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61.直面①
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アミィにしがみつけられながらもなんとかべーチェル国に辿り着いたものの、報告は先にしておいたものの一応待機しておいてくれとのことで監視付きで宿に泊まることになった。治癒魔術をティエラやあとで合流した俺が使ったものの、そのティエラは随分と疲れているし他も同様だ。見張りの騎士から休んだらどうだという言葉で他のヤツらは素直にその言葉を聞き入れた。
一方で、俺はどうやっても『人間兵器』なわけで。他のヤツらに比べて監視の人数も多い。部屋の中に見張りが二人、部屋の外にも二人。そして宿の外にも何人かいるはず。こんな中で休めるかよと思いつつも、俺は別にそこまで疲れているわけでもなかったためただベッドの上に横になっているだけだった。
そして翌日、俺たちを呼びに来たのは例の女騎士だった。向こうも要塞に襲撃を喰らったためその件でごたついたんだろう。一応それを片してから次の問題となる俺たちを呼びに来たようだ。
「王が謁見を許可した。今から登城してもらおう」
「連行でか」
「ああ、無論だ」
べーチェル国に来た時と同様、騎士に囲まれながらの登城かと小さく息を吐きだす。まぁそこまで厳重にしなきゃならない理由が向こうにはある。それについてこっちもとやかく言う筋合いはない。
女騎士の登場で各部屋に泊まってたヤツらがのっそりのっそりと顔を出す。一日で取れる疲労じゃなかったらしい。アミィは相変わらず寝ぼけ眼だし、めずらしかったのがウィルが寝癖をそのままにして現れたことだ。いつもきっちりしている騎士様がめずらしいと小さく口角を上げてやれば、少し不貞腐れた顔をして紙を撫でつけていた。
「まだ疲れているところ悪いな」
「いいえ、ライラさんを含む他の騎士様たちもお疲れのところわざわざすみません」
「謁見が終わればまた休むといい」
そんな女子の会話を聞きつつ、再び夢の中に行きそうになっているアミィの頬を軽くペチペチと叩き起こしてやる。ちなみに隈を下げているエルダはフレイがしっかりと首根っこを掴んで運んでいた。運び方がかなり雑だがそこは突っ込まずにいよう。
そうして騎士に囲まれ城へと連行された俺たちは真っ先に謁見の間に通された。俺はここまで入り込むのはこれが初めてだが、恐らくアミィたちは先に来たんだろう。眠さもあるだろうがあの好奇心旺盛なアミィが大人しいところを見るとそうなんだろうなと確信する。
開かれたでかくきらびやかな扉の向こうで、一人の人間が王座に座っているのが見えた。べーチェル国の王が女だということを俺は知っている。特に驚くことなく、俺たちは王の前まで辿り着いた。
「ほう、そのガジェットが爆発することはなかったか」
「はい! アミィちゃんと約束守りました!」
「そのようだな」
意外にも、少しだけ目元を緩ませた王は次に俺に視線を向ける。表情はアミィに向けていたものとは違い、王として圧を感じるものだ。
「『それが』、そうか」
「はっ」
「……報告通り、自身の魔力を封じることができるようだな」
明らかな『モノ扱い』に難色を示した俺――ではなく、周りにいたヤツらだった。俺としてはそういう扱いは今更のためそこまで気にすることはない。他の、特に立場が上の人間からしたら『人間兵器』はそういう扱いになる。ミストラル国の王が少しおかしいだけだ。
「べーチェル国の王、アミィは貴女との約束を果たした。彼女に足に着けられているガジェットを取ってもらえないだろうか」
どうやらここでの交渉役はウィルらしい。そういうことならと余計なことを話さずに少しだけ身を引く。
「要塞の襲撃を受けたが、それを撃退。結界の強化もしっかりと行ったようだな」
「はい!」
「そしてその結界の更なる強化を其奴が行ったと」
王の視線がちらりと俺のほうに向く。今回襲撃は喰らったものの騎士の損害もなく、ベーチェル国にとって不利益はなかったはず。これで文句を言うようならそれはただのやっかみだ。
一度言葉を止めたべーチェル国の王だったが、俺たちがここに来るまで熟考していたのか再び口を開いた。
「ミストラル国の王からも報告が来ている。監視している十年間、殺戮行為を一度たりとも起こさなかったと。にわかに信じがたいがな」
だがその姿ならば多少ならば納得できると更に続けた。
「この国の者はほとんど身体に蓄積できる魔力量が少ない。よって差別はない平等な関係などと世界は言いながら、結局魔力を持っている者たちから虐げられている。魔術を扱えないことがどれだけ自分たちを卑下させるか、痛いほどわかっている」
女騎士が普段変えない表情を若干歪め、後ろからは小さく息を呑む音が聞こえた。方向的に恐らくティエラだ。
「だからこそわからぬ。持っていた者がそれを失うその障害が。魔術を扱う者にとってはそれは息をすることと同義であろう。そのままであればお前はまた同じような行動を起こすことは可能であっただろうに」
王が短く息を吐き、近くに控えていた人間から小さなガジェットを受け取る。それを起動させれば半透明の液晶が浮かび上がりそれをまじまじと見ていた。恐らくあれがミストラル国の王から来た報告なんだろう。半透明のためこっち側からでもそこに字がびっしりと書かれているのが見える。
一つ指を動かすとその液晶もスッと消える。持っていたガジェットを再び側近に持たせ、王は俺たちに視線を向けた。
「監視付きでこの国に立ち入ることを許そう。ただし一つでも問題を起こせばお前を即行処分する」
それはつまり、何も起こさなければべーチェル国の出入りを自由にするということ。『人間兵器』だとわかった俺もそれにその被験体のアミィも、それを許されるということ。
予想外におおらかな処置に思わず目を見張る。監視付きとはいえ、俺がその気になればそれも意味のないものになるとわかっていながらその手を取ったことに意外でしかない。
そんな俺たちにお構いなしに王は側近にアミィのガジェットを外すように指示を出す。確かにここに来たのはそれを外してもらうためだったが。
「いいのか、そこまで野放しにして。なんなら俺の首にでもそのガジェット着けたほうがいいんじゃねぇか」
俺の提案に目を丸めたのはウィルたちだけでなく、あの女騎士もだった。俺としてはべーチェル国の王以上に意外なことを言った覚えはないと軽く肩を上げる。ただそんな中べーチェル国の王だけが鼻で笑った。
「そのようなことをしても無駄だ。どうせ魔術を使える姿に戻れるのであろう? ガジェットを着けたところで破壊される」
「わざわざ壊すために戻るかよ」
「それにお前は随分と我が国の職人が作るガジェットを愛用していたようだな? 証言は得ている。ある程度の仕組みなら把握しているだろう。どちらにしろ外される可能性のほうが大きい。わざわざ無駄使いすることもない」
すでに俺が普段行っている店まで把握されていたかと思いつつも、確かに俺に着けたところでなと王の言葉にも納得してしまう。アミィはガジェットの知識もなければ破壊するための魔術の制御も微妙なところだ。外そうとしたところで下手したらガジェットの爆発より大きな爆発が起きるかもしれない。それを踏まえて着けさせたんだろう。
今のところべーチェル国の王は俺を信用している、というわけではなくミストラル国の王の報告を信用している。俺がここで何かを起こせばその責任は起こした張本人と、そして長年監視をしていたミストラル国に負わせるという算段だろう。そうすれば自分の有利な方向であらゆるものを交渉できる。
ある意味で、ベーチェル国にとっても俺は上手く使えば自国に有利になるていのいい道具というわけだ。
ま、今更道具扱いされたところでなとひとりごちる。昔に比べて自由は利くし自分の意思で色々と決められるのだから随分とマシだ。
「謁見は終わりだ。私も忙しいのでな」
その王の一言で謁見は終わり、監視付きではあったものの俺たちは城から外へ出た。これからどうするかという話にはなったが、俺以外がまだ疲れが取れていないようで一度宿に戻ることになった。歩いている最中ピークに達したのか、目を閉じかけているアミィを仕方なしに抱えれば目を丸くした見張りの騎士と目が合う。
そのまま宿に戻り、取りあえずすでに夢の中のアミィをベッドに寝かせた。宿の食堂に向かえばテーブルを囲んでそれぞれが座っている。よく見れば相変わらずエルダの隈は濃いしフレイも眠さのあまりにガン飛ばしているようになってて少し笑えた。
「で、これからどうする」
それぞれが休む前に集まったのは今後の行動だ。精霊のそれぞれの居場所は浄化したものの、だからといって世界中に精霊の力が満ちているというわけでもない。つまり精霊の力がまだしっかりと戻っていない。居場所の浄化だけじゃ駄目だったというわけだ。
それに穢れは精霊の居場所だけじゃない。ソーサリー深緑の奥にある穢れがそのままだ。ここから距離も近いことだし、遺跡同様そこも浄化したほうがいいんじゃないのかっていうのが俺の考えなわけだが。
それを口にする前に視線を感じ、それを辿ってみると嫌に真っ直ぐな目でこっちを見ているウィルがいた。お前って本当にどこから見ても「騎士」だよなと思いつつも、あまりにも真っ直ぐなためつい訝しげな視線を返してしまった。
「カイム、僕からの提案なんだが」
「なんだよ」
「……一度、バプティスタ国の王と謁見してみないか」
――は? という声はその場にいたエルダ以外の人間の口から自然とこぼれていた。
一方で、俺はどうやっても『人間兵器』なわけで。他のヤツらに比べて監視の人数も多い。部屋の中に見張りが二人、部屋の外にも二人。そして宿の外にも何人かいるはず。こんな中で休めるかよと思いつつも、俺は別にそこまで疲れているわけでもなかったためただベッドの上に横になっているだけだった。
そして翌日、俺たちを呼びに来たのは例の女騎士だった。向こうも要塞に襲撃を喰らったためその件でごたついたんだろう。一応それを片してから次の問題となる俺たちを呼びに来たようだ。
「王が謁見を許可した。今から登城してもらおう」
「連行でか」
「ああ、無論だ」
べーチェル国に来た時と同様、騎士に囲まれながらの登城かと小さく息を吐きだす。まぁそこまで厳重にしなきゃならない理由が向こうにはある。それについてこっちもとやかく言う筋合いはない。
女騎士の登場で各部屋に泊まってたヤツらがのっそりのっそりと顔を出す。一日で取れる疲労じゃなかったらしい。アミィは相変わらず寝ぼけ眼だし、めずらしかったのがウィルが寝癖をそのままにして現れたことだ。いつもきっちりしている騎士様がめずらしいと小さく口角を上げてやれば、少し不貞腐れた顔をして紙を撫でつけていた。
「まだ疲れているところ悪いな」
「いいえ、ライラさんを含む他の騎士様たちもお疲れのところわざわざすみません」
「謁見が終わればまた休むといい」
そんな女子の会話を聞きつつ、再び夢の中に行きそうになっているアミィの頬を軽くペチペチと叩き起こしてやる。ちなみに隈を下げているエルダはフレイがしっかりと首根っこを掴んで運んでいた。運び方がかなり雑だがそこは突っ込まずにいよう。
そうして騎士に囲まれ城へと連行された俺たちは真っ先に謁見の間に通された。俺はここまで入り込むのはこれが初めてだが、恐らくアミィたちは先に来たんだろう。眠さもあるだろうがあの好奇心旺盛なアミィが大人しいところを見るとそうなんだろうなと確信する。
開かれたでかくきらびやかな扉の向こうで、一人の人間が王座に座っているのが見えた。べーチェル国の王が女だということを俺は知っている。特に驚くことなく、俺たちは王の前まで辿り着いた。
「ほう、そのガジェットが爆発することはなかったか」
「はい! アミィちゃんと約束守りました!」
「そのようだな」
意外にも、少しだけ目元を緩ませた王は次に俺に視線を向ける。表情はアミィに向けていたものとは違い、王として圧を感じるものだ。
「『それが』、そうか」
「はっ」
「……報告通り、自身の魔力を封じることができるようだな」
明らかな『モノ扱い』に難色を示した俺――ではなく、周りにいたヤツらだった。俺としてはそういう扱いは今更のためそこまで気にすることはない。他の、特に立場が上の人間からしたら『人間兵器』はそういう扱いになる。ミストラル国の王が少しおかしいだけだ。
「べーチェル国の王、アミィは貴女との約束を果たした。彼女に足に着けられているガジェットを取ってもらえないだろうか」
どうやらここでの交渉役はウィルらしい。そういうことならと余計なことを話さずに少しだけ身を引く。
「要塞の襲撃を受けたが、それを撃退。結界の強化もしっかりと行ったようだな」
「はい!」
「そしてその結界の更なる強化を其奴が行ったと」
王の視線がちらりと俺のほうに向く。今回襲撃は喰らったものの騎士の損害もなく、ベーチェル国にとって不利益はなかったはず。これで文句を言うようならそれはただのやっかみだ。
一度言葉を止めたべーチェル国の王だったが、俺たちがここに来るまで熟考していたのか再び口を開いた。
「ミストラル国の王からも報告が来ている。監視している十年間、殺戮行為を一度たりとも起こさなかったと。にわかに信じがたいがな」
だがその姿ならば多少ならば納得できると更に続けた。
「この国の者はほとんど身体に蓄積できる魔力量が少ない。よって差別はない平等な関係などと世界は言いながら、結局魔力を持っている者たちから虐げられている。魔術を扱えないことがどれだけ自分たちを卑下させるか、痛いほどわかっている」
女騎士が普段変えない表情を若干歪め、後ろからは小さく息を呑む音が聞こえた。方向的に恐らくティエラだ。
「だからこそわからぬ。持っていた者がそれを失うその障害が。魔術を扱う者にとってはそれは息をすることと同義であろう。そのままであればお前はまた同じような行動を起こすことは可能であっただろうに」
王が短く息を吐き、近くに控えていた人間から小さなガジェットを受け取る。それを起動させれば半透明の液晶が浮かび上がりそれをまじまじと見ていた。恐らくあれがミストラル国の王から来た報告なんだろう。半透明のためこっち側からでもそこに字がびっしりと書かれているのが見える。
一つ指を動かすとその液晶もスッと消える。持っていたガジェットを再び側近に持たせ、王は俺たちに視線を向けた。
「監視付きでこの国に立ち入ることを許そう。ただし一つでも問題を起こせばお前を即行処分する」
それはつまり、何も起こさなければべーチェル国の出入りを自由にするということ。『人間兵器』だとわかった俺もそれにその被験体のアミィも、それを許されるということ。
予想外におおらかな処置に思わず目を見張る。監視付きとはいえ、俺がその気になればそれも意味のないものになるとわかっていながらその手を取ったことに意外でしかない。
そんな俺たちにお構いなしに王は側近にアミィのガジェットを外すように指示を出す。確かにここに来たのはそれを外してもらうためだったが。
「いいのか、そこまで野放しにして。なんなら俺の首にでもそのガジェット着けたほうがいいんじゃねぇか」
俺の提案に目を丸めたのはウィルたちだけでなく、あの女騎士もだった。俺としてはべーチェル国の王以上に意外なことを言った覚えはないと軽く肩を上げる。ただそんな中べーチェル国の王だけが鼻で笑った。
「そのようなことをしても無駄だ。どうせ魔術を使える姿に戻れるのであろう? ガジェットを着けたところで破壊される」
「わざわざ壊すために戻るかよ」
「それにお前は随分と我が国の職人が作るガジェットを愛用していたようだな? 証言は得ている。ある程度の仕組みなら把握しているだろう。どちらにしろ外される可能性のほうが大きい。わざわざ無駄使いすることもない」
すでに俺が普段行っている店まで把握されていたかと思いつつも、確かに俺に着けたところでなと王の言葉にも納得してしまう。アミィはガジェットの知識もなければ破壊するための魔術の制御も微妙なところだ。外そうとしたところで下手したらガジェットの爆発より大きな爆発が起きるかもしれない。それを踏まえて着けさせたんだろう。
今のところべーチェル国の王は俺を信用している、というわけではなくミストラル国の王の報告を信用している。俺がここで何かを起こせばその責任は起こした張本人と、そして長年監視をしていたミストラル国に負わせるという算段だろう。そうすれば自分の有利な方向であらゆるものを交渉できる。
ある意味で、ベーチェル国にとっても俺は上手く使えば自国に有利になるていのいい道具というわけだ。
ま、今更道具扱いされたところでなとひとりごちる。昔に比べて自由は利くし自分の意思で色々と決められるのだから随分とマシだ。
「謁見は終わりだ。私も忙しいのでな」
その王の一言で謁見は終わり、監視付きではあったものの俺たちは城から外へ出た。これからどうするかという話にはなったが、俺以外がまだ疲れが取れていないようで一度宿に戻ることになった。歩いている最中ピークに達したのか、目を閉じかけているアミィを仕方なしに抱えれば目を丸くした見張りの騎士と目が合う。
そのまま宿に戻り、取りあえずすでに夢の中のアミィをベッドに寝かせた。宿の食堂に向かえばテーブルを囲んでそれぞれが座っている。よく見れば相変わらずエルダの隈は濃いしフレイも眠さのあまりにガン飛ばしているようになってて少し笑えた。
「で、これからどうする」
それぞれが休む前に集まったのは今後の行動だ。精霊のそれぞれの居場所は浄化したものの、だからといって世界中に精霊の力が満ちているというわけでもない。つまり精霊の力がまだしっかりと戻っていない。居場所の浄化だけじゃ駄目だったというわけだ。
それに穢れは精霊の居場所だけじゃない。ソーサリー深緑の奥にある穢れがそのままだ。ここから距離も近いことだし、遺跡同様そこも浄化したほうがいいんじゃないのかっていうのが俺の考えなわけだが。
それを口にする前に視線を感じ、それを辿ってみると嫌に真っ直ぐな目でこっちを見ているウィルがいた。お前って本当にどこから見ても「騎士」だよなと思いつつも、あまりにも真っ直ぐなためつい訝しげな視線を返してしまった。
「カイム、僕からの提案なんだが」
「なんだよ」
「……一度、バプティスタ国の王と謁見してみないか」
――は? という声はその場にいたエルダ以外の人間の口から自然とこぼれていた。
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