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4章 異世界葛藤編
第48話 ヤドナシ
しおりを挟むルリアに家を追い出されてしまった俺は、とぼとぼとギルドへと向かうために、裏筋から出て表の道に向かう。
「はぁ…ギルドで泊まるって言っても、朝になって降りたら下にいるじゃんかよ」
今しがた追い出した相手の職場の二階で寝泊まりするというのは、なんともおかしな話である。
しかし、ギルド以外…つまり、宿に泊まるとなると、いかんせん割高になってしまう。
せっかくある程度のお金を貯めきたにも関わらず、ここで下手に浪費し過ぎてしまうのも考えものだ。
それに、最悪のケース…つまり、ずっと戻れない事も想定すると余計に節約しなければならないだろう。
しばらく通りで、夜空を眺めながら考え込んでいると、袖をくいっとつままれ、声をかけられる。
「あ、あの…、どうかしましたか…?」
声のする方に目をやると、キリーカが困ったような表情で俺を見上げていた。
外だからだろうか、ヘアピンは付けているが前髪は下ろしていないようだったが、顔を上に向けていたので、前髪が左右に少し分かれて、僅かに表情が読み取れる。
「あぁ、何でもない…と言いたい所なんだけどね。」
キリーカが首を傾げて俺の言葉を待っている。
またもや俺は人に心配をかけさせてしまっているのかと思い、すぐに明るく振る舞う。
「そうだ。まだ食堂はやってるかな? 晩御飯まだだから、食べていきたいんだけど…」
「えっと、はい…そろそろ閉店時間ですけど、まだ大丈夫ですよ」
「じゃあ悪いけど、寄らせてもらおうかな」
「そんなこと、ない…ですよ。どうぞ」
キリーカは、掴んだ裾をそのままクイクイと引っ張るようにして食堂へと連れて行ってくれる。
店内に入ろうとすると、ちょうどお客さんとすれ違う。
どうやら最後のお客さんだったようで、中に入ると俺以外のお客はいないようだった。
「いらっしゃい…って、なんだアンタか。今日は外食かい?」
「はい。ちょっと色々ありまして」
「そうかい。とりあえず食事はいつものでいいかい?」
「そうですね、お願いします」
「あいよ。焼き飯定食だね」
厨房から、鍋とお玉がぶつかるカランカランという景気の良い音が聞こえてきて、反射的にお腹がぐぅと小さく鳴った。
キリーカはというと、軒先《のきさき》の暖簾《のれん》を片付けている。
背が小さいので、先がY字になっている棒を使って暖簾を下ろしている様子は、なんとも微笑ましい。
もうお客が入らない事を確認してから、俺は担いでいた荷物を隣の椅子に乗せ、腰を下ろし一息ついた。
「食後のデザート、いりますか…?」
暖簾を下ろし終えたキリーカが声をかけてくる。
「食べたい食べたい、キリーカのデザートは絶品だもんな」
「ありがとう…ございます。それじゃあ、食後に合わせて持ってきます…ね」
心なしか嬉しそうにキリーカは、厨房の奥へと入っていった。
しばらく厨房の音を聞きながら待っていると、カンというお玉で皿を叩く音が聞こえた後、料理が運ばれてきた。
「あいよ。焼き飯定食おまちっ」
焼き飯定食は、大皿に乗った焼き飯に、コンソメスープと小鉢サラダのセットである。
仕事の際、休憩時によく食べているものだ。
初めて食べた時から、この焼き飯の虜《とりこ》である。
「相変わらず美味そうだ…それじゃあ、いただきます」
「あいよ。たんと召し上がれ」
エリスさんは歯を見せて笑みを浮かべると、そのまま厨房へと去っていく。
熱々の焼き飯をスプーンでかきこみ、はふはふと口の中で冷ましながら味わう。
胡椒がピリッと効いていて相変わらず美味い。
これでラーメンでもあれば良いのだが、あいにく食堂のメニューには無かったので、それは諦めている。
それなら自分でとも思ったが、ラーメン自体は知っていても、作り方は良くわからないので、断念せざるを得なかった。
サラダをつまみながら、あっという間に平らげ、最後にスープを飲み干し完食する。
ごちそうさまでした、と手を合わせていると、タイミングを見計らったように、キリーカが厨房よりデザートを持ってきてくれた。
「どうぞ…、今日はタマゴのプディングです」
「プディング…?」
「簡単に言うと、タマゴやミルク、バターとかを混ぜて、蒸したもの、です」
名前だけなら聞いたことがあったが、どんなものかは初めて知った。
他にも色んな種類があり、蒸して固めた物の総称としてプディングと呼ぶらしいが、デザートにあまり詳しくないのでなんとなくで理解した。
何にせよ、美味かったので何の問題もないのだ。
「いやぁ、今日も美味かったよキリーカ」
「ふふ…、お粗末様です」
「なんだいなんだい、あたしのは褒めてくれないのかい?」
エリスさんが頭に巻いていたバンダナを外して、くるくると回しながら、俺たちが座っている席の隣までやってくる。
「もちろん美味しかったですよ、いつも通り」
「そうだろうそうだろう」
エリスさんが俺の言葉を聞いて、ニシシと満足そうに葉を見せて笑う。
「それで? さっきは聞かなかったけど、何かあったのかい? あたしらで良ければ相談に乗るよ」
うってかわかって真剣な、しかし優しげな表情で俺に問いかけてくる。
キリーカも、ヘアピンを前髪に付け替えて露わになった両目を、少し不安そうにしながらも、こちらに向けてくる。
「…その、実はですね」
俺は事のあらましを、ゆっくりと話し始めた。
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