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騎士であるということ
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みんなが準備してくれた宴は楽しかったし、お父さんたちと一緒に一夜を過ごすのも楽しかった。この村を守るためにこれからもっと頑張ろうと改めて意を決して、そして屯所に戻った。隊長からはいい時間を過ごせたかと聞かれ、迷わず首を縦に振った。
そう、久しぶりに村に帰れて嬉しかった。当初の目的であるお礼をちゃんと言うというのも達成された。再会して、改めて俺はあの人のことが好きだなぁと実感した。けれど。
「どうした? なんか様子おかしくねぇか」
「えっ? ……そんなことないよ」
「本当かぁ?」
ライリーに図星を突かれ一瞬だけ言葉が詰まる。それ以上追求されることはなかったけれど、それでも見抜かれてしまっていることに内心冷や汗だった。
もちろん任務に差し支えるようなことはしない。任務は任務だ、しっかりとしなければ大怪我に繋がる。だから意識はちゃんと切り替えている。
けれどふと、哨戒から戻って自室に戻った時に、どうしてもベッドの縁で頭を抱えてしまう。どうしよう。初めて恋した時から、あれが上限だと思っていたのに。
それなのに俺はリクトさんのことが好きでたまらない。
こう、好きという感情が溢れ出そうになる。だって格好良くはなっているとは思っていたけれどまさかあそこまでとは。騎士になって追いついたと思っていたけれどとてもじゃないけれどそんなことはなかった。狩人としての経験が彼を更に格好良い大人へと押し上げていた。
「うぅ~っ……リクトさん……どうしよう、格好良すぎる。しかもちょっと足を伸ばしたらすぐに会える距離にいる……!」
このままだと出会った瞬間「好きです」と言ってしまいそうだ。流石にそれだと引かれる。それ以前にお礼を言うのに精一杯で、同時に告白してしまおうと思ったけれど遮られてしまった。
そもそもリクトさんに恋人がいるかどうかも聞いていないのに! どうしてもっと早く聞こうとしなかったのか俺は!
で、でも多分村の子たちは昔と一緒だ。格好良くて話しかけられない、そう言っていたのを今でもそうなんだと信じるしかない。でも彼はあの時すでにモテていて、女性に人気だった。ああやっぱり告白するべきだったとまた頭を抱える。
もちろん受け入れてもらえる自信はあまりない。最初目を合わせた時は逃げてしまったし、それに再会した時は俺のを抜いてもらうという失態も犯してしまった。いや、えっと、気持ちはよかったけれど。とにかく印象があまりよくないということは知っている。
それでもこの溢れ出そうな気持ちを伝えずにいれる自信がもっとない。絶対ぽろっと言ってしまう。場所も弁えずにリクトさん自身のこともお構いなしに。
そんな不意打ちで言ってしまう前に、しっかりと自分の意志で言ったほうがいいに決まっている。
「セオ、聞きたいことがあるんだけど」
隊長たちと四人で哨戒している時だった、ふと隣にいたライリーがそう声をかけてきた。二日ぐらい前に盗賊の姿を見つけ捕らえたばかりだ。そう何回も盗賊に遭遇したくないなと思うのは別に怖い目に会いたくない、というわけではなく盗賊が出てくるような治安の悪さは嫌だなという気持ちからだ。村付近でそんな状態だと村の人たちもきっと安心できない。
だから気を抜かないように周囲を警戒しつつ、返事をして耳だけライリーに傾ける。
「もしかしてたけどさ」
「うん、何?」
「お前、故郷に好きな奴でもいるんじゃねぇの」
その声色は疑問、ではなく確信だ。思わず目を見張ってライリーのほうに視線を向けると彼はジッと俺のほうを見ていた。
「――そうだよ」
別に隠すことでもない。淀みなく迷うことなくそう告げるとライリーの表情が歪んだ。
「っ……鍛錬中に、憧れている奴がいるって言ってただろ。そいつか?」
「そう。前にも言ったけど、その人に見合う自分でいたいと思って騎士になった」
まだ騎士になる前、鍛錬の休憩中に「どうして騎士になりたいと思った」という話が持ち出された。やっぱり代々家が騎士の子たちは立派な志を持っていたけれど、でもみんながみんなそうではなかった。
ただ文学に秀でていなかったから、自分の大切な人たちを守りたいから、給料がいいから。理由は様々だった。そんな中俺も正直に口にした。憧れている人がいて、その人に恥じない自分でありたいからと。
それを聞いてみんな何やら納得した。そういう相手がいるから美人に告白されても頷かなかったし恋人も作らなかったのかと。頑張れよと言ってくれる子もいたし、入り込む余地がないのかと残念がっている子もいた。それぞれ多様は反応だった。
「好きだよ、あの人のことが」
やっぱりこの想いを隠すことはできないし、溢れ出してしまう。言葉にすると尚更だ。
引かれてでも嫌われてでも、この想いは一度しっかり伝えておいたほうがいい。再び強くそう思えた。
「……ふーん。でも恋は盲目とか言うしな。その実……――!」
興味なさそうにこぼされていた言葉だったけれど、それが唐突に止まる。俺も無意識にライリーの視線の先を追った。
目の前に大型というわけではないけれど、それでも人よりも大きさのある魔獣の姿。森の外にいる、ということはそれを討伐するのは俺たち騎士の役目だ。隊長たちも魔獣の存在に気付き目配せをしてきた。
それぞれ魔獣を囲う形で陣を組み、気配に気付かれないようジリジリと距離を縮める。隊長がサッと手を上げたのと同時に一度動きを止め、そして下ろされた瞬間ライリーが駆け出した。
「一体とはいえ油断はするなよ!」
「わかってますよ!」
ヒューゴさんの言葉にライリーは荒々しく返し、迷わず槍を突き出す。俺もライリーの援護に付くべく正反対から剣を振り下ろす。槍で腹を貫かれ、剣で足から出血している魔獣は雄叫びを上げた。
「俺がトドメを!」
「待てライリー、深追いをするな!」
四足歩行の魔獣は敵わないと思ったのか、こっちに向かってくることなく逃げの一手を取った。トドメを刺すことに躍起になってしまっているライリーはそのまま魔獣を追いかけてしまい、その様子を見た隊長が短く息を吐き出しあとを追うように駆け出す。
でもこれ以上追いかけていいものなのか、という考えが頭に過ったのは俺だけじゃないはず。魔獣が向かっている先は近くに村がある例の森だ。あそこに入ったら魔獣を討伐するのは俺たちの役目ではなくなってしまう。
「一体ぐらいどうってことないですよ!」
こっちの心配に気付いたのか前方からそんな声が聞こえた。魔獣一体ぐらいなら森に入ったところですぐに討伐すればいいと思っている。けれどライリーの考えもわからないわけでもない。早々に討伐すればわざわざ村の狩人の手を煩わせることもない。
隊長もそう思ったのか、走っているスピードが僅かに上がった。俺も遅れを取らないように地面を蹴る力を更に強くする。
「――! おい、引け!」
唐突に聞こえてきたヒューゴさんの声。反射的に足を止めた俺と隊長、だけれどライリーの足は止まらなかった。そのままさっきの魔獣を追いかけて森の中に入っていく。
「まずいな」
「ああ――やっちまったな」
隊長とヒューゴさんの冷静な声が耳に届く。二人が冷静なおかげで俺も取り乱すことはなかったけれど、でも現状がよくないことはわかっている。一度息を呑み、しっかりと深く呼吸をする。
なぜ魔獣が一体だけ、という疑問を抱かなかったのが悪い。俺たちの目の前に現れた魔獣は決して単体で行動していたわけじゃない。ただ、追われていたところを逃げていた最中だったんだろう。
気付けば俺たちの後ろから五体の魔獣が迫ってきていた。大きさはさっきの魔獣とは比べ物にならない。俺たちの身長を軽く超え、顔を見るためには見上げなければならないほどの大きさだ。
本来なら森に入らせてはいけなかった。森のような狭い場所ではなく、見晴らしもいい武器も大きく振るうことができる場所で対面するべきだった。隊長は今からでも魔獣を森の外に誘導しようとしたけれど、五体の魔獣の視線の先にはさっき追いかけていた魔獣とそして――ライリーの姿。
「この場で討伐するしかない」
「セオ、あんまり離れるんじゃねぇぞ。ライリーは期を見てこっちに引っ張る」
「わかりました」
緊迫した空気が漂う。ここで身勝手な行動をしてしまえば自分だけじゃなく隊長たちまでも危険な状況に陥てしまう。大人しくヒューゴさんの言葉に頷き、少し離れた場所にいるライリーの様子を探るべく視線を走らせる。彼は槍を構えつつ、囲ってきた五体の魔獣に視線を向けていた。追いかけていた一体の魔獣は森の奥へ消えていく。
最悪だ。手負いの魔獣が村の人たちを襲ってしまったらどうしよう。すぐに追いかけたい衝動に駆られるけれど、そもそも自分たちもこの五体の魔獣相手に五体満足無事にいられるかどうかもわからない。騎士として先輩の隊長とヒューゴさんなら問題はないはずだ、問題は新人である俺たち二人が足を引っ張る可能性があること。
「一体ずつ確実に討伐する。絶対に飛び出すようなことはするな」
「はい……!」
隊長の言葉にしっかりと頷き返した俺に対し、少し離れた場所から舌打ちが聞こえたような気がした。
そう、久しぶりに村に帰れて嬉しかった。当初の目的であるお礼をちゃんと言うというのも達成された。再会して、改めて俺はあの人のことが好きだなぁと実感した。けれど。
「どうした? なんか様子おかしくねぇか」
「えっ? ……そんなことないよ」
「本当かぁ?」
ライリーに図星を突かれ一瞬だけ言葉が詰まる。それ以上追求されることはなかったけれど、それでも見抜かれてしまっていることに内心冷や汗だった。
もちろん任務に差し支えるようなことはしない。任務は任務だ、しっかりとしなければ大怪我に繋がる。だから意識はちゃんと切り替えている。
けれどふと、哨戒から戻って自室に戻った時に、どうしてもベッドの縁で頭を抱えてしまう。どうしよう。初めて恋した時から、あれが上限だと思っていたのに。
それなのに俺はリクトさんのことが好きでたまらない。
こう、好きという感情が溢れ出そうになる。だって格好良くはなっているとは思っていたけれどまさかあそこまでとは。騎士になって追いついたと思っていたけれどとてもじゃないけれどそんなことはなかった。狩人としての経験が彼を更に格好良い大人へと押し上げていた。
「うぅ~っ……リクトさん……どうしよう、格好良すぎる。しかもちょっと足を伸ばしたらすぐに会える距離にいる……!」
このままだと出会った瞬間「好きです」と言ってしまいそうだ。流石にそれだと引かれる。それ以前にお礼を言うのに精一杯で、同時に告白してしまおうと思ったけれど遮られてしまった。
そもそもリクトさんに恋人がいるかどうかも聞いていないのに! どうしてもっと早く聞こうとしなかったのか俺は!
で、でも多分村の子たちは昔と一緒だ。格好良くて話しかけられない、そう言っていたのを今でもそうなんだと信じるしかない。でも彼はあの時すでにモテていて、女性に人気だった。ああやっぱり告白するべきだったとまた頭を抱える。
もちろん受け入れてもらえる自信はあまりない。最初目を合わせた時は逃げてしまったし、それに再会した時は俺のを抜いてもらうという失態も犯してしまった。いや、えっと、気持ちはよかったけれど。とにかく印象があまりよくないということは知っている。
それでもこの溢れ出そうな気持ちを伝えずにいれる自信がもっとない。絶対ぽろっと言ってしまう。場所も弁えずにリクトさん自身のこともお構いなしに。
そんな不意打ちで言ってしまう前に、しっかりと自分の意志で言ったほうがいいに決まっている。
「セオ、聞きたいことがあるんだけど」
隊長たちと四人で哨戒している時だった、ふと隣にいたライリーがそう声をかけてきた。二日ぐらい前に盗賊の姿を見つけ捕らえたばかりだ。そう何回も盗賊に遭遇したくないなと思うのは別に怖い目に会いたくない、というわけではなく盗賊が出てくるような治安の悪さは嫌だなという気持ちからだ。村付近でそんな状態だと村の人たちもきっと安心できない。
だから気を抜かないように周囲を警戒しつつ、返事をして耳だけライリーに傾ける。
「もしかしてたけどさ」
「うん、何?」
「お前、故郷に好きな奴でもいるんじゃねぇの」
その声色は疑問、ではなく確信だ。思わず目を見張ってライリーのほうに視線を向けると彼はジッと俺のほうを見ていた。
「――そうだよ」
別に隠すことでもない。淀みなく迷うことなくそう告げるとライリーの表情が歪んだ。
「っ……鍛錬中に、憧れている奴がいるって言ってただろ。そいつか?」
「そう。前にも言ったけど、その人に見合う自分でいたいと思って騎士になった」
まだ騎士になる前、鍛錬の休憩中に「どうして騎士になりたいと思った」という話が持ち出された。やっぱり代々家が騎士の子たちは立派な志を持っていたけれど、でもみんながみんなそうではなかった。
ただ文学に秀でていなかったから、自分の大切な人たちを守りたいから、給料がいいから。理由は様々だった。そんな中俺も正直に口にした。憧れている人がいて、その人に恥じない自分でありたいからと。
それを聞いてみんな何やら納得した。そういう相手がいるから美人に告白されても頷かなかったし恋人も作らなかったのかと。頑張れよと言ってくれる子もいたし、入り込む余地がないのかと残念がっている子もいた。それぞれ多様は反応だった。
「好きだよ、あの人のことが」
やっぱりこの想いを隠すことはできないし、溢れ出してしまう。言葉にすると尚更だ。
引かれてでも嫌われてでも、この想いは一度しっかり伝えておいたほうがいい。再び強くそう思えた。
「……ふーん。でも恋は盲目とか言うしな。その実……――!」
興味なさそうにこぼされていた言葉だったけれど、それが唐突に止まる。俺も無意識にライリーの視線の先を追った。
目の前に大型というわけではないけれど、それでも人よりも大きさのある魔獣の姿。森の外にいる、ということはそれを討伐するのは俺たち騎士の役目だ。隊長たちも魔獣の存在に気付き目配せをしてきた。
それぞれ魔獣を囲う形で陣を組み、気配に気付かれないようジリジリと距離を縮める。隊長がサッと手を上げたのと同時に一度動きを止め、そして下ろされた瞬間ライリーが駆け出した。
「一体とはいえ油断はするなよ!」
「わかってますよ!」
ヒューゴさんの言葉にライリーは荒々しく返し、迷わず槍を突き出す。俺もライリーの援護に付くべく正反対から剣を振り下ろす。槍で腹を貫かれ、剣で足から出血している魔獣は雄叫びを上げた。
「俺がトドメを!」
「待てライリー、深追いをするな!」
四足歩行の魔獣は敵わないと思ったのか、こっちに向かってくることなく逃げの一手を取った。トドメを刺すことに躍起になってしまっているライリーはそのまま魔獣を追いかけてしまい、その様子を見た隊長が短く息を吐き出しあとを追うように駆け出す。
でもこれ以上追いかけていいものなのか、という考えが頭に過ったのは俺だけじゃないはず。魔獣が向かっている先は近くに村がある例の森だ。あそこに入ったら魔獣を討伐するのは俺たちの役目ではなくなってしまう。
「一体ぐらいどうってことないですよ!」
こっちの心配に気付いたのか前方からそんな声が聞こえた。魔獣一体ぐらいなら森に入ったところですぐに討伐すればいいと思っている。けれどライリーの考えもわからないわけでもない。早々に討伐すればわざわざ村の狩人の手を煩わせることもない。
隊長もそう思ったのか、走っているスピードが僅かに上がった。俺も遅れを取らないように地面を蹴る力を更に強くする。
「――! おい、引け!」
唐突に聞こえてきたヒューゴさんの声。反射的に足を止めた俺と隊長、だけれどライリーの足は止まらなかった。そのままさっきの魔獣を追いかけて森の中に入っていく。
「まずいな」
「ああ――やっちまったな」
隊長とヒューゴさんの冷静な声が耳に届く。二人が冷静なおかげで俺も取り乱すことはなかったけれど、でも現状がよくないことはわかっている。一度息を呑み、しっかりと深く呼吸をする。
なぜ魔獣が一体だけ、という疑問を抱かなかったのが悪い。俺たちの目の前に現れた魔獣は決して単体で行動していたわけじゃない。ただ、追われていたところを逃げていた最中だったんだろう。
気付けば俺たちの後ろから五体の魔獣が迫ってきていた。大きさはさっきの魔獣とは比べ物にならない。俺たちの身長を軽く超え、顔を見るためには見上げなければならないほどの大きさだ。
本来なら森に入らせてはいけなかった。森のような狭い場所ではなく、見晴らしもいい武器も大きく振るうことができる場所で対面するべきだった。隊長は今からでも魔獣を森の外に誘導しようとしたけれど、五体の魔獣の視線の先にはさっき追いかけていた魔獣とそして――ライリーの姿。
「この場で討伐するしかない」
「セオ、あんまり離れるんじゃねぇぞ。ライリーは期を見てこっちに引っ張る」
「わかりました」
緊迫した空気が漂う。ここで身勝手な行動をしてしまえば自分だけじゃなく隊長たちまでも危険な状況に陥てしまう。大人しくヒューゴさんの言葉に頷き、少し離れた場所にいるライリーの様子を探るべく視線を走らせる。彼は槍を構えつつ、囲ってきた五体の魔獣に視線を向けていた。追いかけていた一体の魔獣は森の奥へ消えていく。
最悪だ。手負いの魔獣が村の人たちを襲ってしまったらどうしよう。すぐに追いかけたい衝動に駆られるけれど、そもそも自分たちもこの五体の魔獣相手に五体満足無事にいられるかどうかもわからない。騎士として先輩の隊長とヒューゴさんなら問題はないはずだ、問題は新人である俺たち二人が足を引っ張る可能性があること。
「一体ずつ確実に討伐する。絶対に飛び出すようなことはするな」
「はい……!」
隊長の言葉にしっかりと頷き返した俺に対し、少し離れた場所から舌打ちが聞こえたような気がした。
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