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3章 異世界技能編

第42話 訓練の日々

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 キリーカ食堂での仕事が無い日は、決まって訓練所へ顔を出すようにしていた。

 一週間休み無しのような状態でまともに動けているのは、ひとえにお布団での『全回復効果』のおかげである。
 とはいえ寝るまでの間は疲れはするので、毎日寝る前はストレッチの日々である。

 ストレッチの効果的な方法については、訓練監督をしてくれている『デグ』が教えてくれた方法を試している。

 ちなみに、あれからルリアからのマッサージするよアピールは避け続けている。
 前のように寝落ちすると、確実に布団に入り込んでくるからだ。
 そうでなくても、朝起きると潜り込んでいたことが何回かはあったくらいだ。
 
 まったく、抜け目がないというかなんというか…。

 訓練自体はというと、それなりに順調ではある。
 既に習得していたスキルのレベルに関しては、魔法操作を除いて全てひとつずつ上昇している。

 しかしながら、未だに魔法が一度たりとも発動出来ないでいた。

 その度にルリアが、また手伝ってあげようかと言ってくれたが、断っていた。

 ただでさえ、ほとんど努力無しでスキルが習得できてしまうので、一つくらいは自分の力でなんとかしてみたかった。

 そんな、ちょっとした意地もありはしたが、実際のところ、ちょっぴり欲が出たのだ。
 なんせ、少年時代に思い描いていた、剣と魔法の世界に、せっかくやってきたのだから、魔法を習得するという感動を、味わってみたくなったというわけだ。

 だから今日もこうして、魔法の訓練に一番時間をかけている。

 今は体内の魔力の流れを感じ取るために、座禅を組み集中する訓練をしている。
 既に雑念が入り混じっているので、うまく集中出来てはいないかもしれないが。

「…おい、ちゃんと集中しやがれ」

 ペシペシと棒のようなもので、軽く肩を叩かれ、思考が中断される。
 デグには何でもお見通しのようだ。

「はぁ…。なんとなく、何かを感じれるようにはなってきたんですけどね、なかなかうまくいかないです」

「まぁ魔法の習得なんてもんは、よっぽど才能が無けりゃ、みんな苦労するもんさ。地道に頑張んな。少なくとも、才能ゼロじゃねぇことは理解ってんだからよ」

 デグ曰く、補助付きだったとしても、魔力球を発現させられたのであれば、少なからず魔法習得の可能性はゼロでは無いらしい。
 ゼロでは無いだけとも言えるが…。

「そうですね…。まぁ、時間は沢山あるんで、頑張りますよ」

「おう、その意気だぜ。あとは、基礎体力も付けなくちゃな」

「うっ…、がんばり、ます」

 訓練はどれも新鮮でやりがいのあるものだったが、基礎体力を付けるトレーニングだけは慣れなかった、というより純粋にツラいのだ。

 腕立てスクワットに、腹筋背筋。
 短距離ダッシュに持久走と、学生自体避けて通ってきたようなものばかりが俺の弱々しい筋肉を襲いまくるのだ。

 夜にストレッチが必要になる理由の9割が、このトレーニングによるものだった。
 こればっかりは、やりがいだとかそういうのはどうでもいいので、何かしらのスキルが生えてくれないかと祈るばかりである。

「さて、そろそろ魔法の特訓は止めにして、基礎トレの時間にすっかね」

「いやー、もうちょっとだけ、魔法の訓練…しません?」

「別にそれでもいいが、基礎トレの時間は変えねぇぞ?」

「……わかりました、基礎トレします」

「ったく…」

 デグは後ろ手にガリガリと頭を掻いて呆れている。

「いくら技術を身に付けたって、それを活かせる身体が無けりゃ意味ないんだぜ?」

「それは理解ってるんですけどね…辛いのは辛いんですよ…」

「半年か一年も経ちゃぁ楽になるさ。気合い入れて頑張んな」

「うへぇ…まだあと三ヶ月か…」

「三ヶ月なんてあっという間だよ。ほら、まずは腕立て百回からいくぞ」

「げ、前回まで五十回だったじゃないですか!」

「うるせぇ、がたがた言ってねぇでちゃちゃっとやれ。はい、いーち」

 俺は泣きそうになりながらも、仕方なく号令に従って腕立てを始めた。





「うーし、今日の基礎トレはこんなもんだな。おつかれさん」

 地面に突っ伏している俺の頭に、冷たい水をかけながらデグが労ってくれる。

 結局、すべての種目を倍近くに増やされ、今は息も絶え絶えで、ぴくりとも動けなずにいる。

「ったく、情けねぇな。休憩室までは運んでやっから、しばらく休んだらけぇるんだぞ」

 そう言うと、デグは片手で俺の腰を掴み抱え込んで、軽々と休憩室へ運んでいく。

 どれだけ頑張れば、この腕力が身につくのだろうとぼんやり考えていると、いつのまにやら着いていたのか、簡易ベッドに向かって放り投げられる。

 ぐぇっと、思わず潰れたカエルのような声が漏れた。

「んじゃ、今日もしっかりストレッチしてから寝るんだぞ。じゃあな」

「はい…、ありがと、ございました…」

 デグが部屋を後にすると、誰も休憩室にはいないのか、静寂が部屋を支配し、俺の早い鼓動と呼吸だけが聞こえた。

 体全体の筋肉が熱い。
 こういう時は、アイシングとかするといいんだったような気がするが、正直まだ動けそうにない。

 誰かに頼もうにも、今は部屋に一人である。
 動けるようになるまではしばらく我慢するしかないようだ。
 そう思っていると、遠くから軽い足音が聞こえてきた。

 そしてその足音は、部屋の前で止まり、扉が静かに開かれた。
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