krystallos

みけねこ

文字の大きさ
上 下
137 / 159
ほんの一コマ

楽しい女子会

しおりを挟む
「そういえばフレイの出身地ってどこにあるの?」
 今日は宿で二部屋取ることができたから男女に分かれて泊まることになった。せめてもう一部屋空いていればよかったのにってブツブツ言っていたのはカイムで、ウィルもどこか複雑そうな顔をしていた。なんだかクルエルダと同室になるのは大変そう。
 でもフレイが笑顔ですぐに部屋に向かったから、カイムたちにごめんねと思いつつ急いであとを追っかけた。
 そしてすぐにおやすみ、ってわけでもなくて。折角だから女子会をしようっていう話になって、テーブルの前にお菓子と飲み物を置いて二人とお喋りをしていた。最初「女子会」って言われて一体なんだろうって思ったけど、今の時間はすごく楽しい。
 それで色々と喋ってたんだけど、そういえばフレイって海賊だけどどこで生まれたんだろう。もしかして船の中で? っていう疑問が浮かんだ。
「あ~、どうなんだろうね。一応ミストラル国で生まれたらしいんだけど」
「そうなんですね。あっ、これ美味しいです、フレイさん」
「そうだろう~? あたしも最初食べた時美味しい! って思ってさ!」
 フレイが選んだクッキーをティエラが美味しそうにもぐもぐ食べていて、アミィも気になって同じものを口に運ぶ。甘くて美味しい。
「でもあたしの父親はイグニート国出身なんだけどね」
「そうなんですか⁈」
「そうなの⁈」
「そうそう、元はイグニート国で漁師やってたらしいんだよ」
 でもイグニート国は昔も今とあんまり変わらなくて、特に国からの徴収? 国からお金を持っていかれる量が大きくてそのせいですごく生活も大変で。だからフレイのお父さんのそのまたお父さんも漁師さんだったらしいけど、そのお父さんのお父さんが漁師をやめた時にフレイのお父さんはイグニート国から出ることを決めたんだって。
 アミィがあんまり美味しいって思わなかった細長い何かをムシャムシャ食べつつ、多分お酒だと思うんだけどそれを飲んでいるフレイはそう説明してくれた。
「そもそもイグニート国近海って波も大きくて漁に出るのも命がけっていうのに、大漁だったとしてもその分国に持ってかれるんだよ。たまったもんじゃないね」
「フレイさんの船でないと渡れないぐらいでしたからね……とても危険な漁ですね」
「まったくだよ。んで、親父は漁で使ってた小さい船で国から出たらしいんだよね」
「危なくない?」
「普通は危ないよ。ただあたしの親父は腕がいいのさ」
 自慢げに笑ってるフレイは本当にお父さんのことが大好きなんだ。悲しそうな顔を全然しなくて、お酒を飲みつつ思い出話を喋ってくれた。
 小さい船で出港したこと。でも困っている人を放っておけなくて、助けていっていたらなんだか徐々に船員が増えていったこと。すると助けた人の中に偉い人がいて、その人から船をプレゼントされたこと。あまりにも大所帯になったから当時義賊を承認していると聞いたミストラル国に向かうことを決めたこと。フレイが生まれる前のことなのに、フレイの船にいる人たちが教えてくれたのかお喋りしているフレイの言葉はすごくスムーズだった。
「フレイさんのお母様とどこで出会ったんでしょう?」
「ミストラル国だよ。あたしの母親は踊り子だったのさ」
「踊り子?」
「うーん、なんて言えばいいかねぇ」
「ちょ、直接的な言葉は回避してください。アミィちゃんはまだ、あの、年齢がまだ」
「確かにね。そうだねぇ、お酒飲む場所で踊りを披露する人さ」
「へ~? なんだかすごそう!」
「ほっ……」
 なんだかティエラがすごくホッとした顔をしていたけど、どうしたんだろう? って首を傾げつつ楽しげに笑ってるフレイに視線を戻した。
「親父はうちの母親に一目惚れしたらしくてねぇ。それは猛アタックしたそうなんだよ。ちなみにあたしは母親似さ」
「なるほど、踊り子だったお母様に似たのでフレイさんはその……素敵なスタイルで」
「ぼいん」
「どこでそんな単語覚えてきたんだい? まさかカイム?」
「さ、流石にカイムさんがその単語を喋っていた記憶はありませんが……」
「すごく昔に遊んでた子がそう言ってた」
「またマセたガキだね」
 お喋りしながらお菓子を食べていたからテーブルの上にあった食べ物飲み物がどんどん減っていく。フレイは椅子の隣に瓶を置いていて、その中に入ってる液体もものすぐい早さで減っていっていた。
「ティエラの両親はどうなんだい? 馴れ初めを聞いてみたいね」
「そうですね……わたしの父は治癒師だったんですが、そのお手伝いをしていたのが母だったんです」
「へ~、仕事上接する時間も増えて距離も近かったと。そういうことだね?」
「ティエラのお父さんとお母さんすっごく仲よかったよ!」
「なんだか……少し居た堪れない気持ちになりますね」
「親の惚気話を直接聞いたり話したりするとねぇ?」
「そういうものなの?」
 このケーキおいしい、って思いながらもぐもぐ口を動かしつつ二人にこてんと首を傾げる。お父さんとお母さんの仲がいいお話ってすごく嬉しいことだと思うんだけど。アミィの言葉に二人は顔を見合わせて、「あたしは心が汚れちまったみたいだ」なんて言っていた。ティエラもどこか恥ずかしそうにしてる。
「あの……アミィちゃんのご両親のお話も、聞いてみていいですか? 話したくなかったらそれでいいんですが……」
 二人が自分の親の話をしてたから、順番的に次はアミィなんだろうけど。二人がどこか心配そうな顔をしてるのはアミィの過去を知ってるから。あの時あの場所で何があったのか、それを知ってるから心配してる。
 でもアミィは首を横に振った。確かにあのことは悲しいし、今でも思い出すと泣きそうになる。でも。
「いいよ! だって悲しいことばっかりじゃないもん!」
 その言葉に二人はハッとした。そしてすぐに優しい顔になる。
「そうだね。生きてる人間が忘れないようにしなきゃ。そうして思い出して誰かにそのことを伝えたら、記憶の中でもいなくなった人たちはまだ生き続けることができる」
「フレイさん……アミィちゃん……」
「だからアミィちゃんと喋るよ! アミィのお父さんとお母さんはね、幼馴染だったんだって!」
 実験される前のことだから、思い出すのも少し大変だったけど。でもアミィが覚えている二人はいつも優しくて一緒にいて嬉しそうな顔をしていた。悲しいこともあったけど、嬉しいこともあったっていうことをアミィは思い出さなきゃ。
「幼馴染ですか。いいですね、なんだかロマンチックです」
「いいね~、小さい頃からずっと一緒にいるって。ティアラはどうだい? そういう相手いる? 例えばウィルとか」
「な、なんでそこでウィルさんが出てくるんですかっ……それに、ウィルさんと出会ったのは彼がまだ騎士見習いの時で……幼馴染っていうわけではないです」
「フレイはどうなの? カイムと小さい時に会ったの?」
「いや、カイムと初めて会ったのはあたしがお頭になった直後だから、そんな昔ってわけじゃないねぇ。そう考えたら幼馴染っていないかも」
 コップについでいたのに気付けばフレイは瓶からお酒を直接飲んでる。酔っ払わないのかなってちょっと心配になってきたけど、顔がちょこっとだけ赤くなっているだけでいつものフレイとあんまり変わってない。
 でも流石にティエラも心配になってきたのは、近くにあったお水をフレイの前に置いていた。
「アミィちゃんはどうなんですか? いましたか? 幼馴染。さきほどその、とある単語を言っていた子がいたんですよね?」
「うーん、どうなんだろう? えっとね、多分他の子たちとも一緒に遊んでたんだよ。でもお父さんとお母さんみたいに仲良くしてた……ってわけじゃないかな?」
「なんだ、そうなのかい? アミィから初恋の話でも聞けるかと思ったんだけどねぇ」
「アミィ、カイムのこと好きだよ!」
「ではアミィちゃんの初恋はカイムさん、ということになるんでしょうか?」
「いやいやアミィ、早まったらいけないよ。それはあれだよ、卵から孵った雛鳥が最初に見た相手を親と認識しちまうようなもんさ。だからそうじゃないってあたしは思うね」
「フレイさん……大人げないかと」
「べべべ別にそういう意味じゃないからね⁈ あたしはただアミィが心配なだけで!」
「なにが心配なの?」
「色々とだよ!」
 何を言いたいのかわからなくて、困った顔をしていたらフレイはガッて取った瓶を口につけてゴクゴク喉を動かしていた。それを見たティエラが困ったように笑って、瓶がテーブルの上に置かれたのと同時に水の入ったコップを差し出した。
「ああでもアミィ、彼氏ができたんならあたしの前に連れてきな。どんな男かあたしがしーっかりと確認してあげるからさ」
「フレイさん、流石にそれは……確かにアミィちゃんに彼氏ができたとなるとわたしも心配になって相手の身辺調査するかもしれませんが」
「そうだろう⁈ だってこんなに可愛いんだよ⁈ 心配にもなるってもんだ! あたしが認めた男じゃないと嫌だね!」
「アミィちゃん、彼氏ができたらわたしの前にも連れてきてもらえます? わたしもしっかりと確かめたいので」
「え、えぇ……?」
 なんでそんなに二人が必死なのかわかんない。それに彼氏って確か好きな人だよね? アミィが好きなのはカイムなのに、ってもっと困っちゃう。カイムのこと調べるなんて、二人とも今一緒にいるから知ってるはずなのに。
 ズイズイ二人の顔が近付いてきて――フレイのほうはちょっとお酒臭い――どうしようって思っていたら。隣からすっごい声が聞こえてきてびっくりしすぎて目をぱっちり丸くした。
「……」
「……」
「……ま、あたしたちには関係ないさ。こっちは楽しく女子会しようじゃないの」
「触らぬ神に祟りなし、という言葉もあるようですし」
「そうそう」
 すごい声とすごい物音が聞こえてきてるんだけど。二人は様子を見に行くこともなく引き続きお菓子と飲み物を口に運んでる。
 アミィはすっごく心配で大丈夫かな、ってそわそわしてたんだけど。隣からクルエルダの気持ち悪い声が聞こえて行くのをやめた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

凡人がおまけ召喚されてしまった件

根鳥 泰造
ファンタジー
 勇者召喚に巻き込まれて、異世界にきてしまった祐介。最初は勇者の様に大切に扱われていたが、ごく普通の才能しかないので、冷遇されるようになり、ついには王宮から追い出される。  仕方なく冒険者登録することにしたが、この世界では希少なヒーラー適正を持っていた。一年掛けて治癒魔法を習得し、治癒剣士となると、引く手あまたに。しかも、彼は『強欲』という大罪スキルを持っていて、倒した敵のスキルを自分のものにできるのだ。  それらのお蔭で、才能は凡人でも、数多のスキルで能力を補い、熟練度は飛びぬけ、高難度クエストも熟せる有名冒険者となる。そして、裏では気配消去や不可視化スキルを活かして、暗殺という裏の仕事も始めた。  異世界に来て八年後、その暗殺依頼で、召喚勇者の暗殺を受けたのだが、それは祐介を捕まえるための罠だった。祐介が暗殺者になっていると知った勇者が、改心させよう企てたもので、その後は勇者一行に加わり、魔王討伐の旅に同行することに。  最初は脅され渋々同行していた祐介も、勇者や仲間の思いをしり、どんどん勇者が好きになり、勇者から告白までされる。  だが、魔王を討伐を成し遂げるも、魔王戦で勇者は祐介を庇い、障害者になる。  祐介は、勇者の嘘で、病院を作り、医師の道を歩みだすのだった。

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

友人(勇者)に恋人も幼馴染も取られたけど悔しくない。 だって俺は転生者だから。

石のやっさん
ファンタジー
パーティでお荷物扱いされていた魔法戦士のセレスは、とうとう勇者でありパーティーリーダーのリヒトにクビを宣告されてしまう。幼馴染も恋人も全部リヒトの物で、居場所がどこにもない状態だった。 だが、此の状態は彼にとっては『本当の幸せ』を掴む事に必要だった 何故なら、彼は『転生者』だから… 今度は違う切り口からのアプローチ。 追放の話しの一話は、前作とかなり似ていますが2話からは、かなり変わります。 こうご期待。

無能なので辞めさせていただきます!

サカキ カリイ
ファンタジー
ブラック商業ギルドにて、休みなく働き詰めだった自分。 マウントとる新人が入って来て、馬鹿にされだした。 えっ上司まで新人に同調してこちらに辞めろだって? 残業は無能の証拠、職務に時間が長くかかる分、 無駄に残業代払わせてるからお前を辞めさせたいって? はいはいわかりました。 辞めますよ。 退職後、困ったんですかね?さあ、知りませんねえ。 自分無能なんで、なんにもわかりませんから。 カクヨム、なろうにも同内容のものを時差投稿しております。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧民街の元娼婦に育てられた孤児は前世の記憶が蘇り底辺から成り上がり世界の救世主になる。

黒ハット
ファンタジー
【完結しました】捨て子だった主人公は、元貴族の側室で騙せれて娼婦だった女性に拾われて最下層階級の貧民街で育てられるが、13歳の時に崖から川に突き落とされて意識が無くなり。気が付くと前世の日本で物理学の研究生だった記憶が蘇り、周りの人たちの善意で底辺から抜け出し成り上がって世界の救世主と呼ばれる様になる。 この作品は小説書き始めた初期の作品で内容と書き方をリメイクして再投稿を始めました。感想、応援よろしくお願いいたします。

最低最悪の悪役令息に転生しましたが、神スキル構成を引き当てたので思うままに突き進みます! 〜何やら転生者の勇者から強いヘイトを買っている模様

コレゼン
ファンタジー
「おいおい、嘘だろ」  ある日、目が覚めて鏡を見ると俺はゲーム「ブレイス・オブ・ワールド」の公爵家三男の悪役令息グレイスに転生していた。  幸いにも「ブレイス・オブ・ワールド」は転生前にやりこんだゲームだった。  早速、どんなスキルを授かったのかとステータスを確認してみると―― 「超低確率の神スキル構成、コピースキルとスキル融合の組み合わせを神引きしてるじゃん!!」  やったね! この神スキル構成なら処刑エンドを回避して、かなり有利にゲーム世界を進めることができるはず。  一方で、別の転生者の勇者であり、元エリートで地方自治体の首長でもあったアルフレッドは、 「なんでモブキャラの悪役令息があんなに強力なスキルを複数持ってるんだ! しかも俺が目指してる国王エンドを邪魔するような行動ばかり取りやがって!!」  悪役令息のグレイスに対して日々不満を高まらせていた。  なんか俺、勇者のアルフレッドからものすごいヘイト買ってる?  でもまあ、勇者が最強なのは検証が進む前の攻略情報だから大丈夫っしょ。  というわけで、ゲーム知識と神スキル構成で思うままにこのゲーム世界を突き進んでいきます!

ママと中学生の僕

キムラエス
大衆娯楽
「ママと僕」は、中学生編、高校生編、大学生編の3部作で、本編は中学生編になります。ママは子供の時に両親を事故で亡くしており、結婚後に夫を病気で失い、身内として残された僕に精神的に依存をするようになる。幼少期の「僕」はそのママの依存が嬉しく、素敵なママに甘える閉鎖的な生活を当たり前のことと考える。成長し、性に目覚め始めた中学生の「僕」は自分の性もママとの日常の中で処理すべきものと疑わず、ママも戸惑いながらもママに甘える「僕」に満足する。ママも僕もそうした行為が少なからず社会規範に反していることは理解しているが、ママとの甘美な繋がりは解消できずに戸惑いながらも続く「ママと中学生の僕」の営みを描いてみました。

処理中です...