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2章 異世界就活編
第19話 朝市
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喚いているルリアを無視して、朝早くから市場へと向かう。
市場につくと、以前来た時とはまた違った活気があった。
日本でいうところの『競り』が開かれていたり、訪れている人や、そもそも開いているお店も『飲食系』の人が多いといった印象だ。
もしかすると来る時間帯を間違えたかもしれない。
そう思っていた矢先、不意に後ろから声をかけられる。
「おや、クライじゃないか。朝から市場で何か買い込みかい?」
振り返ると、エイルさんが立っていた。両手に持ったカゴいっぱいの食材が入ってい
る。
「おはようございます。いえ、実は市場に服を買いに来たんですがね…、もしかすると、来る時間を間違えたかもしれないと思っていたところです」
「確かにねぇ、朝はこんな感じで食品がメインになってるから、そう思うのも無理ないさ。ただ、服を売ってる所もあるはずだよ。紹介したげるからついてきなよ」
「いいんですか。これから店に戻る所だったんじゃ…」
「気にしなくていいよ、まったく謙虚だねぇ。あ、じゃあこういうことにしないかい?アタシはこれ以上荷物が持てないけれど、もう少し買いたいものもあったんだ。帰りにその荷物持ちをしてくれないかい?」
「そういうことなら、喜んで」
案内賃代わりの荷物持ちを約束し、エイルさんに連れられていくつかの服屋を紹介してもらった。
色々なタイプの店があったが、無地のあまり目立たないシンプルな服を
売っていた店で、替えの服を買う事にした。
料金が手頃だったのも大きい。
2セット買って20ペリンで事足りた。
まだまだお財布の中が寂しい自分にとってはありがたい。
自身の買い物を済ませたので、エイルさんの買い出しに付き合う。
思っていたよりも追加の購入が多く、持ちきれるか不安であったが、案外いけるもので、問題なくキリーカ食堂まで運ぶ事が出来た。
「結構力あるじゃないかい。助かったよ。いつもはこんなに買い込めないからね。何回かに分けて買ったりするんだけど。これ、お駄賃としてとっときな。」
そういって俺に銅貨を数枚渡そうとしてくる。
「いや、そんなつもりでした訳じゃ…それに、案内してもらった分で貸し借り無しですよ」
「そうかい?それじゃあ、代わりにご飯でも食べてくかい?今なら少し割り引いとくよ」
断ろうとも思ったが、人の善意を断りづづけてもあまり良くないかと感じ、この提案を受けることにした。
「では、お言葉に甘えて、いただいていきます」
「そうそう、若いもんはそうやって素直に甘えてればいいのさ」
「そんなに若くは無いと思うんですけどね」
「そうかい?20代前半くらいかと思ってたけど、違うのかい」
顔つきや体つきが変わったことで、どうやら見た目はそのくらい若く見えるらしい。
思ったよりも、この体は若いようだ。
回答に少し困ったが、
「実は、記憶喪失になってしまったみたいでして…。自分の名前くらいしか覚えていないんですよね。それで今、ギルドの人のところに居候させてもらってるんです」
「そうだったのかい。悪いね、変な事聞いちゃって」
「いえ、これからも仕事でお世話になるでしょうし、いつかは話していたと思うので」
「そうかい?それならいいんだけどね。というか、仕事、また受けてくれるんだね」
「はい。この後ギルドによって、正式に受けてきますね」
「ありがとう、助かるよ」
「こちらも助かってます」
そういって互いに笑い合う。
ここはいい職場だと思う。エイルさんは優しいし、お客さんが満足そうにしてくれるのはなんだか心地よかった。
「さ、たんと食べておくれ」
それに、ここの食事は本当に美味しい。
それだけでも充分だった。
エイルさんは食事を作り終えると、店の裏に何か作業しに厨房を出ていった。一人で食事を静かに味わっていると、不意に奥の扉から音が聞こえた。
音の方に目をやると、あのいつも店の前を掃除していた少女が顔を覗かせている。
「っ…」
少女は俺を見るなり、小さな悲鳴を上げてそのまま顔を隠してしまった。
そして見間違いでなければ、その少女の頭には、小さな二本の角が生えていたように見えた。
市場につくと、以前来た時とはまた違った活気があった。
日本でいうところの『競り』が開かれていたり、訪れている人や、そもそも開いているお店も『飲食系』の人が多いといった印象だ。
もしかすると来る時間帯を間違えたかもしれない。
そう思っていた矢先、不意に後ろから声をかけられる。
「おや、クライじゃないか。朝から市場で何か買い込みかい?」
振り返ると、エイルさんが立っていた。両手に持ったカゴいっぱいの食材が入ってい
る。
「おはようございます。いえ、実は市場に服を買いに来たんですがね…、もしかすると、来る時間を間違えたかもしれないと思っていたところです」
「確かにねぇ、朝はこんな感じで食品がメインになってるから、そう思うのも無理ないさ。ただ、服を売ってる所もあるはずだよ。紹介したげるからついてきなよ」
「いいんですか。これから店に戻る所だったんじゃ…」
「気にしなくていいよ、まったく謙虚だねぇ。あ、じゃあこういうことにしないかい?アタシはこれ以上荷物が持てないけれど、もう少し買いたいものもあったんだ。帰りにその荷物持ちをしてくれないかい?」
「そういうことなら、喜んで」
案内賃代わりの荷物持ちを約束し、エイルさんに連れられていくつかの服屋を紹介してもらった。
色々なタイプの店があったが、無地のあまり目立たないシンプルな服を
売っていた店で、替えの服を買う事にした。
料金が手頃だったのも大きい。
2セット買って20ペリンで事足りた。
まだまだお財布の中が寂しい自分にとってはありがたい。
自身の買い物を済ませたので、エイルさんの買い出しに付き合う。
思っていたよりも追加の購入が多く、持ちきれるか不安であったが、案外いけるもので、問題なくキリーカ食堂まで運ぶ事が出来た。
「結構力あるじゃないかい。助かったよ。いつもはこんなに買い込めないからね。何回かに分けて買ったりするんだけど。これ、お駄賃としてとっときな。」
そういって俺に銅貨を数枚渡そうとしてくる。
「いや、そんなつもりでした訳じゃ…それに、案内してもらった分で貸し借り無しですよ」
「そうかい?それじゃあ、代わりにご飯でも食べてくかい?今なら少し割り引いとくよ」
断ろうとも思ったが、人の善意を断りづづけてもあまり良くないかと感じ、この提案を受けることにした。
「では、お言葉に甘えて、いただいていきます」
「そうそう、若いもんはそうやって素直に甘えてればいいのさ」
「そんなに若くは無いと思うんですけどね」
「そうかい?20代前半くらいかと思ってたけど、違うのかい」
顔つきや体つきが変わったことで、どうやら見た目はそのくらい若く見えるらしい。
思ったよりも、この体は若いようだ。
回答に少し困ったが、
「実は、記憶喪失になってしまったみたいでして…。自分の名前くらいしか覚えていないんですよね。それで今、ギルドの人のところに居候させてもらってるんです」
「そうだったのかい。悪いね、変な事聞いちゃって」
「いえ、これからも仕事でお世話になるでしょうし、いつかは話していたと思うので」
「そうかい?それならいいんだけどね。というか、仕事、また受けてくれるんだね」
「はい。この後ギルドによって、正式に受けてきますね」
「ありがとう、助かるよ」
「こちらも助かってます」
そういって互いに笑い合う。
ここはいい職場だと思う。エイルさんは優しいし、お客さんが満足そうにしてくれるのはなんだか心地よかった。
「さ、たんと食べておくれ」
それに、ここの食事は本当に美味しい。
それだけでも充分だった。
エイルさんは食事を作り終えると、店の裏に何か作業しに厨房を出ていった。一人で食事を静かに味わっていると、不意に奥の扉から音が聞こえた。
音の方に目をやると、あのいつも店の前を掃除していた少女が顔を覗かせている。
「っ…」
少女は俺を見るなり、小さな悲鳴を上げてそのまま顔を隠してしまった。
そして見間違いでなければ、その少女の頭には、小さな二本の角が生えていたように見えた。
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