、発動の言葉を唱えた。
「…スキルチェック」
0
お気に入りに追加
819
あなたにおすすめの小説
異世界に転生をしてバリアとアイテム生成スキルで幸せに生活をしたい。
みみっく
ファンタジー
女神様の手違いで通勤途中に気を失い、気が付くと見知らぬ場所だった。目の前には知らない少女が居て、彼女が言うには・・・手違いで俺は死んでしまったらしい。手違いなので新たな世界に転生をさせてくれると言うがモンスターが居る世界だと言うので、バリアとアイテム生成スキルと無限収納を付けてもらえる事になった。幸せに暮らすために行動をしてみる・・・
外れスキル持ちの天才錬金術師 神獣に気に入られたのでレア素材探しの旅に出かけます
蒼井美紗
ファンタジー
旧題:外れスキルだと思っていた素材変質は、レア素材を量産させる神スキルでした〜錬金術師の俺、幻の治癒薬を作り出します〜
誰もが二十歳までにスキルを発現する世界で、エリクが手に入れたのは「素材変質」というスキルだった。
スキル一覧にも載っていないレアスキルに喜んだのも束の間、それはどんな素材も劣化させてしまう外れスキルだと気づく。
そのスキルによって働いていた錬金工房をクビになり、生活費を稼ぐために仕方なく冒険者になったエリクは、街の外で採取前の素材に触れたことでスキルの真価に気づいた。
「素材変質スキル」とは、採取前の素材に触れると、その素材をより良いものに変化させるというものだったのだ。
スキルの真の力に気づいたエリクは、その力によって激レア素材も手に入れられるようになり、冒険者として、さらに錬金術師としても頭角を表していく。
また、エリクのスキルを気に入った存在が仲間になり――。
元34才独身営業マンの転生日記 〜もらい物のチートスキルと鍛え抜いた処世術が大いに役立ちそうです〜
ちゃぶ台
ファンタジー
彼女いない歴=年齢=34年の近藤涼介は、プライベートでは超奥手だが、ビジネスの世界では無類の強さを発揮するスーパーセールスマンだった。
社内の人間からも取引先の人間からも一目置かれる彼だったが、不運な事故に巻き込まれあっけなく死亡してしまう。
せめて「男」になって死にたかった……
そんなあまりに不憫な近藤に神様らしき男が手を差し伸べ、近藤は異世界にて人生をやり直すことになった!
もらい物のチートスキルと持ち前のビジネスセンスで仲間を増やし、今度こそ彼女を作って幸せな人生を送ることを目指した一人の男の挑戦の日々を綴ったお話です!
豪華地下室チートで異世界救済!〜僕の地下室がみんなの憩いの場になるまで〜
自来也
ファンタジー
カクヨム、なろうで150万PV達成!
理想の家の完成を目前に異世界に転移してしまったごく普通のサラリーマンの翔(しょう)。転移先で手にしたスキルは、なんと「地下室作成」!? 戦闘スキルでも、魔法の才能でもないただの「地下室作り」
これが翔の望んだ力だった。
スキルが成長するにつれて移動可能、豪華な浴室、ナイトプール、釣り堀、ゴーカート、ゲーセンなどなどあらゆる物の配置が可能に!?
ある時は瀕死の冒険者を助け、ある時は獣人を招待し、翔の理想の地下室はいつのまにか隠れた憩いの場になっていく。
※この作品は小説家になろう、カクヨムにも投稿しております。
神々の間では異世界転移がブームらしいです。
はぐれメタボ
ファンタジー
第1部《漆黒の少女》
楠木 優香は神様によって異世界に送られる事になった。
理由は『最近流行ってるから』
数々のチートを手にした優香は、ユウと名を変えて、薬師兼冒険者として異世界で生きる事を決める。
優しくて単純な少女の異世界冒険譚。
第2部 《精霊の紋章》
ユウの冒険の裏で、田舎の少年エリオは多くの仲間と共に、世界の命運を掛けた戦いに身を投じて行く事になる。
それは、英雄に憧れた少年の英雄譚。
第3部 《交錯する戦場》
各国が手を結び結成された人類連合と邪神を奉じる魔王に率いられた魔族軍による戦争が始まった。
人間と魔族、様々な意思と策謀が交錯する群像劇。
第4部 《新たなる神話》
戦争が終結し、邪神の討伐を残すのみとなった。
連合からの依頼を受けたユウは、援軍を率いて勇者の後を追い邪神の神殿を目指す。
それは、この世界で最も新しい神話。
捨てられ従魔とゆる暮らし
KUZUME
ファンタジー
旧題:捨てられ従魔の保護施設!
冒険者として、運送業者として、日々の生活に職業として溶け込む従魔術師。
けれど、世間では様々な理由で飼育しきれなくなった従魔を身勝手に放置していく問題に悩まされていた。
そんな時、従魔術師達の間である噂が流れる。
クリノリン王国、南の田舎地方──の、ルルビ村の東の外れ。
一風変わった造りの家には、とある変わった従魔術師が酔狂にも捨てられた従魔を引き取って暮らしているという。
─魔物を飼うなら最後まで責任持て!
─正しい知識と計画性!
─うちは、便利屋じゃなぁぁぁい!
今日もルルビ村の東の外れの家では、とある従魔術師の叫びと多種多様な魔物達の鳴き声がぎゃあぎゃあと元気良く響き渡る。
転生したらスキル転生って・・・!?
ノトア
ファンタジー
世界に危機が訪れて転生することに・・・。
〜あれ?ここは何処?〜
転生した場所は森の中・・・右も左も分からない状態ですが、天然?な女神にサポートされながらも何とか生きて行きます。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
初めて書くので、誤字脱字や違和感はご了承ください。
田舎暮らしと思ったら、異世界暮らしだった。
けむし
ファンタジー
突然の異世界転移とともに魔法が使えるようになった青年の、ほぼ手に汗握らない物語。
日本と異世界を行き来する転移魔法、物を複製する魔法。
あらゆる魔法を使えるようになった主人公は異世界で、そして日本でチート能力を発揮・・・するの?
ゆる~くのんびり進む物語です。読者の皆様ものんびりお付き合いください。
感想などお待ちしております。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる