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4章 異世界葛藤編
第49話 ヤドカリ
しおりを挟む今日の出来事を順に話していく。
二人は黙って話を聞いていたが、話し終えると同時にエリスさんが口を開いた。
「なるほどねぇ…、まぁなんとなく状況は理解したよ。それならひとまず今日のところはそこの休憩室を貸してやるから、そこで寝るといいさ」
エリスさんが、親指で休憩室の方向を指さしながら、淡々と言う。
キリーカは、エリスさんの発言を聞いて深く頷く。
「…いいんですか?」
「今日のところは行く宛も無いんだろう?」
「そう、ですね。宿屋に泊まれない事もないですが…今の手持ちでは心もとないのは事実ですし、正直困っていました」
「だろう? まぁ大した広さは無い部屋だけど、テーブルをどけて、椅子でも並べた上にその布団でも敷けば、あんた一人くらいならなんとか寝れるだろう?」
確かに、寝るだけならなんとかなりそうな広さではある。
正直、願ってもない提案であった。
「…ご迷惑をおかけします。今夜はよろしくお願いします」
俺は膝に両手を置きながら、頭を下げる。
しかし、恩を受けるだけでは気が済まず、何か手伝いができないか提案をしようと、代わりにと言ってはなんですがと声を掛けるが、エリスさんの発言によって遮られる。
「あぁ、その前に、キリーカ。休憩室を軽く掃除してきてくれるかい?」
「うん、分かった」
キリーカはこくりと頷き、パタパタと休憩室へと向かう。
しばらくすると、何かを引きずるような音や、椅子の足が互いに当たっているような、金属のガチャガチャという音が聞こえてきた。
すると、エリスさんが真剣な面持ち…というよりも、少し怒っているような表情でこちらを見下ろしてくる。
「さて、あの子がいなくなったから言うけどね、あんたちょっと勘違いしてるんじゃないのかい?」
キリーカに聞こえないようにか、声の大きさは小さめだが、どこか圧のあるトーンで言われ、思わずドキリとする。
しかし、思い当たるフシが無く、首を傾げる。
「勘違い…? 何を、でしょうか…」
「人の親切心ってやつをだよ。それにね、あんた、何であの子には何も話してやらなかったんだい?」
先程の外でのこと、だろう。
確かに、キリーカに聞かれたとき、俺はその場を誤魔化した。
しかし、それは迷惑をかけたくない、巻き込みたくないと思ったからであって…、それの何がいけなかったのかと考えていると、エリスさんが言葉を続ける。
「あの子があたしのとこにきて、なんて言ったかわかるかい? 今のあんたには分からないだろうね。」
どこか挑発的な言葉に、俺は返す言葉が見つからず、黙って次の言葉を待つ。
「私なんかじゃ頼ってもらえないから、お姉ちゃんならきっと頼ってくれるから、代わりに何があったかお兄様に聞いてくれって、悲しそうな顔をしながら言ったんだよ」
「あんた、そん時のキリーカの気持ちが分かるのかい?」
テーブルに片手をバンとつきながら、俺の顔をじろりと見ながら言い放つ。
俺は、何も言い返すことが出来ない。
「……」
「話は終わりだよ。今日はもう寝な。あたしも少し、冷静じゃないからね」
テーブルから手を話し、俺の前から離れていき、顔だけを少しこちらに向けながら、「朝飯は作ってやる、あとは自分で考えて自分で行動しな」と、冷たく言い放つ。
「…ありがとう、ございます。それと、すみません…」
「…はぁ。そろそろあの子も戻る頃だね。それじゃ、また明日。おやすみ」
最後は少しだけ、いつもの優しげな雰囲気に戻ったエリスさんがその場を去ると、入れ替わりでキリーカが休憩室より戻ってきた。
急いでくれていたのか、戻ってくる際も、パタパタと駆け足であった。
「準備、出来ましたよ。…あれ? どうか、しましたか?」
俯いて考え込む俺に、不思議そうにキリーカが声を掛けてくれる。
「ううん、何でもない…いや…、違うな。ごめんよキリーカ」
思わずまた誤魔化そうとしてしまう考えを捨てて、先程の態度に対して謝罪をする。
「え…? あ………聞いた、のですね。その…、いえ、私が、勝手にそうしただけですから、気にしないで、ください」
いきなりの謝罪に、はじめは何のことかわからないといった様子だったが、すぐに察したのか、悲しそうな表示をしながらそれだけ言うと、キリーカはそのまま奥の部屋へと去っていってしまった。
並べた椅子に布団を敷いてみると、なんとか眠れるくらいのスペースは確保できたので横になってみる。
少しぼこぼことした感触はあるが、眠れない程では無かった。
椅子を倒さないように、ゆっくりと布団へ潜り込む。
横になり一息つくと、エリスさんとキリーカ、それにルリアの言葉が頭の中で何度も繰り返し流れていた。
俺は一体、何をやっているのだろう。
自分に対して、親切にしてくれた人達に対して、感謝の気持ちを伝える為にしてきた発言や行動が、何か間違っていたのだろうか。
何故、怒らせるような…悲しませるような事に、なってしまったのか…。
俺はただ…。
見慣れない天井を眺めながら、どうすればよかったのかとしばらく考えていると、なかなか寝付けずにいたが、一時間も過ぎる頃には、次第に目も重たくなっていき、気づけば眠りに落ちていた。
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