戀する痛み

璃鵺〜RIYA〜

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戀する痛み

戀する痛み 14

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今までさんざか、言われてきた言葉だ。
学生時代でも、研修医時代でも、オレは自分からこいつの息子だとは言わなかったが、オレを見下していたヤツらがそれを知って、急に手の平を返してきたところなんか、売るほど見てきた。

なるべく親父の金に世話になりなかったオレは、住む家と学費を出してもらってはいたが、食費や交際費、衣類や雑貨
などの生活に必要な物は、自分でアルバイトをして賄(まかな)っていた。
親父の世間体のために必要最低限な援助は受けたが、それ以上を受け取ることは嫌だったから。
元々ファッションとかに興味のなかったオレは、学生時代は適当な服を着て、サークルにも入らずバイトと勉強しかしていなかったから、周りからは苦学生だと思われていた。
そのせいで医者の息子てきなヤツらから、さんざんバカにされていたが、オレ自身はそんなことどうでも良くて放っておいた。

それでも、噂というものは出回るもので。
半年も経たずにオレが親父の息子だと噂が立ち、それが本当だとわかり、学部で知れ渡るのに一年もかからなかった。
そうなると今までオレをバカにしていたヤツらが、媚びへつらって接触してくるようになって。

心底うんざりした。

同時に親父の医学界での影響力の大きさも痛感した。
まだ学生のやつらでさえ、この有様だ。
きっと親から色々吹き込まれて、態度を変えてきたんだろうと予想できた。
卒業して病院勤務になったら、もっと思い知ることになるのだろう。

親父が本気になったら、オレなんかどうとでもできるということを。

嫌で嫌で仕方なかった。
否定しても意味がなく、拒否しても効果がないので、オレは誰に何を言われても沈黙して、それに関する話しは無視するようになっていた。
まだ学生だったオレにできる抵抗は、その程度のことだった。

本当は勤務する病院も親父が関わっている病院は嫌だったが、先手を打たれてしまい、オレが親父の息子であると触れ回ってくれたおかげで、何処を希望しても受け入れてはもらえなかった。
脳外科を希望していたので、親父の息がかかりにくい田舎のクリニックでは、師事する医師がいないから断念するしかなかった。

結局、親父の支配下にある病院ではあるが、腕の良い脳外科医に師事することができる病院に入ることになった。
師事した医師は人格者でもあったので、オレの生い立ちやら家のことなんかは全く気にせず、持てる技術と知識をオレに与えて叩き込んでくれた。

親父のことなんか忖度(そんたく)せずオレに接してくれる、数少ない人だった。
その人はオレが成長して一人前になったと判断したら、とっとと病院をやめて海外へ飛んでしまい、今はあっちで後進を育てていると聞いた。

オレもいつかは海外へ行くつもりだ。
親父の支配から逃れるには、日本を出るしかない。
そのための準備を始めたいと思っていた矢先の、この見合い話しだ。

もちろん結婚するつもりなんかない。
オレが、ずっと一緒にいたいのは薫だけだ。
海外に移住するときには、薫に一緒にきて欲しいと、そう思っている。
海外なら同性婚を認めている国も多いから、できれば、そこで結婚したいと思っている。

だから、この見合い話しは、断固として断らなければならない。

そうでなければ、薫を守ることもできない。
親父からも世間体からも、噂話や不安や焦りや、そういう負の要素全てから、薫を守ると決めている。

決意を固めて、オレは口を開こうとしたら、一瞬早く親父の声が流れてきた。

『お前に援助したのは何のためだと思ってるんだ。早くあの小僧と別れろ。ったく・・・何をしてるんだ』
「何で・・・知って・・・」
『気づいていないと?・・・・・・浅い』

親父の溜息が、呆れたような、心底バカにしたような溜息が耳朶を打つ。

『病院内でのお前の言動なんか筒抜けだ。そんなことわかってるだろう』

少しイライラしたような口調。
そんなこともわからない愚息に用はないと、言いた気なその口調にこっちもイライラしてしまい、小馬鹿にしたように言い返していた。

「理事長ともあろう人が、こそこそ嗅ぎまわるようなことするとは思わなかったので」
『一人の父親として心配しているだけだ』
「・・・・・・っ!」

こういう嘘を平然とつくから、こいつを信じることはできない。
と思ってもいる。
同時に『父親』という言葉に、まだほんの少しの希望を抱いていることを、実感してしまって、そのことに更に苛立ちが募(つの)った。

そんなオレに親父は一方的に話しを続けてくる。

『小僧と早急に別れること。結婚して、跡を継ぐこと。以上』

反論しようと口を開こうとしたら、勝手に通話を終了させたらしく、ツーツーという電子音が聞こえてきた。

あいつ・・・・・・!!

オレはスマホを耳から離すと、画面を見て通話状態が切られていることを確認してから、切断ボタンを押して、座っていたソファにスマホを放り投げた。

何をどう言っても、あいつは自分の考えを変えようとはしない。
周りが間違っていることをどんだけ諭(さと)しても、絶対に自分の意思を変えようとはしない。
それは一方では信念がある人、となるが、一方ではただの頑固者で扱いにくい人になる。

歳をとってから更にひどくなってきている気がする・・・。

それでも、ここんところ重なっていた転院の原因はわかった。
あとはこの状況をなんとか打破する方法を考えるだけだ。

オレはソファに寝っ転がって、天井を睨みつけた。
口唇の端から吐息を吐き出して。

思考を巡らせる。
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