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3章 異世界技能編
第43話 冒険者
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扉の方に横目をやると、夕暮れ時独特の長い影が近づいてくる。
その長い影には猫耳が生えており、ピコピコと動く。
その影の先から、根本まで目で追っていくと、見覚えのあるシルエットがそこにはあった。
「おや、また会ったね―」
部屋に入ってきたのは猫耳少女の『スー』だった。
訓練終わりなのか、首元には白いタオルを巻いており、片手にはポーションを持っていた。しかし、軽い足取りで近づいてくると、隣の仮眠ベッドの上にぽすんと腰を落とす。
「今日はなんだか前より疲れてそうにゃ」
「最近基礎トレーニングで監督にしごかれてて、今は指一本も動かしたくないって感じだよ」
「それはそれは。お疲れ様にゃ」
スーは、浮いている両足をゆっくりと交互に揺らしながらニコニコとしている。
「そっちは基礎トレの時はどうだったんだ?」
「スーは昔から身体を動かすのは好きだったから、多少は大変だったけど、君ほどじゃなかったかにゃ」
「流石、近接格闘スキルの才能持ちは根っから違うね」
「まあ…そうでも、あるかも?」
少し考える素振りを見せた後、胸を張るスーに思わず、あるのかよと突っ込みを入れると、ニャハハと楽しそうにスーが笑った。
「でも、体力つけとかないと、怪我の元だし、いざってときに困る事になるからにゃ。辛いのは最初だけにゃ。頑張るにゃー」
「監督も同じ事言ってたな…。まぁ、頑張りはするよ。いつか冒険にも出てみたいしな」
「君は冒険者になりたいんだね」
そりゃそうだろと言いかけて、確かに戦闘スキルを使うのは何も冒険者だけではない、傭兵や兵士、商人の護衛など、道はいくらかある事に気がつく。
「あー、そうだな。今してる仕事は苦じゃないし、むしろ楽しいけれど、せっかく戦闘スキルを使って何かをするなら、自分のやりたいようにやれる冒険者が一番いいかな」
「じゃあスーと一緒だね」
スーは相変わらす足をぷらぷらと揺らし、目を細めながら、髪色と同じ桃色の尻尾も左右に何度か揺らした。
「よーし、どっちが先に冒険者になれるか競争だにゃ」
「いや、既にだいぶ差が開けられている気がするんだが…」
「大丈夫大丈夫! 君なら出来るって」
何か根拠があって言っているのかとも思ったが、表情を見る限りは恐らくノリで言っているだけだろう。
しかし、こういうのは競争相手がいた方が燃えるのは確かである。
「なら、頑張ってみるよ。とはいえ、こんな状態でいっても、カッコつかないけどな」
スーが部屋に来た時から、寝たきりの状態のまま会話を続けているので、なんとも締まらない宣誓となったのであった。
「あ、そうだ。動けないなら、何かケアしてあげようか?」
「いや…、あぁそうだ。水に濡らしたタオルを持ってきてくれないか」
悪いと思い、はじめは断ろうと思ったが、このままでは回復も遅いので、少しばかり手伝ってもらう事にした。
濡れタオルさえ持ってきてくれれば、あとは自分で痛む部位を冷やそうと思ったからである。
「いいよー。アイシングするのかな? なら数枚あった方がいいかにゃ」
物分りが早くて助かる。
スーは手際よくタオルを数枚回収すると、タオルを水でひたひたにして持ってきてくれた。
「ありがとう。後は自分でなんとかするよ」
「いいからいいから、せっかくだし、最後までやってあげるにゃ」
そう言ってこちらが断るすきを与えないまま、膝下や足首、肩やひじなどにタオルをそっとかけていってくれる。
「…悪いな。そっちも訓練終わりで疲れてるんじゃないのか」
「スーは君と違って体力があるから、まだ動けるにゃ」
「…その通り過ぎて、何も言い返せない」
スーがニャハハと吹き出して笑う。
なんだか最近、人に面倒を見てもらってばかりいる気がする。
そう考えると、少し情けなくなった。
「困った時はお互い様にゃ。スーだって、いつか困っちゃう時が来るかもしれにゃいから、その時は君に助けてもらうにゃ」
「そういうもんか」
「そういうものにゃ」
その言葉に少し心が軽くなった気がした。
しばらく熱を持っていた部位を冷やしていると、段々と痛みと熱が引いていき、身体を起こせるようになってくる。
「ふぅ…。あとは自分でケア出来そうだよ。ありがとう。シャオマーナさん」
「スーでいいよー。じゃあ、片付けとかも任せちゃって大丈夫?」
「それくらいはやるさ。もう少し休んでからだけどな」
「早く体力つくといいねー」
「…ほんとにな」
確かにその通りで、毎回これだけダウンしている訳にもいかないし、今日のように周りに迷惑をかけ続けるのも気が引ける。
早いところ体力、もしくは何かしらの付随するスキルが身につくといいのだが…。
「じゃあスーは先にあがるね。またねー」
「あぁ、今日も助かったよ。またな、…スー」
俺が名前で呼ぶと、満足気に笑みを浮かべ、スーは部屋から去っていた。
一人になると、再び部屋に静寂が訪れる。
俺はもう一度タオルを水で冷やし、しばらく横になって休んでから、ようやくまともに歩けるようになってきたので、タオルを片付け、生まれたての子鹿のように訓練所を後にした。
その様子を訓練所の受付にいたデグに見られて笑われるのだが、今の俺はただ家に帰って横になる事しか頭に無かった。
その長い影には猫耳が生えており、ピコピコと動く。
その影の先から、根本まで目で追っていくと、見覚えのあるシルエットがそこにはあった。
「おや、また会ったね―」
部屋に入ってきたのは猫耳少女の『スー』だった。
訓練終わりなのか、首元には白いタオルを巻いており、片手にはポーションを持っていた。しかし、軽い足取りで近づいてくると、隣の仮眠ベッドの上にぽすんと腰を落とす。
「今日はなんだか前より疲れてそうにゃ」
「最近基礎トレーニングで監督にしごかれてて、今は指一本も動かしたくないって感じだよ」
「それはそれは。お疲れ様にゃ」
スーは、浮いている両足をゆっくりと交互に揺らしながらニコニコとしている。
「そっちは基礎トレの時はどうだったんだ?」
「スーは昔から身体を動かすのは好きだったから、多少は大変だったけど、君ほどじゃなかったかにゃ」
「流石、近接格闘スキルの才能持ちは根っから違うね」
「まあ…そうでも、あるかも?」
少し考える素振りを見せた後、胸を張るスーに思わず、あるのかよと突っ込みを入れると、ニャハハと楽しそうにスーが笑った。
「でも、体力つけとかないと、怪我の元だし、いざってときに困る事になるからにゃ。辛いのは最初だけにゃ。頑張るにゃー」
「監督も同じ事言ってたな…。まぁ、頑張りはするよ。いつか冒険にも出てみたいしな」
「君は冒険者になりたいんだね」
そりゃそうだろと言いかけて、確かに戦闘スキルを使うのは何も冒険者だけではない、傭兵や兵士、商人の護衛など、道はいくらかある事に気がつく。
「あー、そうだな。今してる仕事は苦じゃないし、むしろ楽しいけれど、せっかく戦闘スキルを使って何かをするなら、自分のやりたいようにやれる冒険者が一番いいかな」
「じゃあスーと一緒だね」
スーは相変わらす足をぷらぷらと揺らし、目を細めながら、髪色と同じ桃色の尻尾も左右に何度か揺らした。
「よーし、どっちが先に冒険者になれるか競争だにゃ」
「いや、既にだいぶ差が開けられている気がするんだが…」
「大丈夫大丈夫! 君なら出来るって」
何か根拠があって言っているのかとも思ったが、表情を見る限りは恐らくノリで言っているだけだろう。
しかし、こういうのは競争相手がいた方が燃えるのは確かである。
「なら、頑張ってみるよ。とはいえ、こんな状態でいっても、カッコつかないけどな」
スーが部屋に来た時から、寝たきりの状態のまま会話を続けているので、なんとも締まらない宣誓となったのであった。
「あ、そうだ。動けないなら、何かケアしてあげようか?」
「いや…、あぁそうだ。水に濡らしたタオルを持ってきてくれないか」
悪いと思い、はじめは断ろうと思ったが、このままでは回復も遅いので、少しばかり手伝ってもらう事にした。
濡れタオルさえ持ってきてくれれば、あとは自分で痛む部位を冷やそうと思ったからである。
「いいよー。アイシングするのかな? なら数枚あった方がいいかにゃ」
物分りが早くて助かる。
スーは手際よくタオルを数枚回収すると、タオルを水でひたひたにして持ってきてくれた。
「ありがとう。後は自分でなんとかするよ」
「いいからいいから、せっかくだし、最後までやってあげるにゃ」
そう言ってこちらが断るすきを与えないまま、膝下や足首、肩やひじなどにタオルをそっとかけていってくれる。
「…悪いな。そっちも訓練終わりで疲れてるんじゃないのか」
「スーは君と違って体力があるから、まだ動けるにゃ」
「…その通り過ぎて、何も言い返せない」
スーがニャハハと吹き出して笑う。
なんだか最近、人に面倒を見てもらってばかりいる気がする。
そう考えると、少し情けなくなった。
「困った時はお互い様にゃ。スーだって、いつか困っちゃう時が来るかもしれにゃいから、その時は君に助けてもらうにゃ」
「そういうもんか」
「そういうものにゃ」
その言葉に少し心が軽くなった気がした。
しばらく熱を持っていた部位を冷やしていると、段々と痛みと熱が引いていき、身体を起こせるようになってくる。
「ふぅ…。あとは自分でケア出来そうだよ。ありがとう。シャオマーナさん」
「スーでいいよー。じゃあ、片付けとかも任せちゃって大丈夫?」
「それくらいはやるさ。もう少し休んでからだけどな」
「早く体力つくといいねー」
「…ほんとにな」
確かにその通りで、毎回これだけダウンしている訳にもいかないし、今日のように周りに迷惑をかけ続けるのも気が引ける。
早いところ体力、もしくは何かしらの付随するスキルが身につくといいのだが…。
「じゃあスーは先にあがるね。またねー」
「あぁ、今日も助かったよ。またな、…スー」
俺が名前で呼ぶと、満足気に笑みを浮かべ、スーは部屋から去っていた。
一人になると、再び部屋に静寂が訪れる。
俺はもう一度タオルを水で冷やし、しばらく横になって休んでから、ようやくまともに歩けるようになってきたので、タオルを片付け、生まれたての子鹿のように訓練所を後にした。
その様子を訓練所の受付にいたデグに見られて笑われるのだが、今の俺はただ家に帰って横になる事しか頭に無かった。
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