甘い唾液

璃鵺〜RIYA〜

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甘い唾液

甘い唾液 2

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くすくす笑いながら、珀英は丁寧にオレのビアグラスを洗う。
白い泡で洗われて、その泡が流されていくのを眺めながら。
その大きな手に、触れて欲しいと思った。

「・・・明日休みなんだけど」

オレはそう言いながら、下から見上げるように珀英の顔を覗(のぞ)き込む。珀英がオレのこういう仕草に弱いことを知っている。

甘えるように、誘うように、熱っぽい瞳で上目使いで見上げる。
珀英が一瞬息を飲むのがわかった。ゴクリと、生唾(なまつば)を飲んだのだろう、喉仏(のどぼとけ)が大きく上下する。

ああ・・・愉(たの)しい・・・珀英がオレに欲情するのを見るのは、本当に愉しい・・・。

全部洗い終えた珀英は、全ての食器を水切りカゴに入れて、水を止めて、タオルで手を拭(ふ)きながらオレに向き直る。
期待に満ちて緩(ゆる)んだ口元と、興奮したように熱を帯びた瞳、少しだけ紅くなった頬に、思わず笑ってしまった。

そんな表情(かお)をしているのに珀英は、きりっとした表情をして、紳士的な微笑みを浮かべて、少し格好つけた。オレは可笑(おか)しくて、喉の奥でくすくす笑う。

「じゃあ・・・シャワー浴びます?」

オレは瞬間的に真顔になって。冷たく言い放つ。

「お前先に行け」

突然突き放した言い方に珀英はびっくりして、ついさっきまでの格好つけた表情から一転、落胆した酷(ひど)い表情(かお)になる。

オレはこっちの珀英のほうが、好き。

「え?一緒じゃダメですか?」
「ダメ」
「あ・・・はい・・・」

オレは肩を落としてがっかりしている珀英を尻目に、リビングに移動するとソファに座ってテレビの電源を入れた。
特に見たい番組があるわけじゃないけど、ただの時間潰(つぶ)しにちょうどいい。

別に珀英と一緒に風呂入るのが嫌なわけじゃない・・・嫌じゃなくて、少し困る。

そのまま・・・セックスってなるから困るんだよ。
ちゃんと色々準備をしたいんだよ・・・って珀英にはわかんないだろうけど。

珀英が大人しくバスルームに向かうのを横目にしながら、さっきの話しを思い出す。

バレンタインデーだって・・・。

女性が男性に愛の告白をする日だけど、うちは珀英が手作りしたものを一緒に食べるようになっていた。
毎年毎年、店で売ってそうな凝(こ)ってて美味しいチョコ菓子を作ってくれるので、それはそれで楽しみになっている。
あと娘の美波が、日にちが合えば手作りチョコを持ってきてくれたりもする。今年からイタリア行っちゃったから、無理か。

「・・・たまには作るかな・・・」

本当に気まぐれに、そんな気分になった。
珀英からは貰(もら)ってばかりだから、たまにはね。美波は・・・いつも通りホワイトデーに空輸すればいいだろう。

まあチョコなんて溶かして固めて、なんかすればいいんだろう?
ネットで調べればいいだけだし。
いくら料理やんないオレでも、全然大丈夫だろう。

軽い気持ちで自分を納得させて、オレは珀英がシャワーから出てくるのを待っていた。
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