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56.猛攻①
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あちこちで色んな音が聞こえて焦げたようなにおいもしてくる。北のほうから海を渡ってやってきたのはイグニート国の兵士で、ベーチェル国の騎士の人たちはその対応に追われていた。
「危ない!」
後ろから襲われそうになっていたべーチェル国の騎士の人に向かって慌てて魔術を使う。氷の壁でその人は襲われずにすんで、アミィのほうを振り返って「ありがとう」とお礼を言っていた。こうして魔術で誰かを助けるなんて、もしかしたら初めてかもしれない。
でもべーチェル国の騎士の人たちとアミィたちがいくら頑張っても、一体どこにそんなに人がいたのと言いたくなるほど襲いかかってくる数が全然減らない。ウィルはアミィに「殺す必要はない、ただ動けなくなるようにはしてほしい」って言っていたから、取りあえず足を氷で固めたりしてるけど。
「数が多いな」
「一体どんだけわらわら湧いてくることやら!」
「女神エーテル、みなさんにどうかあなたの加護を」
前のほうでウィルとフレイが、傷付いた人たちはティエラが一生懸命治してる。アミィはなるべく前に出るなって言われてるから、後ろのほうでみんなを間違って攻撃しないようにイグニート国の兵士に向かって攻撃してる。アミィと同じように後ろにいるクルエルダはなんだか楽しそう。さっきから広範囲でバンバン術使ってる。
「いやはや、数もですが何より向こうの士気が気になりますねぇ」
「しきってなに?」
「やる気ですよ、やる気。我々も今やる気があるでしょう? それを士気が高いと言うんですか」
そうなんだ、と思いつつクルエルダに教わるのがなんかちょっと嫌だっていうか、素直に聞き入れられないっていうか。取りあえずアミィのその感情は今は置いといて、その士気が気になるってなんだろうって首を傾げる。
「これだけ猛攻を仕掛けてくるにしては、士気が低いと思いましてね。ほら、目をよく見てみてください。死んでいるでしょう?」
「え、ぇえ……?」
目が死んでるって言われても、アミィはよくわかんなくて困る。でも確かにキラキラしていないっていうか、淀んでいるっていうか。
「これも魔術か何かか」
「恐らくそうでしょうね」
剣を弾いてこっちに下がってきたウィルにティエラが傷を治してあげてる。フレイはすごく体力があるのか未だに雄叫び上げて前のほうで戦ってる。なんだか活き活きしてるように見えるけど気のせいかな。
「士気がないのにこれだけの猛攻……イグニート国の人間を人間とも思わない戦術には恐ろしいものがあるな」
「このままじゃ危ないの?」
「いいや、ベーチェル国の騎士は士気も高く洗礼された動きだ。時間はかかるだろうが勝算は間違いなくこちらにある」
ただそれまでにアミィたちにも頑張ってもらわなきゃいけない、って困り顔で言うウィルに「大丈夫!」って力いっぱいに返事をする。アミィはまだみんなみたいに成長してないけど、多分『紫』のおかげで魔力量が多くてまだ全然疲れてない。フレイもまだまだ元気だし、ただちょっと元気がなくなってきたティエラが気になるけど。
「ティエラ、大丈夫……?」
「大、丈夫です……すみません、あまりこういう状況に、慣れていなくて」
「あまり無理をしなくてもいいよ。つらかったら一旦後ろに下がってもらっても構わないから」
「我々としては貴女が潰れるのが一番の痛手ですからね。まぁ大丈夫でしょう、ほら、まだ前に元気よく暴れまわっている猛獣……もとい、海賊の頭がいますから」
「言っとくけど! 聞こえてっからねッ⁈」
「おっと」
前のほうから知らない剣がクルエルダに飛んでった。当たる前に魔術で落とされたけど、フレイって剣使ってなかったよね? って思っていたらどうやらイグニート国の兵士の剣を拾ってクルエルダに投げたみたい。結構距離があったのにアミィたちの会話も聞こえてクルエルダの頭に剣を投げてくるなんて、フレイってすごい。
「このままイグニート国を押し戻すのは問題ないだろうが……」
「他に困ることがあるの?」
急に横からワッて出てきた兵士をウィルが難なく剣を縦に振って向こうの剣を弾いて、次に横に薙ぎ払うと兵士の身体は飛んでった。こうしてちゃんと見るとウィルも結構強い。
「敵味方ともに、なるべく死傷者を出したくないんだ。死傷者が増えるとそれと同時に多くの血が流れる。多くの血が流れてしまうと、場が穢されてしまう」
「……! 精霊さんたちの力が、また弱まっちゃうってこと?」
「ああ……」
折角精霊さんたちが住んでいた場所を綺麗にしたのに、こうして争うとまた穢れていっちゃう。こういうのが終わらないから精霊さんたちの力が弱まっちゃうんだって、ギュッと手を握りしめる。
「ねぇ、アミィの魔術でイグニート国の兵士をみんな向こうに吹き飛ばしちゃうなんてこと、できないかな……」
海を渡ってきたから海の向こうに返せばいい。その後にクルエルダが魔術でなんとかしたら場所が穢れるなんてこともないんじゃないかなって、そう思ったんだけど。
「悪くない考えですが、流石にこの量だと貴女一人だと間違いなくぶっ倒れますね。最悪首につけている媒体が暴走しかねません」
「そんな……それは困るよ。だってアミィ、ベーチェル国の騎士の人たち傷付けたくないよ……」
媒体が暴走したらどんなことになっちゃうのかわかんないけど、でもアミィが魔術を暴走させる時いつも首の媒体がガビガビに光ってた。多分媒体のほうが暴走したら同じことになるんだと思う。
そうなると、折角べーチェル国の王様に信用してもらおうとしてるのに。騎士のライラさんがアミィのこと信じようとしてくれるのに、それを裏切っちゃう。
「案としては悪くはないが、現実的ではないということだな……」
「地道にやるしかありませんね」
「……わかった」
しょんぼりしてたらウィルに頭をポンと叩かれた。優しい笑顔は「落ち込む必要はない」って言ってくれてるみたいで、アミィもちょっとだけ笑顔を浮かべ返す。ウィルはまた前のほうに走っていってフレイと一緒に戦ってる。ティエラはちょこっとだけ下がってきて息を整えてた。アミィとクルエルダは相変わらず魔術を使って戦ってる。
クルエルダが言ってたように地道に頑張って、あれだけワーワーしてたのにその声も少しずつ小さくなってきた。戦ってる最中に一回後ろに下がってきたフレイは瓶みたいなものを取り出してそれをゴクゴク飲んで、また前に走っていった。あの瓶ってなんだったんだろう、あとで聞いてみようって考える余裕も出てきた。
「もう少しかな」
「そうですね、みなさんだいぶ落ち着いてきたようですし」
後ろに下がってきたティエラとそんな会話をしながら周りを見渡してみる。ティエラのおかげでべーチェル国の騎士の人たちはそこまでひどい怪我はしていないみたい。
イグニート国の兵士のほうはわからないけど、これならこの場所もそこまでひどく穢れないかなって思った時だった。別のところで戦ってたライラさんの姿を見て、急いでライラさんがちゃんと見えるところまで移動する。アミィたちが今いる場所は別のところに比べてちょっと小高い場所にあって、ライラさんは下のほうだ。
ライラさん、って呼んで手を振ろうとしたけど、なんだか下のほうがバタバタし始めてる。ライラさんが近くにいる怪我をしている騎士の人たちに声をかけながら上のほうに登ってこようとしていた。そんなライラさんと、バチンと目が合う。
「どうしたの、ライラさ――」
「お前たちはもっと下がれ!」
え、って小さく声を出したのと同時に悲鳴が聞こえて身体がビクッてなる。近くにいたティエラは急いでアミィの肩を抱き寄せて身構えていた。
ようやく終わるって思っていたのに、前のほうからどんどん悲鳴が近くなってくる。向こうの兵士の人たちならいいのに、って思ったらダメなんだろうけどべーチェル国の騎士の人たちが傷付くのがもっと嫌だからそう思っちゃう。
でも、悲鳴が聞こえてくる場所は、ベーチェル国の騎士の人たちがいたところだった。
「フレイ下がれ!」
「言われなくても! ヤバいのが来たってのは流石にあたしだってわかるよ!」
ウィルが急いでフレイを呼んで、みんなで一箇所に固まる。アミィたちを守るように前に立っているウィルとフレイは武器を構えてる。ティエラはもっとアミィの身体をギュッと抱きしめて、クルエルダは「おやおや」といつもどおり呑気だった。
でも、アミィもだんだんとわかってきた。背中がゾワッとして鳥肌が止まらない。何かよくないものがどんどん近付いてきてる。
「はぁーっ……だっりぃ。オレが強いからって働かせすぎだってーの」
声には聞き覚えがあって、薄っすらと見えていた影がはっきりとしてくる。面倒くさそうに首をトントンと叩きながら平然と歩いているその人の足元には、ベーチェル国の騎士の人たちが倒れていた。
怖いのに、それでも足が勝手に動く。アミィを引き留めようとしていたティエラの腕を振り切って前に向かって歩き出す。だってだって、覚えてる。その髪の色もそのおかしな目の色も。あの時背中からカイムを刺した、あの剣のことだって。
「カイムをどこにやったの⁈ 返して!」
サラマンダーの遺跡で突然現れてカイムを刺した、そいつだ。
そいつはアミィの顔を見て眉間に皺を寄せる。面倒くさそうな顔を更に面倒くさそうにして、「なんだこのゴミって」口が動いた。
「カイムを返せ!」
「……はぁ? 何軽々しくカイムの名前を呼んでんだよ、このゴミ……あ。ああ、お前、思い出した。あの時カイムの近くにいたゴミ共だ」
急に強い風が吹いて身体が後ろに吹き飛ばされる。いきなりだったからびっくりしてそのまま飛ばされちゃったけど、アミィの身体をフレイが急いで受け止めてくれた。そんなアミィたちの前に剣を構えたウィルが守ってくれようとしてくれてる。
「あーあー面倒臭ぇ。ゴミが人間様の前をうろちょろしてんじゃねぇよ。ゴミはゴミらしくそのへんに大人しく転がってろよッ!」
「カイムを返してってば!」
「お前だそうそうお前! っとに気に入らねぇなぁッ! あの時だってカイムは特にお前を気にかけてた! お前如きがッ! カイムに気にかけてもらってるからって調子に乗んじゃねぇよッ‼」
強い火の魔術が襲ってきたけど、前にカイムに言われたことを思い出して両腕を前に出した。アイツが放った魔術を一旦アミィの手のひらから吸収して、そして自分の魔力を混ぜて更に強くなった魔術で返してやる。放った火の魔術は避けたアイツの肩を掠めただけで遠くに飛んでいっちゃった。まだちゃんとアミィがコントロールできてないからだ。
でもアイツは自分の肩を見て、そしてアミィを見て更に怖い表情になる。でもアミィも怖がって、後ろに下がろうとは思わなかった。
「危ない!」
後ろから襲われそうになっていたべーチェル国の騎士の人に向かって慌てて魔術を使う。氷の壁でその人は襲われずにすんで、アミィのほうを振り返って「ありがとう」とお礼を言っていた。こうして魔術で誰かを助けるなんて、もしかしたら初めてかもしれない。
でもべーチェル国の騎士の人たちとアミィたちがいくら頑張っても、一体どこにそんなに人がいたのと言いたくなるほど襲いかかってくる数が全然減らない。ウィルはアミィに「殺す必要はない、ただ動けなくなるようにはしてほしい」って言っていたから、取りあえず足を氷で固めたりしてるけど。
「数が多いな」
「一体どんだけわらわら湧いてくることやら!」
「女神エーテル、みなさんにどうかあなたの加護を」
前のほうでウィルとフレイが、傷付いた人たちはティエラが一生懸命治してる。アミィはなるべく前に出るなって言われてるから、後ろのほうでみんなを間違って攻撃しないようにイグニート国の兵士に向かって攻撃してる。アミィと同じように後ろにいるクルエルダはなんだか楽しそう。さっきから広範囲でバンバン術使ってる。
「いやはや、数もですが何より向こうの士気が気になりますねぇ」
「しきってなに?」
「やる気ですよ、やる気。我々も今やる気があるでしょう? それを士気が高いと言うんですか」
そうなんだ、と思いつつクルエルダに教わるのがなんかちょっと嫌だっていうか、素直に聞き入れられないっていうか。取りあえずアミィのその感情は今は置いといて、その士気が気になるってなんだろうって首を傾げる。
「これだけ猛攻を仕掛けてくるにしては、士気が低いと思いましてね。ほら、目をよく見てみてください。死んでいるでしょう?」
「え、ぇえ……?」
目が死んでるって言われても、アミィはよくわかんなくて困る。でも確かにキラキラしていないっていうか、淀んでいるっていうか。
「これも魔術か何かか」
「恐らくそうでしょうね」
剣を弾いてこっちに下がってきたウィルにティエラが傷を治してあげてる。フレイはすごく体力があるのか未だに雄叫び上げて前のほうで戦ってる。なんだか活き活きしてるように見えるけど気のせいかな。
「士気がないのにこれだけの猛攻……イグニート国の人間を人間とも思わない戦術には恐ろしいものがあるな」
「このままじゃ危ないの?」
「いいや、ベーチェル国の騎士は士気も高く洗礼された動きだ。時間はかかるだろうが勝算は間違いなくこちらにある」
ただそれまでにアミィたちにも頑張ってもらわなきゃいけない、って困り顔で言うウィルに「大丈夫!」って力いっぱいに返事をする。アミィはまだみんなみたいに成長してないけど、多分『紫』のおかげで魔力量が多くてまだ全然疲れてない。フレイもまだまだ元気だし、ただちょっと元気がなくなってきたティエラが気になるけど。
「ティエラ、大丈夫……?」
「大、丈夫です……すみません、あまりこういう状況に、慣れていなくて」
「あまり無理をしなくてもいいよ。つらかったら一旦後ろに下がってもらっても構わないから」
「我々としては貴女が潰れるのが一番の痛手ですからね。まぁ大丈夫でしょう、ほら、まだ前に元気よく暴れまわっている猛獣……もとい、海賊の頭がいますから」
「言っとくけど! 聞こえてっからねッ⁈」
「おっと」
前のほうから知らない剣がクルエルダに飛んでった。当たる前に魔術で落とされたけど、フレイって剣使ってなかったよね? って思っていたらどうやらイグニート国の兵士の剣を拾ってクルエルダに投げたみたい。結構距離があったのにアミィたちの会話も聞こえてクルエルダの頭に剣を投げてくるなんて、フレイってすごい。
「このままイグニート国を押し戻すのは問題ないだろうが……」
「他に困ることがあるの?」
急に横からワッて出てきた兵士をウィルが難なく剣を縦に振って向こうの剣を弾いて、次に横に薙ぎ払うと兵士の身体は飛んでった。こうしてちゃんと見るとウィルも結構強い。
「敵味方ともに、なるべく死傷者を出したくないんだ。死傷者が増えるとそれと同時に多くの血が流れる。多くの血が流れてしまうと、場が穢されてしまう」
「……! 精霊さんたちの力が、また弱まっちゃうってこと?」
「ああ……」
折角精霊さんたちが住んでいた場所を綺麗にしたのに、こうして争うとまた穢れていっちゃう。こういうのが終わらないから精霊さんたちの力が弱まっちゃうんだって、ギュッと手を握りしめる。
「ねぇ、アミィの魔術でイグニート国の兵士をみんな向こうに吹き飛ばしちゃうなんてこと、できないかな……」
海を渡ってきたから海の向こうに返せばいい。その後にクルエルダが魔術でなんとかしたら場所が穢れるなんてこともないんじゃないかなって、そう思ったんだけど。
「悪くない考えですが、流石にこの量だと貴女一人だと間違いなくぶっ倒れますね。最悪首につけている媒体が暴走しかねません」
「そんな……それは困るよ。だってアミィ、ベーチェル国の騎士の人たち傷付けたくないよ……」
媒体が暴走したらどんなことになっちゃうのかわかんないけど、でもアミィが魔術を暴走させる時いつも首の媒体がガビガビに光ってた。多分媒体のほうが暴走したら同じことになるんだと思う。
そうなると、折角べーチェル国の王様に信用してもらおうとしてるのに。騎士のライラさんがアミィのこと信じようとしてくれるのに、それを裏切っちゃう。
「案としては悪くはないが、現実的ではないということだな……」
「地道にやるしかありませんね」
「……わかった」
しょんぼりしてたらウィルに頭をポンと叩かれた。優しい笑顔は「落ち込む必要はない」って言ってくれてるみたいで、アミィもちょっとだけ笑顔を浮かべ返す。ウィルはまた前のほうに走っていってフレイと一緒に戦ってる。ティエラはちょこっとだけ下がってきて息を整えてた。アミィとクルエルダは相変わらず魔術を使って戦ってる。
クルエルダが言ってたように地道に頑張って、あれだけワーワーしてたのにその声も少しずつ小さくなってきた。戦ってる最中に一回後ろに下がってきたフレイは瓶みたいなものを取り出してそれをゴクゴク飲んで、また前に走っていった。あの瓶ってなんだったんだろう、あとで聞いてみようって考える余裕も出てきた。
「もう少しかな」
「そうですね、みなさんだいぶ落ち着いてきたようですし」
後ろに下がってきたティエラとそんな会話をしながら周りを見渡してみる。ティエラのおかげでべーチェル国の騎士の人たちはそこまでひどい怪我はしていないみたい。
イグニート国の兵士のほうはわからないけど、これならこの場所もそこまでひどく穢れないかなって思った時だった。別のところで戦ってたライラさんの姿を見て、急いでライラさんがちゃんと見えるところまで移動する。アミィたちが今いる場所は別のところに比べてちょっと小高い場所にあって、ライラさんは下のほうだ。
ライラさん、って呼んで手を振ろうとしたけど、なんだか下のほうがバタバタし始めてる。ライラさんが近くにいる怪我をしている騎士の人たちに声をかけながら上のほうに登ってこようとしていた。そんなライラさんと、バチンと目が合う。
「どうしたの、ライラさ――」
「お前たちはもっと下がれ!」
え、って小さく声を出したのと同時に悲鳴が聞こえて身体がビクッてなる。近くにいたティエラは急いでアミィの肩を抱き寄せて身構えていた。
ようやく終わるって思っていたのに、前のほうからどんどん悲鳴が近くなってくる。向こうの兵士の人たちならいいのに、って思ったらダメなんだろうけどべーチェル国の騎士の人たちが傷付くのがもっと嫌だからそう思っちゃう。
でも、悲鳴が聞こえてくる場所は、ベーチェル国の騎士の人たちがいたところだった。
「フレイ下がれ!」
「言われなくても! ヤバいのが来たってのは流石にあたしだってわかるよ!」
ウィルが急いでフレイを呼んで、みんなで一箇所に固まる。アミィたちを守るように前に立っているウィルとフレイは武器を構えてる。ティエラはもっとアミィの身体をギュッと抱きしめて、クルエルダは「おやおや」といつもどおり呑気だった。
でも、アミィもだんだんとわかってきた。背中がゾワッとして鳥肌が止まらない。何かよくないものがどんどん近付いてきてる。
「はぁーっ……だっりぃ。オレが強いからって働かせすぎだってーの」
声には聞き覚えがあって、薄っすらと見えていた影がはっきりとしてくる。面倒くさそうに首をトントンと叩きながら平然と歩いているその人の足元には、ベーチェル国の騎士の人たちが倒れていた。
怖いのに、それでも足が勝手に動く。アミィを引き留めようとしていたティエラの腕を振り切って前に向かって歩き出す。だってだって、覚えてる。その髪の色もそのおかしな目の色も。あの時背中からカイムを刺した、あの剣のことだって。
「カイムをどこにやったの⁈ 返して!」
サラマンダーの遺跡で突然現れてカイムを刺した、そいつだ。
そいつはアミィの顔を見て眉間に皺を寄せる。面倒くさそうな顔を更に面倒くさそうにして、「なんだこのゴミって」口が動いた。
「カイムを返せ!」
「……はぁ? 何軽々しくカイムの名前を呼んでんだよ、このゴミ……あ。ああ、お前、思い出した。あの時カイムの近くにいたゴミ共だ」
急に強い風が吹いて身体が後ろに吹き飛ばされる。いきなりだったからびっくりしてそのまま飛ばされちゃったけど、アミィの身体をフレイが急いで受け止めてくれた。そんなアミィたちの前に剣を構えたウィルが守ってくれようとしてくれてる。
「あーあー面倒臭ぇ。ゴミが人間様の前をうろちょろしてんじゃねぇよ。ゴミはゴミらしくそのへんに大人しく転がってろよッ!」
「カイムを返してってば!」
「お前だそうそうお前! っとに気に入らねぇなぁッ! あの時だってカイムは特にお前を気にかけてた! お前如きがッ! カイムに気にかけてもらってるからって調子に乗んじゃねぇよッ‼」
強い火の魔術が襲ってきたけど、前にカイムに言われたことを思い出して両腕を前に出した。アイツが放った魔術を一旦アミィの手のひらから吸収して、そして自分の魔力を混ぜて更に強くなった魔術で返してやる。放った火の魔術は避けたアイツの肩を掠めただけで遠くに飛んでいっちゃった。まだちゃんとアミィがコントロールできてないからだ。
でもアイツは自分の肩を見て、そしてアミィを見て更に怖い表情になる。でもアミィも怖がって、後ろに下がろうとは思わなかった。
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