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16.若者の苦労話は泣ける
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「あ、あの、ステラさ……ステラ様も、別の世界の人間ってことでいいのでしょうか……?」
「はい! あ、私まだ名乗ってませんでしたね。ステラ・ルフトゥです。転生者だから私の名前も知っているんですね」
「二作目のヒロインですよね?!」
「一応? そうですね。ということはルーチェさんもゲームプレイ済みってことですよね? すごい!」
転生者で尚且ゲームプレイ済みの人と出会えるなんて! ってものすごくステラちゃんは喜んでいるんだけど、その様子がさっきまでとは違うというか。さっきまでは本当に貴族の令嬢という感じでお淑やかで気品に溢れていたんだけれど、なんだか急に年相応というか親しみやすい雰囲気になった。きっと本来の彼女の性格がそうなのだろう。
「ちなみに一作目のヒロイン、セリーナ・パートシイも転生者だったみたいです」
「ファッ?!」
「逆ハーレムを目指そうとしてみたものの、レオンハルト王子がアイビー様に一途だったものだから強引に断罪イベント起こしたみたいなんですよね。話によると、結構あれな性格だったそうで……」
「頭の中がお花畑でおバカだったってこと?」
「す、すごく直球に言いましたね……ところで私気になったんですけど、もしかして転生者はヒロインになるって決まっているんでしょうか?」
その一作目のヒロインとそして二作目のヒロインだったステラちゃんが転生者、そして私も一応小説のヒロインだ。そんなつもりはまったくないけれど。となるとステラちゃんの仮説は正しいのかもしれない。
そうかも、と首を縦に振ってみるとまたもや彼女の顔がパッと輝く。さっきから感情を隠そうともしないなんて可愛い子なんだハートを鷲掴みされちゃう、っていう感情を表に出すわけにもいかず、私多分変な顔になっている。
「そしたら三作目が出たということですか?! やってみたかったなぁ」
「えっ……? 三作目ではなくてノベライズされたこと知らないんですか……?」
「ノベライズ?! そうだったんですね! そっかぁ……私、二作目までしかできなくて」
ステラちゃんの言い方にハッと何かを察してしまった。ゲームはやったことあるけれどノベライズは知らない、というのはゲームプレイヤーとしては少し違和感がある。二作目までやって興味がなくなったとしても、情報ぐらいは入るだろうから。でも、彼女は二作目までしかできなかったと言った――できなかった事情があるっていうことだ。
「えっと……ステラ様はどうやってこの世界に来たか、わかります?」
取りあえず遠回しに確認してみようと当たり障りなく言葉を選んだつもりだけれど。ステラちゃんはというと視線を少しだけ上に向けて記憶を手繰り寄せているような様子を見せた。
「そうですね……私の場合もう身体が保たなくて、目を瞑ったら気付いたらこの世界に……という感じですね。こっちで目覚めた時は確か十歳ぐらいだったと思います」
「十歳?!」
まさかこっちに転生してくる時期にそれぞれ違いがあるだなんて。私なんてつい先日だぞこっちで目が覚めたのは。
だからか。ステラちゃんは令嬢として生きてきた年数がそれなりにあるから、例え転生者としてもこっちの世界に馴染んでいるし、所作とかにも気品があるんだ。
「実は私、今度こそ長生きしたくて二作目のゲームシナリオを変えようとしたんです。そのためにレオンハルト王子とアイビー様にご協力しました」
「長生き、したくて……?」
「はい。私前の世界で高校生の時に病気で入院していたんです」
「高校生ッ……!」
もう話の流れがわかってしまった。つまり目の前にいるステラちゃんは、私たちのいた世界では女子高生で、そして病気で亡くなってこっちの世界に来た。そういうことなのだろう。
女子高生だなんて! まさに青春の真っ只中なのに! もっともっと楽しいこともたくさんあっただろうに、彼女の言葉からするとずっと病室にいたに違いない。だからこそ今度こそ「長生きしたい」という単語が出てきて、そして必死にストーリーの介入をしたのだろう。健気だ、泣けてくる。応援したくなる。
頭を抱えてつい鼻がツンと痛くなった私に対しステラちゃんは「そこまで気にしないで下さい」とこっちを気遣ってくる声を掛けてくる。気にするよ、応援したくなる。それは二作目のヒロインだからという理由じゃなくて、あまりにも健気な高校生だった彼女だからだ。
「あ。それでですね、そもそもアイビー様がご健在なので一作目のストーリーが変わってしまっているじゃないですか。だからなのか、二作目の黒幕がいましたよね?」
「ああ……なんか黒マントを被っている如何にも怪しい人……」
「実はその人に加担した人がいまして、それが一作目の攻略キャラだったニュートとコリンだったんです」
「はい?!」
「一作目のヒロインを追い出したことを逆恨みして、レオンハルト王子とアイビー様に復讐しようとしていたんです。それがイベントと重なって。二人がこの学園にいない理由はそういうことなんです」
「……アホなの?」
いや、うん。ニュートは騎士でプライドが高くて、コリンは長男なのに弟キャラ。ちょっと癖があったけれどゲームとしてはキャラ立ちしていてよかった。でもゲームだからよかったわけで。
そしたら何か? 二人は『魅了』の魔法を掛けられてお花畑ヒロインに惚れて、魔法が解けた後でもヒロインのことをずっと好きだったということ? まぁ、一途で素敵。って言いたいところだけれど、逆恨みして復讐なんてアホもいいところ。いや悪いことやったのそっちでしょ。嘘の証言をまるっと信じて王子の婚約者を糾弾したのだから追い出されても文句は言えない。寧ろ首斬り落とされなかっただけでもマシでは?
というのにまさかの復讐。二人が学園にいなくて納得しました。過ちを一度だけではなく二度もやるとは実刑間違いなし。でもなぜ行方不明扱いになっているのだろう、と頭を傾げる部分はある。
「ところでルーチェさんはどうやってこの世界に?」
ステラちゃんにそう聞かれてハッとする。そこは私も気になっていたところだ。普通に仕事終わって家に帰ってお風呂に入って、夕食を食べて寝て起きたらここにいた。と素直に口にしてみると、なぜかステラちゃんの顔色をがサッと青くなる。
「あ、あの、ルーチェさん……それってもしかして、過労……」
「……過労?!」
まさかの過労?! いやでも確かに疲れてヘトヘトになっていたけれど、そんなぽっくりいくほどだったか?! と自分でもツッコミを入れたくなる。私は多分まだマシな方、休み一応あったし……あったものとする。休日出勤はよくあったけどあったものとする。自分的にはまだ心に余裕があって、そこまで追い詰められている感じでもなかったのに。
「で、でも! 働く女性って格好いいです! ということはルーチェさんは私よりも年上の方っていうことになりますよね?」
「え? ど、どうなんでしょ……精神年齢的には……? でもステラ様もこっちでもう五年ぐらい……」
いや下手したら足したところで私のほうが年上では? そこに気付いて勝手にショックを受けてしまった。ステラちゃん、あなたどんだけ若かったの……と言ってしまえば尚更ショックを受けそうでこの辺りでやめておこう。
「そしたらルーチェさん、私に『様』なんて付けないでください。年上の方にそう言われると申し訳ないです」
「い、いえいえ、この世界ではステラ様のほうが身分が上なんですよ? 私は庶民なので、寧ろこうやって会話できること事態奇跡と言いますか」
「そんな……同郷のよしみで、駄目ですか……?」
「はうっ!」
ヒロインの下からの眼差しは心臓に悪い。可愛すぎる。うるうるしているし庇護欲を掻き立てられる。いや私も二作目のヒロイン、ステラのこと結構好きだったのよ。優しいしお淑やかで、まさに大和撫子的な感じで。一作目のヒロインが元気だったからまた違ったヒロイン像でいいイメージしかなかった。
そんなヒロインに見上げられるなんて心折れない攻略キャラはいるのだろうか。みんなハートを撃ち抜かれるのでは? っていうか私が今撃ち抜かれているところなんだけど。
「で、では……ひと目がない時は『ステラさん』と……」
「……わかりました」
私の精一杯の妥協にしょんぼりと落ち込まないでほしい。前の世界ならステラちゃんと気軽に呼べただろうけれど、今の世界では彼女は貴族だ。礼儀はちゃんと弁えないといけない。
「……そういえば、ルーチェさんはノベライズのヒロインということでいいんでしょうか?」
「い、一応そうですね……」
「ノベライズのストーリーってどういう感じなんですか? 気になります」
「ものすごく王道ですよ。ゲームではないので分岐がないんです」
「そうなんですか?! それもそれで……でも……うぅーん……」
わかる、その悩ましいのとてもわかるよステラちゃん。分岐があるからこそ楽しいっていうところはぶっちゃけあった。それにノベライズは王子ルートだから、推しが王子ではない人はイマイチという人も少なからずいた。
それからステラちゃんとはどのイベントが面白かったのか、どのキャラが推しなのかゲームプレイヤーとしての会話で盛り上がってしまった。ステラちゃんの推しはなんと……モブだったらしい。王子の護衛についている人だとか。確かに少しだけ出番があったけどちゃんとした名前はなかったような、と記憶の中から探してみる。
「あ、あの、こっちではちゃんと名前もありまして。私まだ会話したことがないんですけど……少しだけ見たことはあって」
「どうだった?」
「……格好いいです……やっぱり推しは格好いい……」
「そうよねそうよね……!」
可愛いこの女子高生。顔をポッと赤くして、そんな熱くなった顔を手でパタパタと必死に冷やそうとしている。ヒロインっていうこともあって本当に可愛らしい。可愛らしい✕可愛らしいで最強か? そしてこんな可愛らしいヒロインに一切靡かないアイビーに一途なレオンハルトは本当に素晴らしい。
あと盛り上がっていたせいで自然と私の口から敬語も取れてしまって、それに気付いて慌てて敬語を使おうとしたけれどそれをステラちゃんは笑顔で制した。前の世界でもこういう会話ができなかったからとても嬉しいと。そんな彼女の願いを叶えたくなるのは必然だろう。
「あっ! ところでステラさん……実は私、先日この世界にやってきたばかりで……一応世界観というかそういう設定は知ってはいるんだけど、やっぱり現実はまた違うところあるでしょ……? よければその辺りも教えてほしいんだけど……」
「もちろんです! では他にも色々とお教えしますね! ついでに街とかにも行っちゃいましょ」
貴族の令嬢がそうホイホイ行けるようなものなのだろうか。それとも護衛つきで? と色々と考えている私にステラちゃんは常ににこにこ顔だ。
「友達とお出かけというものをやってみたかったんです!」
そこで私の涙腺は崩壊した。
「はい! あ、私まだ名乗ってませんでしたね。ステラ・ルフトゥです。転生者だから私の名前も知っているんですね」
「二作目のヒロインですよね?!」
「一応? そうですね。ということはルーチェさんもゲームプレイ済みってことですよね? すごい!」
転生者で尚且ゲームプレイ済みの人と出会えるなんて! ってものすごくステラちゃんは喜んでいるんだけど、その様子がさっきまでとは違うというか。さっきまでは本当に貴族の令嬢という感じでお淑やかで気品に溢れていたんだけれど、なんだか急に年相応というか親しみやすい雰囲気になった。きっと本来の彼女の性格がそうなのだろう。
「ちなみに一作目のヒロイン、セリーナ・パートシイも転生者だったみたいです」
「ファッ?!」
「逆ハーレムを目指そうとしてみたものの、レオンハルト王子がアイビー様に一途だったものだから強引に断罪イベント起こしたみたいなんですよね。話によると、結構あれな性格だったそうで……」
「頭の中がお花畑でおバカだったってこと?」
「す、すごく直球に言いましたね……ところで私気になったんですけど、もしかして転生者はヒロインになるって決まっているんでしょうか?」
その一作目のヒロインとそして二作目のヒロインだったステラちゃんが転生者、そして私も一応小説のヒロインだ。そんなつもりはまったくないけれど。となるとステラちゃんの仮説は正しいのかもしれない。
そうかも、と首を縦に振ってみるとまたもや彼女の顔がパッと輝く。さっきから感情を隠そうともしないなんて可愛い子なんだハートを鷲掴みされちゃう、っていう感情を表に出すわけにもいかず、私多分変な顔になっている。
「そしたら三作目が出たということですか?! やってみたかったなぁ」
「えっ……? 三作目ではなくてノベライズされたこと知らないんですか……?」
「ノベライズ?! そうだったんですね! そっかぁ……私、二作目までしかできなくて」
ステラちゃんの言い方にハッと何かを察してしまった。ゲームはやったことあるけれどノベライズは知らない、というのはゲームプレイヤーとしては少し違和感がある。二作目までやって興味がなくなったとしても、情報ぐらいは入るだろうから。でも、彼女は二作目までしかできなかったと言った――できなかった事情があるっていうことだ。
「えっと……ステラ様はどうやってこの世界に来たか、わかります?」
取りあえず遠回しに確認してみようと当たり障りなく言葉を選んだつもりだけれど。ステラちゃんはというと視線を少しだけ上に向けて記憶を手繰り寄せているような様子を見せた。
「そうですね……私の場合もう身体が保たなくて、目を瞑ったら気付いたらこの世界に……という感じですね。こっちで目覚めた時は確か十歳ぐらいだったと思います」
「十歳?!」
まさかこっちに転生してくる時期にそれぞれ違いがあるだなんて。私なんてつい先日だぞこっちで目が覚めたのは。
だからか。ステラちゃんは令嬢として生きてきた年数がそれなりにあるから、例え転生者としてもこっちの世界に馴染んでいるし、所作とかにも気品があるんだ。
「実は私、今度こそ長生きしたくて二作目のゲームシナリオを変えようとしたんです。そのためにレオンハルト王子とアイビー様にご協力しました」
「長生き、したくて……?」
「はい。私前の世界で高校生の時に病気で入院していたんです」
「高校生ッ……!」
もう話の流れがわかってしまった。つまり目の前にいるステラちゃんは、私たちのいた世界では女子高生で、そして病気で亡くなってこっちの世界に来た。そういうことなのだろう。
女子高生だなんて! まさに青春の真っ只中なのに! もっともっと楽しいこともたくさんあっただろうに、彼女の言葉からするとずっと病室にいたに違いない。だからこそ今度こそ「長生きしたい」という単語が出てきて、そして必死にストーリーの介入をしたのだろう。健気だ、泣けてくる。応援したくなる。
頭を抱えてつい鼻がツンと痛くなった私に対しステラちゃんは「そこまで気にしないで下さい」とこっちを気遣ってくる声を掛けてくる。気にするよ、応援したくなる。それは二作目のヒロインだからという理由じゃなくて、あまりにも健気な高校生だった彼女だからだ。
「あ。それでですね、そもそもアイビー様がご健在なので一作目のストーリーが変わってしまっているじゃないですか。だからなのか、二作目の黒幕がいましたよね?」
「ああ……なんか黒マントを被っている如何にも怪しい人……」
「実はその人に加担した人がいまして、それが一作目の攻略キャラだったニュートとコリンだったんです」
「はい?!」
「一作目のヒロインを追い出したことを逆恨みして、レオンハルト王子とアイビー様に復讐しようとしていたんです。それがイベントと重なって。二人がこの学園にいない理由はそういうことなんです」
「……アホなの?」
いや、うん。ニュートは騎士でプライドが高くて、コリンは長男なのに弟キャラ。ちょっと癖があったけれどゲームとしてはキャラ立ちしていてよかった。でもゲームだからよかったわけで。
そしたら何か? 二人は『魅了』の魔法を掛けられてお花畑ヒロインに惚れて、魔法が解けた後でもヒロインのことをずっと好きだったということ? まぁ、一途で素敵。って言いたいところだけれど、逆恨みして復讐なんてアホもいいところ。いや悪いことやったのそっちでしょ。嘘の証言をまるっと信じて王子の婚約者を糾弾したのだから追い出されても文句は言えない。寧ろ首斬り落とされなかっただけでもマシでは?
というのにまさかの復讐。二人が学園にいなくて納得しました。過ちを一度だけではなく二度もやるとは実刑間違いなし。でもなぜ行方不明扱いになっているのだろう、と頭を傾げる部分はある。
「ところでルーチェさんはどうやってこの世界に?」
ステラちゃんにそう聞かれてハッとする。そこは私も気になっていたところだ。普通に仕事終わって家に帰ってお風呂に入って、夕食を食べて寝て起きたらここにいた。と素直に口にしてみると、なぜかステラちゃんの顔色をがサッと青くなる。
「あ、あの、ルーチェさん……それってもしかして、過労……」
「……過労?!」
まさかの過労?! いやでも確かに疲れてヘトヘトになっていたけれど、そんなぽっくりいくほどだったか?! と自分でもツッコミを入れたくなる。私は多分まだマシな方、休み一応あったし……あったものとする。休日出勤はよくあったけどあったものとする。自分的にはまだ心に余裕があって、そこまで追い詰められている感じでもなかったのに。
「で、でも! 働く女性って格好いいです! ということはルーチェさんは私よりも年上の方っていうことになりますよね?」
「え? ど、どうなんでしょ……精神年齢的には……? でもステラ様もこっちでもう五年ぐらい……」
いや下手したら足したところで私のほうが年上では? そこに気付いて勝手にショックを受けてしまった。ステラちゃん、あなたどんだけ若かったの……と言ってしまえば尚更ショックを受けそうでこの辺りでやめておこう。
「そしたらルーチェさん、私に『様』なんて付けないでください。年上の方にそう言われると申し訳ないです」
「い、いえいえ、この世界ではステラ様のほうが身分が上なんですよ? 私は庶民なので、寧ろこうやって会話できること事態奇跡と言いますか」
「そんな……同郷のよしみで、駄目ですか……?」
「はうっ!」
ヒロインの下からの眼差しは心臓に悪い。可愛すぎる。うるうるしているし庇護欲を掻き立てられる。いや私も二作目のヒロイン、ステラのこと結構好きだったのよ。優しいしお淑やかで、まさに大和撫子的な感じで。一作目のヒロインが元気だったからまた違ったヒロイン像でいいイメージしかなかった。
そんなヒロインに見上げられるなんて心折れない攻略キャラはいるのだろうか。みんなハートを撃ち抜かれるのでは? っていうか私が今撃ち抜かれているところなんだけど。
「で、では……ひと目がない時は『ステラさん』と……」
「……わかりました」
私の精一杯の妥協にしょんぼりと落ち込まないでほしい。前の世界ならステラちゃんと気軽に呼べただろうけれど、今の世界では彼女は貴族だ。礼儀はちゃんと弁えないといけない。
「……そういえば、ルーチェさんはノベライズのヒロインということでいいんでしょうか?」
「い、一応そうですね……」
「ノベライズのストーリーってどういう感じなんですか? 気になります」
「ものすごく王道ですよ。ゲームではないので分岐がないんです」
「そうなんですか?! それもそれで……でも……うぅーん……」
わかる、その悩ましいのとてもわかるよステラちゃん。分岐があるからこそ楽しいっていうところはぶっちゃけあった。それにノベライズは王子ルートだから、推しが王子ではない人はイマイチという人も少なからずいた。
それからステラちゃんとはどのイベントが面白かったのか、どのキャラが推しなのかゲームプレイヤーとしての会話で盛り上がってしまった。ステラちゃんの推しはなんと……モブだったらしい。王子の護衛についている人だとか。確かに少しだけ出番があったけどちゃんとした名前はなかったような、と記憶の中から探してみる。
「あ、あの、こっちではちゃんと名前もありまして。私まだ会話したことがないんですけど……少しだけ見たことはあって」
「どうだった?」
「……格好いいです……やっぱり推しは格好いい……」
「そうよねそうよね……!」
可愛いこの女子高生。顔をポッと赤くして、そんな熱くなった顔を手でパタパタと必死に冷やそうとしている。ヒロインっていうこともあって本当に可愛らしい。可愛らしい✕可愛らしいで最強か? そしてこんな可愛らしいヒロインに一切靡かないアイビーに一途なレオンハルトは本当に素晴らしい。
あと盛り上がっていたせいで自然と私の口から敬語も取れてしまって、それに気付いて慌てて敬語を使おうとしたけれどそれをステラちゃんは笑顔で制した。前の世界でもこういう会話ができなかったからとても嬉しいと。そんな彼女の願いを叶えたくなるのは必然だろう。
「あっ! ところでステラさん……実は私、先日この世界にやってきたばかりで……一応世界観というかそういう設定は知ってはいるんだけど、やっぱり現実はまた違うところあるでしょ……? よければその辺りも教えてほしいんだけど……」
「もちろんです! では他にも色々とお教えしますね! ついでに街とかにも行っちゃいましょ」
貴族の令嬢がそうホイホイ行けるようなものなのだろうか。それとも護衛つきで? と色々と考えている私にステラちゃんは常ににこにこ顔だ。
「友達とお出かけというものをやってみたかったんです!」
そこで私の涙腺は崩壊した。
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