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108.ハルシオン①
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ラピス教会に戻ればしっかりと迎え入れる準備がされていた。どれほどジェネシス書館にいたかはわからないがアミィが眠くなるぐらいだ、それなりの時間が経っていたようで辺りはすっかりと暗くなっている。
テーブルの上に広がっていた飯を平らげ、それぞれが割り当てられた部屋へと入っていく。普段慣れないことをしたヤツは寝入るのも早かっただろうし、まぁ一人ぐらいは未だ興奮して起きたままかもしれないがそれはもう気にすることなくさっさと寝ることにした。
翌日部屋から出ればこれはまた朝食が準備されていた。各地で異変が起きていることからこれから食糧難の問題が発生する可能性がある、だから俺たちに使うよりも自分たちの備蓄に回せばいいものの。と思っていたがここは『教会』と呼ばれているところだ。自分たちよりもまず誰かへの施しが優先されている。それは教会の決まりだから、というわけでもなく教会に在籍している人間たちの考えだった。
「さて、みんなお腹は満たされたかな? そう離れていないとはいえ空腹での転移魔術は酔っちゃう子は酔っちゃうだろうからね。万全の状態でいないとね」
「やっぱりあれって酔うのが普通なんだね……」
「慣れればそうでもありませんけどね」
俺たちが集められたのは以前アミィが結界を張った場所。神父の説明に確実に自分は酔うと思っているフレイはすでに顔色を悪くし、そんなフレイに対してエルダは平然としている。
俺も特に転移魔術に酔うことはないが、もしかしたらこれも魔力量に比例しているのかもしれない。アミィとエルダは今のところ平然としているし、ウィルとティエラも今は慣れた様子だ。この中で一番魔力量が少ないフレイが今のところ一番酔っている。
なら俺も魔力のない状態だったら酔うんじゃねぇかって思うところはあるが、エルダも言っていた通りそこは慣れなんだろう。
「さて……ハルシオンに女神様の手掛かりがあることを願っているよ」
そう言って神父は手をかざし、術式を展開させる。身体に術が纏わりつき引っ張られるような感覚。最後に目にした神父の表情は心配そうだったものの、どこか真剣なものでもあった。
「うっ……」
「フレイ、大丈夫?」
「あ、ああ、うん、大丈夫だよ……気持ち悪いってことは、無事に転移したってことだよね?」
声がしたほうに視線を向ければ顔を真っ青にして口元を手で押さえているフレイの姿と、そんなフレイの背中を撫でてやっているアミィの姿。これ、前にも船で移動していた時に見たことがある光景だなとついウィルたちに視線を向けた。
フレイも言っていた通り、無事に移動することはできたようだ。今のところ俺たち以外からの視線も感じない。本当にあの教会は神父が言っていたようにしっかりとした結界が施されていたようだ。神父でも魔術を使えば今のイグニート国の王に場所を突き止められる可能性があるが、まぁそっちのほうも大丈夫だろうと顔を上げる。
「……なんだか、随分と寂しい場所ですね」
「ああ……ここが、ハルシオン……なのか……?」
ティエラとウィルが困惑するのもわからないわけでもない。辺りを見渡してみると、どこもかしこも雑草だらけ。建物もないわけではないが、破壊されて朽ちてボロボロになっている。所々に蔦も巻き付いていてより一層侘しさを醸し出していた。
「カイム、アンタここにいたんだろ? こういう場所だったのかい?」
若干酔いから復活したフレイにそう問いかけられたが、軽く肩を上げた。
「さぁな。俺がいた場所は多分島の端のほうだ。ガキだったからそこまで広範囲で動いてなかった」
「ふむ……ここは居住区だった、という感じでしょうかね。滅ぼされていますけど」
「こら! アンタはもうちょい気を遣うってことができないのかい⁈」
「おや、事実を口にしたまでですが」
「アンタは黙ってな!」
いつもの二人がギャーギャー言っているのを視界の端に入れつつ、ざっと周りを見渡してみる。ガキの頃は周りは結構草木が生えていていい言い方をすれば自然で溢れていた。今は魔力を封じているし当時もその自覚がなかったからわからなかったが、多分飯をそう食えない状態でも身体を保てることができる程度の力は満ちていたんだろう。
今はこうして見ただけでも、この地にあったはずの力はほぼないと言ってもいいだろう。自然はそこまで溢れていない、家は朽ち建物に巻き付いている蔦もただの紐状だ。本当にここが女神の居場所なのかと思うほど、見れば見るほど長い間ずっと放置されていたと言わんばかりの寂れ具合だ。
「……取りあえず、手掛かりを探すか」
「そうだな。僕はあっちを見てくるよ」
「わたしはこの周辺を探してみますね。小さくても手掛かりはあるかもしれません」
「アミィも頑張るね!」
ウィルたちもまだまだ言い争っている二人をスルーすることに決めたらしい。それぞれが探す場所を決め行動に移す。俺たちの様子に気付いてようやく喧嘩をやめた二人は俺たちを見習うかのように、いそいそと別の場所へと足を進めた。
それぞれが散らばって探すことになったが、改めてこの島のことあんまりわかっていなかったんだなということを自覚した。ガキの頃は本当に、水があって雨宿りできる場所からそう動いてはいなかった。こうして改めて見てみると、自分が思っていた以上にこの場所は広い。
取りあえずはと目星をつけて足を進める。太陽の位置からして多分あの辺りだろう、と向かった先は俺がガキの頃にいた場所。あの頃と比べて草木は随分と枯れてしまっていて十年でこんなにも変わるもんなのかと思ったのと反面、その十年の間に自分がしでかしたことを考えるとこうなるのも当然なのかもしれないとも思い顔を歪める。
百五十年前に女神が姿を消してから各地で異変がかなり起こったんだろうが、他の精霊たちの力でようやく保つことができた状態の中で再び穢れが広がるようなことをやった。ここに女神が隠れていたとしても、流石に人間に愛想尽かしたんじゃないんだろうか。
「……ここか」
少しだけ、見覚えのある景色のところに辿り着いた。地形的には恐らく、俺がガキの時にいた場所はここだ。雨宿りができそうなほんの小さな出っ張りがある。近くに川があって、草は……昔ほど生えてはいなかったが近くにあった枯れた木は俺がよく虫を取っていたやつだろう。
「ちっせぇな」
自分がいた世界が。生きていくのに必死になっていた世界が、今ではこんなにも小さく感じる。だがこの小さい場所があの時の俺にとってはすべてだった。
足を進め川を覗き見てみる。水かさが減っていて昔ほど綺麗に澄んでいない。なんとか流れだけはある、と言った具合だ。顔を上げて辺りを見渡してみるも、草木が枯れたぐらいで他に大きな変化は見当たらない。流石にこんな辺鄙な場所に手掛かりはないかとその場所から背を向け遠ざかった。もう二度と、あの小さい世界には帰らないだろう。
「カイムー!」
行ったことのない場所に行ってみるかと歩いていたところ、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。何か見つけたのかそれともただ単純に迷子になったのか。取りあえず行ってみるかと進む方向を変えて声のほうへと歩き出す。
少し歩けば俺の姿を見つけたアミィがパッと顔を上げて、小さい身体をでかく見せるために両腕をブンブン大きく左右に振って俺を呼んでいた。
「なんだ、迷子か」
「迷子じゃないよ! あっち! 気のせいかもしれないけど、あっちのほうにね、ちょっとキラキラしてるものが見えた気がしたの」
そう言ってアミィが指差した方向は寂れた場所から少し離れている場所だった。そっちの方向にはまだ誰も行っていない。遠目からの確認だが一応道らしきものはしっかりとあるようだ。
それと、アミィは精霊の力を若干ではあるが目視ができる。遺跡の浄化の時はそれがかなり役に立ったことを思い出し、アミィの言っていたその「キラキラ」のほうに向かって歩き出した。
「キラキラしてる! って思ったけど、でも、もしかしたらお日様の光りでキラキラしてただけかも……」
人を大声で呼び付けておきながら、なんで段々自信なさげに声が小さくなるんだと少しだけ息を吐き出す。
「けど向こうはまだ行ってねぇからな。行って無駄にはならねぇだろ」
「……! うん!」
俺が歩けば後ろから小さい歩幅でちょこちょこと付いてくる。流石にこんな寂れた場所、元の姿に戻って魔術を使わない限り居場所が知れることもないだろう。だから周囲を警戒することもなく足を進める。神父が言っていた通りこの場所はすでに滅ぼされている。出てくるとしたら野生の動物がもしくは恨みが形になったモノか。
「……ねぇ、カイム」
「なんだ」
「この場所、なんだかすごく寂しいね……あちこち見てるとね、なんだか悲しくなってくるの」
それは今まで荒廃した場所に行ったことがないからだろう、とは思ったが。さっきも言ったがアミィの目はいい。アミィにしか見えない何かがあるのかもしれない。だがそれを言われたところで同情心なんてものは残念ながら湧いてこない。
そもそも俺はここでなんとか生き長らえていたが、ここで生まれたわけでもないしいい思い出があるっていうわけでもない。他のヤツとは違って生まれ育った場所に対する愛着というものが、俺にはわからない。
「……? なんだ、あれは」
薄っすらと残っている道を辿るように歩いた先には開けた場所だった。他のところよりも整備されていた証拠が薄っすらと残っている。中心には石碑のようなものがあり、近付いてよくよく見てみると掠れてはいるが文字が刻まれているのがわかった。
「エルダかティエラを呼んだほうがよさそうだな」
この手に強い二人にさっさと来てもらおうとガジェットで狼煙を上げる。これだと何かあったのだと他のヤツらも気付いてこっちに向かってくるはずだ。
「うん……う~ん……あっ!」
「今度はなんだ」
「ちょっとだけ! ちょっとだけキラッてした! あ、キラッっていうよりも、キ……ぐらいだけど!」
「取りあえず少し精霊の力が見えた、ってことだな」
「そう!」
だいぶ年相応になったとはいえ、語彙力についてはもう少しあったほうがいいなと必死に訴えかけているアミィを見ながらしみじみと思ってしまった。
テーブルの上に広がっていた飯を平らげ、それぞれが割り当てられた部屋へと入っていく。普段慣れないことをしたヤツは寝入るのも早かっただろうし、まぁ一人ぐらいは未だ興奮して起きたままかもしれないがそれはもう気にすることなくさっさと寝ることにした。
翌日部屋から出ればこれはまた朝食が準備されていた。各地で異変が起きていることからこれから食糧難の問題が発生する可能性がある、だから俺たちに使うよりも自分たちの備蓄に回せばいいものの。と思っていたがここは『教会』と呼ばれているところだ。自分たちよりもまず誰かへの施しが優先されている。それは教会の決まりだから、というわけでもなく教会に在籍している人間たちの考えだった。
「さて、みんなお腹は満たされたかな? そう離れていないとはいえ空腹での転移魔術は酔っちゃう子は酔っちゃうだろうからね。万全の状態でいないとね」
「やっぱりあれって酔うのが普通なんだね……」
「慣れればそうでもありませんけどね」
俺たちが集められたのは以前アミィが結界を張った場所。神父の説明に確実に自分は酔うと思っているフレイはすでに顔色を悪くし、そんなフレイに対してエルダは平然としている。
俺も特に転移魔術に酔うことはないが、もしかしたらこれも魔力量に比例しているのかもしれない。アミィとエルダは今のところ平然としているし、ウィルとティエラも今は慣れた様子だ。この中で一番魔力量が少ないフレイが今のところ一番酔っている。
なら俺も魔力のない状態だったら酔うんじゃねぇかって思うところはあるが、エルダも言っていた通りそこは慣れなんだろう。
「さて……ハルシオンに女神様の手掛かりがあることを願っているよ」
そう言って神父は手をかざし、術式を展開させる。身体に術が纏わりつき引っ張られるような感覚。最後に目にした神父の表情は心配そうだったものの、どこか真剣なものでもあった。
「うっ……」
「フレイ、大丈夫?」
「あ、ああ、うん、大丈夫だよ……気持ち悪いってことは、無事に転移したってことだよね?」
声がしたほうに視線を向ければ顔を真っ青にして口元を手で押さえているフレイの姿と、そんなフレイの背中を撫でてやっているアミィの姿。これ、前にも船で移動していた時に見たことがある光景だなとついウィルたちに視線を向けた。
フレイも言っていた通り、無事に移動することはできたようだ。今のところ俺たち以外からの視線も感じない。本当にあの教会は神父が言っていたようにしっかりとした結界が施されていたようだ。神父でも魔術を使えば今のイグニート国の王に場所を突き止められる可能性があるが、まぁそっちのほうも大丈夫だろうと顔を上げる。
「……なんだか、随分と寂しい場所ですね」
「ああ……ここが、ハルシオン……なのか……?」
ティエラとウィルが困惑するのもわからないわけでもない。辺りを見渡してみると、どこもかしこも雑草だらけ。建物もないわけではないが、破壊されて朽ちてボロボロになっている。所々に蔦も巻き付いていてより一層侘しさを醸し出していた。
「カイム、アンタここにいたんだろ? こういう場所だったのかい?」
若干酔いから復活したフレイにそう問いかけられたが、軽く肩を上げた。
「さぁな。俺がいた場所は多分島の端のほうだ。ガキだったからそこまで広範囲で動いてなかった」
「ふむ……ここは居住区だった、という感じでしょうかね。滅ぼされていますけど」
「こら! アンタはもうちょい気を遣うってことができないのかい⁈」
「おや、事実を口にしたまでですが」
「アンタは黙ってな!」
いつもの二人がギャーギャー言っているのを視界の端に入れつつ、ざっと周りを見渡してみる。ガキの頃は周りは結構草木が生えていていい言い方をすれば自然で溢れていた。今は魔力を封じているし当時もその自覚がなかったからわからなかったが、多分飯をそう食えない状態でも身体を保てることができる程度の力は満ちていたんだろう。
今はこうして見ただけでも、この地にあったはずの力はほぼないと言ってもいいだろう。自然はそこまで溢れていない、家は朽ち建物に巻き付いている蔦もただの紐状だ。本当にここが女神の居場所なのかと思うほど、見れば見るほど長い間ずっと放置されていたと言わんばかりの寂れ具合だ。
「……取りあえず、手掛かりを探すか」
「そうだな。僕はあっちを見てくるよ」
「わたしはこの周辺を探してみますね。小さくても手掛かりはあるかもしれません」
「アミィも頑張るね!」
ウィルたちもまだまだ言い争っている二人をスルーすることに決めたらしい。それぞれが探す場所を決め行動に移す。俺たちの様子に気付いてようやく喧嘩をやめた二人は俺たちを見習うかのように、いそいそと別の場所へと足を進めた。
それぞれが散らばって探すことになったが、改めてこの島のことあんまりわかっていなかったんだなということを自覚した。ガキの頃は本当に、水があって雨宿りできる場所からそう動いてはいなかった。こうして改めて見てみると、自分が思っていた以上にこの場所は広い。
取りあえずはと目星をつけて足を進める。太陽の位置からして多分あの辺りだろう、と向かった先は俺がガキの頃にいた場所。あの頃と比べて草木は随分と枯れてしまっていて十年でこんなにも変わるもんなのかと思ったのと反面、その十年の間に自分がしでかしたことを考えるとこうなるのも当然なのかもしれないとも思い顔を歪める。
百五十年前に女神が姿を消してから各地で異変がかなり起こったんだろうが、他の精霊たちの力でようやく保つことができた状態の中で再び穢れが広がるようなことをやった。ここに女神が隠れていたとしても、流石に人間に愛想尽かしたんじゃないんだろうか。
「……ここか」
少しだけ、見覚えのある景色のところに辿り着いた。地形的には恐らく、俺がガキの時にいた場所はここだ。雨宿りができそうなほんの小さな出っ張りがある。近くに川があって、草は……昔ほど生えてはいなかったが近くにあった枯れた木は俺がよく虫を取っていたやつだろう。
「ちっせぇな」
自分がいた世界が。生きていくのに必死になっていた世界が、今ではこんなにも小さく感じる。だがこの小さい場所があの時の俺にとってはすべてだった。
足を進め川を覗き見てみる。水かさが減っていて昔ほど綺麗に澄んでいない。なんとか流れだけはある、と言った具合だ。顔を上げて辺りを見渡してみるも、草木が枯れたぐらいで他に大きな変化は見当たらない。流石にこんな辺鄙な場所に手掛かりはないかとその場所から背を向け遠ざかった。もう二度と、あの小さい世界には帰らないだろう。
「カイムー!」
行ったことのない場所に行ってみるかと歩いていたところ、遠くから俺を呼ぶ声が聞こえた。何か見つけたのかそれともただ単純に迷子になったのか。取りあえず行ってみるかと進む方向を変えて声のほうへと歩き出す。
少し歩けば俺の姿を見つけたアミィがパッと顔を上げて、小さい身体をでかく見せるために両腕をブンブン大きく左右に振って俺を呼んでいた。
「なんだ、迷子か」
「迷子じゃないよ! あっち! 気のせいかもしれないけど、あっちのほうにね、ちょっとキラキラしてるものが見えた気がしたの」
そう言ってアミィが指差した方向は寂れた場所から少し離れている場所だった。そっちの方向にはまだ誰も行っていない。遠目からの確認だが一応道らしきものはしっかりとあるようだ。
それと、アミィは精霊の力を若干ではあるが目視ができる。遺跡の浄化の時はそれがかなり役に立ったことを思い出し、アミィの言っていたその「キラキラ」のほうに向かって歩き出した。
「キラキラしてる! って思ったけど、でも、もしかしたらお日様の光りでキラキラしてただけかも……」
人を大声で呼び付けておきながら、なんで段々自信なさげに声が小さくなるんだと少しだけ息を吐き出す。
「けど向こうはまだ行ってねぇからな。行って無駄にはならねぇだろ」
「……! うん!」
俺が歩けば後ろから小さい歩幅でちょこちょこと付いてくる。流石にこんな寂れた場所、元の姿に戻って魔術を使わない限り居場所が知れることもないだろう。だから周囲を警戒することもなく足を進める。神父が言っていた通りこの場所はすでに滅ぼされている。出てくるとしたら野生の動物がもしくは恨みが形になったモノか。
「……ねぇ、カイム」
「なんだ」
「この場所、なんだかすごく寂しいね……あちこち見てるとね、なんだか悲しくなってくるの」
それは今まで荒廃した場所に行ったことがないからだろう、とは思ったが。さっきも言ったがアミィの目はいい。アミィにしか見えない何かがあるのかもしれない。だがそれを言われたところで同情心なんてものは残念ながら湧いてこない。
そもそも俺はここでなんとか生き長らえていたが、ここで生まれたわけでもないしいい思い出があるっていうわけでもない。他のヤツとは違って生まれ育った場所に対する愛着というものが、俺にはわからない。
「……? なんだ、あれは」
薄っすらと残っている道を辿るように歩いた先には開けた場所だった。他のところよりも整備されていた証拠が薄っすらと残っている。中心には石碑のようなものがあり、近付いてよくよく見てみると掠れてはいるが文字が刻まれているのがわかった。
「エルダかティエラを呼んだほうがよさそうだな」
この手に強い二人にさっさと来てもらおうとガジェットで狼煙を上げる。これだと何かあったのだと他のヤツらも気付いてこっちに向かってくるはずだ。
「うん……う~ん……あっ!」
「今度はなんだ」
「ちょっとだけ! ちょっとだけキラッてした! あ、キラッっていうよりも、キ……ぐらいだけど!」
「取りあえず少し精霊の力が見えた、ってことだな」
「そう!」
だいぶ年相応になったとはいえ、語彙力についてはもう少しあったほうがいいなと必死に訴えかけているアミィを見ながらしみじみと思ってしまった。
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