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2章 異世界就活編

第21話 感情の色

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 キリーカは、もじもじとしてチラチラとこちらを見たりよそを向いたりしていたが、しばらくして小さい声で話はじめた。

「そ、の…、この人、優しい色してる、から…大丈夫だと、思う」

「…あんたがそう言うなら、そうなんだろうね。ひとまず安心したよ」

 二人の間で何か納得したようだが、こちらはいまいちよくわからない。

「その…色、というのは?」

「あぁ、この子はね、意識すれば、人の感情を色として見ることが出来るみたいなんだよ。だから、悪意をもっていたり、嘘をついていたりすればすぐに分かるのさ」

 なるほど。仕組みは分からないが、つまるところ、先程の言葉は本心から言っている事であると信じてもらえた、という事になる。ひとまずは的ルートは回避できたようだ。

「それなら、俺の秘密を伝えて…」

対価として俺の秘密を伝えようとしたところで、キリーカが俺の言葉を遮る。

「あ、あの…! ま、待ってくだ、さい」

 思わぬ静止に戸惑うが、黙って彼女の言葉を待つ事にする。

「そもそも、私のミスで起こったこと、ですし…、巻き込まれた側の人が、不利益になるような事は、したくない、です…」

 きっと心の優しい子なのだろうと感じる。

「でも、それだと不安にならないかい? 俺の事を話しておけば、安心がタダで買えるようなものだよ。」

「いえ、私は…お兄さんのことを信じてみようと、思います。今も、本当に心配してくれていると、感じる、ので…。」

 両手の指先をいじりながら、呟くようにキリーカは言う。
 あまり引き下がるのも悪いと思うが、本当にそれでいいのだろうか。

「この子がそう決めたんだ。あんたは黙っててくれるんだろ。なら、それでいいじゃないか」

「分かりました。お二人がそうおっしゃるのであれば、そうします」

 気を使ってもらっている所もあるのかもしれない。
 それでも、今は二人の言葉に従う事にした。
 それに、いずれもし必要な時が来れば、その時に話せばいいだけのことだ。

「それじゃあ、誤解の無いように説明だけさせてもらうよ」

「はい。お願いします」

「まず、あたしらは血は繋がってない。この子とは八年前から一緒に暮らしてる。それと、この子はね、人間と魔族の間に生まれた子なんだよ」

「そうですか。…種族が違っても、子供は出来るんですね」

「リアクションが冷静すぎてびっくりするね。記憶喪失だとそんなものなのかもしれないけれどさ…」

「はは…」

「まぁその通りさ。生まれる確率は同種族よりも落ちるけれどね。ただまぁ、そもそも魔族と人間族ってのが前例が無いせいで、詳しくはあたしらもわからないんだけどね。それと、本来は別種族間の子供は、どちらかの種族に必ず偏るものなのさ」

 種族については少し学んだばかりだったが、種族間の子供といった面に関しては初耳であった。

「偏る、ということは、人間とドワーフの子なら、どちらかの種族の子が生まれる。そういう事ですか?」

「そう、本来はね。でも、この子は僅かながら魔族の特徴も持って生まれたんだよ。ほとんどは人間族の特徴ばかりなんだけれどね」

 そう行ってエリスさんが、キリーカの頭を優しく撫でる。

「その角、ですね」

「ああ。だから、こうして人目の着くところでは頭を隠すように言ってあったんだけどね。どうしても、魔族の子っていうのは、あたしらの価値観じゃああんまし良くない印象を受けちまうのさ。もちろんあたしはこの子はこの子だから、そういう風には思っていないよ? でも、他の人は違うだろう?」

「一般的には、魔族は人間族からすると、相対する敵、という認識なんですよね。」

「その通りだよ。ま、あんたはちょっと特殊というか、例外だったみたいだけどさ」

「はは…」

「ま、おかげで助かったんだけどもさ。というわけだから、この子がこういう血筋だってことは隠しておきたいのさ。この街に住むにあたって、どうしても何人かには伝える必要があって、協力者もいるからなんとかやってけるけどね」

「そうだったんですね」

「あと、今後もここで働くなら、あんたが最任だろうね。うちの事情も汲み取ってくれているんだから。あんたの前でなら、この子もコソコソとする必要もないからね」

 エリスさんの言葉に合わせて、キリーカも小さくコクリとうなずく。

「だからさ、改めてにはなるけれど、暇な時でいいんだ。たまにここの手伝いをしてくれないかい。歓迎するからさ」

「それはこちらも願ってもない事です。是非、今後ともよろしくお願いします」

「そうこなくっちゃ」

 エリスさんの掌がパシリと背中に叩きつけれられる。ピリピリとして少し痛い。

「ほらキリーカ。あんたもちゃんと挨拶しな」

「えっと、急な話でまだ混乱しているところもあるかもしれないけれど、折角だから仲良くしてもらえると嬉しいかな。よろしくね、キリーカちゃん」

 少し屈んで、視線が合うようにして声をかけると、キリーカは前髪をすこしずらして、少し垂れ目で、こげ茶色の可愛らしい眼をこちらに向け、不慣れな様子ながらも、微笑みながら、言葉を返してくれた。

「はい。こちらこそ、…よろしくお願いします」
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