婚約者に断罪イベント?!

みけねこ

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25.思いがけない再会

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 私は光属性でしかも『反射』に特化してるとかそんなこと知らないし今初めて知ったしやっぱり『ヒロイン』ってのものは光属性っていう決まりがこの世界にはあるのだろうか、とか色々と考えていたんだけれど。本当は当人たちにはまったくそのつもりはなくても、傍からどう見てもイチャイチャし始めたレオンハルトとアイビーの二人を見て思わず合掌して天を拝みたくなったけれど。
 突然現れた人物を真正面で見て、ようやく思い出した。そうだ、彼女だ。
「な、なんでレオンハルトとアイビーがここにいるのよ?!」
「それはこちらのセリフだね?」
 物腰柔らかな口調に表情だったけれど、なぜかゾクッと背筋に悪寒が走った。この王子、やっぱり腹黒いのでは?
「そ、それは、だって……デリットに頼まれたから……ってデリット?! なんであなたが牢屋に入ってんのよ?! しかもその怪我どうしちゃったの?!」
 クズ男が視界に入った瞬間どうやら彼女の世界から私たちの存在は消えたようで、牢屋に駆け寄ってボロボロのクズ男に声を掛けていた。いやどうしちゃったのって、それ聞きたいのこっちかもしれないんだけど。
「ルーチェさん、一つお聞きしたいことがあるのだけれど」
「は、はいっ!」
「先程彼女の姿を見た途端、まるで何かを思い出したかのような声を上げてらっしゃったようだけれど……お知り合いですの?」
「い、いいえ、別に知り合いというわけじゃないんですけど……」
 ただ、一方的にこっちが知っているだけだ。だってクズ男に駆け寄った彼女……一作目のヒロイン、セリーナ・パートシイだったから。
 それに、この世界で見たのはこれが初めてじゃない。
「実は彼女を二回ほど見ているんです。一回目はステラさんが襲われた時、二回目はアイビー様の姿を追いかける前です」
「なるほど?」
 私たちの会話を聞いていたレオンハルトが一言そう言い、顎に手を当てて何かを考え始めた。レオンハルトはある意味チートだから、その頭は今凄まじいほど回転していそうだ。
「ああ可哀想デリット、こんな目に合っちゃって……今私が助けるから……!」
「レオンハルト様」
「ああ」
 アイビーの言葉に相槌を打ったレオンハルトは唐突に指をパチンッと鳴らした。一体なんだろうかと首を傾げる私に、さっきまでクズ男を心配していたセリーナの身体がピタリと止まる。彼女の動きを止める魔法か何かかと思ったけれどどうやら違うらしい。
「……え? なっ……によ、このブサイク!」
「ッ……!」
「なんで私こんな奴にっ」
 さっきまで目にハートすら浮かんでいたかのような様子だったのに、レオンハルトが指を鳴らした瞬間そんな暴言を吐き出した。未だに牢屋の中に入っているクズ男は顔を歪めてレオンハルトを睨んでいる。何がどうなっている? とひたすら頭の中はクエスチョンマークだ。
「どうやら『魅了』の魔法に掛かっていたようだね」
「まさに因果応報ですわねぇ。かつて貴女が周囲に掛けていたものが貴女自身に掛けられていただなんて」
「『魅了』の魔法に掛かっていた彼女は逐一僕たち周囲の人間の情報をそこの馬……彼に知らせていたようだね」
 今「馬鹿」って言おうとしました? まぁそれはともかく、この件については大体わかってきた。
「あ……アンタ! 修道院に来た時に私に魔法を掛けたわね?! ふざけんじゃないわよ! そうじゃなきゃアンタみたいな人間私が好きになるわけがない! なーにが好きでこんな顔もそんなイケメンじゃなくて性格もドクズな奴に尽くすかっていうのよッ! ふざけんな! 『ここから出してあげる』じゃないわよこの野郎!」
「口汚い女だな! お前なんか利用されることしか能がないだろ!」
「はぁ?! 女性に対してそんなこと言うなんて、アンタ絶対モテないでしょ! それを人のせいにしてるんだわ! だからモテないのよッ! このブスッ!」
 中々に、強烈なヒロインだ。彼女が逆ハーレムを作ろうとして『魅了』の魔法は掛けるわ最終的にレオンハルト本命だからって無理やり断罪イベント起こそうとするわ。修道院に送られてほんの少しだけ同情したけれど、そんなことする必要はまったくなかったようだ。
「……って、なんでまたアイビーは断罪イベント発生させているわけ?」
「へぇ? 君の言う『ゲーム』とやらで、アイビーはまたそんなことに巻き込まれるんだ?」
「ヒッ……?! こ、今回私は悪くないからね! っていうか、前回もそんな悪いことしてなくない……? あんな修道院に送られる必要もなくない……?!」
「まぁ」
 アイビーが上品に驚いているけれど、私は構わず口をパカンと開けてしまった。いやいや、いやいやこの子は何を言っている? いじめをでっち上げて王子の婚約者を貶めようとしておいて、寧ろよく修道院送りだけで済んだなと私は思ったんだけど?
「だって、人が人を好きになるなんてそんなに悪いこと? 好きな人に振り向いてもらいたいって思うことって悪いことなの? 恋する乙女なら誰だってそう思うじゃない! た、確かに私はちょっとやりすぎたとは思うけど……だって、あの時は本気で……私そんなに駄目なことした?!」
「いやしたでしょ」
 つい口からぽろりと言葉が出てしまった。すっと手で口元を覆ったけれど遅かったようで、その場にある視線が一気に私に集まる。レオンハルトとアイビーに関しては「続きをどうぞ」と笑顔で促して来るではないか。なんだか恐ろしいな、この二人は。
 ふぅ、と息を吐き出しつつ同じ転生者のよしみだ、ここははっきりと言ってやろうと口を開く。
「別に誰が誰を好きになるとか個人の勝手だしご自由にどうぞって感じだけど、でもあなたがやったことって恋人の仲を引き裂こうとしたんだよ? しかも嘘までついて、恋敵を邪魔者扱いして除外しようとまでした」
「それの何が悪っ……」
「自分の身になって考えてみたら? 彼氏が自分の見知らぬ女から一方的に好意を寄せられて、しかも自分から奪おうとする。嫌でしょ?」
「嫌よ。でもそれとこれとは別」
「このバカ。自分はよくて他の人は駄目なんてそんなのまかり通るわけないでしょ!」
「くっ……! シスターと同じこと言ってっ……!
 言われたんかい。修道院のシスターにも言われたんかい。それならわかるでしょともう呆れるしかない。この子はあれだ、恋に生きる人間なんだな。
「……でも流石にもう、馬に蹴られたくないけど」
 蹴られた自覚はあったのか。まだ救いがあった。というか二人の仲に割って入ろうとして意外に結構痛い目を見たのかもしれない。それならよく今ここでさっきの言葉吐けたなと別の意味で感心してしまう。一体どんな強メンタルしているんだこのヒロインは。
「話は終わったかな? さて、君にはまた修道院に戻ってもらうよ」
「えぇ?! なんでまたあそこに?!」
「君は今修道院から『脱走した』という扱いになっているからね。戻らなかったらもっと痛い目を見るけれど?」
「あそこはスパルタすぎ! 脱走だなんて、私しようと思って脱走したんじゃないの! そこの! 顔も性格もブサイクに誑かされたの!」
「確かに今回は貴女も利用されたわけですし、そのことについてはわたくしもシスターに進言致しますわ。まぁ、難しいとは思いますけれど」
 随分と元気なヒロインだなと思いつつ、ちょっと気になることがあってほんの少しだけアイビーとの距離を縮める。そんな私に気付いてアイビーも僅かに耳をこっちに傾けてくれた。
「あの……結構処罰が軽いのでは……? 彼女のしでかしをステラさんから教えてもらいましたけど、結構なことしていますよね……?」
「ええ。でもわたくしももうそんなに気にしておりませんし、何より彼女に関しては精神的に追い詰めるほうが効果的ですの。なので彼女の嫌がることばかりしているつもりですわよ?」
「お、恐れ入りました……」
「ふふっ」
 美人の笑顔は美しいがそれと同時に恐ろしくもある。貧しく病弱だったセリーナの母親は今アイビーの保護下で今はのんびりと過ごしている、そしてセリーナが身を置いている修道院は兎にも角にもあらゆる面で厳しい場所なのだと、ボソボソと小さい声で教えてくれた。自分が裕福な暮らしをしたかったセリーナにとっては何よりも嫌がることだろうと。
「しかし例の件といいルフトゥ嬢から聞いた件といい……なぜこうもアイビーを断罪させようとするんだろうね?」
「面白いですわね。まるでそうなる運命のようですわ」
「その『ゲーム』の物語を考えた奴の✕✕✕を斬り落としてやりたいなぁ?」
「まぁ! ふふっ、次元が超えれば素敵ですわよねぇ」
 学園一のビックカップルがこうも恐ろしいことを簡単に口にするだなんて、一体誰が予想できようか。王子が伏字を使わなければならない単語を口にしただなんて。
 製作者逃げて超逃げて。もし二人が次元を超えてしまえば鞭で打たれるわチ✕✕斬り落とされるわで大変な目に合ってしまう。
「さてレオンハルト様、そちらの方は殺していいんですの?」
 ビクリとクズ男とそして、二人の雰囲気に呑まれたセリーナと私の身体が跳ねる。アイビーの声色は決して冗談じゃないことを私たちに伝えてきた。そりゃ、あれだけ打っておいてしかもレオンハルトに毒を盛ったとなればアイビーだって本気になる。
 けれど一歩進み出たアイビーをレオンハルトはやんわりと止めて頭を左右に振った。
「彼は男爵の次男だ、遊び呆けていてこれほどの作戦を練る頭脳なんてない。彼を殺したところでアイビーの気持ちは晴れないよ?」
「なッ……! なんで俺が次男だってッ」
「僕が何も知らないとでも思った? 知っていたからここに来たんだけどね?」
「そうでしたわ。貴方の頭のいいお知り合いのおかげでしたものね?」
「クソォッ!」
「まぁ? アイビーにこんな仕打ちをした君も到底許されないけどね? カイト」
 そういえばいつの間にかあれだけ騒がしかった上の階が静かになっている。ふと視線を向けてみれば奥の扉から騎士たちがぞろぞろとやってきている。誰も彼も、その手に持っている武器は赤く染まっていてサッと血の気が引いた。
 庶民で、そして安全な学園で過ごしていたからわからなかった。けれどこの国は私が思っている以上に未だそんなに安全ではないのかもしれない。
「そこの二人を連れて行け」
「はっ!」
 レオンハルトの魔法で破壊された牢屋の扉をくぐり、アイビーの鞭打ちでボロボロになっている身体を引っ張られるクズ男と。当人がそこまで騒がなかったためか、無理強いではなかったけれど両サイドガッツリと騎士に挟まれたセリーナはそのまま連行されていく。
「さて、仕上げといこうか?」
 そう言ったレオンハルトの顔は乙女ゲームのスパダリキャラなんてものじゃなかった。顔を見た私は見てしまったことについて若干後悔したぐらいだったんだから。
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