騎士と狩人

みけねこ

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画策だってします

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 リクトさんに色々と教わりながらも関係は順調に進んでいる。ライリーは驚いていたけれど喧嘩も一度もしたことがなかった。
 そもそもリクトさん中身も大人でそう怒ることがないし、俺も別にリクトさんに対して不満はないから喧嘩のしようがない。リクトさんと一緒にいるだけで嬉しいんだから不満なんて生まれようがないんだけど。
 けれど、ただ一つ。リクトさんに教わるにつれて不満というか、どうしてもやってみたいことが生まれてしまった。これは俺一人の問題じゃないはず、とリクトさんに会いに行った時に思い切ってそれを口にした。
「リクトさん……したいです」
「……どこでするんだよ」
「それなんですよね」
 人の気配がないのを確認して、その、たまに抜いてもらったりして、いたんだけども。やっぱりそれだけじゃ物足りなくて、それ以上を望んでしまう。好きな人と一緒にいるのだからこういう欲を持つのもなんら不思議じゃない。
 ただリクトさんが眉間に皺を寄せて言ったように、場所がない。どちらかの家で~、だなんて絶対に言えない。リクトさんはご両親と一緒に暮らしているし俺だって屯所住まいでそこに騎士ではないリクトさんを呼ぶことはできない。なら俺の実家、だなんてそれもできない。あそこは食堂で人の出入りも激しいし、壁もそんなに厚くない。
 前にたまたま森付近で出会って、少しだけ話をしていた時に俺からキスをしてあわよくば……と思っていたけれど。俺の肩はその分厚い手に力強く押された。
 場所がなければ森で、とも思ったんだけど。
「ヤッてる最中に魔獣に襲われるなんて笑い話にもならねぇぞ」
「……ごもっともです」
 そう、二人っきりにはなれるのに、したいことをできる場所がなかった。これは俺にとっては物凄く深刻な話だ。一番マシなのは森では? と思ったけれどリクトさんの言う通り森はいつ魔獣が出てくるかわからない。通常狩人であるリクトさんがいれば恐れることはないんだけれど、流石に丸腰の状態だとそう言い切れない。
 俺ばかりが抜いてもらって、俺もリクトさんにしてあげたいのにそれができない。ストレス、にはならないけれどモヤモヤが募っていく。俺もリクトさんに触れたいし、気持ちよくなってもらいたいのに。前にいつものお礼にとリクトさんのを抜こうと思ったけれどサラッと断られてしまったし。
「どうすればいいと思う?」
「惚気はまぁ聞くとは言ったけどそういう相談は受けるとは言ってねぇぞ」
「だって場所がなくて」
「そりゃまぁそうだけどな」
 任務終わりにライリーに相談してみたけれど、こればかりはという顔をされてしまった。そういえばライリーはそういう時はどうしているのだろう。なんとなく疑問に思い口に出せば「休みの日にそういうところに行くに決まってんだろ」とサラッと返されてしまった。そういうところは、一人で行くものでリクトさんと二人で行く場所ではない。というかリクトさんを連れて行ったら格好良いリクトさんを取られてしまう。
「休みも一日だし、向こうだって狩人としての仕事があんだろ? 村じゃないどっかでって結構難しい話だな」
「そうなんだよ……はぁ」
 騎士は定期的に休みがあっても、狩人はそうではない。毎日のように森で狩りをし、そうでない時は道具の手入れや魔獣から取った素材の整理、その他諸々。結構忙しい身だ。そんな多忙な人にこっちの都合に合わせてくれだなんて自分勝手なことは言えない。
 でもそしたらどうする、とこれまた堂々巡りなことになる。そしてムラムラ……じゃない、モヤモヤも溜まる。溜まったら抜いてもら……という問題じゃない。俺だけが気持ちよくなってどうする。
 そうして公私混同せず黙々と任務にこなしつつ、悶々とした日々を送っていた時だった。
「三日間ぐらい首都に行ってくる」
「……へっ⁈」
 いつものように休日に会いに行くと、唐突にそんな言葉が放たれた。え、え? と戸惑いしかない。別に森の狩人たちが首都にまったく行かない、なんてことはない前に素材を卸しに行っていると言っていたから別に問題はない。
 でも行く時は大体長くて一泊だけで、首都に何日も滞在するなんてことはなかったはず。
 それなのにリクトさんの口からは「三日間」と出てきた。なんで三日間、そればかりが頭の中でぐるぐると回る。
「前に素材を卸したところがナイフを作ったらしくてな。普通に首都で回せばいいじゃねぇかって思ったんだが使い勝手がいいかどうか俺たちに試してほしいって言ってきたんだ。それを受け取りに行ってくる」
「え、で、でもなんで三日間……?」
「ついでに父さんと俺が普段使いしているやつの手入れもしてこいって頼まれた。ま、本職にしてもらったら出来がまた一つ違うだろ」
「そ、そうなんです、ね……?」
 なるほど受け取りだと別に一日でいいんじゃないかって思ったけど、それぞれの武器の手入れともなると流石に一日じゃ無理か、と納得しつつ。もしかしたらリクトさんのお父さんはついでに観光もしてこいって言っているんじゃないかな? と思いつつ。
 リクトさんからその話を聞いて俺は内心荒れ狂っていた。実は新人として物資のチェックとその補給、その他簡単に言えば雑用なものをこなすために首都に行く予定があったからだ。もちろん同じ新人であるライリーも一緒にだけれど。
 その日急いで屯所に戻った俺は日時の確認、そして上手い具合にリクトさんと擦り合わせることができないかと考えを巡らせた。
「っていうことでライリー、お願い!」
「まぁ、同じ男としてセオの悩みもわかるけど……わかったよ、セオだけ宿だな」
「ありがとう!」
 本来なら騎士の寮に泊まるところだったけれど、実費でということで俺だけは宿に泊まることにした。そしてそれをリクトさんにも伝えた。
 だってこうでもしないと二人きりの個室なんて生まれないから!
 公私混同じゃない、仕事はちゃんとするし仕事が終わったらあとはプライベートだ。ライリーだって羽目を外さない範囲で飲みに行くと言っていたし隊長たちも「羽根を伸ばしておいで」と言ってくれた。
 それならば俺も羽根を伸ばそう、うん。ということだ。

「なかなかゴリ押ししたな」
「そうですか?」
「いや顔」
 そして俺は今、リクトさんと二人で二泊する宿の前に立っていた。もちろん二人で一部屋、同室だ。リクトさんの部屋も俺が取っておくといった時点で多分察していたと思う。でも特に反対意見もなかったためそのまま俺の要望を通らせてもらった。
 リクトさんにもう一度「顔」と注意されて思わず手で触ってみる。うん、自分でもびっくりするぐらいニヤけてたみたいだ。これだと流石にリクトさんも注意してくる。
「言っておくが、自分の用が最優先だからな。お前だって遊びに来たわけじゃねぇだろ」
「もちろんです。仕事はちゃんとします。ただリクトさんと外泊なんて初めてなのでどうしても心が躍ってしまうだけです」
「大丈夫なのかよ……」
 もちろん大丈夫です心配しないでください、と自分でも物凄くいい笑顔で言ったと思う。ただリクトさんの顰めっ面は直ることはなかったけれど。
 取りあえずお互い部屋に荷物を置いて、そして早々に自分の用事へと向かった。リクトさんはまずナイフを受け取ってその後すぐに鍛冶屋に行くと言っていた。俺ももちろんこれからライリーと合流して仕事をこなすつもりだ。
 いつ宿に戻ってくるかはわからない、けれど何時になろうともリクトさんと同じ部屋に戻るということだけでもう有頂天だ。別れを惜しむことなくサッサと行ってしまったリクトさんの背中を眺めつつ、俺も急いで合流地点へと向かった。
 隊長に頼まれた仕事は順調に進み、特に不備もなくしっかりとチェックも済ませ、淡々と作業していく。気付いて空を見上げて見れば日が傾きかけていて徐々に明かりが灯されていっていた。
「今日はこの辺りにまでするか」
「そうだね。明日も同じ時間で大丈夫かな」
「ああ、あとは――」
「ねぇそこのお兄さんたち」
 ライリーと明日の確認をしていると突如横から声が割って入ってきた。首都にいる時はよくあることで、表情も変えることはせずに声のほうへ顔を向ける。俺たちとあまり年齢が変わらない女性二人がジッとこっちを見ていて、目が合うと笑顔を浮かべた。
「私たち今からご飯に行くんだけど、一緒にどう?」
「格好からして騎士の人たちだよね? 私騎士の人の話を聞いてみたいの。駄目かな?」
 本当によくあること。村だと頼りになる、という認識だけだけれど首都だと騎士という職業は女性に人気だ。こうして積極的に声をかける女性も多い。少し女性関係が派手な騎士も中にはいるんだけれど、そういう人は鍛錬の時などによく自慢していた。まぁその後上官からそれはとてもとても手厚く鍛えられていたけれど。
 一度ライリーと目を合わせると向こうが肩を軽く竦めた。どうやらライリーは本当にただ単純に飲みに行きたいらしい。きっと行きつけの酒場に行く予定だったんだろう。俺も俺で早く宿に戻りたい理由がある。
「ごめんなさい、俺たちこれから用事があるので」
 笑顔を浮かべて小さく首をこてんと傾げた。すると女性二人は「ひゃっ」と小さく悲鳴を上げて顔を真っ赤にさせる。これは首都に来てから意図的にやるようになったけれど、村にいる時も同じような仕草をすると周りはみんな女性たちと同じ反応をしていた。
 女性二人は急いで頭を下げるとパタパタと走り去っていく。よかった、中にはこれでもグイグイ来る人がくるからそういう人だとどうしようかと思った、と胸を撫で下ろす。
「……相変わらず破壊力のある顔面だな」
「え? どういう意味?」
「美形はなんでも許されるなって意味。ほれ、さっさと宿に戻りたいんだろうが。帰れ帰れ」
「ちょ、ライリー。深酒はしないようにね!」
「あったりめーだ!」
 まるで追い払うかのようにシッシッと手を動かすライリーに、歩きつつも振り返ってそう忠告しておく。正直ライリーは酔っ払うと面倒臭い。絡み酒で折角鳴りを潜めていた傲慢さがチラチラ出てくるものだから、周りのためにも深酒はしないでほしい。
 ライリーのことを思うとついていってあげるのがいいんだけど、今回は自分のことを優先させてもらうよと急いで宿に向かって走り出す。だって俺が早くても遅くても、寝る頃には必ずリクトさんが同じ部屋にいる。
 仕事中だったから抑えていたけれど、やっぱり躍る心はどうしようもなかった。
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