お布団から始まる異世界転生 ~寝ればたちまちスキルアップ、しかも回復機能付き!?~

雨杜屋敷

文字の大きさ
上 下
32 / 80
3章 異世界技能編

第32話 我慢できない

しおりを挟む
 布団に横になって、眠りの世界へと旅立つ準備をほぼ終え、意識を手放そうとしていると、ふと何かが近づいてくるような感じがする。

 ルリアが御手洗いにでも起きたのだろうかと、特に気にせずにいると、不意に布団がゆっくりと捲られて、ゴソゴソと何かが入り込んでくる感覚があった。

 ぼんやりとしたまま何事かと思い、重たい目をゆっくりと開けると、何故かルリアの顔が目の前にあった。
 何でこんなところにルリアの顔があるんだ…?

「レイちゃん…」

 ルリアの吐息が首元にふわりとかかる。
 なんだこれは、いったいどうなっているんだ。
 本稼働していない頭で考えるが状況が理解できない。

「ボク、もう、我慢できないよ…」

 そう言うと、俺の左頬にルリアの小さな手のひらがそっと触れ、ぞわりと鳥肌のような感覚が走る。

「ねぇ…シても、いい…よね?」

「…おい、何をする気だ」

「いいでしょ…、ほら、見せてよぉ…」

 腕で体を支えていたルリアが、ゆっくりと体を預けてくる。暖かな体温が、体全体を包みこんだ。

 もしかして、俺は寝込みを襲われているのか?冗談じゃない。
 俺にこっちの気は無いぞと、ルリアを押し返そうとしていると、

「だからぁ…、早く、出してよぉ…銀貨五枚…。」

「おいやめ……あ? なんだって?」

「もう我慢出来ないよぉ…気になるのぉ…レイちゃんのスキルぅ…。気になりすぎて寝れないんだもん」

 そのまま、ぐでーっと全体重を乗せてきて、頬を指でつつかれる。
 ……なんと紛らわしい。

「おい、まずは重いからどけ」

「もー、レディに向かって重いなんて行っちゃダメなんだよぉ?」

「どこにレディがいるって?」

「ここにいるぐえっ…」

 ルリアの頭頂部にチョップをかましてやると、潰れたカエルのような鳴き声を出した。
 ひどいよぉとわざとらしい涙目を見せるが、適当にあしらい、そのままぐいっとルリアの体を押しやって体の横に落とした。

「人が寝てる所に何しに来てるんだよ全く…」

「だってだってー」

「だってじゃない」

「でもでもー」

「でもでもない」

「むー…。今日こそはスキルチェックすると思ってたからー、気になって本当に寝れなかったんだもん。ねーえー、家賃とかまだいらないからさー、調べちゃおうよぉ。ほらほらー」

 ルリアが脇腹をくすぐってくる。
 思わず体をよじらせ抵抗するが止める様子はないので、片手でルリアの"こめかみ”を掴んで力を入れると、いたたたたたたたと悲鳴を上げてようやく手の動きが止まる。
 くすぐりを止めたのを見計らい、こちらも力を抜いてやる。

「いったた…、レイちゃんは容赦ないなぁ…」

「アホなことをするからだ」

「でもぉ、本当に気になるんだよぉ…、おねがい、恩を感じてるっていうなら、もうしちゃお?スキルチェックぅ」

 ぶりっ子のようなポーズを取り、目をうるうるとさせている。
 とんだ芸達者だと思いながらも、世話になっている家主がココまで言うのならと、少し考える。

 そして、当初のプランとは打って変わってしまったが仕方がないと、ルリアの提案を渋々のむ事にした。

「わかったわかった。また布団に潜り込まれても困るしな」

「ほんと? ほんとにいーの? よーし! じゃあ張り切って調べるからね! 任せて!」

 先程まで弱々しい声色をしていたにも関わらず、コロッと表情を変え、といつもよく見る笑みを浮かべる。

 その前に、さっさと布団から出てほしいのだが…。




 ルリアを布団から追い出し、二人して布団に座り向かい合う状況になる。
 部屋は暗いままだが、互いの顔が見えるくらいの明るさはあった。

 電気をつけてもよかったのだが、面倒が勝り、ルリアが点けないのならもうそのままでいいだろうと思っていた。

「それじゃあ、始めるねぇ」

 そういってルリアが両手をこちらに翳して、スキルチェック、と一言呟く。
 すると、俺とルリアの境界に、突如スクリーンのようなものが現れる。

 思わず、おぉ…と声が漏れるが、それを聞いてなのか、ルリアにドヤ顔をされ、少しばかり腹が立った。

 こちらから見ると、文字が逆さまになっているため、読みづらい。何と書いてあるのだろうか。

「…えっ。んん…?」
 何か変なものでも見たような、怪訝そうな表情になるルリアを見て、なんて書いてあるのかと催促をすると一言、やば…、と声を漏らした。

「だから、何がやばいんだよ」

「え、だってレイちゃんのスキルレベル…高すぎない? それに、なに、これ…」

「は?どういう事だ。イチから説明してくれないと分からないぞ」

「う、うん…えっとね…」

 そうしてルリアが説明シてくれた内容をまとめるとこうなる。

 まず、スキルとして持っていたのは、清掃・肉体労働・翻訳、そして謎のスキルである『睡眠』だった。
 そして、それらのスキルのレベルが、清掃が『三』、肉体労働が『八』、翻訳と睡眠に至っては『十』という驚異的なものだった。

 以前学んだことが正しいとすると、レベル八以上が三つもある時点でおかしいのだが、限界値であるレベル十が二つもあるのはおかしいにも程がある。
 そもそも睡眠スキルが何か分からない。

「なぁ…何なんだこの、睡眠っていうスキル」

「ボクも聞いたことないよぉ…」

 スキルチェックを多くこなしてきたであろうルリアが知らないのであれば、よっぽどマイナーなスキルか、レアなスキルという事なのだろうか。

「分析でスキルの内容を調べられないのか?」

「調べるには調べられるけど、分かるのはボクの分析レベルまでの事だから、全容までは分からないかもだけど、それでもいい?」

「あぁ。続けてで申し訳ないが、頼む。」

「ううん。そもそもボクが調べたいって言い出したんだし、この際とことん調べてみよっ!」

 ルリアは先程のように、俺に向けて再び手をかざす。
 そしてその内容を読み上げてくれた。

「えっと…、睡眠スキルは、前提条件として五年以上の専属契約を交わした寝床による睡眠でなければ効果を発揮しない。前提条件を満たしている場合のみ、以下の効果がもたらされる。その一、六時間以上睡眠を取る事で使用者の体力を全回復する」

 専属契約なんぞ交わした覚えはないが、この布団がそれに当たるのだろうか。
 それに、翌日には疲れがスッキリと抜けていた謎が解けた。どうやら、若い体になったから、という理由ではないらしい。

「その二、使用者が睡眠前に獲得したスキル経験値を睡眠一時間ごとに百倍にする…って、百倍ぃ!?」

「は?なんだそのチートスキル…」

「いやこれ、レイちゃんのスキルだからね…」

「いや、そうなんだろうけどさ。…実感がねぇな」

「あー、だから肉体労働のレベルがすごく高いんじゃない?」

「なるほど…、日頃の仕事や手伝い程度の経験値が百倍になってしまっているから、あの程度でも上がってしまうのか」

「かける睡眠時間だから、百倍じゃきかないよ。六百倍とかだよ」

「睡眠スキル、やべーな」

「しかも、これだけじゃないみたいだよぉ? 同衾者どうきんしゃにも一定の効果があるって書かれてる。だけど、ここから先はボクの分析スキルじゃぁ読みきれないや。」

 おい、今同衾どうきんって言ったか?
 ただの添い寝って意味だよな…?

「…一緒に寝るとってことか」

「そういうことじゃない? どんな効果になるか分からないけど、多分経験値関係な気はするよね」

「まぁ文章の流れとしては、それが自然っちゃ自然だよな」

「何か面白いスキル持ってないかな―ってうっすら期待してたけどぉ…これはやりすぎだよぉ、レイちゃん」

「そんな事俺に言われてもだな…」

 ルリアが手をかざしながら、呆れているのか引いているのかなんとも言えない表情を向けられる。

 何はともあれ、俺のスキルは判明したわけだが、これらのスキルをどうやって有効活用していくのか、それを考えていかなければならなかった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

【完結】初級魔法しか使えない低ランク冒険者の少年は、今日も依頼を達成して家に帰る。

アノマロカリス
ファンタジー
少年テッドには、両親がいない。 両親は低ランク冒険者で、依頼の途中で魔物に殺されたのだ。 両親の少ない保険でやり繰りしていたが、もう金が尽きかけようとしていた。 テッドには、妹が3人いる。 両親から「妹達を頼む!」…と出掛ける前からいつも約束していた。 このままでは家族が離れ離れになると思ったテッドは、冒険者になって金を稼ぐ道を選んだ。 そんな少年テッドだが、パーティーには加入せずにソロ活動していた。 その理由は、パーティーに参加するとその日に家に帰れなくなるからだ。 両親は、小さいながらも持ち家を持っていてそこに住んでいる。 両親が生きている頃は、父親の部屋と母親の部屋、子供部屋には兄妹4人で暮らしていたが…   両親が死んでからは、父親の部屋はテッドが… 母親の部屋は、長女のリットが、子供部屋には、次女のルットと三女のロットになっている。 今日も依頼をこなして、家に帰るんだ! この少年テッドは…いや、この先は本編で語ろう。 お楽しみくださいね! HOTランキング20位になりました。 皆さん、有り難う御座います。

異世界で魔法が使えるなんて幻想だった!〜街を追われたので馬車を改造して車中泊します!〜え、魔力持ってるじゃんて?違います、電力です!

あるちゃいる
ファンタジー
 山菜を採りに山へ入ると運悪く猪に遭遇し、慌てて逃げると崖から落ちて意識を失った。  気が付いたら山だった場所は平坦な森で、落ちたはずの崖も無かった。  不思議に思ったが、理由はすぐに判明した。  どうやら農作業中の外国人に助けられたようだ。  その外国人は背中に背負子と鍬を背負っていたからきっと近所の農家の人なのだろう。意外と流暢な日本語を話す。が、言葉の意味はあまり理解してないらしく、『県道は何処か?』と聞いても首を傾げていた。  『道は何処にありますか?』と言ったら、漸く理解したのか案内してくれるというので着いていく。  が、行けども行けどもどんどん森は深くなり、不審に思い始めた頃に少し開けた場所に出た。  そこは農具でも置いてる場所なのかボロ小屋が数軒建っていて、外国人さんが大声で叫ぶと、人が十数人ゾロゾロと小屋から出てきて、俺の周りを囲む。  そして何故か縄で手足を縛られて大八車に転がされ……。   ⚠️超絶不定期更新⚠️

修復スキルで無限魔法!?

lion
ファンタジー
死んで転生、よくある話。でももらったスキルがいまいち微妙……。それなら工夫してなんとかするしかないじゃない!

夢幻の錬金術師 ~【異空間収納】【錬金術】【鑑定】【スキル剥奪&付与】を兼ね備えたチートスキル【錬金工房】で最強の錬金術師として成り上がる~

青山 有
ファンタジー
女神の助手として異世界に召喚された厨二病少年・神薙拓光。 彼が手にしたユニークスキルは【錬金工房】。 ただでさえ、魔法があり魔物がはびこる危険な世界。そこを生産職の助手と巡るのかと、女神も頭を抱えたのだが……。 彼の持つ【錬金工房】は、レアスキルである【異空間収納】【錬金術】【鑑定】の上位互換機能を合わせ持ってるだけでなく、スキルの【剥奪】【付与】まで行えるという、女神の想像を遥かに超えたチートスキルだった。 これは一人の少年が異世界で伝説の錬金術師として成り上がっていく物語。 ※カクヨムにも投稿しています

スキルを得られない特殊体質の少年。祠を直したらユニークスキルもらえた(なんで??)

屯神 焔
ファンタジー
 魔法が存在し、魔物が跋扈し、人々が剣を磨き戦う世界、『ミリオン』  この世界では自身の強さ、もしくは弱さを知られる『ステータス』が存在する。  そして、どんな人でも、亜人でも、動物でも、魔物でも、生まれつきスキルを授かる。  それは、平凡か希少か、1つか2つ以上か、そういった差はあれ不変の理だ。  しかし、この物語の主人公、ギル・フィオネットは、スキルを授からなかった。  正確には、どんなスキルも得られない体質だったのだ。  そんな彼は、田舎の小さな村で生まれ暮らしていた。  スキルを得られない体質の彼を、村は温かく迎え・・・はしなかった。  迫害はしなかったが、かといって歓迎もしなかった。  父親は彼の体質を知るや否や雲隠れし、母は長年の無理がたたり病気で亡くなった。  一人残された彼は、安い賃金で雑用をこなし、その日暮らしを続けていた。  そんな彼の唯一の日課は、村のはずれにある古びた小さな祠の掃除である。  毎日毎日、少しずつ、汚れをふき取り、欠けてしまった所を何とか直した。  そんなある日。  『ありがとう。君のおかげで私はここに取り残されずに済んだ。これは、せめてものお礼だ。君の好きなようにしてくれてかまわない。本当に、今までありがとう。』  「・・・・・・え?」  祠に宿っていた、太古の時代を支配していた古代龍が、感謝の言葉と祠とともに消えていった。  「祠が消えた?」  彼は、朝起きたばかりで寝ぼけていたため、最後の「ありがとう」しか聞こえていなかった。  「ま、いっか。」  この日から、彼の生活は一変する。

不死鳥契約 ~全能者の英雄伝~

足将軍
ファンタジー
【旧タイトル】不死鳥が契約してと言ったので契約してみた。 五歳になると魔法適性がないと思われ家族からその存在を抹消させられた。 そしてその日、俺は不死鳥と呼ばれる存在に出会った。 あの時から俺は、家族と呼んでいたあのゴミ達には関わらず生きていくと誓った。 何故?会ったらつい、ボコりたくなっちまうからだ。 なろうにも同時投稿中

知らない異世界を生き抜く方法

明日葉
ファンタジー
異世界転生、とか、異世界召喚、とか。そんなジャンルの小説や漫画は好きで読んでいたけれど。よく元ネタになるようなゲームはやったことがない。 なんの情報もない異世界で、当然自分の立ち位置もわからなければ立ち回りもわからない。 そんな状況で生き抜く方法は?

転生しても山あり谷あり!

tukisirokou
ファンタジー
「転生前も山あり谷ありの人生だったのに転生しても山あり谷ありの人生なんて!!」 兎にも角にも今世は “おばあちゃんになったら縁側で日向ぼっこしながら猫とたわむる!” を最終目標に主人公が行く先々の困難を負けずに頑張る物語・・・?

処理中です...