お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷

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3章 異世界技能編

第45話 最後の一投

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 俺は足元に転がっている、手で握れるくらいの石に目をやり、ほんの一瞬考えた。

 やるしかない、怖い、無理だ、出来っこない、でもやるしかない。
 そんな感情がぐるぐると頭を駆け巡る。
 そして、俺は数パーセントの可能性にかけることにした。

「……分かりました。荷物を下ろすので、足をどけてもらえませんか」

「キヒヒ、やっぱり自分の身は大事にしねーとなぁ」
 取り巻きが目を閉じて俺をあざ笑う。

 その瞬間を逃さず、俺は小石を強く握りしめ、死ぬ気でそれを投げつけた。

 小石は真っ直ぐに勢いよく飛んでいき、笑っている取り巻きの肩にぶつかった。

 ガコンという、鈍い音が聞こえたと同時に、ギャアアアという悲鳴が上がった。
 取り巻きは肩を抑えるようにして、その場に倒れ込む。

 俺は小石をさらに拾い上げて立ち上がる。
 大男は、取り巻きの突然の悲鳴に少し動揺したのか、そちらに一瞬視線が向くが、すぐにそれが俺の仕業である事を察知し、俺を鬼のような目つきで睨みつける。

「殺されてぇのか、キサマァ……」
 低く、怒りの籠もった声に、思わず足が震えそうになるのを必死で抑え、一歩後ろに下がる。

「荷物を奪われるのも、殺されるのも……遠慮願いたいね」

 精一杯強がって見せるが、少し声が震える。
 それを見て、大男はニヤリと笑みを浮かべた。

 俺は震える拳に力を込めて、思いっきり小石を大男に向かって投げつけた。
 まっすぐに小石は、大男の顔面に向かっていく。

 良し、と思ったのも束の間。
 大男は、大きな手のひらで顔の前を覆い、小石を受け止めてしまう。
 バシィッと弾けるような音がするが、大男の手のひらを赤くするに留める結果となってしまった。

「いてぇなぁ。いてぇじゃねぇか……よ!」

 大男は、ハエでも叩き落とすかのように、俺に向けて掌底を振り下ろしてくる。
 俺はそれを両腕でガードしようとするが、大男の力まかせの攻撃に、そのまま後ろに弾き飛ばされ、そのまま壁に激突してしまう。

 背中に布団を背負っていたため、衝撃が多少分散されたが、ガードした両腕はジンジンと痛み、皮膚が切れてしまったのか、出血も見られた。

「今のは最後の警告だ。さっさと有り金と荷物を置いていきな。今なら後一発で許してやる」

 大男は、拳を握りしめながら一歩一歩、死刑宣告をするかのように近づいてくる。

 荒い呼吸をしながら、俺は周りに転がっている小石に目をやる。
 そして、右手に1つ、石を握りしめ、大男を睨みつけた。

「そうか。それが返事だな。本当に、馬鹿なやつだ」

 大男は、大きく拳を突き上げた。
 その瞬間に、俺は一か八か、魔力を発現させようと試み、左手を大男にかざす。

 出ろ……出ろ……出てくれ!

 俺は、ありったけのエネルギーを手に集中させるようにして、叫ぶ。

「ぁぁぁあああああああああ!」

 力を込めすぎて、頭の血管が切れてしまいそうなぐらい、全霊を込めて、未だ一度も成功したことのない魔法の発現を願う。

 が、願っても願っても、左手からは何も発現することは無い。

「っ、くそがぁあああああああああああああああああああああ!」

 俺は、右手に握りしめた小石を顔に向かって投げつけた。
 しかし、それすらも大男は首を傾けただけで、避けてしまった。

「クックックッ……終わりだな」

 大男の拳が顔面に迫りくる。
 思わず目を閉じたその時、ガツンッという音が辺りに響いた。

 そして、しばらく経っても殴られる様子が無い。

 俺は、恐る恐る目を開けていく。すると、大男の拳はまさに目の前にあった。

 しかし、大男に意識は無く、そのまま力なく地面へと突っ伏した。
 それと同時に、カラカラカラと小石が地面に落ち、転がる。

 そして、その大男の後頭部を見ると、何かに小石くらいのサイズの物に抉られたような凹みがあった。

「……はぁ……はぁ。やった、のか……?」

「ひ、ヒィィィぃ」
 その様子を見てか、取り巻きの男は肩を抑えながら逃げていった。

 思わず体から力が抜け、ため息がこぼれる。

 倒れている大男を見ると、一応息はしている。
 死んではいないようだった。

 その事にも安心しつつ、俺はゆっくりと立ち上がり、ひとまずこの事を処理してもらう為にも、路地裏を抜けて、衛兵を呼ぶ事にした。

 何故、避けられてしまった筈の小石が、後頭部に当たったのかという、一つの疑問が残りつつも……。
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