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117.因縁の対決③
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「アミィ、私たちの役目はわかっていますね?」
「うん――とにかく燃やす!」
「そうです。彼女がいる限り兵士は何度も立ち上がります。なので彼がやったように一気に燃やしたほうが早い。ということで」
クルエルダが言った瞬間アミィの周りにいる兵士たちが一斉に炎に襲われた。誰がやったかなんて、隣見たらすぐにわかる。手をかがけているクルエルダを見て、うん、って自分に言い聞かせるように強く頷いてアミィも同じように魔術を使う。
きっとこの人たちにも守りたいものがあって、帰りたい場所もあったかもしれない。でもそれもできなくて。なのにゆっくり休むことも許されなくて。可哀想だけど、でもきっとこれが一番いい手なんだって自分に言い聞かせて炎を出現させた。
「恐らく彼女はしばらく自ら動くことはないでしょうから、一先ずはこちらを片付けましょう」
「うん……!」
「我々は気にせず、ただ魔術を使うことに専念しますよ。まぁ、横からいきなり兵士が出てきても大丈夫でしょう」
「わぁっ⁈」
横からいきなりって言った瞬間、本当に横からいきなり兵士が出てきてびっくりした。びっくりしすぎて尻もちをつきそうになったんだけど、振り下ろされた剣はアミィに当たることはなかった。
「みなさんはわたしが守ります」
ティエラが張ってくれた防御壁がアミィを守ってくれた。ありがとう、ってお礼を言いながら周りを見てみると極力兵士がアミィたちに近付かないようにってウィルとフレイが頑張ってくれてる。
カイムがいてくれたらあっという間に終わるんだろうけど、カイムはまだあのヘンタイの相手をしていて大変そうだった。やっぱりここはアミィたちが頑張るしかない。
なるべく首にある媒体は使うなって前からずっと言われてる。だからルーファスからもらった媒体のついている本を使ってる。いつもやっているように媒体から精霊さんたちの力が流れ込んでいるのを感じて、自分の身体の中に循環させて魔術にして外に放つ。大きな炎はあっという間に辺りを焼き尽くすけど、その炎を見て綺麗だとは思えなかった。なんだか、すごく悲しい。
兵士たちの中心にいるまだ立っているだけのお姉さんは、そんな悲しいっていう気持ちもわかんないのかな。
「いくらでも兵士を操れるとはいえ、兵士の数には限りがありますからね」
「……! ちょっと、あれ見てみなよ」
クルエルダの話を聞きながら戦っていたフレイが、少し止まってどこかをジッと見ていた。一体どうしたんだろうって同じようにフレイが見ていた方向に目を向けてみる。
「あれは……!」
「アンタんとこだけじゃないみたいだよ」
イグニート国の兵士の人たちはすぐにわかる。身体がボロボロでも着ているものがみんな一緒だから。だからフレイが見ていたものはよく目立っていた。
どこをどう見ても、甲冑なんて着ていない普通の人。その人も兵士たちと同じようにボロボロの身体でゆっくりと歩いている。それだけじゃなくて、中には見覚えのあるものもあって目を丸くしてウィルのほうを見た。あれは確か前に、まだアミィたちを追いかけているウィルが身に着けていたものだ。
「っ……どこまで、死者を愚弄すれば気が済むんだッ……!」
「あれってもしかして、イグニート国の王に逆らった人たちなのかね。むごいことをするよ。王も、あの女も」
「どうしてそこまでするのっ? 酷いよっ……!」
この人たち、こんなことされるために生まれてきたわけじゃないのに。それなのに勝手に身体を使われて、よく見てみたら武器を持っているわけでもないのにこっちに襲いかかろうとしてる。この人たちが一体何をしたって言うんだろう。
ウィルがすごくつらそうな顔をして、自分と同じ甲冑を着ている人たちに剣を振り下ろしている。フレイが怒りながら武器も何も持っていない人たちに、アミィたちに攻撃する前にって先に鎖鎌を振ってる。奥のほうじゃお姉さんは平然とした顔をしていた。
「酷い……酷いよ……!」
「アミィ」
「っ、わかってるよっ」
クルエルダに言われなくったって。アミィたちがやることに変わりはないんだってわかってる。視界がじんわりとしてきたし、鼻の奥だってツンと痛い。でもそれでも我慢して、アミィは魔術を使った。
どうかどうか、この人たちがこれ以上苦しむことがないようにって。
「……ふーん、やはり魔術を扱える者がいたら数が減るのも早いか」
まるで飽きたからどうでもよくなってきた、みたいな反応していて流石にアミィもムカムカしてきた。お姉さんにもお姉さんなりの考えとかやり方があるかもしれない。もしかしたらこれからのことでお姉さんの言っていることが正しいこともあるかもしれない。
でも奪われたほうはどうなの? 好き勝手にされるほうはどうなの? 力が弱いほうが悪いの? 力が強い人が偉いの?
「やっぱりアミィ、納得できないよ!」
お姉さんの考えてること、イグニート国の王が考えてること。アミィはやっぱりそれに納得できないしいいとも思えない。その人たちが作ろうとしている国に住みたいとも思わない。
周りにいる操られている人たちの数が段々減ってきて、一本筋の道ができたことにウィルは見逃さなかった。
一気にお姉さんとの距離を縮めて剣を振りかざす。お姉さんに当たることはなかったけどウィルも諦めることはなかった。次の攻撃をして、そんなウィルに向かってきた兵士たちはフレイが振り払った。その間にもウィルはどんどん攻撃していくけど、それをお姉さんはヒラヒラ避けていく。
「君たちも気付いているんじゃないのかい?」
ウィルの剣を避けて、初めてお姉さんが攻撃魔術をアミィたちに使ってきた。いきなり目の前に降ってきた氷の塊に直撃しないように、クルエルダと一緒に炎の魔術を使って攻撃を防ぐ。
でもその炎は、アミィたちが思っている通りの大きさにはならなかった。少し残ってしまった氷はティエラが弾いてくれたけど、その様子を軽く溜め息を付きながら眺めていたお姉さんはお喋りを続ける。
「わかるだろう? 魔術の威力が下がってきている。どうやら精霊の力が随分と弱ってきたようだね」
「……ああ、そのようだな。だから」
「あたしたちのほうが有利ってわけさ!」
ウィルの後ろから飛び出したフレイが鎖鎌を振り上げる。攻撃は避けられたけど鎌についている鎖を器用に操ったフレイはそのままその鎖でお姉さんの動きを止めようとした。
でも一度は巻き付いた鎖だけど、お姉さんがすぐに転移魔術を使ったものだから逃げられちゃった。フレイは思いっきり舌打ちをして、転移魔術で現れたところに今度はクルエルダは魔術をぶつける。それも、お姉さんは自分の魔術で弾き飛ばした。
「魔術が使えなくなって困るのはアンタのほうだろ⁈ あたしは元より魔力量は少ないし影響も少ないってね!」
「物理攻撃をできる僕たちのほうが有利だ」
「……確かに、それもそうだ」
魔術を使うには精霊さんたちの力を借りなきゃいけない。それはお姉さんだって変わらない。そしてお姉さんだってアミィたちと同じように魔術の威力が弱まってきてるはず。
本当はそういうことって危ないこと、っていうか緊急事態? なんだろうけど。でも正直この状態だとある意味助かってる。アミィたちはさっきから魔術を使っているからもちろん疲れてくる。でもお姉さんは兵士たちを操っていてもそれでもまだ平然としていた。元の魔力量にすっごく差があるから、せめて魔術の威力だけでも差がないほうがいい。
それにこうなったらきっとウィルたちが言っていた通り物理攻撃のほうが有利なんだ。今までお姉さんが魔術以外での戦い方を見たことがなかったから、物理攻撃はできないんじゃないかな。魔力量が多い人ほど魔術に頼っているって言ってたし。
そんな期待をちょっとしていたんだけど、ずっと真顔でいたお姉さんが少しだけ笑った。
「確かに影響は私も受けている。でも君たちは忘れているよ――『赤』の自分の中に溜め込んでいる魔力量は君たちと比べてずっと違う」
ああもうやだ、向こうのほうでカイムが普通に魔術使ってたから見なかったことにしたかったのに。お姉さんが気付いていないわけがない。
お姉さんが腕を振るえばやっと数を減らしていた兵士がまた数を増やした。精霊さんたちの力が弱まっていても自分の中にある魔力で動かしているんだ。このままだといつまで経ってもお姉さんを止めることなんてできないし、カイムの加勢にも行けない。
きっとこのままじゃダメだ。考えて考えて考えて、アミィはウィルとフレイみたいに経験があるわけでもないしティエラとクルエルダみたいに色んなことをたくさん知ってるわけでもない。でも、それでも、みんなが今まで色々と教えてくれたことがあるから。
その中で、アミィにできることがあるはず。
「ねぇ!」
そう声をかけたのは魔術で兵士さんたちを倒していたクルエルダ。アミィの声に気付いてこっちを見たクルエルダは、アミィが何も言っていないのに何をやろうとしているのか気付いたみたい。お互いにしっかりと目を合わせて、頷きあった。
ティエラが心配そうにこっちを見てる。でも止めようとしてこないのはアミィを信じてるからって思ってる。いつも見守ってくれてありがとう、ティエラ。そう心の中でお礼を言ってこっちに手をかざしてきたクルエルダを真っ直ぐに見た。
「ん? 何をするつもりだい?」
「やって! クルエルダ!」
アミィの合図に、クルエルダが大きな炎を思いっきりアミィのほうに放ってきた。視界の端でお姉さんが目を大きくしてるのが見えたけど、それを気にすることなく自分の両手を突き出す。
「まさか同士討ちをするなんて。君もとうとう気が触れた――」
クルエルダの炎はアミィを身体を燃やすことはなかった。突き出した両手に炎が収まっていく。自分の中に魔術と魔力が入ってきたのを感じて、身体の中に循環して、溜め込んで、そして、放出する。
「えぇーい!」
放出された倍以上の炎は、周りにいた兵士たちを一斉に焼き尽くした。最初にカイムに教えてもらった、サブレ砂漠でやったこと。アミィの体質は特殊だから実験体にもされたけど、でも人の魔術を倍以上にして放出することができるのは今この場ですごく有利なはず。
クルエルダがアミィのこと心配することもなく大きな炎をぶつけてくれたから、周りに立っている兵士たちは一人もいなかった。
「……そういえば、聞いたことがあったな。作ろうとしていた『人間兵器』の特殊な体質のことを」
さっきまでつまらなさそうにしていたお姉さんの目が、アミィを見た時少しだけ輝いているように見えて思わず引いた。そういう目、よくクルエルダがやってたから嬉しいっていう気持ちはない。
「なるほどそうか、だから実験体か。ああ彼ではなくて私だったら君をより完璧なものに仕上げることができたというのに。残念だ。他の実験が入っていなかったら君ほどの人材を探し出せる時間も作ることができた……ああ、今はそれどころではないね」
今度は大きな竜巻がいくつも起こってそれが一斉にアミィたちに向かって襲いかかってくる。だからクルエルダに魔術を放ってもらって、さっきと同じように倍以上の威力にしてお姉さんの攻撃を防ぐ。
「けれど、いつまでその小さい身体は耐えきれるかな」
まだまだ余裕そうなお姉さんが、その身体の中に溜まってる魔術を使ってこっちに攻撃してくる。悔しいけど、お姉さんの言う通りだ。この方法だったらお姉さんに対抗できる。
でもすごく身体が重い。息も苦しくなってきた。自分でも無茶してるってのがよくわかる。アミィの首元で光ってる媒体を見て、お姉さんは薄っすら笑った。
「私の魔力を持って終わらせてあげ、よう……?」
「何を無駄なことに使っている」
両腕を広げて魔術を使おうとしていたお姉さんのお腹から、剣が突き抜けてきた。
「うん――とにかく燃やす!」
「そうです。彼女がいる限り兵士は何度も立ち上がります。なので彼がやったように一気に燃やしたほうが早い。ということで」
クルエルダが言った瞬間アミィの周りにいる兵士たちが一斉に炎に襲われた。誰がやったかなんて、隣見たらすぐにわかる。手をかがけているクルエルダを見て、うん、って自分に言い聞かせるように強く頷いてアミィも同じように魔術を使う。
きっとこの人たちにも守りたいものがあって、帰りたい場所もあったかもしれない。でもそれもできなくて。なのにゆっくり休むことも許されなくて。可哀想だけど、でもきっとこれが一番いい手なんだって自分に言い聞かせて炎を出現させた。
「恐らく彼女はしばらく自ら動くことはないでしょうから、一先ずはこちらを片付けましょう」
「うん……!」
「我々は気にせず、ただ魔術を使うことに専念しますよ。まぁ、横からいきなり兵士が出てきても大丈夫でしょう」
「わぁっ⁈」
横からいきなりって言った瞬間、本当に横からいきなり兵士が出てきてびっくりした。びっくりしすぎて尻もちをつきそうになったんだけど、振り下ろされた剣はアミィに当たることはなかった。
「みなさんはわたしが守ります」
ティエラが張ってくれた防御壁がアミィを守ってくれた。ありがとう、ってお礼を言いながら周りを見てみると極力兵士がアミィたちに近付かないようにってウィルとフレイが頑張ってくれてる。
カイムがいてくれたらあっという間に終わるんだろうけど、カイムはまだあのヘンタイの相手をしていて大変そうだった。やっぱりここはアミィたちが頑張るしかない。
なるべく首にある媒体は使うなって前からずっと言われてる。だからルーファスからもらった媒体のついている本を使ってる。いつもやっているように媒体から精霊さんたちの力が流れ込んでいるのを感じて、自分の身体の中に循環させて魔術にして外に放つ。大きな炎はあっという間に辺りを焼き尽くすけど、その炎を見て綺麗だとは思えなかった。なんだか、すごく悲しい。
兵士たちの中心にいるまだ立っているだけのお姉さんは、そんな悲しいっていう気持ちもわかんないのかな。
「いくらでも兵士を操れるとはいえ、兵士の数には限りがありますからね」
「……! ちょっと、あれ見てみなよ」
クルエルダの話を聞きながら戦っていたフレイが、少し止まってどこかをジッと見ていた。一体どうしたんだろうって同じようにフレイが見ていた方向に目を向けてみる。
「あれは……!」
「アンタんとこだけじゃないみたいだよ」
イグニート国の兵士の人たちはすぐにわかる。身体がボロボロでも着ているものがみんな一緒だから。だからフレイが見ていたものはよく目立っていた。
どこをどう見ても、甲冑なんて着ていない普通の人。その人も兵士たちと同じようにボロボロの身体でゆっくりと歩いている。それだけじゃなくて、中には見覚えのあるものもあって目を丸くしてウィルのほうを見た。あれは確か前に、まだアミィたちを追いかけているウィルが身に着けていたものだ。
「っ……どこまで、死者を愚弄すれば気が済むんだッ……!」
「あれってもしかして、イグニート国の王に逆らった人たちなのかね。むごいことをするよ。王も、あの女も」
「どうしてそこまでするのっ? 酷いよっ……!」
この人たち、こんなことされるために生まれてきたわけじゃないのに。それなのに勝手に身体を使われて、よく見てみたら武器を持っているわけでもないのにこっちに襲いかかろうとしてる。この人たちが一体何をしたって言うんだろう。
ウィルがすごくつらそうな顔をして、自分と同じ甲冑を着ている人たちに剣を振り下ろしている。フレイが怒りながら武器も何も持っていない人たちに、アミィたちに攻撃する前にって先に鎖鎌を振ってる。奥のほうじゃお姉さんは平然とした顔をしていた。
「酷い……酷いよ……!」
「アミィ」
「っ、わかってるよっ」
クルエルダに言われなくったって。アミィたちがやることに変わりはないんだってわかってる。視界がじんわりとしてきたし、鼻の奥だってツンと痛い。でもそれでも我慢して、アミィは魔術を使った。
どうかどうか、この人たちがこれ以上苦しむことがないようにって。
「……ふーん、やはり魔術を扱える者がいたら数が減るのも早いか」
まるで飽きたからどうでもよくなってきた、みたいな反応していて流石にアミィもムカムカしてきた。お姉さんにもお姉さんなりの考えとかやり方があるかもしれない。もしかしたらこれからのことでお姉さんの言っていることが正しいこともあるかもしれない。
でも奪われたほうはどうなの? 好き勝手にされるほうはどうなの? 力が弱いほうが悪いの? 力が強い人が偉いの?
「やっぱりアミィ、納得できないよ!」
お姉さんの考えてること、イグニート国の王が考えてること。アミィはやっぱりそれに納得できないしいいとも思えない。その人たちが作ろうとしている国に住みたいとも思わない。
周りにいる操られている人たちの数が段々減ってきて、一本筋の道ができたことにウィルは見逃さなかった。
一気にお姉さんとの距離を縮めて剣を振りかざす。お姉さんに当たることはなかったけどウィルも諦めることはなかった。次の攻撃をして、そんなウィルに向かってきた兵士たちはフレイが振り払った。その間にもウィルはどんどん攻撃していくけど、それをお姉さんはヒラヒラ避けていく。
「君たちも気付いているんじゃないのかい?」
ウィルの剣を避けて、初めてお姉さんが攻撃魔術をアミィたちに使ってきた。いきなり目の前に降ってきた氷の塊に直撃しないように、クルエルダと一緒に炎の魔術を使って攻撃を防ぐ。
でもその炎は、アミィたちが思っている通りの大きさにはならなかった。少し残ってしまった氷はティエラが弾いてくれたけど、その様子を軽く溜め息を付きながら眺めていたお姉さんはお喋りを続ける。
「わかるだろう? 魔術の威力が下がってきている。どうやら精霊の力が随分と弱ってきたようだね」
「……ああ、そのようだな。だから」
「あたしたちのほうが有利ってわけさ!」
ウィルの後ろから飛び出したフレイが鎖鎌を振り上げる。攻撃は避けられたけど鎌についている鎖を器用に操ったフレイはそのままその鎖でお姉さんの動きを止めようとした。
でも一度は巻き付いた鎖だけど、お姉さんがすぐに転移魔術を使ったものだから逃げられちゃった。フレイは思いっきり舌打ちをして、転移魔術で現れたところに今度はクルエルダは魔術をぶつける。それも、お姉さんは自分の魔術で弾き飛ばした。
「魔術が使えなくなって困るのはアンタのほうだろ⁈ あたしは元より魔力量は少ないし影響も少ないってね!」
「物理攻撃をできる僕たちのほうが有利だ」
「……確かに、それもそうだ」
魔術を使うには精霊さんたちの力を借りなきゃいけない。それはお姉さんだって変わらない。そしてお姉さんだってアミィたちと同じように魔術の威力が弱まってきてるはず。
本当はそういうことって危ないこと、っていうか緊急事態? なんだろうけど。でも正直この状態だとある意味助かってる。アミィたちはさっきから魔術を使っているからもちろん疲れてくる。でもお姉さんは兵士たちを操っていてもそれでもまだ平然としていた。元の魔力量にすっごく差があるから、せめて魔術の威力だけでも差がないほうがいい。
それにこうなったらきっとウィルたちが言っていた通り物理攻撃のほうが有利なんだ。今までお姉さんが魔術以外での戦い方を見たことがなかったから、物理攻撃はできないんじゃないかな。魔力量が多い人ほど魔術に頼っているって言ってたし。
そんな期待をちょっとしていたんだけど、ずっと真顔でいたお姉さんが少しだけ笑った。
「確かに影響は私も受けている。でも君たちは忘れているよ――『赤』の自分の中に溜め込んでいる魔力量は君たちと比べてずっと違う」
ああもうやだ、向こうのほうでカイムが普通に魔術使ってたから見なかったことにしたかったのに。お姉さんが気付いていないわけがない。
お姉さんが腕を振るえばやっと数を減らしていた兵士がまた数を増やした。精霊さんたちの力が弱まっていても自分の中にある魔力で動かしているんだ。このままだといつまで経ってもお姉さんを止めることなんてできないし、カイムの加勢にも行けない。
きっとこのままじゃダメだ。考えて考えて考えて、アミィはウィルとフレイみたいに経験があるわけでもないしティエラとクルエルダみたいに色んなことをたくさん知ってるわけでもない。でも、それでも、みんなが今まで色々と教えてくれたことがあるから。
その中で、アミィにできることがあるはず。
「ねぇ!」
そう声をかけたのは魔術で兵士さんたちを倒していたクルエルダ。アミィの声に気付いてこっちを見たクルエルダは、アミィが何も言っていないのに何をやろうとしているのか気付いたみたい。お互いにしっかりと目を合わせて、頷きあった。
ティエラが心配そうにこっちを見てる。でも止めようとしてこないのはアミィを信じてるからって思ってる。いつも見守ってくれてありがとう、ティエラ。そう心の中でお礼を言ってこっちに手をかざしてきたクルエルダを真っ直ぐに見た。
「ん? 何をするつもりだい?」
「やって! クルエルダ!」
アミィの合図に、クルエルダが大きな炎を思いっきりアミィのほうに放ってきた。視界の端でお姉さんが目を大きくしてるのが見えたけど、それを気にすることなく自分の両手を突き出す。
「まさか同士討ちをするなんて。君もとうとう気が触れた――」
クルエルダの炎はアミィを身体を燃やすことはなかった。突き出した両手に炎が収まっていく。自分の中に魔術と魔力が入ってきたのを感じて、身体の中に循環して、溜め込んで、そして、放出する。
「えぇーい!」
放出された倍以上の炎は、周りにいた兵士たちを一斉に焼き尽くした。最初にカイムに教えてもらった、サブレ砂漠でやったこと。アミィの体質は特殊だから実験体にもされたけど、でも人の魔術を倍以上にして放出することができるのは今この場ですごく有利なはず。
クルエルダがアミィのこと心配することもなく大きな炎をぶつけてくれたから、周りに立っている兵士たちは一人もいなかった。
「……そういえば、聞いたことがあったな。作ろうとしていた『人間兵器』の特殊な体質のことを」
さっきまでつまらなさそうにしていたお姉さんの目が、アミィを見た時少しだけ輝いているように見えて思わず引いた。そういう目、よくクルエルダがやってたから嬉しいっていう気持ちはない。
「なるほどそうか、だから実験体か。ああ彼ではなくて私だったら君をより完璧なものに仕上げることができたというのに。残念だ。他の実験が入っていなかったら君ほどの人材を探し出せる時間も作ることができた……ああ、今はそれどころではないね」
今度は大きな竜巻がいくつも起こってそれが一斉にアミィたちに向かって襲いかかってくる。だからクルエルダに魔術を放ってもらって、さっきと同じように倍以上の威力にしてお姉さんの攻撃を防ぐ。
「けれど、いつまでその小さい身体は耐えきれるかな」
まだまだ余裕そうなお姉さんが、その身体の中に溜まってる魔術を使ってこっちに攻撃してくる。悔しいけど、お姉さんの言う通りだ。この方法だったらお姉さんに対抗できる。
でもすごく身体が重い。息も苦しくなってきた。自分でも無茶してるってのがよくわかる。アミィの首元で光ってる媒体を見て、お姉さんは薄っすら笑った。
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