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1章 異世界起床編
第9話 レストの街並み
しおりを挟むギルドから西の方角へ歩くこと十分で、住宅が立ち並ぶ区画に入った。
レストの街を歩いていて感じたのは、建物の雰囲気は白を基調としている、所謂ギリシャ建築に似通っているという事。
とはいってもあそこまでハッキリとした白ではなく、少しくすみがかった白ではあったが、統一性のある住居が建ち並ぶ様子はとても美しく感じた。
路は石造りで整備されており路肩には植込みがされていて、花や草木が植えられている。
街ゆく人たちは、よくファンタジー系の漫画で見ていたような腰に剣をさしている皮鎧装備の冒険者たちや、ローブを着た魔法使い風の人。
それにターバンを巻いたテンプレのような商人など、改めて俺は異世界に来たのだと強く実感する。
時折子どもたちの姿も見かけるが、ルリアの言う通り旅人風・冒険者風の人たちや、商人らしき人たちが多い印象だ。
上半身がほぼ裸体のようなムキムキマッチョな人ともすれ違う事もあり、勝手に萎縮する。
冬場は寒そうだなと勝手な心配をしていてふと気づいたのだが、この世界には日本のような四季はあるのだろうか。
この事も聞いてみる必要がありそうだ。
もし寒気があるのであれば、いま自分が着ている布一枚程度の服装ではいかに長袖とはいえ、お布団にくるまっていても凍死確定である。
仮にお布団で耐えれたとしても動けなくて詰みである。
俺が馬の食べるような干し草が食べられる人種なら別だが、俺はそんなびっくり人間ではない。
お布団を抱えつつ物思いにふけていると、地図に記されていた小さな噴水が見えてきた。
ルリアの家はこの噴水から少し北に入ったところにある、飲食店の裏にあるらしい。
確か……キリーカ食堂という名前だったか。
角を曲がり視線を左右に揺らすと、店の名前と営業中と書かれた腰の高さ程度のイーゼルをすぐに見つける事ができた。
店の前では小~中学生くらいの女の子が、箒で店先を掃除している。
肩まで伸びる茶系の髪は、目元をほぼ覆い隠していた。
歩きながら少女の様子をぼーっと見ていると、目があったのかビクッと少女は肩を震わせて、早歩きで店の中に入ってしまった。
……不審者と思われたのだろうか。
内心ショックを受けつつ俺は通報される前にと、歩みを早めて食堂の裏へと続く路地へと入っていった。
路地へと入り最初の角を左に曲がると、ルリアから教えられていた特徴の家がすぐに見えた。
隣には俺のしばらくの拠点となるであろう馬小屋と、白くて小さな可愛らしい子馬が見えた。
家の敷地の前には簡易的な木製の柵があり、手前側に開閉式の扉がある。
家は他の建物と同じような少しくすんだ白色で、屋根の色は薄い水色の一階建ての住居だった。
馬小屋は、石壁で覆われている箇所と開放されている箇所の二種類の壁で構築されており、そのどちらにも木製の屋根が備えられている。
そのどちらにも開閉式の扉がついており、子馬は開放されている側で干し草をむしゃむしゃと食べながら、突如現れた来訪者《俺》を見つめている。
俺は布団を抱えたまま子馬に近づき、子馬に話しかける。
「今日からしばらくお世話になりますんで、よろしく」
子馬はむしゃむしゃと顎を左右に動かしこちらを見つめてながら、ふんと鼻息を漏らす。
これは返事をして貰えたと考えても良いのだろうか。それともため息のようなものだろうか。
どちらにせよこれから仲良くなるしかないと思いながら、俺は壁で覆われた小屋の入り口から馬小屋に入り、比較的綺麗な床にお布団を置いた。
多少汚れるのは仕方がない。
そもそも、初っ端で道端に敷かれていたのであまり気にしていない。
ひとまず最低限の居住空間を確保するために、俺は小屋の隅に置かれていた掃除用具を手に取った。
大きな干し草は開放されている側に寄せて、細かなカスやボロは箒で履いてひとまずチリトリのような物に入れておくことにする。
しばらく扉を開けたままにして換気も行った。
最初に比べてだいぶ快適な空間に変わってきた。
どこかやり遂げたような満足感を得た俺は、掃除用具を片付け一旦小屋から出る。
ひと仕事終え小腹も空いてきた。
小屋の前に座りぼーっと青空を見つめながら、ルリアから貰ったパンを黙々と食す。
筒に入った水をこくこくと飲むと、乾いた喉に染み渡った。
「これから、どうなるんだ。俺……」
なんだか急に悲しくなってくる。
後ろで子馬が、ふんっと鼻息をならしていた。
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