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3rd
21.分岐ルート突入
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唸りながら目を開ける。目の前にはさっきまで垂れ流していたよく見てもいない番組が流れていた。ローテーブルの上には見切り品のお惣菜に小麦色の炭酸水、そしてつまみ。
「ああ……私寝ちゃってた……?」
目を擦って時間を確認してみればまだてっぺんを超えてはいなかった。寝落ちか、とゆっくりと身体を起こしてそのままボーッとテレビに視線を向ける。
私、何やってたんだっけ。なんかファンタジーの世界に行っていたような気がする。どんな世界だったかあんまり思い出せない。っていうかあれは夢だったんだろうか。それにしてはやけにリアルだった。
夢の内容を中々思い出せなくて、取りあえずテーブルの上を片付けようとした時だった。指先に何かがあって自然と視線がそっちに向く。そこには人気乙女ゲームのノベライズがあった。
「ああ……えぇ……」
うまく言葉にできなくて母音しか発せない。なんだかこれに関係あったような気がする。そう、メインキャラの王子とその婚約者の悪役令嬢。あれ、でも夢の中では悪役令嬢は悪役ではなかったような気がする。
思い出せない、私は何を見ていたっけ。
「ハッ……?!」
「ああよかった。大丈夫ですの?」
誰かがずっと呼んでいるような気がすると思って、慌てて目を開いてみれば眼前に美しい顔があって違う意味で昇天しかかった。っていうか、あれ、私さっきまで自分の部屋にいなかったっけ? って周りを見渡そうと起き上がろうとしたんだけど、頭にズキッと酷い痛みが走ってくぐもった声しか出せなかった。
そんな私を見かねてか、美しい顔の持ち主が私の背中を支えて起き上がる手助けをしてくれた。申し訳ないと思いつつも、痛む頭を押さえながら改めて辺りを見渡してみる。
「……牢屋……?」
「申し訳ございませんわ……貴女を巻き込んでしまって……」
「……あ! アイビー様、怪我はありませんか?!」
そうだ、私は連れ去られそうになったアイビーを目撃して急いで助けに入ろうとしたんだった。けれど庶民の私があの場面でできることなんて何にもなくて、逆に頭を殴られたんだった。私は気絶してアイビーと一緒にこの場に運ばれたということだろう。
でもよかった、別々の牢屋じゃなくて。一緒だとまだ何かできるかもしれない。考えろ、今できることを……と思っていても、殴られた頭が痛くてしょうがない。か弱い女子の頭を思いっきり殴るなんて、なんて酷い男だと内心悪態をつく。
「……ごめんなさい。魔法が使えれば、ルーチェさんの傷も癒せるのに……」
「い、いえいえ! 私だって怪我なんて治せませんし……」
だからアイビーがそんなに落ち込む必要なんてまったくない。慌ててフォローしようにもズキズキと痛むものだから笑顔が引き攣ってしまう。そういえば前にステラちゃんが言っていたっけ、アイビーは魔力がないと。だから二作目のイベントで魔力ゼロのアイビーも標的にされたんだと。
彼女がゲームで『悪役令嬢』にされた裏設定にはそういうこともあったのかもしれない。尚更運営陣が恨めしい。アイビー一人に一体どれだけの不運を背負わせているんだっての。
しかし改めて状況を確認してみるけれど。私たちはよくわからないガタイのいい男たちに捕らえられて連れ去られてここに監禁された、っていうことなんだろうけれど。それにしては随分とアイビーが冷静だ。いや元からそういう性格なのかもしれないけれど、それにしても状況をよくわかっているというか――まるで、こうなることがわかっていたような。
そこまで考えてサッと血の気が引いた。そうだ、あの時アイビーはまるでわざと人気のないところに向かっていっているような気がした。それにさっき私が起きた時に言っていたセリフ、『巻き込んでしまって』と。
「……アイビー様、もしかして私……余計なことしましたか……?」
「……いいえ。貴女がとても勇気があって正義感に溢れている方なのだとわかりましたわ」
ただ、と真っ直ぐこっちを見つめてくる目に思わず背筋が伸びる。まるで悪いことをやって先生に叱られる子どものよう。
「時にそれは『無謀』という言葉に取られるかもしれません。状況をよく見て、自分の手に余るようなことならば傍観するという選択肢もありますわ」
「……申し訳ございません」
「けれど、正直に言いますとわたくしは嬉しかったですわ。あんなにも誰かが必死に自分のことを守ろうとしてくれている、そのことに嫌悪感を抱く人間なんていませんでしょう?」
高校生の年齢の子に諭されるとは、とてつもなく不甲斐なさすぎる。余計なことをしたというのにアイビーのあまりにも大人なフォローに自分が情けなくなった。もしかしたらアイビーは私を巻き込まないようにって、わざとあの小屋に行ったかもしれないのに。それを台無しにしてしまった。
「この話はここまでに致しましょう? ルーチェさんは頭を殴打されたのです、あまり動かないほうがいいですわ。これを使って?」
「何から何まですみません……」
渡されたハンカチはとても綺麗で布だって上等だ、私が使っているものとまったく違う上質な物。それを汚すのは忍びなかったけれどさっき頭を触ってみたら、どうやら出血もしていたようだから素直にハンカチを受け取って頭を押さえた。
「……アイビー様は誘拐された理由などわかりますか?」
しっかりとした鉄格子に扉には鍵も掛かっている。ただし見張りは今は席を外しているのか姿は見えない。今のうちに聞けることは聞こうと口を開いてみる。
「やはり、わたくしとレオンハルト様の失脚でしょうね。でも慣れていますわ。このようなこと幼い頃からずっとありましたもの」
「こ、子どもの時から……」
「ええ。見張りは今ローテーションを組むために離れているのでしょう。しばらくすれば戻ってきて交互にわたくしたちを監視するはずですわ。わたくしたちは今の所命に別状はございませんし、すぐに命を奪われる心配もないでしょう」
ゆ、誘拐ソムリエすぎる。子どもの頃から何度もこんな目に合ってしまうと人間慣れてしまうものなのか。というよりも王子とその婚約者が何度もこんな目に合うなんて警備のほうはどうなっているんだと言いたくなる。こんなものに慣れちゃ駄目でしょ。
そらから少し時間が経ったのか、遠くから扉の開く音が聞こえて顔を上げてみれば見張りのような人が一人こっちへやってきた。その見張りなんだけど、私たちを捕まえたガタイのいい男たち……とは、また違うんだけど。そもそも雰囲気が違うし、ゴロツキなんてものじゃなくどこか上品さがあった。
「ア、アイビー様……」
「やはりそうですわね」
一人で納得しないで頂きたい。彼女はやってきた見張りを見て何かを確信したようだけれど、私はまったくわかっていないから。ただ一つわかることと言えば、実はかなり重要なものに巻き込まれてしまったのではということだけだ。
「そこの方、彼女は無関係ですわ。開放してくださる?」
こんな状況でも毅然としている女性は強くて美しい。ほぉ……っと思わず息をついてしまいそうになったけれど、ハッと我に返る。同じように捕らえられているのに、アイビーは私だけでも逃がそうとしてくれていた。
慣れているとはいえ、この状況に彼女一人置いていくことなんてできない。急いで頭を左右に振ろうとしたけれど、少し動かせばズキリと痛みが走ってそれもままらなかった。
見張りの男はアイビー様を一瞥し、感情を一切出すことなく口を開く。
「そんなことできるわけがないだろう。そいつは目撃者だ」
「そうですの。融通の利かない方ですわね」
「無駄口を叩くな。黙ってろ」
男は冷たく言い放ち、反してアイビー様はわざとらしく手で口元を押さえた。恐ろしい状況だというのになぜそこまで茶目っ気があるのだろう。
ズキズキと頭が痛む中、何かが……何かを、忘れているような気がする。牢屋に、そこに捕らわれているアイビー、なんだか上品さのある見張り。なんだ、私は何を忘れていると必死に記憶を掻き集める。どこかで見た景色だ。夢の中じゃなくて、より具体的にどこかで何かを見たはず。
目を閉じズキズキと走る痛みに耐えながら、必死に頭を回転させてあらゆるものを思い起こす。すると脳裏に現れたのは、ゲーム画面。ノベライズは視界の端にある。一作目と、二作目。二作目は主に魔力ゼロに関するストーリーだった。光属性であるヒロインのステラが黒幕に説き伏せるシーンは中々にグッとくるものがあった。けど、思い出したいのはそれじゃない。
不意に街の中で見かけた姿を思い出した。どこかで見たその髪色、後ろ姿。
「……待って」
そうだ。そうだこれは……牢屋に捕らわれているアイビーのシーンがあった。一作目の、分岐のルートだ。
コリンルートの最後にあった、悪役令嬢の断罪イベントと今の状態はまったく同じものだった。
ステラちゃんがいるから時間系列的にはこの世界は二作目のはずなのに、なぜ一作目の断罪イベントが発生しているのか。いや、そもそもこの世界は私たちの知っているゲーム内容と似ている部分はあっても、根底から違うものもあった。だからか、ゲーム通りの時間軸でストーリーが進むとは限らない。
このままではアイビーの断罪イベントが発生してしまう。コリンルートではアイビーは牢屋に捕らわれた後そのままずっと飼い殺しされるエンドだった。今は無事でも、これからどうなるかわからない。だからいち早くこの場からアイビーを逃さないと。
「アイビー様! 早くここから脱出しましょう?!」
「ルーチェさん?」
彼女の肩を掴んで思わずそう叫んでしまった。そこに見張りがいるのに。「黙れ!」と持っている槍で鉄格子を思いきり叩かれてその音にびっくりしたけれど、彼女の肩から手を退かすことはしなかった。
だってこの世界のアイビーは悪役令嬢なんかじゃない。断罪イベントを起こされるような女性じゃない。彼女はこの世界で、レオンハルトの婚約者として懸命に生きている人間なんだから。
「ああ……私寝ちゃってた……?」
目を擦って時間を確認してみればまだてっぺんを超えてはいなかった。寝落ちか、とゆっくりと身体を起こしてそのままボーッとテレビに視線を向ける。
私、何やってたんだっけ。なんかファンタジーの世界に行っていたような気がする。どんな世界だったかあんまり思い出せない。っていうかあれは夢だったんだろうか。それにしてはやけにリアルだった。
夢の内容を中々思い出せなくて、取りあえずテーブルの上を片付けようとした時だった。指先に何かがあって自然と視線がそっちに向く。そこには人気乙女ゲームのノベライズがあった。
「ああ……えぇ……」
うまく言葉にできなくて母音しか発せない。なんだかこれに関係あったような気がする。そう、メインキャラの王子とその婚約者の悪役令嬢。あれ、でも夢の中では悪役令嬢は悪役ではなかったような気がする。
思い出せない、私は何を見ていたっけ。
「ハッ……?!」
「ああよかった。大丈夫ですの?」
誰かがずっと呼んでいるような気がすると思って、慌てて目を開いてみれば眼前に美しい顔があって違う意味で昇天しかかった。っていうか、あれ、私さっきまで自分の部屋にいなかったっけ? って周りを見渡そうと起き上がろうとしたんだけど、頭にズキッと酷い痛みが走ってくぐもった声しか出せなかった。
そんな私を見かねてか、美しい顔の持ち主が私の背中を支えて起き上がる手助けをしてくれた。申し訳ないと思いつつも、痛む頭を押さえながら改めて辺りを見渡してみる。
「……牢屋……?」
「申し訳ございませんわ……貴女を巻き込んでしまって……」
「……あ! アイビー様、怪我はありませんか?!」
そうだ、私は連れ去られそうになったアイビーを目撃して急いで助けに入ろうとしたんだった。けれど庶民の私があの場面でできることなんて何にもなくて、逆に頭を殴られたんだった。私は気絶してアイビーと一緒にこの場に運ばれたということだろう。
でもよかった、別々の牢屋じゃなくて。一緒だとまだ何かできるかもしれない。考えろ、今できることを……と思っていても、殴られた頭が痛くてしょうがない。か弱い女子の頭を思いっきり殴るなんて、なんて酷い男だと内心悪態をつく。
「……ごめんなさい。魔法が使えれば、ルーチェさんの傷も癒せるのに……」
「い、いえいえ! 私だって怪我なんて治せませんし……」
だからアイビーがそんなに落ち込む必要なんてまったくない。慌ててフォローしようにもズキズキと痛むものだから笑顔が引き攣ってしまう。そういえば前にステラちゃんが言っていたっけ、アイビーは魔力がないと。だから二作目のイベントで魔力ゼロのアイビーも標的にされたんだと。
彼女がゲームで『悪役令嬢』にされた裏設定にはそういうこともあったのかもしれない。尚更運営陣が恨めしい。アイビー一人に一体どれだけの不運を背負わせているんだっての。
しかし改めて状況を確認してみるけれど。私たちはよくわからないガタイのいい男たちに捕らえられて連れ去られてここに監禁された、っていうことなんだろうけれど。それにしては随分とアイビーが冷静だ。いや元からそういう性格なのかもしれないけれど、それにしても状況をよくわかっているというか――まるで、こうなることがわかっていたような。
そこまで考えてサッと血の気が引いた。そうだ、あの時アイビーはまるでわざと人気のないところに向かっていっているような気がした。それにさっき私が起きた時に言っていたセリフ、『巻き込んでしまって』と。
「……アイビー様、もしかして私……余計なことしましたか……?」
「……いいえ。貴女がとても勇気があって正義感に溢れている方なのだとわかりましたわ」
ただ、と真っ直ぐこっちを見つめてくる目に思わず背筋が伸びる。まるで悪いことをやって先生に叱られる子どものよう。
「時にそれは『無謀』という言葉に取られるかもしれません。状況をよく見て、自分の手に余るようなことならば傍観するという選択肢もありますわ」
「……申し訳ございません」
「けれど、正直に言いますとわたくしは嬉しかったですわ。あんなにも誰かが必死に自分のことを守ろうとしてくれている、そのことに嫌悪感を抱く人間なんていませんでしょう?」
高校生の年齢の子に諭されるとは、とてつもなく不甲斐なさすぎる。余計なことをしたというのにアイビーのあまりにも大人なフォローに自分が情けなくなった。もしかしたらアイビーは私を巻き込まないようにって、わざとあの小屋に行ったかもしれないのに。それを台無しにしてしまった。
「この話はここまでに致しましょう? ルーチェさんは頭を殴打されたのです、あまり動かないほうがいいですわ。これを使って?」
「何から何まですみません……」
渡されたハンカチはとても綺麗で布だって上等だ、私が使っているものとまったく違う上質な物。それを汚すのは忍びなかったけれどさっき頭を触ってみたら、どうやら出血もしていたようだから素直にハンカチを受け取って頭を押さえた。
「……アイビー様は誘拐された理由などわかりますか?」
しっかりとした鉄格子に扉には鍵も掛かっている。ただし見張りは今は席を外しているのか姿は見えない。今のうちに聞けることは聞こうと口を開いてみる。
「やはり、わたくしとレオンハルト様の失脚でしょうね。でも慣れていますわ。このようなこと幼い頃からずっとありましたもの」
「こ、子どもの時から……」
「ええ。見張りは今ローテーションを組むために離れているのでしょう。しばらくすれば戻ってきて交互にわたくしたちを監視するはずですわ。わたくしたちは今の所命に別状はございませんし、すぐに命を奪われる心配もないでしょう」
ゆ、誘拐ソムリエすぎる。子どもの頃から何度もこんな目に合ってしまうと人間慣れてしまうものなのか。というよりも王子とその婚約者が何度もこんな目に合うなんて警備のほうはどうなっているんだと言いたくなる。こんなものに慣れちゃ駄目でしょ。
そらから少し時間が経ったのか、遠くから扉の開く音が聞こえて顔を上げてみれば見張りのような人が一人こっちへやってきた。その見張りなんだけど、私たちを捕まえたガタイのいい男たち……とは、また違うんだけど。そもそも雰囲気が違うし、ゴロツキなんてものじゃなくどこか上品さがあった。
「ア、アイビー様……」
「やはりそうですわね」
一人で納得しないで頂きたい。彼女はやってきた見張りを見て何かを確信したようだけれど、私はまったくわかっていないから。ただ一つわかることと言えば、実はかなり重要なものに巻き込まれてしまったのではということだけだ。
「そこの方、彼女は無関係ですわ。開放してくださる?」
こんな状況でも毅然としている女性は強くて美しい。ほぉ……っと思わず息をついてしまいそうになったけれど、ハッと我に返る。同じように捕らえられているのに、アイビーは私だけでも逃がそうとしてくれていた。
慣れているとはいえ、この状況に彼女一人置いていくことなんてできない。急いで頭を左右に振ろうとしたけれど、少し動かせばズキリと痛みが走ってそれもままらなかった。
見張りの男はアイビー様を一瞥し、感情を一切出すことなく口を開く。
「そんなことできるわけがないだろう。そいつは目撃者だ」
「そうですの。融通の利かない方ですわね」
「無駄口を叩くな。黙ってろ」
男は冷たく言い放ち、反してアイビー様はわざとらしく手で口元を押さえた。恐ろしい状況だというのになぜそこまで茶目っ気があるのだろう。
ズキズキと頭が痛む中、何かが……何かを、忘れているような気がする。牢屋に、そこに捕らわれているアイビー、なんだか上品さのある見張り。なんだ、私は何を忘れていると必死に記憶を掻き集める。どこかで見た景色だ。夢の中じゃなくて、より具体的にどこかで何かを見たはず。
目を閉じズキズキと走る痛みに耐えながら、必死に頭を回転させてあらゆるものを思い起こす。すると脳裏に現れたのは、ゲーム画面。ノベライズは視界の端にある。一作目と、二作目。二作目は主に魔力ゼロに関するストーリーだった。光属性であるヒロインのステラが黒幕に説き伏せるシーンは中々にグッとくるものがあった。けど、思い出したいのはそれじゃない。
不意に街の中で見かけた姿を思い出した。どこかで見たその髪色、後ろ姿。
「……待って」
そうだ。そうだこれは……牢屋に捕らわれているアイビーのシーンがあった。一作目の、分岐のルートだ。
コリンルートの最後にあった、悪役令嬢の断罪イベントと今の状態はまったく同じものだった。
ステラちゃんがいるから時間系列的にはこの世界は二作目のはずなのに、なぜ一作目の断罪イベントが発生しているのか。いや、そもそもこの世界は私たちの知っているゲーム内容と似ている部分はあっても、根底から違うものもあった。だからか、ゲーム通りの時間軸でストーリーが進むとは限らない。
このままではアイビーの断罪イベントが発生してしまう。コリンルートではアイビーは牢屋に捕らわれた後そのままずっと飼い殺しされるエンドだった。今は無事でも、これからどうなるかわからない。だからいち早くこの場からアイビーを逃さないと。
「アイビー様! 早くここから脱出しましょう?!」
「ルーチェさん?」
彼女の肩を掴んで思わずそう叫んでしまった。そこに見張りがいるのに。「黙れ!」と持っている槍で鉄格子を思いきり叩かれてその音にびっくりしたけれど、彼女の肩から手を退かすことはしなかった。
だってこの世界のアイビーは悪役令嬢なんかじゃない。断罪イベントを起こされるような女性じゃない。彼女はこの世界で、レオンハルトの婚約者として懸命に生きている人間なんだから。
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