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1章 異世界起床編
第8話 馬小屋とお駄賃
しおりを挟む「それじゃ、お勉強の続きはまた後でねぇー」
ギルドでの登録手続きを終えた俺は、ルリアの自宅の場所を地図に記してもらうと、ひとまずその場を後にした。
すぐに掲示板へと向かわなかったのは、申請から受理までに最低でも1日はかかるとのことで、今日はやることがなくなってしまったからである。
扉を開け、外に出てからふと去り際の会話を振り返る……。
「一文無しさんには、この昼食の残りのパンと水の入った筒を一つずつ差し上げますねぇ。あーあ、どんどん借りが増えていっちゃいますねー」
と、食料及び、それを入れる可愛らしいデザインの水色の袋を渡された。
にひにひと笑う面を見て突き返したくなったが、冷静に考えて貴重な、貴重な食料である……受け取るほか無い。
ぐぅの音も出ないとは正にこの事であると感じた。
「あんましいじめちゃ可哀想かな? にひひ」
「そう思うなら、もう少しお手柔らかにお願いできないですかね」
俺は額に手をあてわざとらしくため息をつくと、しょがないなぁとルリアはどこか不満そうに頬をわざとらしく脹らませた。
「あー、そうだ。……ほら、お駄賃少ーしあげるから、私の仕事が終わる夕暮れまでにー、お買い物をすませておいてもらえるー? この辺りに食品バザーがあるからぁ、スープにあうような葉野菜と根菜を買ってきてもらえる?」
ルリアは今思い出したかのように懐から銅貨を数10枚取り出し、カウンターに並べる。
この世界の金銭面のことはまだわからないが、気軽に渡せる程度のお金の範疇であることは察することが出来た。
「まぁ……やることもないですし、報酬がもらえるならやりますけど。種類は何でもいいんですか?」
「なんでもいいよぉ。店主にスープに合うやつはどれですかって聞けば、これがいいぞーってオススメしてくれるからそれを買えばいいよー。お釣りはそのままあげるからねー」
「分かりました。ただ、今倉庫に大きい荷物を預けているので、先に荷物を小屋におかせて貰ってもいいですか?」
「いいよー。それじゃあチケットあげなきゃだねー」
そういうと、カウンターの引き出しから小さな半券サイズの木札が取り出され渡される。
「あーあとそれからぁ、最初っからずーっとよそよそしいけど、もっとフランクでいいからねー。これから数日、一緒の敷地で寝食を共にするんだからぁ、にひひ。レイちゃんは馬小屋、だけどね」
いちいち癪に障る事を言う奴だと思ったが、こんなのに敬語を使うのも少し癪だったので丁度良いとも感じ、それじゃあこんな感じかと早速言葉を崩してみると、お眼鏡に叶ったのかルリアは親指を立ててオッケーオッケーと笑顔で答えた。
「いい感じいい感じー。それじゃっ、お遣いよろしくねぇ。あと、お馬さんと仲良くねー?」
蹴られたりして怪我しないようにねと、にひにひ笑っていた。
俺は、はいはいとあしらうように返答した。
外に出るなり、ギルド周りに設置してあったベンチに腰掛ける。
辺りを見渡せば自分以外は冒険者風のグループが多かったので、少し場違い感はあったが気にしない事にした。
空を見上げて脱力すると、涼しげな風が頭を冷やしてくれる。
そして段々と思考が冷静になってゆき、今回の約束は果たして受けて良いものだったのかと考える。
まず馬小屋とはいえ、異性の家の敷地に見ず知らずの男が寝泊まりするというのはどうなんだろうか。
それに、話がうますぎるような気もしてくる。
馬小屋についた途端、実は屈強な男達がいて身ぐるみを剥がされるだとか、悪い想像がいくつか脳裏によぎる。
しかし、それと同時に、アイツは、いわゆる性格破綻者の部類ではあると思うが、記憶が無いとのたまう見ず知らずの不審な男を、馬小屋とはいえ、泊めてくれるというのは、純粋な善意や親切心からではないか、とも考える。
とはいえ、俺には選択権など無いことには変わりないのだ。
今は純粋な善意と信じておこうという結論に至った。
……というかそうでないと困る。
しかし、思わず馬小屋かぁと口から溢れてしまう。
今まで日本では、賃貸とはいえ立派な家屋で布団にくるまって寝ていたのだ。
それが突如わらのベッドでは、少し溜息が溢れるくらいは許してもらいたい。
それでも野宿よりかはマシであることに違いないのだが、ついつい贅沢な環境を脳が求めてしまう。
本当にお布団があって良かったとしみじみと感じた。
先程は邪魔モノ扱いしてしまってごめんよと、心の中でお布団へ謝罪する。
現状なされるがままの状況に再び溜息が漏れてしまうが、ヨシと気持ちを入れ直して立ち上がり、お布団を預けた倉庫へと向かう。
そして木札と交換することでお布団を受け取った俺は、早速ルリアの家を目指すことにした。
街を周るにしても、まずはコレを置いてこなければまた不審者を見るような目で見られてしまうだろう。
それは避けなければならなかった。
また万が一このお布団を無くしてしまう自体に陥ったとき、俺のメンタルがボロボロになるのは明らかであった為、一刻も早く安全な場所に置いておきたかった。
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