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戀する痛み
戀する痛み 22
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そのまま走って医局に戻っていた。
何も考えずに仕事をこなしていた・・・らしい。
後日、先輩から聞いた話では、いきなり戻ってきて黙々と仕事をこなして、無言で去っていったらしい。
何も覚えていない。
そんなことは何も覚えていない。
どうでもいい。
そんなことはどうでもいい。
気がつくとボクは自宅に戻っていて。
ちゃんと荷物も持って、自分の部屋で。
茫然としながら、あの女の言葉を。
何度も何度も、何度も、繰り返し繰り返し、思い出していた。
思い出して。
いた。
電気もつけていない、真っ暗な部屋の中で。
ベットの上に座ったまま、虚空(こくう)を眺めて茫然としていた。
見慣れた白い天井を見上げた状態で、ただただ見上げているだけ。
窓の外から、車が家の前の道路を走るエンジン音が聞こえてくる。たまに誰かが話しながら歩いているような楽しそうな笑い声も聞こえてくる。オートバイのタイヤの音や、携帯電話の着信音や、そういった生活音が、世界が生きている音が聞こえてきている。
ボクは。ボクは。
「貴方は家族に『なれ』ても、家族を『作る』ことはできないでしょう?」
無慈悲な言葉が、頭の中をぐるぐる回っている。
脳みそを食い破って、貪(むさぼ)られて、咀嚼されて吐き捨てられて。
自分の感情も心臓も、全部がもう。
何がなんだかわからない状態。
このまま呼吸が止まってしまえばいいのに。
もう何も考えたくない。
考えたところで何もならない。
ボクは彼女に何も言えなかった。
そう・・・・・・何も言えなかったんだ。
頭の中では色々シミュレーションしていたのに。
こんなこと言ってやるんだって、ボクと悠貴さんがどれだけ好き合っているのか、悠貴さんがどれだけボクのことを大切にしてくれているのか、言ってやろうと思っていたのに。
彼女のあの言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
あのたった一言が、目をそらし続けていた負い目で。
絶対に見たくなかったのに。
知らないふりをして素通りできたら、どれほど楽だったろう。
ボクが何を言ったところで、無駄だと思ってしまった。
彼女の言葉が真実だと、理解していた。
本当はとっくの昔にわかっていたんだ。
ただ見たくなくて考えた苦なくて目を覆って、耳を塞いでしまいたかったんだ。
それを許して欲しかった。
許してもらえるわけがない。
生物としての摂理(せつり)を捻(ね)じ曲げて欲しいなんて。
世間体なんか無視して欲しいなんて。
そんな不自然な我慢を無理強いしなきゃ。
成り立たない関係なんて、初から破綻(はたん)しているんだ。
ボクは彼女に負けたんだ。
そう、負けた
そういうことなんだ
そこまで思考がたどり着いて。
何だか面白くなってきて。
勝つとか負けるとか、何だよそれ。
くそくっだらねぇな。
そんな風に虚勢をはっても。
負けたという事実は変わらない。
視界が微かに滲(にじ)む。
泣くつもりなんかないのに、不意に涙が出てきてしまったみたい。
そんな状態で自室にこもっていたら、不意にドアを勢いよく開けられた。
廊下の照明がいきなり部屋に差し込んできて、目を刺激してきて、眩(まぶ)しさに思わず顔をしかめていた。
「薫ぅーー!!ただいまーーー!!」
「え・・・?なんで・・・?」
美影ちゃんが満面の笑顔で部屋に入ってきて、いつもの通りに明るい空気を撒き散らしながら、にこにこしている。
今日は地方のショーに参加するからって、朝早くに家を出たのに、なんで戻ってきたの?
目をかばうように手の平で明かりを遮りながら、思わず驚いているボクを見て、美影ちゃんはキラキラした瞳で、ものすごいドヤ顔で、
「なんでって、普通にショーが終わったから帰ってきただけよ」
「あ・・・そうなんだ・・・」
「昼間のショーだったからねー。わざわざ泊まったりしないよー」
「そうなんだ・・・」
美影ちゃんがいないと思ってたのに・・・ちょっとほっとしてたのに・・・。
今は会いたくなかった。
今一番、会いたくない人だった。
そのまま走って医局に戻っていた。
何も考えずに仕事をこなしていた・・・らしい。
後日、先輩から聞いた話では、いきなり戻ってきて黙々と仕事をこなして、無言で去っていったらしい。
何も覚えていない。
そんなことは何も覚えていない。
どうでもいい。
そんなことはどうでもいい。
気がつくとボクは自宅に戻っていて。
ちゃんと荷物も持って、自分の部屋で。
茫然としながら、あの女の言葉を。
何度も何度も、何度も、繰り返し繰り返し、思い出していた。
思い出して。
いた。
電気もつけていない、真っ暗な部屋の中で。
ベットの上に座ったまま、虚空(こくう)を眺めて茫然としていた。
見慣れた白い天井を見上げた状態で、ただただ見上げているだけ。
窓の外から、車が家の前の道路を走るエンジン音が聞こえてくる。たまに誰かが話しながら歩いているような楽しそうな笑い声も聞こえてくる。オートバイのタイヤの音や、携帯電話の着信音や、そういった生活音が、世界が生きている音が聞こえてきている。
ボクは。ボクは。
「貴方は家族に『なれ』ても、家族を『作る』ことはできないでしょう?」
無慈悲な言葉が、頭の中をぐるぐる回っている。
脳みそを食い破って、貪(むさぼ)られて、咀嚼されて吐き捨てられて。
自分の感情も心臓も、全部がもう。
何がなんだかわからない状態。
このまま呼吸が止まってしまえばいいのに。
もう何も考えたくない。
考えたところで何もならない。
ボクは彼女に何も言えなかった。
そう・・・・・・何も言えなかったんだ。
頭の中では色々シミュレーションしていたのに。
こんなこと言ってやるんだって、ボクと悠貴さんがどれだけ好き合っているのか、悠貴さんがどれだけボクのことを大切にしてくれているのか、言ってやろうと思っていたのに。
彼女のあの言葉を聞いて、頭が真っ白になった。
あのたった一言が、目をそらし続けていた負い目で。
絶対に見たくなかったのに。
知らないふりをして素通りできたら、どれほど楽だったろう。
ボクが何を言ったところで、無駄だと思ってしまった。
彼女の言葉が真実だと、理解していた。
本当はとっくの昔にわかっていたんだ。
ただ見たくなくて考えた苦なくて目を覆って、耳を塞いでしまいたかったんだ。
それを許して欲しかった。
許してもらえるわけがない。
生物としての摂理(せつり)を捻(ね)じ曲げて欲しいなんて。
世間体なんか無視して欲しいなんて。
そんな不自然な我慢を無理強いしなきゃ。
成り立たない関係なんて、初から破綻(はたん)しているんだ。
ボクは彼女に負けたんだ。
そう、負けた
そういうことなんだ
そこまで思考がたどり着いて。
何だか面白くなってきて。
勝つとか負けるとか、何だよそれ。
くそくっだらねぇな。
そんな風に虚勢をはっても。
負けたという事実は変わらない。
視界が微かに滲(にじ)む。
泣くつもりなんかないのに、不意に涙が出てきてしまったみたい。
そんな状態で自室にこもっていたら、不意にドアを勢いよく開けられた。
廊下の照明がいきなり部屋に差し込んできて、目を刺激してきて、眩(まぶ)しさに思わず顔をしかめていた。
「薫ぅーー!!ただいまーーー!!」
「え・・・?なんで・・・?」
美影ちゃんが満面の笑顔で部屋に入ってきて、いつもの通りに明るい空気を撒き散らしながら、にこにこしている。
今日は地方のショーに参加するからって、朝早くに家を出たのに、なんで戻ってきたの?
目をかばうように手の平で明かりを遮りながら、思わず驚いているボクを見て、美影ちゃんはキラキラした瞳で、ものすごいドヤ顔で、
「なんでって、普通にショーが終わったから帰ってきただけよ」
「あ・・・そうなんだ・・・」
「昼間のショーだったからねー。わざわざ泊まったりしないよー」
「そうなんだ・・・」
美影ちゃんがいないと思ってたのに・・・ちょっとほっとしてたのに・・・。
今は会いたくなかった。
今一番、会いたくない人だった。
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