戀する痛み

璃鵺〜RIYA〜

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戀する痛み

戀する痛み 2

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「はぁ・・・疲れた・・・」

思わず一人ごちて、首を回して凝(こ)り固まった肩を手で揉(も)んだ。

時間は既に夜の10時をまわっていて、窓の外は真っ暗だった。
もうすぐ本格的な冬を迎えるので、風は湿気がなく乾いていて、太陽が沈むとどんどん気温が下がっていく季節。

昼間は予定されていた手術の準備やら、入院患者さんの体調などの確認や色々な相談をうけて、カルテの入力やら何やらの事務仕事もこなして、やっと終わったのがこの時間。
大変だけど、ボクなんかよりも悠貴さんの方が大変で。

悠貴さんはまだ部屋にこもって、ボクなんかじゃ処理できない仕事を処理している。
毎日毎日、寝る時間も十分に取れないほど、悠貴さんは忙しい。

ボクはまだまだ研修医の身分だから、雑用や事務仕事を代わりに処理して、悠貴さんの負担を少しでも軽減することくらいしかできない。
手術や診断なんか全然まだまだできないから、悠貴さんや先輩医師の背中を見て学んで、わからないところは質問することしかできない。

みんな忙しい中でも邪険に扱わずに丁寧に教えてくれるから有難い。
もっともこの分野は難しいし細かいから希望する医師が少ないので、ちゃんと育てたいというのが部長である悠貴さんの方針だから、なんだろうけど。

白衣を脱いでコートを着て、帰り支度をする。
ボクはカバンを持って、マフラーをして、悠貴さんがいる部長室のドアをノックする。

「はい」

中から悠貴さんの低くて心地の良い声が聞こえる。

「あ・・・花織です」
「どうぞ」

そっとドアを開けると、机の向こうに座って書類に目を通していたらしく、手に書類を持ったままの悠貴さんが、優しい微笑を浮かべながらボクを見ていた。

もしかして邪魔しちゃったんじゃないかとビクビクしていたが、悠貴さんの暖かい表情を見てほっとした。
ボクはゆっくりと中に入って後ろ手にドアを閉めると、いそいそと悠貴さんに近づいた。

普段悠貴さんの側にはたいてい人がいるから、なかなか二人きりにはなれないけど、今は珍しく誰もいなかったから、悠貴さんを独占できる。
それが嬉しくて、ボクは少し小走りで悠貴さんの座る机に近づいた。

悠貴さんはそんなボクを微笑んだまま見つめて、少し薄い口唇を横に引いて微笑んだまま、低くて厚い、安心感を与える声で話しかけてくれる。

「こんな遅い時間まで悪いな。もう帰るんだろう?」
「はい・・・悠貴さんはまだですか?」
「ああ、何個か目を通しておかないといけない書類があるからな」

机の前に立って、ボクは悠貴さんの漆黒の瞳を見つめて、やっぱり格好いいなーと思いつつ、心配のあまり口を開いてしまった。

「あまり・・・無理しないで下さいね」
「大丈夫、と言いたいところだけど、ちょっと体調良くないかな」
「え?!」

やっぱり働きづめだからどっか悪いのかな?痛いのかな?

一瞬で心配になって色々訊こうと思った、瞬間。
悠貴さんがいきなり立ち上がって、机越しに手を伸ばすと、ボクの後頭部と背中を掴んで引き寄せて、キスをされた。

「ゆう・・・」

ずれた口唇から抗議の声を出しても、悠貴さんの口唇が強く重なって、舌が口の中に入ってきてボクの舌を搦めて強く吸われて。
久しぶりのキスに、頭が混乱して、体の奥深くが熱くなって、眩暈(めまい)がするし腰が痺(しび)れて、甘くずっしりと重くて。

体が動かない・・・。

悠貴さんの舌が何度も何度も舌を擦って、口の中も舐められて、頭の芯が痺れて、呼吸が上手くできない。

久しぶりのキスにうっとりと浸(ひた)っていると、不意に、口唇と舌が離れた。

「んん・・・はぁ・・・」
「元気出た、ありがとう」
「な・・・!」

悠貴さんが楽しそうに笑いながら、ボクの額(ひたい)にチュッと音を立てて口付けると、

「もう遅いから気をつけて。本当は送ってあげたいんだが・・・」
「あ・・・大丈夫です!」
「薫は可愛いから、変質者に気をつけるんだぞ」
「大丈夫ですよ。これでも男なんですから!」
「くすくす・・・そうだったな」

悠貴さんはもう一度ボクの額にキスをすると、ゆっくりと名残惜しそうに、ボクの頭と背中を解放する。
ボクは悠貴さんから少し離れると、背中に口唇に額に悠貴さんの残った熱を感じながら、帰りの挨拶をして、ものすごく淋しいけど、部屋を後にした。

心の中がほんわかとして、温かくって嬉しい気分のまま、ボクは病院を後にすると駅の方向に歩き出した。

外を吹く風は冷たくて、耳や頬を切るように駆け抜けていくけれど、今のボクはそんなことも気にならないくらい、体の中から熱くて心が幸せでいっぱいだった。

真っ暗な道路を歩いて、自分が吐き出す真っ白な息を見ながら、駅までの道を歩いていたら、不意に後ろから車のライトが近づいてきた。

ボクは道路の端に寄って、車が通り過ぎるのを待った。

通りすぎると思っていたのに。
ボクの真横に止まった。

黒くて大きな車だったから、一瞬悠貴さんが心配で追いかけてきてくれたのかと思ったが、よく見たら悠貴さんの車とは違う。
悠貴さんのはスポーツカーだから車体が流線的だけど、この車はもう少し角張っていて、もう少し車体が大きい。

なんだろう・・・本当に変質者?

思わず身構えていると、窓のガラスが自動で下りて、中から口髭(くちひげ)をたくわえた初老の男性の顔が見えた。

どこかで見た顔・・・どこだっけ?
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