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26.人間兵器①
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銃から発射された弾は、アミィの身体を貫くことはなかった。
「何っ……⁈」
べーチェル国の騎士は唖然とし、辺りの空気が一変した。
「カイム……?」
背後からアミィの視線を感じつつも振り返ることなく、視線をただ騎士たちに向ける。騎士たちは一瞬状況を把握できなかったようだがそこは普段鍛えられている連中だ、すぐに我に返り再び銃をこっちに向けてきた。
「構うな、撃て!」
女騎士の号令と共に発砲音、そしてアミィの悲鳴が上がる。そりゃさっきの一発だけじゃなく複数の音が周囲から聞こえてきたら誰でもビビるか、と思いつつも左手を前にかざし横に振り払った。
真っ直ぐに飛んでこようとしていた弾は氷の壁によって阻まれる。すべての弾を塞ぎ、アミィを抱え込みながら指を突き出すと風の刃が一斉に銃口を斬り落とした。
「走れ!」
二人を拘束していた騎士たちを風で吹き飛ばし、自由になったところでそう声をかければ二人は反射的に身体を起こして駆け出した。
「あ、あの! 森に逃げ込むんですか⁈ ですがべーチェル国の騎士たちは森には慣れています! 逃げて隠れたところですぐに見つかってしまうかと……!」
「西に突き進めば海に出る!」
「えっ、でも、海に出れたとしても……きゃあ⁈」
「ティエラ!」
悲鳴が聞こえたが後ろを振り返る時間ももったいない。それにティエラの傍にはウィルがいるからウィルがどうにかするだろう。足音が二つ続いてきているのを確認し、足を止めることなく西のほうへと突っ走る。
小脇に抱えているアミィは今のところ魔術の暴走は見られない。というかまだ魔術を使えないのかもしれない。後ろから発砲音が聞こえたが足は止めることなく少しだけ身を屈め、空いているもう片方の手で樹に触れる。するとそこから数本の蔦が伸び、ウィルとティエラを越えてべーチェル国の騎士たちに絡みついた。
ある程度の追手を振り払ったところで森を抜け、目の前には海が広がっている。ただし足元にあるのは砂浜ではなく崖だ。
「カイムー! 船に乗りな!」
ところがいいタイミングででかい船が目の前に現れる。甲板から見える赤毛の女――フレイが自身の船である『ネレウス』に乗ってこっちに向かって腕を振っているのが見えた。
「なぜ彼女がここに⁈」
昨日のうちに念の為にとフレイにガジェットで連絡をしておいてよかった。ウィルの疑問に答えることなく後ろを振り返れば、ガシャガシャと無駄にうるさい音が近付いてくる。
「船に乗れ!」
「の、乗るって、どうやってですか?」
「そうだぞこの距離をどうやって……!」
「飛べ!」
騎士の足元に氷を作りそのまま足に絡ませ足止めさせる。その後ろからやってきた騎士には覆うように風で木々を斬り落とし上から被らせた。
俺の言葉につられるように地面を蹴った二人の姿を確認し、俺も同じように地面を蹴る。フレイができる限り船を陸に寄せようとはしているが、それでも人が飛んで届く距離にはない。
だからそれぞれの身体に風をまとわせ船まで運んだ。ふわりと二人の身体は船に降り、続いてアミィを抱えたままの俺もそのまま着地する。身を屈め腕を離せばアミィも自分の足で船に降り立ち、振り返って俺を見上げた。
「なんだ」
「カイム……髪が青い」
「……そうだな」
「目の色、真っ赤だね。すごくキラキラしててキレイ」
「アミィ、離れろッ!」
まるで怒声のような声を上げたウィルは距離はあるものの、剣先はしっかりと俺に向いていた。ウィルの傍にいるティエラはまだ状況が把握できていないらしい。一方アミィは「離れろ」と言われた理由がわからないようで、首を傾げつつ俺の傍から離れようとはしない。そんなアミィの反応に歯がゆく感じたのか、ウィルの表情がますます険しくなる。
「ウ、ウィルさん……」
「父さんから聞いたことがある……僕の父は、騎士だった。そう、十年前父さんは『人間兵器』と対峙している。実際、見てるんだ……父さんは言っていた、『人間兵器』は青髪で、『赤』で……まだ幼さを残している、子どもだったと……!」
剣先がわずかに震えている。ティエラは顔を真っ青にし、ウィルはそれ以上近付いては来ない。一度短く息を吐きだし、ただ真っ直ぐに視線をウィルに向けた。
「そうだな、十年前俺はまだ十二のガキだった」
「ッ……‼」
「ちょっと! あたしの船で勝手なことしないでくれる⁈ 誰の許しを得て剣なんか引き抜いてんの!」
芯のある声は随分とよくこの場に響いた。騎士であるウィルはその声にすっかり肩を跳ねさせ、フレイは目を吊り上げたまま階段を降りてくる。そして喧嘩の仲裁の如く俺たちの間に立ち俺に視線を向けた。
「なんだ、随分とイメチェンしたんだねカイム。まぁどうでもいいけど。これで少しは借りを返せたかな」
この状況で「どうでもいい」と言えるとは肝が座っている。流石はこの船の頭をやっているだけはある。
「いいや十分だ」
「十分なもんか。こっちはあたしの命だけじゃなくて野郎共の命も救われてんだ。これだけじゃ足んないよ」
「こっちもお陰様で無事だった」
「まったくもう! 遠慮なんてしなくていいんだって! あたしの気が済むまで付き合ってもらうからね! それとそこの金髪! あたしの船で喧嘩はご法度だよ!」
「け、喧嘩などではない! 君は知らないのか⁈ 『人間兵器』がどれほど恐ろしいものなのか!」
「あたしにとってコイツはただのカイムであって『人間兵器』だなんて知らないね! ゴタゴタ言うんだったら船から突き落とすよ!」
「なっ……!」
違うところで喧嘩が勃発しそうじゃねぇかと言い争いを始めた二人に溜め息を吐きつつ、袖を引っ張られ視線を下に向ける。
「ねぇカイム。どうしてカイムは魔術使えたの? あの時みんな使えなくなってたのに」
確かにアミィの言う通りあの時ガジェットで全員が魔術を使えない状況だった。それなのになぜ俺は使えたのか、というかそもそもなぜ『茶』であったはずの俺が使えるのか。単純にそう思ったに違いない。
さてどこからどう説明するべきかと短い息を吐き出したところで、今度はまた別のところから手を叩く音が聞こえその場にいた全員が視線を上に向けた。
「いやまさか、『人間兵器』をこの目で見れる日が来ようとは。野次馬になった甲斐がありました」
「ちょっと! 何勝手にあたしの船に乗り込んでんださっさと降りろッ!」
「これはこれは、失礼しました」
銀髪で『紫』の目をしている男は上から舞うようにふわりと降りてきた。恐らくさっき俺が使った魔術と同じものを使ったんだろう。男は最初アミィに視線を向け、遠慮することなくジロジロと品定めするかのようにくまなく見ている。流石に気持ち悪く思ったのかアミィがサッと俺の後ろに隠れた。
そして今度は俺のほうを見てくる。何が楽しいのか目と口元は弧を描き、俺も思わず顔を歪めた。
「なるほど。あのガジェットは魔術を打ち消すものではありましたけれどそれはある一定の魔力量に対応するだけであってそれ以上の魔力量なら効力は半分もしくはそれ以下か。ただ貴方が自身に施していた魔術の半分ぐらいには効果があったということですか」
「お前……」
「なるほどなるほど、そういうことでしたか。血眼になってでも探していたこの十年間誰も貴方を探し出すことができなかったのはそういうことですか。素晴らしい! 私は貴方のその思考、とても気になります。なんなら研究し尽くし暴きたい! どうです? 私の研究の対象者となってみません?」
「気持ち悪ぃな近付くな」
「カイム……なんかあの人気持ち悪い」
「本当にな」
「おい変態。あたしの船から降りろ」
「ははは、酷い言われようですね。ああ、偉大な研究対象者に対し申し遅れました。私の名はクルエルダ・ハーシー。スピリアル島の研究者です」
俺だけじゃなくウィルやティエラも身構える。なんせアミィの存在がバレたのはスピリアル島の研究者がべーチェル国にリークしたからだ。今のこの流れ的にこの男がリークした研究者だと思わざる得ない。
男は俺たちの様子に気付き、何かを思い出したかのように「ああ」と言葉をもらした。
「べーチェル国にリークしたのは私ではありませんよ。別の研究者です。それこそそこにいる次の『人間兵器』に仕立て上げようとしていた貴女を研究していた関係者です。私はたまたま、あの場に居合わせたに過ぎません。いやぁいいところで居合わせました。おかげで貴方と会うことができた」
「くそっ……一体何がどうなって……色々と頭が混乱してきた……!」
確かに色々といっぺんに起こりすぎてわけの分からねぇ状況になっているのは確かだと内心ウィルの言葉に頷く。とは言え俺は自分自身の状況はわかっているし、この中でもっとも混乱しているのはウィルとティエラだろう。フレイに関してはそもそも何もわかっちゃいない。ただ人助けをしただけだとでも考えていそうだ。ただ変なのが乗ってはきたが。
ともかく、と目の端に自分の青色の髪が映る。
「おいフレイ、防御術の効いた部屋はねぇか」
「一応一室あるけど? 使ってもいいけど壊さないでよね。船底に近いから穴空けられたらこの船沈むよ」
「そうしねぇように気を付ける。それとそこの銀髪、解術は使えるか」
「使えますよ。ああ、なるほど。そういうことですか。私が手伝っていいのであれば喜んで手伝わせてもらいますよ。貴方ほどの人間を間近で見られる機会なんてそうありませんから」
「……おい、何をするつもりだ」
青い髪と赤い目を見て睨みつけてくるウィルに内心舌打ちをしつつ、フレイが言っていた部屋に移動するために足を向ける。そのまま歩き出そうとすれば、ウィルの声色が増々荒くなった。
「何をするつもりだと聞いているんだ! 『人間兵器』が好き勝手に動くなッ‼」
「うるせぇな! こんなところで暴れるわけねぇだろ!」
「ッ……!」
「チッ」
今度こそ隠すことなく荒々しく舌打ちをもらす。なんとも言えない空気になり、ティエラはすっかり縮こまりオドオドとしている。ウィルは相変わらず俺を睨みつけてくるしフレイはただの喧嘩だと軽く肩を上げただけだった。
ただ意外にも、場の空気に飲まれるかと思っていたアミィだけは相変わらずキョトンとしたままだった。ある意味子どもでよかったと言うべきか。どこかへ行こうとしている俺を呼び止めることなくただ黙ってフレイの傍に寄り、俺の後ろ姿を見送っていた。
「何っ……⁈」
べーチェル国の騎士は唖然とし、辺りの空気が一変した。
「カイム……?」
背後からアミィの視線を感じつつも振り返ることなく、視線をただ騎士たちに向ける。騎士たちは一瞬状況を把握できなかったようだがそこは普段鍛えられている連中だ、すぐに我に返り再び銃をこっちに向けてきた。
「構うな、撃て!」
女騎士の号令と共に発砲音、そしてアミィの悲鳴が上がる。そりゃさっきの一発だけじゃなく複数の音が周囲から聞こえてきたら誰でもビビるか、と思いつつも左手を前にかざし横に振り払った。
真っ直ぐに飛んでこようとしていた弾は氷の壁によって阻まれる。すべての弾を塞ぎ、アミィを抱え込みながら指を突き出すと風の刃が一斉に銃口を斬り落とした。
「走れ!」
二人を拘束していた騎士たちを風で吹き飛ばし、自由になったところでそう声をかければ二人は反射的に身体を起こして駆け出した。
「あ、あの! 森に逃げ込むんですか⁈ ですがべーチェル国の騎士たちは森には慣れています! 逃げて隠れたところですぐに見つかってしまうかと……!」
「西に突き進めば海に出る!」
「えっ、でも、海に出れたとしても……きゃあ⁈」
「ティエラ!」
悲鳴が聞こえたが後ろを振り返る時間ももったいない。それにティエラの傍にはウィルがいるからウィルがどうにかするだろう。足音が二つ続いてきているのを確認し、足を止めることなく西のほうへと突っ走る。
小脇に抱えているアミィは今のところ魔術の暴走は見られない。というかまだ魔術を使えないのかもしれない。後ろから発砲音が聞こえたが足は止めることなく少しだけ身を屈め、空いているもう片方の手で樹に触れる。するとそこから数本の蔦が伸び、ウィルとティエラを越えてべーチェル国の騎士たちに絡みついた。
ある程度の追手を振り払ったところで森を抜け、目の前には海が広がっている。ただし足元にあるのは砂浜ではなく崖だ。
「カイムー! 船に乗りな!」
ところがいいタイミングででかい船が目の前に現れる。甲板から見える赤毛の女――フレイが自身の船である『ネレウス』に乗ってこっちに向かって腕を振っているのが見えた。
「なぜ彼女がここに⁈」
昨日のうちに念の為にとフレイにガジェットで連絡をしておいてよかった。ウィルの疑問に答えることなく後ろを振り返れば、ガシャガシャと無駄にうるさい音が近付いてくる。
「船に乗れ!」
「の、乗るって、どうやってですか?」
「そうだぞこの距離をどうやって……!」
「飛べ!」
騎士の足元に氷を作りそのまま足に絡ませ足止めさせる。その後ろからやってきた騎士には覆うように風で木々を斬り落とし上から被らせた。
俺の言葉につられるように地面を蹴った二人の姿を確認し、俺も同じように地面を蹴る。フレイができる限り船を陸に寄せようとはしているが、それでも人が飛んで届く距離にはない。
だからそれぞれの身体に風をまとわせ船まで運んだ。ふわりと二人の身体は船に降り、続いてアミィを抱えたままの俺もそのまま着地する。身を屈め腕を離せばアミィも自分の足で船に降り立ち、振り返って俺を見上げた。
「なんだ」
「カイム……髪が青い」
「……そうだな」
「目の色、真っ赤だね。すごくキラキラしててキレイ」
「アミィ、離れろッ!」
まるで怒声のような声を上げたウィルは距離はあるものの、剣先はしっかりと俺に向いていた。ウィルの傍にいるティエラはまだ状況が把握できていないらしい。一方アミィは「離れろ」と言われた理由がわからないようで、首を傾げつつ俺の傍から離れようとはしない。そんなアミィの反応に歯がゆく感じたのか、ウィルの表情がますます険しくなる。
「ウ、ウィルさん……」
「父さんから聞いたことがある……僕の父は、騎士だった。そう、十年前父さんは『人間兵器』と対峙している。実際、見てるんだ……父さんは言っていた、『人間兵器』は青髪で、『赤』で……まだ幼さを残している、子どもだったと……!」
剣先がわずかに震えている。ティエラは顔を真っ青にし、ウィルはそれ以上近付いては来ない。一度短く息を吐きだし、ただ真っ直ぐに視線をウィルに向けた。
「そうだな、十年前俺はまだ十二のガキだった」
「ッ……‼」
「ちょっと! あたしの船で勝手なことしないでくれる⁈ 誰の許しを得て剣なんか引き抜いてんの!」
芯のある声は随分とよくこの場に響いた。騎士であるウィルはその声にすっかり肩を跳ねさせ、フレイは目を吊り上げたまま階段を降りてくる。そして喧嘩の仲裁の如く俺たちの間に立ち俺に視線を向けた。
「なんだ、随分とイメチェンしたんだねカイム。まぁどうでもいいけど。これで少しは借りを返せたかな」
この状況で「どうでもいい」と言えるとは肝が座っている。流石はこの船の頭をやっているだけはある。
「いいや十分だ」
「十分なもんか。こっちはあたしの命だけじゃなくて野郎共の命も救われてんだ。これだけじゃ足んないよ」
「こっちもお陰様で無事だった」
「まったくもう! 遠慮なんてしなくていいんだって! あたしの気が済むまで付き合ってもらうからね! それとそこの金髪! あたしの船で喧嘩はご法度だよ!」
「け、喧嘩などではない! 君は知らないのか⁈ 『人間兵器』がどれほど恐ろしいものなのか!」
「あたしにとってコイツはただのカイムであって『人間兵器』だなんて知らないね! ゴタゴタ言うんだったら船から突き落とすよ!」
「なっ……!」
違うところで喧嘩が勃発しそうじゃねぇかと言い争いを始めた二人に溜め息を吐きつつ、袖を引っ張られ視線を下に向ける。
「ねぇカイム。どうしてカイムは魔術使えたの? あの時みんな使えなくなってたのに」
確かにアミィの言う通りあの時ガジェットで全員が魔術を使えない状況だった。それなのになぜ俺は使えたのか、というかそもそもなぜ『茶』であったはずの俺が使えるのか。単純にそう思ったに違いない。
さてどこからどう説明するべきかと短い息を吐き出したところで、今度はまた別のところから手を叩く音が聞こえその場にいた全員が視線を上に向けた。
「いやまさか、『人間兵器』をこの目で見れる日が来ようとは。野次馬になった甲斐がありました」
「ちょっと! 何勝手にあたしの船に乗り込んでんださっさと降りろッ!」
「これはこれは、失礼しました」
銀髪で『紫』の目をしている男は上から舞うようにふわりと降りてきた。恐らくさっき俺が使った魔術と同じものを使ったんだろう。男は最初アミィに視線を向け、遠慮することなくジロジロと品定めするかのようにくまなく見ている。流石に気持ち悪く思ったのかアミィがサッと俺の後ろに隠れた。
そして今度は俺のほうを見てくる。何が楽しいのか目と口元は弧を描き、俺も思わず顔を歪めた。
「なるほど。あのガジェットは魔術を打ち消すものではありましたけれどそれはある一定の魔力量に対応するだけであってそれ以上の魔力量なら効力は半分もしくはそれ以下か。ただ貴方が自身に施していた魔術の半分ぐらいには効果があったということですか」
「お前……」
「なるほどなるほど、そういうことでしたか。血眼になってでも探していたこの十年間誰も貴方を探し出すことができなかったのはそういうことですか。素晴らしい! 私は貴方のその思考、とても気になります。なんなら研究し尽くし暴きたい! どうです? 私の研究の対象者となってみません?」
「気持ち悪ぃな近付くな」
「カイム……なんかあの人気持ち悪い」
「本当にな」
「おい変態。あたしの船から降りろ」
「ははは、酷い言われようですね。ああ、偉大な研究対象者に対し申し遅れました。私の名はクルエルダ・ハーシー。スピリアル島の研究者です」
俺だけじゃなくウィルやティエラも身構える。なんせアミィの存在がバレたのはスピリアル島の研究者がべーチェル国にリークしたからだ。今のこの流れ的にこの男がリークした研究者だと思わざる得ない。
男は俺たちの様子に気付き、何かを思い出したかのように「ああ」と言葉をもらした。
「べーチェル国にリークしたのは私ではありませんよ。別の研究者です。それこそそこにいる次の『人間兵器』に仕立て上げようとしていた貴女を研究していた関係者です。私はたまたま、あの場に居合わせたに過ぎません。いやぁいいところで居合わせました。おかげで貴方と会うことができた」
「くそっ……一体何がどうなって……色々と頭が混乱してきた……!」
確かに色々といっぺんに起こりすぎてわけの分からねぇ状況になっているのは確かだと内心ウィルの言葉に頷く。とは言え俺は自分自身の状況はわかっているし、この中でもっとも混乱しているのはウィルとティエラだろう。フレイに関してはそもそも何もわかっちゃいない。ただ人助けをしただけだとでも考えていそうだ。ただ変なのが乗ってはきたが。
ともかく、と目の端に自分の青色の髪が映る。
「おいフレイ、防御術の効いた部屋はねぇか」
「一応一室あるけど? 使ってもいいけど壊さないでよね。船底に近いから穴空けられたらこの船沈むよ」
「そうしねぇように気を付ける。それとそこの銀髪、解術は使えるか」
「使えますよ。ああ、なるほど。そういうことですか。私が手伝っていいのであれば喜んで手伝わせてもらいますよ。貴方ほどの人間を間近で見られる機会なんてそうありませんから」
「……おい、何をするつもりだ」
青い髪と赤い目を見て睨みつけてくるウィルに内心舌打ちをしつつ、フレイが言っていた部屋に移動するために足を向ける。そのまま歩き出そうとすれば、ウィルの声色が増々荒くなった。
「何をするつもりだと聞いているんだ! 『人間兵器』が好き勝手に動くなッ‼」
「うるせぇな! こんなところで暴れるわけねぇだろ!」
「ッ……!」
「チッ」
今度こそ隠すことなく荒々しく舌打ちをもらす。なんとも言えない空気になり、ティエラはすっかり縮こまりオドオドとしている。ウィルは相変わらず俺を睨みつけてくるしフレイはただの喧嘩だと軽く肩を上げただけだった。
ただ意外にも、場の空気に飲まれるかと思っていたアミィだけは相変わらずキョトンとしたままだった。ある意味子どもでよかったと言うべきか。どこかへ行こうとしている俺を呼び止めることなくただ黙ってフレイの傍に寄り、俺の後ろ姿を見送っていた。
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