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82.べーチェル国上空
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しっかりと整備されているセリカだが、たまに修理するところが出てくる。頭が随分前から使っているというのもあるが、ほとんどがラファーガの連中が酔っ払った拍子に壊したり普通に喧嘩して壊したりするからだ。頭に言われて修理した箇所は酔っ払った時にぶつかりでもしたんだろう、部品の一部がポッキリと綺麗に折れていた。別にセリカが飛ぶ分には問題ないが、折れたところで誰かが怪我をする可能性がある。身長が低いヤツなら下手したら顔に当たる。
セリカから飛び出す前はあちこち修理するのが日常だった。あれからどれくらい経ったかはわからないが、周囲のヤツらから「久しぶり」って言われるぐらいだからそれぐらい経ったんだろう。あんまり実感がない。
飛空艇が気になって一応邪魔にならない程度でうろちょろしてるアミィ、ティエラはエミリアと意気投合したらしくフレイと一緒によく喋っている。ウィルは酔わない程度にラファーガの連中の手伝いをしているようだ。エルダは媒体をしつこく眺めては注意されている。
それぞれがセリカの中で過ごしているが、ベーチェル国の上空に辿り着くまでそんなに時間はかからない。セリカが減速したのは自然とそれぞれが集まった時だった。
「あれだな」
甲板に出て目の前の景色に注目する。べーチェル国上空に複数の竜巻。確かにいくつかは徐々に下まで伸び、あと数日経ったら大地に到達するだろう。そうなるとべーチェル国の被害は大きくなる。
「あれが竜巻? カイム、このお船近付いても大丈夫? 巻き込まれたりしない?」
「ああ、セリカの馬力はかなりあるからな。こんだけ近付いても別に風に引っ張られちゃいねぇだろ」
「……本当だ!」
初めて飛空船だからか実際どういうものかちゃんとわかっていなかったアミィはずっと巻き込まれる心配をしていたのか。あからさまにホッとした様子を目の端に入れつつ、セリカは徐々に竜巻との距離を縮める。
わりと目と鼻の先まで来たがそれでもセリカは引き寄せられることなく現状を維持している。風が強くなる中、空中で淡い光がパッと浮かんだかと思えばそこからシルフが現れた。
『そうそうこれこれ! これがあればボクも少しは力が戻るよ!』
「そうか、なら行ってこい」
サラマンダーの時も投げ入れたが、シルフも容赦なく掴み取り竜巻の中に放り投げてやった。
『ちょっとーッ⁈ 精霊相手にどんな扱いしてるのさッ⁈』
『いいからさっさと行ってこんか。あとはお主だけだ』
『いってらっしゃい、シルフ』
『少しでも竜巻が収まるといいな』
『誰もボクの心配してないじゃんッ!』
精霊の中でもシルフが一番うるさいが、そんなうるささも竜巻に巻き込まれてしまえばすぐに静かになる。
しばらく待ってみれば竜巻は数を減らし、威力も弱まり徐々に縮小されていく。それと同時にシルフの姿が見えるようになったがやっぱり完璧に抑えるのは無理のようだ。だがこれで地上に被害が及ぶことはなくなりそうだ。これで取りあえず一段落と考えていいだろう。
『ふっふっふ、ちょっと見てよボクの羽。少しは大きくなったでしょ?』
「……はぁ?」
『ちょ、さっきからボクの扱い酷くない⁈ ちょっとは大きくなってんの力と比例してちゃんと変わってんの! もっとちゃんと見て!』
「これで一通りは終わったと思ってもいいのだろうか」
「まぁ目立つ異変は少しはマシになってきたけど、次はこれからどうするかだね」
『君たちまでボクを無視する気⁈ 信じられないッ』
別にウィルもフレイも故意にってわけじゃないだろうが、それよりもこの次のほうが大事だということをわかっているから無意識にシルフを無視した形になってしまったんだろう。これに関してはシルフ以外で誰かが咎めるなんてことはない。
だが二人の言う通り、これからだ。精霊たちがそれぞれ各地で起こっている異変を逆手に取ってそれぞれ力を戻しつつあるものの、完璧というわけでもない。正直ただの時間稼ぎにしかすぎない。やっぱり根本的な解決をするには、女神を探すしかない。
けどその女神の手掛かりを精霊たちもわからないと言う。そもそも姿を消した瞬間どこに行ったかわからないとか、その時点で精霊としてどうかと思うところだ。
手掛かりを見つけなきゃならないわけだが、その手掛かりをどうやって探すかも問題だ。どう考えても行き詰まっている。自然と考え込むようにそれぞれが口を閉ざし沈黙が流れているところ、少し離れたところから声が聞こえ視線がそっちに向かう。
「取りあえずお前ら、そんなとこで突っ立ってないで中に入ってから考えたらどうだ?」
腹も減っただろ、と頭が付け加えた言葉に、タイミングよくアミィの腹から情けない音が響き渡る。視線が頭からアミィに移り、その場にいたヤツらの視線を一斉に受けたアミィは恥ずかしそうに腹を押さえてゴニョゴニョ言っていた。ティエラとフレイは小さく笑い、アミィの背中を軽く押しつつ船の中へと歩き出した。
「しかし精霊っていうのはああいう感じなのか」
船の中にある食堂に集まりそれぞれが軽食を口にする。相変わらずアミィの前には甘ったるいデザートが置かれていた。どうもこういう年頃には周りは色々と食わせたがるらしい。アミィもアミィで次々に腹の中に入れていくもんだから、だから太るんだなと口には出さずに頭の中で思うだけにした。
「そういや精霊って人間全員に見えてるもんなのか」
頭の言葉にふと疑問に思ったことを口に出せば、空中にポンポン精霊たちが姿を現した。
『信仰心があればみんな見えるよ。ただ昔に比べてそういう人間は結構減ったんじゃない?』
『貴方方といることにより親和性が高まっています。今他の人の子が私たちの姿が見えるのはその恩恵に預かっている、という状態でしょうか』
『ただ見えているだけだ、言葉などはわからないだろうな』
「頭、声は聞こえてんのか?」
「声? 喋ってたのか」
飯を食いながらそう言った頭に、なるほど精霊たちの言うようにただ姿が見えるだけなんだなと水を喉に流し込む。アミィたちが精霊の姿が見聞きできるようになったのは、その存在を認知しそして精霊のために動いていたからだろう。
「っていうか、やっぱ異変を完璧に抑えることはできねぇんだな」
『暴走を制御するにはまた力が必要。圧倒的に俺たちの力が足りていない。だから異変も抑えることもできない。こうも人間の信仰心が薄れていることに正直驚いている』
女神もいねぇし信仰心もない、もう随分前から精霊たちにとっては詰んでいる状態だったというわけか。その暴走を制御するための力も徐々に減っていき今に至る。各地に起こった異変は正直精霊のせいじゃなくて人間のせいなんだろう。
そもそもなんでそこまで信仰心も薄れていったのか。精霊がいなければ魔術も使えない。ガジェットも魔力がない人間が使えるようにしただけで、魔術を使える人間が魔力を込めなければ使えない。自分たちが生きる上で精霊という存在は重要だというのに。
「ところでカイム、君ブレスレットはどうしたんだ?」
考えを巡らせているとそんな声が横から聞こえ、視線を上げる。ウィルの目が俺の腕に向かっていた。ああ、と相槌を返し俺も同じように自分の手首に目を向ける。新しいガジェットは着けたもののあのブレスレットはそこにはない。そもそもあれはイザナギから貰ったものでそのへんにあるもんじゃない。取りに行くにはまた最果ての島に行く必要がある。
ふよふよと浮いていた精霊たちも俺の手首を見てきた。俺以外の連中は変わらず着けている。
『それって一種の依代にもなってんだよね~。だからこうしてボクたちは小さい姿でも君たちのついて回ることができるんだけど』
まぁ穢れを狭い範囲とはいえ浄化できていた代物だ、向こうに渡るのは駄目だろうとあのクソ野郎に捕まる前に引き千切ったわけだが。どうやらいい判断だったようだ。
『それがあるからボクたちの声もしっかりと聞き取れてるんじゃない?』
つまり親和性も高まりそれを補助するアイテムがあるため、こうもはっきりと精霊たちとの会話ができて成り立っているということか。イザナギも随分と便利なアイテムをくれたなと思ったが、さっきから頭のどこかにあった疑問がどんどんでかくなってくる。
最近の人間じゃ精霊たちを可視化できない、声を聞くこともできない。アミィたちは今までの経緯があったから見えるし会話ができる。なら。
「ねぇねぇ精霊さん。カイム、ブレスレットないのに精霊さんたちの声聞こえてるよ。なんで?」
『それはカイムが――』
「頭! 緊急事態です!」
フレイが腰につけているガジェットが反応したのと奥のほうからそういう声が聞こえたのはほぼ同時だった。席を立ったフレイと入れ違うようにでかい声を出したヤツがバタバタと走ってくる。
セリカにそういう知らせが入ってくることはあんまりない。ミストラル国の王からの依頼があるなら事前にしっかりと連絡が入るし頭も打ち合わせをしている。緊急事態の連絡が入ってきたとなると――それなりのことが起きたということだ。アミィたち以外、ラファーガの連中たちの顔には緊張が走りさっきまでリラックスしていた頭の顔も一瞬だけ険しくなる。
「おう、どうした」
「そ、それが……ミストラル国に、敵襲とのことです……!」
「何……?」
「敵は……イグニート国の兵士だと!」
「こっちにも連絡があったよ!」
席を外したフレイが戻ってくる。同じようにバタバタと急いで戻ってきてはいたが、知らせてきたヤツに比べてフレイのほうは冷静だ。
「フエンテにも連絡が入った、ということは……ミストラル国に属しているすべての義賊に連絡が行ったと考えてよさそうだな」
それなら、ミストラル国に敵襲があったというのは事実。その相手がイグニート国っていうことも。
「方角は?」
「そ、それが、南からではなく北西のほうからのようです!」
「イグニート国の連中がどうやってあの荒波を越えて来たってんだ」
「襲撃するなら南からだと思っていたが」
ラファーガの連中がそう口々にするように、イグニート国の兵士たちが北から襲いかかってくるということはあまり考えられていなかった。北にはウンディーネの加護がある湖があり、よそ者はあそこに足を踏み入れることはできない。迂回してミストラル国に辿り着くことはできるが、そもそもリヴィエール大陸とフェルド大陸は陸続きじゃない。
移動するには海を越えてくるしかないが、大量の兵士があの荒波を越えられるような技術があの国にあるとは思えない。全員が魔術を扱えるのであればそれぞれが浮くなり転移魔術を使えばいいが、それだとミストラル国に到着するまでに疲弊する。
「とにかくだ、急いでミストラル国に帰還するぞ。いいな!」
頭の言葉にそれぞれが返事しセリカの中は一気に慌ただしくなる。フレイはセリカに乗るために船と部下たちを置いてきている。だからか急いで部下たちに勝手に動くなとガジェットで指示を飛ばしていた。
「まさかミストラル国に襲撃するとは……イグニート国にそこまでの兵力が残っているとは思えない」
バプティスタ国の騎士としてイグニート国の兵士の状況を誰よりも知っているんだろう。確かにずっとバプティスタ国と戦っていたイグニート国が、今更攻めにくいミストラル国を襲撃するとは何かあると考えてもいい。
ともあれまずはミストラル国に戻ることが何よりも先決だと、ラファーガの連中と同じように俺もまたセリカのスピードが飛ばせるように持ち場に移動し作業に移った。
セリカから飛び出す前はあちこち修理するのが日常だった。あれからどれくらい経ったかはわからないが、周囲のヤツらから「久しぶり」って言われるぐらいだからそれぐらい経ったんだろう。あんまり実感がない。
飛空艇が気になって一応邪魔にならない程度でうろちょろしてるアミィ、ティエラはエミリアと意気投合したらしくフレイと一緒によく喋っている。ウィルは酔わない程度にラファーガの連中の手伝いをしているようだ。エルダは媒体をしつこく眺めては注意されている。
それぞれがセリカの中で過ごしているが、ベーチェル国の上空に辿り着くまでそんなに時間はかからない。セリカが減速したのは自然とそれぞれが集まった時だった。
「あれだな」
甲板に出て目の前の景色に注目する。べーチェル国上空に複数の竜巻。確かにいくつかは徐々に下まで伸び、あと数日経ったら大地に到達するだろう。そうなるとべーチェル国の被害は大きくなる。
「あれが竜巻? カイム、このお船近付いても大丈夫? 巻き込まれたりしない?」
「ああ、セリカの馬力はかなりあるからな。こんだけ近付いても別に風に引っ張られちゃいねぇだろ」
「……本当だ!」
初めて飛空船だからか実際どういうものかちゃんとわかっていなかったアミィはずっと巻き込まれる心配をしていたのか。あからさまにホッとした様子を目の端に入れつつ、セリカは徐々に竜巻との距離を縮める。
わりと目と鼻の先まで来たがそれでもセリカは引き寄せられることなく現状を維持している。風が強くなる中、空中で淡い光がパッと浮かんだかと思えばそこからシルフが現れた。
『そうそうこれこれ! これがあればボクも少しは力が戻るよ!』
「そうか、なら行ってこい」
サラマンダーの時も投げ入れたが、シルフも容赦なく掴み取り竜巻の中に放り投げてやった。
『ちょっとーッ⁈ 精霊相手にどんな扱いしてるのさッ⁈』
『いいからさっさと行ってこんか。あとはお主だけだ』
『いってらっしゃい、シルフ』
『少しでも竜巻が収まるといいな』
『誰もボクの心配してないじゃんッ!』
精霊の中でもシルフが一番うるさいが、そんなうるささも竜巻に巻き込まれてしまえばすぐに静かになる。
しばらく待ってみれば竜巻は数を減らし、威力も弱まり徐々に縮小されていく。それと同時にシルフの姿が見えるようになったがやっぱり完璧に抑えるのは無理のようだ。だがこれで地上に被害が及ぶことはなくなりそうだ。これで取りあえず一段落と考えていいだろう。
『ふっふっふ、ちょっと見てよボクの羽。少しは大きくなったでしょ?』
「……はぁ?」
『ちょ、さっきからボクの扱い酷くない⁈ ちょっとは大きくなってんの力と比例してちゃんと変わってんの! もっとちゃんと見て!』
「これで一通りは終わったと思ってもいいのだろうか」
「まぁ目立つ異変は少しはマシになってきたけど、次はこれからどうするかだね」
『君たちまでボクを無視する気⁈ 信じられないッ』
別にウィルもフレイも故意にってわけじゃないだろうが、それよりもこの次のほうが大事だということをわかっているから無意識にシルフを無視した形になってしまったんだろう。これに関してはシルフ以外で誰かが咎めるなんてことはない。
だが二人の言う通り、これからだ。精霊たちがそれぞれ各地で起こっている異変を逆手に取ってそれぞれ力を戻しつつあるものの、完璧というわけでもない。正直ただの時間稼ぎにしかすぎない。やっぱり根本的な解決をするには、女神を探すしかない。
けどその女神の手掛かりを精霊たちもわからないと言う。そもそも姿を消した瞬間どこに行ったかわからないとか、その時点で精霊としてどうかと思うところだ。
手掛かりを見つけなきゃならないわけだが、その手掛かりをどうやって探すかも問題だ。どう考えても行き詰まっている。自然と考え込むようにそれぞれが口を閉ざし沈黙が流れているところ、少し離れたところから声が聞こえ視線がそっちに向かう。
「取りあえずお前ら、そんなとこで突っ立ってないで中に入ってから考えたらどうだ?」
腹も減っただろ、と頭が付け加えた言葉に、タイミングよくアミィの腹から情けない音が響き渡る。視線が頭からアミィに移り、その場にいたヤツらの視線を一斉に受けたアミィは恥ずかしそうに腹を押さえてゴニョゴニョ言っていた。ティエラとフレイは小さく笑い、アミィの背中を軽く押しつつ船の中へと歩き出した。
「しかし精霊っていうのはああいう感じなのか」
船の中にある食堂に集まりそれぞれが軽食を口にする。相変わらずアミィの前には甘ったるいデザートが置かれていた。どうもこういう年頃には周りは色々と食わせたがるらしい。アミィもアミィで次々に腹の中に入れていくもんだから、だから太るんだなと口には出さずに頭の中で思うだけにした。
「そういや精霊って人間全員に見えてるもんなのか」
頭の言葉にふと疑問に思ったことを口に出せば、空中にポンポン精霊たちが姿を現した。
『信仰心があればみんな見えるよ。ただ昔に比べてそういう人間は結構減ったんじゃない?』
『貴方方といることにより親和性が高まっています。今他の人の子が私たちの姿が見えるのはその恩恵に預かっている、という状態でしょうか』
『ただ見えているだけだ、言葉などはわからないだろうな』
「頭、声は聞こえてんのか?」
「声? 喋ってたのか」
飯を食いながらそう言った頭に、なるほど精霊たちの言うようにただ姿が見えるだけなんだなと水を喉に流し込む。アミィたちが精霊の姿が見聞きできるようになったのは、その存在を認知しそして精霊のために動いていたからだろう。
「っていうか、やっぱ異変を完璧に抑えることはできねぇんだな」
『暴走を制御するにはまた力が必要。圧倒的に俺たちの力が足りていない。だから異変も抑えることもできない。こうも人間の信仰心が薄れていることに正直驚いている』
女神もいねぇし信仰心もない、もう随分前から精霊たちにとっては詰んでいる状態だったというわけか。その暴走を制御するための力も徐々に減っていき今に至る。各地に起こった異変は正直精霊のせいじゃなくて人間のせいなんだろう。
そもそもなんでそこまで信仰心も薄れていったのか。精霊がいなければ魔術も使えない。ガジェットも魔力がない人間が使えるようにしただけで、魔術を使える人間が魔力を込めなければ使えない。自分たちが生きる上で精霊という存在は重要だというのに。
「ところでカイム、君ブレスレットはどうしたんだ?」
考えを巡らせているとそんな声が横から聞こえ、視線を上げる。ウィルの目が俺の腕に向かっていた。ああ、と相槌を返し俺も同じように自分の手首に目を向ける。新しいガジェットは着けたもののあのブレスレットはそこにはない。そもそもあれはイザナギから貰ったものでそのへんにあるもんじゃない。取りに行くにはまた最果ての島に行く必要がある。
ふよふよと浮いていた精霊たちも俺の手首を見てきた。俺以外の連中は変わらず着けている。
『それって一種の依代にもなってんだよね~。だからこうしてボクたちは小さい姿でも君たちのついて回ることができるんだけど』
まぁ穢れを狭い範囲とはいえ浄化できていた代物だ、向こうに渡るのは駄目だろうとあのクソ野郎に捕まる前に引き千切ったわけだが。どうやらいい判断だったようだ。
『それがあるからボクたちの声もしっかりと聞き取れてるんじゃない?』
つまり親和性も高まりそれを補助するアイテムがあるため、こうもはっきりと精霊たちとの会話ができて成り立っているということか。イザナギも随分と便利なアイテムをくれたなと思ったが、さっきから頭のどこかにあった疑問がどんどんでかくなってくる。
最近の人間じゃ精霊たちを可視化できない、声を聞くこともできない。アミィたちは今までの経緯があったから見えるし会話ができる。なら。
「ねぇねぇ精霊さん。カイム、ブレスレットないのに精霊さんたちの声聞こえてるよ。なんで?」
『それはカイムが――』
「頭! 緊急事態です!」
フレイが腰につけているガジェットが反応したのと奥のほうからそういう声が聞こえたのはほぼ同時だった。席を立ったフレイと入れ違うようにでかい声を出したヤツがバタバタと走ってくる。
セリカにそういう知らせが入ってくることはあんまりない。ミストラル国の王からの依頼があるなら事前にしっかりと連絡が入るし頭も打ち合わせをしている。緊急事態の連絡が入ってきたとなると――それなりのことが起きたということだ。アミィたち以外、ラファーガの連中たちの顔には緊張が走りさっきまでリラックスしていた頭の顔も一瞬だけ険しくなる。
「おう、どうした」
「そ、それが……ミストラル国に、敵襲とのことです……!」
「何……?」
「敵は……イグニート国の兵士だと!」
「こっちにも連絡があったよ!」
席を外したフレイが戻ってくる。同じようにバタバタと急いで戻ってきてはいたが、知らせてきたヤツに比べてフレイのほうは冷静だ。
「フエンテにも連絡が入った、ということは……ミストラル国に属しているすべての義賊に連絡が行ったと考えてよさそうだな」
それなら、ミストラル国に敵襲があったというのは事実。その相手がイグニート国っていうことも。
「方角は?」
「そ、それが、南からではなく北西のほうからのようです!」
「イグニート国の連中がどうやってあの荒波を越えて来たってんだ」
「襲撃するなら南からだと思っていたが」
ラファーガの連中がそう口々にするように、イグニート国の兵士たちが北から襲いかかってくるということはあまり考えられていなかった。北にはウンディーネの加護がある湖があり、よそ者はあそこに足を踏み入れることはできない。迂回してミストラル国に辿り着くことはできるが、そもそもリヴィエール大陸とフェルド大陸は陸続きじゃない。
移動するには海を越えてくるしかないが、大量の兵士があの荒波を越えられるような技術があの国にあるとは思えない。全員が魔術を扱えるのであればそれぞれが浮くなり転移魔術を使えばいいが、それだとミストラル国に到着するまでに疲弊する。
「とにかくだ、急いでミストラル国に帰還するぞ。いいな!」
頭の言葉にそれぞれが返事しセリカの中は一気に慌ただしくなる。フレイはセリカに乗るために船と部下たちを置いてきている。だからか急いで部下たちに勝手に動くなとガジェットで指示を飛ばしていた。
「まさかミストラル国に襲撃するとは……イグニート国にそこまでの兵力が残っているとは思えない」
バプティスタ国の騎士としてイグニート国の兵士の状況を誰よりも知っているんだろう。確かにずっとバプティスタ国と戦っていたイグニート国が、今更攻めにくいミストラル国を襲撃するとは何かあると考えてもいい。
ともあれまずはミストラル国に戻ることが何よりも先決だと、ラファーガの連中と同じように俺もまたセリカのスピードが飛ばせるように持ち場に移動し作業に移った。
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