お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷

文字の大きさ
上 下
43 / 80
3章 異世界技能編

第43話 冒険者

しおりを挟む
 扉の方に横目をやると、夕暮れ時独特の長い影が近づいてくる。
 その長い影には猫耳が生えており、ピコピコと動く。
 その影の先から、根本まで目で追っていくと、見覚えのあるシルエットがそこにはあった。

「おや、また会ったね―」

 部屋に入ってきたのは猫耳少女の『スー』だった。
 訓練終わりなのか、首元には白いタオルを巻いており、片手にはポーションを持っていた。しかし、軽い足取りで近づいてくると、隣の仮眠ベッドの上にぽすんと腰を落とす。

「今日はなんだか前より疲れてそうにゃ」

「最近基礎トレーニングで監督にしごかれてて、今は指一本も動かしたくないって感じだよ」

「それはそれは。お疲れ様にゃ」

 スーは、浮いている両足をゆっくりと交互に揺らしながらニコニコとしている。

「そっちは基礎トレの時はどうだったんだ?」

「スーは昔から身体を動かすのは好きだったから、多少は大変だったけど、君ほどじゃなかったかにゃ」

「流石、近接格闘スキルの才能持ちは根っから違うね」

「まあ…そうでも、あるかも?」

 少し考える素振りを見せた後、胸を張るスーに思わず、あるのかよと突っ込みを入れると、ニャハハと楽しそうにスーが笑った。

「でも、体力つけとかないと、怪我の元だし、いざってときに困る事になるからにゃ。辛いのは最初だけにゃ。頑張るにゃー」

「監督も同じ事言ってたな…。まぁ、頑張りはするよ。いつか冒険にも出てみたいしな」

「君は冒険者になりたいんだね」

 そりゃそうだろと言いかけて、確かに戦闘スキルを使うのは何も冒険者だけではない、傭兵や兵士、商人の護衛など、道はいくらかある事に気がつく。

「あー、そうだな。今してる仕事は苦じゃないし、むしろ楽しいけれど、せっかく戦闘スキルを使って何かをするなら、自分のやりたいようにやれる冒険者が一番いいかな」

「じゃあスーと一緒だね」

 スーは相変わらす足をぷらぷらと揺らし、目を細めながら、髪色と同じ桃色の尻尾も左右に何度か揺らした。

「よーし、どっちが先に冒険者になれるか競争だにゃ」

「いや、既にだいぶ差が開けられている気がするんだが…」

「大丈夫大丈夫! 君なら出来るって」

 何か根拠があって言っているのかとも思ったが、表情を見る限りは恐らくノリで言っているだけだろう。

 しかし、こういうのは競争相手がいた方が燃えるのは確かである。

「なら、頑張ってみるよ。とはいえ、こんな状態でいっても、カッコつかないけどな」

 スーが部屋に来た時から、寝たきりの状態のまま会話を続けているので、なんとも締まらない宣誓となったのであった。

「あ、そうだ。動けないなら、何かケアしてあげようか?」

「いや…、あぁそうだ。水に濡らしたタオルを持ってきてくれないか」

 悪いと思い、はじめは断ろうと思ったが、このままでは回復も遅いので、少しばかり手伝ってもらう事にした。

 濡れタオルさえ持ってきてくれれば、あとは自分で痛む部位を冷やそうと思ったからである。

「いいよー。アイシングするのかな? なら数枚あった方がいいかにゃ」

 物分りが早くて助かる。
 スーは手際よくタオルを数枚回収すると、タオルを水でひたひたにして持ってきてくれた。

「ありがとう。後は自分でなんとかするよ」

「いいからいいから、せっかくだし、最後までやってあげるにゃ」

 そう言ってこちらが断るすきを与えないまま、膝下や足首、肩やひじなどにタオルをそっとかけていってくれる。

「…悪いな。そっちも訓練終わりで疲れてるんじゃないのか」

「スーは君と違って体力があるから、まだ動けるにゃ」

「…その通り過ぎて、何も言い返せない」

 スーがニャハハと吹き出して笑う。
 なんだか最近、人に面倒を見てもらってばかりいる気がする。
 そう考えると、少し情けなくなった。

「困った時はお互い様にゃ。スーだって、いつか困っちゃう時が来るかもしれにゃいから、その時は君に助けてもらうにゃ」

「そういうもんか」

「そういうものにゃ」

 その言葉に少し心が軽くなった気がした。

 しばらく熱を持っていた部位を冷やしていると、段々と痛みと熱が引いていき、身体を起こせるようになってくる。

「ふぅ…。あとは自分でケア出来そうだよ。ありがとう。シャオマーナさん」

「スーでいいよー。じゃあ、片付けとかも任せちゃって大丈夫?」

「それくらいはやるさ。もう少し休んでからだけどな」

「早く体力つくといいねー」

「…ほんとにな」

 確かにその通りで、毎回これだけダウンしている訳にもいかないし、今日のように周りに迷惑をかけ続けるのも気が引ける。

 早いところ体力、もしくは何かしらの付随するスキルが身につくといいのだが…。

「じゃあスーは先にあがるね。またねー」

「あぁ、今日も助かったよ。またな、…スー」

 俺が名前で呼ぶと、満足気に笑みを浮かべ、スーは部屋から去っていた。

 一人になると、再び部屋に静寂が訪れる。

 俺はもう一度タオルを水で冷やし、しばらく横になって休んでから、ようやくまともに歩けるようになってきたので、タオルを片付け、生まれたての子鹿のように訓練所を後にした。

 その様子を訓練所の受付にいたデグに見られて笑われるのだが、今の俺はただ家に帰って横になる事しか頭に無かった。

しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

せっかく異世界に転生できたんだから、急いで生きる必要なんてないよね?ー明日も俺はスローなライフを謳歌したいー

ジミー凌我
ファンタジー
 日夜仕事に追われ続ける日常を毎日毎日繰り返していた。  仕事仕事の毎日、明日も明後日も仕事を積みたくないと生き急いでいた。  そんな俺はいつしか過労で倒れてしまった。  そのまま死んだ俺は、異世界に転生していた。  忙しすぎてうわさでしか聞いたことがないが、これが異世界転生というものなのだろう。  生き急いで死んでしまったんだ。俺はこの世界ではゆっくりと生きていきたいと思った。  ただ、この世界にはモンスターも魔王もいるみたい。 この世界で最初に出会ったクレハという女の子は、細かいことは気にしない自由奔放な可愛らしい子で、俺を助けてくれた。 冒険者としてゆったり生計を立てていこうと思ったら、以外と儲かる仕事だったからこれは楽な人生が始まると思った矢先。 なぜか2日目にして魔王軍の侵略に遭遇し…。

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

内気な僕は異世界でチートな存在になれるか?@異世界現代群像のパラグラフ

木木 上入
ファンタジー
 日々の日常に悩み、ついつい色々な事を思い詰めしまう高校生、桃井瑞輝(ももいみずき)。  異世界の小さな村で日々を過ごしている少女、エミナ。  瑞輝がふとしたきっかけで異世界の少女に転生したことで、二人は出会うことになる。  そして、運命は動き出した――。 ------------------------------------ よりよい小説を書くために、Webカンパも受け付けています。 こちらのページからhttp://www.yggdore.com/ https://twitter.com/kikifunnelへお送りください

大学生活を謳歌しようとしたら、女神の勝手で異世界に転送させられたので、復讐したいと思います

町島航太
ファンタジー
2022年2月20日。日本に住む善良な青年である泉幸助は大学合格と同時期に末期癌だという事が判明し、短い人生に幕を下ろした。死後、愛の女神アモーラに見初められた幸助は魔族と人間が争っている魔法の世界へと転生させられる事になる。命令が嫌いな幸助は使命そっちのけで魔法の世界を生きていたが、ひょんな事から自分の死因である末期癌はアモーラによるものであり、魔族討伐はアモーラの私情だという事が判明。自ら手を下すのは面倒だからという理由で夢のキャンパスライフを失った幸助はアモーラへの復讐を誓うのだった。

異世界に召喚されたおっさん、実は最強の癒しキャラでした

鈴木竜一
ファンタジー
 健康マニアのサラリーマン宮原優志は行きつけの健康ランドにあるサウナで汗を流している最中、勇者召喚の儀に巻き込まれて異世界へと飛ばされてしまう。飛ばされた先の世界で勇者になるのかと思いきや、スキルなしの上に最底辺のステータスだったという理由で、優志は自身を召喚したポンコツ女性神官リウィルと共に城を追い出されてしまった。  しかし、実はこっそり持っていた《癒しの極意》というスキルが真の力を発揮する時、世界は大きな変革の炎に包まれる……はず。  魔王? ドラゴン? そんなことよりサウナ入ってフルーツ牛乳飲んで健康になろうぜ! 【「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」1巻発売中です! こちらもよろしく!】  ※作者の他作品ですが、「おっさん、異世界でドラゴンを育てる。」がこのたび書籍化いたします。発売は3月下旬予定。そちらもよろしくお願いします。

知識スキルで異世界らいふ

チョッキリ
ファンタジー
他の異世界の神様のやらかしで死んだ俺は、その神様の紹介で別の異世界に転生する事になった。地球の神様からもらった知識スキルを駆使して、異世界ライフ

野草から始まる異世界スローライフ

深月カナメ
ファンタジー
花、植物に癒されたキャンプ場からの帰り、事故にあい異世界に転生。気付けば子供の姿で、名前はエルバという。 私ーーエルバはスクスク育ち。 ある日、ふれた薬草の名前、効能が頭の中に聞こえた。 (このスキル使える)   エルバはみたこともない植物をもとめ、魔法のある世界で優しい両親も恵まれ、私の第二の人生はいま異世界ではじまった。 エブリスタ様にて掲載中です。 表紙は表紙メーカー様をお借りいたしました。 プロローグ〜78話までを第一章として、誤字脱字を直したものに変えました。 物語は変わっておりません。 一応、誤字脱字、文章などを直したはずですが、まだまだあると思います。見直しながら第二章を進めたいと思っております。 よろしくお願いします。

処理中です...