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38.遺跡の浄化―土の精霊―①
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遺跡から出て次の目的地へと向かう。ウンディーネの加護でとんでもなく速くなってしまった船に戸惑いを覚えていた船員たちも、流石は海賊だと言うべきか。今はすっかりと慣れたもんで悲鳴が上がることもなければ船酔いする人間も出てくることはなかった。
次は土の精霊の居場所である遺跡。アルディナ大陸の丁度南に位置する孤島だそうだ。バプティスタ国が丁度大陸の中心部にあり、その南方にサブレ砂漠。もし騎士たちが遺跡に行くとしたら船で遠回りをするかサブレ砂漠を突っ切る必要がある。今のバプティスタ国の状況からしてわざわざ人材を割いてまで遺跡に向かわせる必要があるとは思えない。
ということで遺跡にさえ着けばそうそうバプティスタ国の騎士に見つからない、動きやすいっていうことだ。
「ウンディーネのおかげですぐ着いちゃうね」
「なんだいアミィ? ちょっと不服そうじゃないか」
「うーん……アミィ船で海見るの好きなの。速いのも楽しいけど、ゆっくり見れないなぁって」
「確かにウンディーネの加護を受けてからひたすら水飛沫だからねぇ」
二人のそんなのんびりとした会話を聞きつつ、確かに甲板でボーッとする暇もなく着くなと思っていた時だった。アミィがまた海のほうに向かって指を差している。もう遺跡の入り口が見えてきたんだろう。船がゆっくりと減速していき、俺たちも慣れたもんでさっさと降りる準備をする。
ウンディーネたちの言葉からして今までの二つの遺跡よりも厄介なのかもしれない。もし精霊が人間を拒んていたら下手したら中に入れない可能性もある。さて、どうなるもんかと船から降り、軽く目を見張った。アミィは「あっ」と小さく声を上げ、フレイはどことなく身構えている。
遺跡の入り口には先客がいた。まさか人間がいるとは思っていなかったし、何を言おう、目の前にいる男はバプティスタ国の騎士だった。そいつは一通り俺たちに視線を向け、最後にその目が俺に留まる。
「なんだ、邪魔しに来たのかよ」
金髪男にそう投げかけるとそいつは小さく目を伏せ、次には真っ直ぐとこっちに視線を向けてきた。
「……いいや。正直君が信頼できる人間かは僕にはわからない。ただ、自分の目で確かめようと思う」
「みなさんのことは神父様から聞きました。精霊たちの神殿の浄化をしているんですよね? わたしたちも微力ですがお手伝いさせてもらってもいいでしょうか?」
視線を金髪男、ウィルとその傍にいるティエラから後ろにいるフレイたちへと向ける。フレイは一度船の上で勝手に暴れられようとしていたため印象がよくないのか、若干眉間に皺を寄せていた。クルエルダは多分どっちでもいいんだろう。アミィは、どこか嬉しそうな顔をしている。
「邪魔しねぇんならいいんじゃねぇの」
「ありがとうございます!」
「今は異変を対処するほうが先決だ。僕もそれについては邪魔をしない」
正直二人が追加されたことによって、戦闘時のバランスがよくなる。今のこのメンバーは傷をしっかりと癒せる人間がいない。そこにティエラが入ってくれるのはありがたいし、ウィルは騎士のため盾役として重宝する。それにしても、と少しだけ後ろを振り返る。それにしてもこの四人だけだと随分と前衛的というか、火力強めだった。
「それじゃさっさと中に入ろう。入れるんだよね?」
「はい。最初は固く閉じられていましたが、神父様がどうやら開けてくれたようです」
生臭神父も役に立つ、と二つの遺跡よりも随分と重厚な扉の前に立つ。
「お前ら、シルフの時じゃなくてよかったな」
「本当にね」
「え? どういう意味だ?」
「すっごく大変だったの! ちょっと歩いたら『カチッ』て音がなって、アミィたちその度にわぁ~! ってなってた!」
語彙力なしの説明だとあのクソみてぇなトラップ地獄は伝わらなかったようだ。二人ともしきりに首を傾げている。っていうかコイツらマジでよかったなと土の精霊の遺跡に足を踏み入れた。流石にここじゃ一歩進んでトラップ発動、なんてことはなさそうだ。
「そういえばアミィちゃん。身長伸びました? 少し大人びてきましたね」
「本当っ? えっへへ、アミィもっと大きくなってカイム抱っこするんだ!」
「だから無理だっつってんだろ」
「そんなことないよ!」
「魔術使うのはなしな」
「え~っ⁈」
俺たちの会話になぜか目を丸めているウィルを他所に足を進める。階段があるわけでもなく、だからといってだだっ広い空間が広がっているわけでもない。が、少し顔を顰めた。
「なんだこりゃ」
ただ目の前にあるのは、行く手を阻むようなでかい壁だった。
「以前この神殿の調査に来た同僚に聞いた話だが、今のようにあちこち壁に阻まれて奥に進むどころか入り口止まりだったそうだ」
それから何度か調査にやってきたものの、結果はどれも一緒。大した成果もなく、調査はそこで打ち切られたのだとウィルは続けた。
随分と分厚そうな岩の壁はそう簡単に壊れそうにない。が、ここから先に行かないと浄化もできない。となるとどうやってもこの壁を壊す必要がある。すると壁を見上げていたフレイがふと口を開いた。
「まるで、心の扉みたいだね」
「お~」
「ほう」
「わ~」
「……なんだい! なに茶化そうとしてるわけ⁈」
「いやいいこと言うなと思っただけだ」
「やっぱり冷やかしてるよね⁈ べ、別にいいじゃないか! 思ったことをそのまま口にしただけ!」
「フレイって優しいね~」
「アミィまで!」
「……君たち、随分と仲が良いんだな」
再びウィルは俺たちの様子を見て目を丸くしている。その傍らでティエラが「楽しそうで何よりです」と微笑ましくこっちを見ていた。その視線になおさら居心地が悪くなったのか、鎖鎌を取り出したフレイは早速壁を壊そうと動き出す。
「心の扉を怪力でぶち壊すんだな」
「うるさーいッ! 壊さなきゃ進めないんだろう⁈」
だがフレイの言い分もごもっとも。壊さなきゃ奥には進めない。それぞれが、俺以外は媒体がはめ込まれている武器をそれぞれ手に持ち壁に向き合う。
「あなた方には当たらないように気を付けますね」
「アミィも頑張るね!」
「わたしはみなさんに強化の術をかけます!」
「んじゃ俺たちは」
「力任せだな」
それぞれが自分のできることをやるまで。合図をかけることなく一斉に壁に向かって攻撃を仕掛けた。
どれくらい殴りかかりの斬りつけかかりの魔術打つけ放題だの、色々とやった結果無事に壁は壊された。ガラガラと音を立てながら崩れ落ちた壁だった瓦礫を跨ぎ、奥へと進む。広い部屋が広がっているわけじゃなかったが、思わずうんざりとした。
歩けばトラップを踏むわけじゃない、奥からワラワラと魔物が湧き出すわけでもない。ただ目の前には、いくつもある岩の壁。
「……おい、どこが正解ルートだよ」
「僕も中に入ったのはこれが初めてだから、正直どういう構図をしているのかわからない」
「ははは。手当り次第、ということになりますね」
「これだけの壁を破壊して回れってかい⁈」
シルフの時も相当腹が立ったが、これもこれで腹が立つ。せめて構図がわかればいいものの人間が住み着いた形跡のないこの遺跡に、そういうものがあるとは思えない。だからといってあの分厚い壁を手分けして破壊する、にしても一人一体どれだけ時間をかければいいことやら。
流石に効率が悪すぎる、そう頭を抱えそうになった時にあることを思い出す。視線を落とすとピンク色の後頭部が見えた。
「アミィ、光っているところ見つからねぇか?」
「……あっ! えっと、ちょっと待ってね! むむむ~!」
アミィは目がいい。もしかすると壁越しでも最奥にある祭壇から発する光が見えるんじゃないかと期待した。
目を細め、遠くを眺めるように額に手をかざしたアミィはぐるりと遺跡の中を見て回る。流石にこれだけの壁、しかも恐らく最奥の前には濃い穢れがあるため見えないかもしれない。
時間がかかっているアミィを見ながら、やっぱり総当たりかと短く息を吐き出した時だった。
「あった! あったよ! すっごく見にくいけど、でも光ってる!」
「でかしたアミィ」
「ではそこに向かって一直線ですね」
「トラップまみれよりもマシだけど、でも随分と体力を使いそうな遺跡だね」
それでも手当り次第よりもずっといいと、アミィが示した場所に向かって早速目の前にある壁に取り掛かることにした。
次は土の精霊の居場所である遺跡。アルディナ大陸の丁度南に位置する孤島だそうだ。バプティスタ国が丁度大陸の中心部にあり、その南方にサブレ砂漠。もし騎士たちが遺跡に行くとしたら船で遠回りをするかサブレ砂漠を突っ切る必要がある。今のバプティスタ国の状況からしてわざわざ人材を割いてまで遺跡に向かわせる必要があるとは思えない。
ということで遺跡にさえ着けばそうそうバプティスタ国の騎士に見つからない、動きやすいっていうことだ。
「ウンディーネのおかげですぐ着いちゃうね」
「なんだいアミィ? ちょっと不服そうじゃないか」
「うーん……アミィ船で海見るの好きなの。速いのも楽しいけど、ゆっくり見れないなぁって」
「確かにウンディーネの加護を受けてからひたすら水飛沫だからねぇ」
二人のそんなのんびりとした会話を聞きつつ、確かに甲板でボーッとする暇もなく着くなと思っていた時だった。アミィがまた海のほうに向かって指を差している。もう遺跡の入り口が見えてきたんだろう。船がゆっくりと減速していき、俺たちも慣れたもんでさっさと降りる準備をする。
ウンディーネたちの言葉からして今までの二つの遺跡よりも厄介なのかもしれない。もし精霊が人間を拒んていたら下手したら中に入れない可能性もある。さて、どうなるもんかと船から降り、軽く目を見張った。アミィは「あっ」と小さく声を上げ、フレイはどことなく身構えている。
遺跡の入り口には先客がいた。まさか人間がいるとは思っていなかったし、何を言おう、目の前にいる男はバプティスタ国の騎士だった。そいつは一通り俺たちに視線を向け、最後にその目が俺に留まる。
「なんだ、邪魔しに来たのかよ」
金髪男にそう投げかけるとそいつは小さく目を伏せ、次には真っ直ぐとこっちに視線を向けてきた。
「……いいや。正直君が信頼できる人間かは僕にはわからない。ただ、自分の目で確かめようと思う」
「みなさんのことは神父様から聞きました。精霊たちの神殿の浄化をしているんですよね? わたしたちも微力ですがお手伝いさせてもらってもいいでしょうか?」
視線を金髪男、ウィルとその傍にいるティエラから後ろにいるフレイたちへと向ける。フレイは一度船の上で勝手に暴れられようとしていたため印象がよくないのか、若干眉間に皺を寄せていた。クルエルダは多分どっちでもいいんだろう。アミィは、どこか嬉しそうな顔をしている。
「邪魔しねぇんならいいんじゃねぇの」
「ありがとうございます!」
「今は異変を対処するほうが先決だ。僕もそれについては邪魔をしない」
正直二人が追加されたことによって、戦闘時のバランスがよくなる。今のこのメンバーは傷をしっかりと癒せる人間がいない。そこにティエラが入ってくれるのはありがたいし、ウィルは騎士のため盾役として重宝する。それにしても、と少しだけ後ろを振り返る。それにしてもこの四人だけだと随分と前衛的というか、火力強めだった。
「それじゃさっさと中に入ろう。入れるんだよね?」
「はい。最初は固く閉じられていましたが、神父様がどうやら開けてくれたようです」
生臭神父も役に立つ、と二つの遺跡よりも随分と重厚な扉の前に立つ。
「お前ら、シルフの時じゃなくてよかったな」
「本当にね」
「え? どういう意味だ?」
「すっごく大変だったの! ちょっと歩いたら『カチッ』て音がなって、アミィたちその度にわぁ~! ってなってた!」
語彙力なしの説明だとあのクソみてぇなトラップ地獄は伝わらなかったようだ。二人ともしきりに首を傾げている。っていうかコイツらマジでよかったなと土の精霊の遺跡に足を踏み入れた。流石にここじゃ一歩進んでトラップ発動、なんてことはなさそうだ。
「そういえばアミィちゃん。身長伸びました? 少し大人びてきましたね」
「本当っ? えっへへ、アミィもっと大きくなってカイム抱っこするんだ!」
「だから無理だっつってんだろ」
「そんなことないよ!」
「魔術使うのはなしな」
「え~っ⁈」
俺たちの会話になぜか目を丸めているウィルを他所に足を進める。階段があるわけでもなく、だからといってだだっ広い空間が広がっているわけでもない。が、少し顔を顰めた。
「なんだこりゃ」
ただ目の前にあるのは、行く手を阻むようなでかい壁だった。
「以前この神殿の調査に来た同僚に聞いた話だが、今のようにあちこち壁に阻まれて奥に進むどころか入り口止まりだったそうだ」
それから何度か調査にやってきたものの、結果はどれも一緒。大した成果もなく、調査はそこで打ち切られたのだとウィルは続けた。
随分と分厚そうな岩の壁はそう簡単に壊れそうにない。が、ここから先に行かないと浄化もできない。となるとどうやってもこの壁を壊す必要がある。すると壁を見上げていたフレイがふと口を開いた。
「まるで、心の扉みたいだね」
「お~」
「ほう」
「わ~」
「……なんだい! なに茶化そうとしてるわけ⁈」
「いやいいこと言うなと思っただけだ」
「やっぱり冷やかしてるよね⁈ べ、別にいいじゃないか! 思ったことをそのまま口にしただけ!」
「フレイって優しいね~」
「アミィまで!」
「……君たち、随分と仲が良いんだな」
再びウィルは俺たちの様子を見て目を丸くしている。その傍らでティエラが「楽しそうで何よりです」と微笑ましくこっちを見ていた。その視線になおさら居心地が悪くなったのか、鎖鎌を取り出したフレイは早速壁を壊そうと動き出す。
「心の扉を怪力でぶち壊すんだな」
「うるさーいッ! 壊さなきゃ進めないんだろう⁈」
だがフレイの言い分もごもっとも。壊さなきゃ奥には進めない。それぞれが、俺以外は媒体がはめ込まれている武器をそれぞれ手に持ち壁に向き合う。
「あなた方には当たらないように気を付けますね」
「アミィも頑張るね!」
「わたしはみなさんに強化の術をかけます!」
「んじゃ俺たちは」
「力任せだな」
それぞれが自分のできることをやるまで。合図をかけることなく一斉に壁に向かって攻撃を仕掛けた。
どれくらい殴りかかりの斬りつけかかりの魔術打つけ放題だの、色々とやった結果無事に壁は壊された。ガラガラと音を立てながら崩れ落ちた壁だった瓦礫を跨ぎ、奥へと進む。広い部屋が広がっているわけじゃなかったが、思わずうんざりとした。
歩けばトラップを踏むわけじゃない、奥からワラワラと魔物が湧き出すわけでもない。ただ目の前には、いくつもある岩の壁。
「……おい、どこが正解ルートだよ」
「僕も中に入ったのはこれが初めてだから、正直どういう構図をしているのかわからない」
「ははは。手当り次第、ということになりますね」
「これだけの壁を破壊して回れってかい⁈」
シルフの時も相当腹が立ったが、これもこれで腹が立つ。せめて構図がわかればいいものの人間が住み着いた形跡のないこの遺跡に、そういうものがあるとは思えない。だからといってあの分厚い壁を手分けして破壊する、にしても一人一体どれだけ時間をかければいいことやら。
流石に効率が悪すぎる、そう頭を抱えそうになった時にあることを思い出す。視線を落とすとピンク色の後頭部が見えた。
「アミィ、光っているところ見つからねぇか?」
「……あっ! えっと、ちょっと待ってね! むむむ~!」
アミィは目がいい。もしかすると壁越しでも最奥にある祭壇から発する光が見えるんじゃないかと期待した。
目を細め、遠くを眺めるように額に手をかざしたアミィはぐるりと遺跡の中を見て回る。流石にこれだけの壁、しかも恐らく最奥の前には濃い穢れがあるため見えないかもしれない。
時間がかかっているアミィを見ながら、やっぱり総当たりかと短く息を吐き出した時だった。
「あった! あったよ! すっごく見にくいけど、でも光ってる!」
「でかしたアミィ」
「ではそこに向かって一直線ですね」
「トラップまみれよりもマシだけど、でも随分と体力を使いそうな遺跡だね」
それでも手当り次第よりもずっといいと、アミィが示した場所に向かって早速目の前にある壁に取り掛かることにした。
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