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75.次の目的地
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「あっ!」
サブレ砂漠から抜け、それぞれが服に付いている土埃を払ってる時だった。ウィルは報告しに少し離れた場所にいるが、そんな中フレイの声はよく響いた。
「あっ、あっ、そうだよ思い出した!」
「なんだよ」
思い出すだけで随分騒がしいなと思ったのと同時に、この場でそんな大声出すほどのことだったのかと視線を向ける。まだ足に砂を付けているフレイはそれを払うのも忘れ、空中のどこかに焦点を当てながら言葉を続けた。
「海! 海だよ!」
「はぁ? 海がどうした」
「すっかり忘れてた! 航海中にさ、海で大きな渦潮があったんだ!」
それがなんなんだとそれぞれが首を傾げる。報告に行っていたウィルも騒ぎに気付いたのか目を丸めながらこっちに戻ってきた。
「渦潮って、そりゃ海にはあるもんじゃねぇの」
「そうだけど、だけど言っただろう? 大きなって。そこ、数年前にはそんなもんなかったのさ。普通の穏やかな海だったんだ」
「……! フレイさん、それってもしかして!」
「そう! 火山やここの砂漠みたいに、その海も精霊の力が弱まったからこそできた異変なんじゃないかって思ってさ!」
デフェール火山やサブレ砂漠と違って他の二つじゃ見られる異変はなかった。ただウィンドシア大陸は大地が揺れたことがあったが、それはウィンドシア大陸に限った話じゃなかった。だからここが終われば次はどこに行くか、その話になるところでのフレイの情報だ。
「ふむ、その可能性は大きいですね。ですが、今まで忘れていたんですか? こんな各地で異変が起きてるのに?」
「わ、悪かったね。忘れてて……でも場所はしっかり覚えてるよ!」
「どこだ?」
「リヴィエール大陸の北東だ」
ウンディーネが加護するリヴィエール大陸に近い、ということは間違いなさそうだ。次の行き先が決まり、なら早速フレイの船で――と思ったが。
渦潮といえば海賊たちはその危険さからして誰も近寄らない。ただウンディーネをそこに放り込むとなれば船で傍に寄らなければならない。フレイの船は前にウンディーネの加護を受けたが、ノームがこの砂嵐を完璧に抑えることができなかったように果たして船が無事に渦潮まで近付くことができるのか。
「……ウンディーネ」
『なんでしょう、人の子よ』
「フレイの船でその渦潮に近付くことはできるのか?」
小さい姿で現れたウンディーネにそう問い出してみる。精霊は嘘をつくようなもんじゃない、寧ろ真実のみを口にする。
そんな精霊が開けようとしていた口を止め、ゆっくりと、そそそと俺たちから視線を逸した。
「……ウンディーネ? ポンポン痛いの?」
「おや、行けないようですね」
「えぇ⁈ あたしの船でも無理なのかい⁈」
「ウンディーネの力が弱まってるからだろ」
口で言わずともその行動でありありとわかってしまった。今のウンディーネの加護だとフレイの船でも行けないようだ。
『うぅ……申し訳ございません、人の子よ……私の力が弱くなってしまったばかりに……』
『そもそも人間が大地を穢したせいだけどね~』
『こら、シルフ!』
シルフの言い分は最もだが、ウンディーネがそうシルフを窘めるとちっさい姿がフッと消えた。
次の目的地は決まったのに、今度は行く方法がない。転移魔術を使っても海上だと着地した瞬間に全員海の中だ。魔術で浮かせることができないわけでもないが、すぐにでも発動しないと渦潮に巻き込まれる。
「……フレイ、今船のガジェットと媒体はどうなってる?」
「え? 前にラファーガに助けられてその後に変えた時以来、そのまんまだけど?」
なるほど、と少しだけ考えを巡らせて口を開く。
「媒体はともあれ、ガジェットならランク上のヤツと変えれるんじゃねぇのか?」
フレイの船を助けたのはもう数年前だ、その年数だけでもガジェットは進歩している。性能が上がった分それなりに金もかかるが、ここで指を咥えて待っているわけにもいかない。事情を知らせれば多少なりともミストラル国の王も援助はしてくれるだろう。
それをフレイに大まかに説明すると早速ミストラル国の王に連絡を取りに行った。まぁフレイは海賊とはいえお宝探しが中心であって、義賊として動いた時は貧しい人間たちに取り分を分けていたから大金持ちになるほど稼いでいるっていうわけでもない。それは他の義賊にも言えたことだが。
するとだ、なぜか袖を引かれなんだと視線を下げる。こうして俺の袖を引くのは一人しかいない。
「ねぇカイム、媒体のほうは変えることはできないの?」
「あー……まぁな」
「媒体のほうはとても貴重なんですよ、アミィちゃん」
「そうなの?」
「はい」
そういえ媒体とガジェットの違いと特徴は説明したものの、そういった面は一度も話していなかったなと思い出す。ティエラはアミィと視線が合うように同じ目の高さになるまで身を屈めた。
「ガジェットはべーチェル国が発明、開発しておりますが、媒体は各国がスピリアル島に制作を頼んでいるんです」
「そう、なの?」
「はい。精霊の力を変換し魔術として放出する。そのための機能を特別な石に刻んでいて、それをできるのがスピリアル島にいる研究者たちです。もちろん各国それぞれ技術者が被らないよう、自分たちが信頼できる人に頼んでいます」
ちなみにその媒体は国から支給されていて一人一個は持つようになっている。それはどんな目の色だろうと関係ないらしい。大体が国から支給されたものを親から子に与え、誕生日プレゼントと称して渡すのが定番になっているとかラファーガのヤツらが言っていた。
「それじゃ媒体はガジェットみたいにたくさん作れないってこと?」
「今の段階では難しいですね。そもそも数を増やしても、精霊の力が弱まっていますから……」
「あ……そっか」
「いいってよ!」
随分と明るい声で戻ってきたフレイは同様に表情も明るいものだった。ミストラル国の王が費用を多少出してくれることになったんだろう。
「それじゃ次の行き先はべーチェル国ですか。いやはや、あちこち行ったり来たりで大変ですよ」
「仕方がないだろう、あちこちで異変は起きているし精霊が加護しているのだから」
ぶつくさ言い出したエルダにウィルが肩を叩いて労っているが、それならここに置いて行ってもいいだろと思わないわけでもない。べーチェル国に行ったあとはリヴィエール大陸に行くことになる。その途中でバプティスタ国周辺に待機してもらって拾っていけばいい。
「え、嫌ですよ」
「我儘だなテメェは」
「貴方が元の姿に戻った時どうするんですか。研究のチャンスを失うようなもんですよ?」
「それじゃ黙ってついてこい」
取りあえず、コイツの口はあとで布か何かで塞いでいいかもしれない。もしくはフレイに相手を任せようと近くの港に停めているフレイの船へと向かう。
「新しく取り付けるガジェットだが、先に船を見てもらわねぇとな」
「そうだよねぇ。別にべーチェル国の職人を疑ってるわけじゃないけどさ、やっぱ大切な船だからその間あたしずっと見ててもいいかな」
「いいんじゃねぇの。職人なら俺も少しは伝手あるし融通も利くだろ」
移動中そんな会話をしつつ、港に辿り着き船に乗り込めばフレイは早速部下たちに説明をしていた。ただ長年ずっと乗り続けていた船だからか、ガジェットを変えるためとはいえ一時期でも誰かの手に渡るのはいい気はしないらしい。そこは我慢してもらうしかない。
なんならこのままこの船であの大渦に巻き込まれるか、と一言付け足せば誰もが口を閉じた。実際渦潮を見たフレイの部下は流石にこのままだと無謀だとわかっている。
「カイム、ガジェット変えるのって時間かかる?」
「まぁ……船はでけぇしそれに伴ってガジェットもでけぇからな。すぐにってわけにはいかねぇかもな」
「そしたらさ! その間ライラさんに会い行ったらダメかな?」
「うーん、アミィ、彼女も忙しい身だからすぐには会えないかもしれないね」
「そっかぁ……ライラさんに会いたかったなぁ」
俺にとってはそもそも誰だそいつ、という感じなわけで。顔を上げれば視線が合ったウィルが「タクティクス山脈にいた彼女だよ」と説明してきた。ああ、あの女団長、とようやく合点する。いつの間にやらそんなに仲が良くなったことやら。
サブレ砂漠から抜け、それぞれが服に付いている土埃を払ってる時だった。ウィルは報告しに少し離れた場所にいるが、そんな中フレイの声はよく響いた。
「あっ、あっ、そうだよ思い出した!」
「なんだよ」
思い出すだけで随分騒がしいなと思ったのと同時に、この場でそんな大声出すほどのことだったのかと視線を向ける。まだ足に砂を付けているフレイはそれを払うのも忘れ、空中のどこかに焦点を当てながら言葉を続けた。
「海! 海だよ!」
「はぁ? 海がどうした」
「すっかり忘れてた! 航海中にさ、海で大きな渦潮があったんだ!」
それがなんなんだとそれぞれが首を傾げる。報告に行っていたウィルも騒ぎに気付いたのか目を丸めながらこっちに戻ってきた。
「渦潮って、そりゃ海にはあるもんじゃねぇの」
「そうだけど、だけど言っただろう? 大きなって。そこ、数年前にはそんなもんなかったのさ。普通の穏やかな海だったんだ」
「……! フレイさん、それってもしかして!」
「そう! 火山やここの砂漠みたいに、その海も精霊の力が弱まったからこそできた異変なんじゃないかって思ってさ!」
デフェール火山やサブレ砂漠と違って他の二つじゃ見られる異変はなかった。ただウィンドシア大陸は大地が揺れたことがあったが、それはウィンドシア大陸に限った話じゃなかった。だからここが終われば次はどこに行くか、その話になるところでのフレイの情報だ。
「ふむ、その可能性は大きいですね。ですが、今まで忘れていたんですか? こんな各地で異変が起きてるのに?」
「わ、悪かったね。忘れてて……でも場所はしっかり覚えてるよ!」
「どこだ?」
「リヴィエール大陸の北東だ」
ウンディーネが加護するリヴィエール大陸に近い、ということは間違いなさそうだ。次の行き先が決まり、なら早速フレイの船で――と思ったが。
渦潮といえば海賊たちはその危険さからして誰も近寄らない。ただウンディーネをそこに放り込むとなれば船で傍に寄らなければならない。フレイの船は前にウンディーネの加護を受けたが、ノームがこの砂嵐を完璧に抑えることができなかったように果たして船が無事に渦潮まで近付くことができるのか。
「……ウンディーネ」
『なんでしょう、人の子よ』
「フレイの船でその渦潮に近付くことはできるのか?」
小さい姿で現れたウンディーネにそう問い出してみる。精霊は嘘をつくようなもんじゃない、寧ろ真実のみを口にする。
そんな精霊が開けようとしていた口を止め、ゆっくりと、そそそと俺たちから視線を逸した。
「……ウンディーネ? ポンポン痛いの?」
「おや、行けないようですね」
「えぇ⁈ あたしの船でも無理なのかい⁈」
「ウンディーネの力が弱まってるからだろ」
口で言わずともその行動でありありとわかってしまった。今のウンディーネの加護だとフレイの船でも行けないようだ。
『うぅ……申し訳ございません、人の子よ……私の力が弱くなってしまったばかりに……』
『そもそも人間が大地を穢したせいだけどね~』
『こら、シルフ!』
シルフの言い分は最もだが、ウンディーネがそうシルフを窘めるとちっさい姿がフッと消えた。
次の目的地は決まったのに、今度は行く方法がない。転移魔術を使っても海上だと着地した瞬間に全員海の中だ。魔術で浮かせることができないわけでもないが、すぐにでも発動しないと渦潮に巻き込まれる。
「……フレイ、今船のガジェットと媒体はどうなってる?」
「え? 前にラファーガに助けられてその後に変えた時以来、そのまんまだけど?」
なるほど、と少しだけ考えを巡らせて口を開く。
「媒体はともあれ、ガジェットならランク上のヤツと変えれるんじゃねぇのか?」
フレイの船を助けたのはもう数年前だ、その年数だけでもガジェットは進歩している。性能が上がった分それなりに金もかかるが、ここで指を咥えて待っているわけにもいかない。事情を知らせれば多少なりともミストラル国の王も援助はしてくれるだろう。
それをフレイに大まかに説明すると早速ミストラル国の王に連絡を取りに行った。まぁフレイは海賊とはいえお宝探しが中心であって、義賊として動いた時は貧しい人間たちに取り分を分けていたから大金持ちになるほど稼いでいるっていうわけでもない。それは他の義賊にも言えたことだが。
するとだ、なぜか袖を引かれなんだと視線を下げる。こうして俺の袖を引くのは一人しかいない。
「ねぇカイム、媒体のほうは変えることはできないの?」
「あー……まぁな」
「媒体のほうはとても貴重なんですよ、アミィちゃん」
「そうなの?」
「はい」
そういえ媒体とガジェットの違いと特徴は説明したものの、そういった面は一度も話していなかったなと思い出す。ティエラはアミィと視線が合うように同じ目の高さになるまで身を屈めた。
「ガジェットはべーチェル国が発明、開発しておりますが、媒体は各国がスピリアル島に制作を頼んでいるんです」
「そう、なの?」
「はい。精霊の力を変換し魔術として放出する。そのための機能を特別な石に刻んでいて、それをできるのがスピリアル島にいる研究者たちです。もちろん各国それぞれ技術者が被らないよう、自分たちが信頼できる人に頼んでいます」
ちなみにその媒体は国から支給されていて一人一個は持つようになっている。それはどんな目の色だろうと関係ないらしい。大体が国から支給されたものを親から子に与え、誕生日プレゼントと称して渡すのが定番になっているとかラファーガのヤツらが言っていた。
「それじゃ媒体はガジェットみたいにたくさん作れないってこと?」
「今の段階では難しいですね。そもそも数を増やしても、精霊の力が弱まっていますから……」
「あ……そっか」
「いいってよ!」
随分と明るい声で戻ってきたフレイは同様に表情も明るいものだった。ミストラル国の王が費用を多少出してくれることになったんだろう。
「それじゃ次の行き先はべーチェル国ですか。いやはや、あちこち行ったり来たりで大変ですよ」
「仕方がないだろう、あちこちで異変は起きているし精霊が加護しているのだから」
ぶつくさ言い出したエルダにウィルが肩を叩いて労っているが、それならここに置いて行ってもいいだろと思わないわけでもない。べーチェル国に行ったあとはリヴィエール大陸に行くことになる。その途中でバプティスタ国周辺に待機してもらって拾っていけばいい。
「え、嫌ですよ」
「我儘だなテメェは」
「貴方が元の姿に戻った時どうするんですか。研究のチャンスを失うようなもんですよ?」
「それじゃ黙ってついてこい」
取りあえず、コイツの口はあとで布か何かで塞いでいいかもしれない。もしくはフレイに相手を任せようと近くの港に停めているフレイの船へと向かう。
「新しく取り付けるガジェットだが、先に船を見てもらわねぇとな」
「そうだよねぇ。別にべーチェル国の職人を疑ってるわけじゃないけどさ、やっぱ大切な船だからその間あたしずっと見ててもいいかな」
「いいんじゃねぇの。職人なら俺も少しは伝手あるし融通も利くだろ」
移動中そんな会話をしつつ、港に辿り着き船に乗り込めばフレイは早速部下たちに説明をしていた。ただ長年ずっと乗り続けていた船だからか、ガジェットを変えるためとはいえ一時期でも誰かの手に渡るのはいい気はしないらしい。そこは我慢してもらうしかない。
なんならこのままこの船であの大渦に巻き込まれるか、と一言付け足せば誰もが口を閉じた。実際渦潮を見たフレイの部下は流石にこのままだと無謀だとわかっている。
「カイム、ガジェット変えるのって時間かかる?」
「まぁ……船はでけぇしそれに伴ってガジェットもでけぇからな。すぐにってわけにはいかねぇかもな」
「そしたらさ! その間ライラさんに会い行ったらダメかな?」
「うーん、アミィ、彼女も忙しい身だからすぐには会えないかもしれないね」
「そっかぁ……ライラさんに会いたかったなぁ」
俺にとってはそもそも誰だそいつ、という感じなわけで。顔を上げれば視線が合ったウィルが「タクティクス山脈にいた彼女だよ」と説明してきた。ああ、あの女団長、とようやく合点する。いつの間にやらそんなに仲が良くなったことやら。
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