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璃鵺〜RIYA〜

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促(うなが)されるようにオレは自分の定位置の、緋音さんの真正面の椅子に座り、注いでくれたワインを口に含んだ。

白ぶどうの微(かす)かな甘味が口の中を満たして、果実の香りが鼻腔(びくう)を抜けていく。
その淡い琥珀色(こはくいろ)の液体を飲み下し、軽く息をついた。

同じようにワインを飲んでいる緋音さんをチラリと見て、肩を落とした。

いつもと変わらない、凛(りん)としながらも嫋(たお)やかさと、気怠(けだる)さと、色香を漂わせている、緋音さん。

オレは視線を落として深く溜息をつく。

「本当はもっと前からわかってたんですよね?アルバムの曲数作るの、そんなすぐにできるわけないじゃないですか」
「まあね・・・やっぱバレた?」
「当たり前じゃないですか」

オレだってバンドやってて活動してるんだから、10曲以上必要なフルアルバムの曲が、そんなすぐにできないことなんかわかってる。あと歌詞もそんなすぐできない。オレは自分で歌詞書いてるからわかるけど、本当にあの作業は地獄。

「だってお前、拗(す)ねるじゃん」
「ええっ?」

緋音さんの突然の言葉にびっくりして、ワイングラスを握り締めながら、反射的に顔を上げて、緋音さんの愉(たの)しそうな、本当に愉しそうな、オレを揶揄(からか)う奇麗な瞳と目が合う。

「今だって拗ねてるし・・・仕事なんだからしょうがないだろ」
「そんなこと・・・わかってますよ!」
「ほら、そういうの。・・・ほんと犬が拗ねるとめんどくさい」

緋音さんがワインを飲みながら、人差し指を立ててオレを指差す。
ころころと鈴を転がすような、笑うと少し高くなる緋音さんの声が鼓膜(こまく)を揺さぶる。

本当にこういうところ。
こういう人を揶揄(からか)って、翻弄(ほんろう)して楽しむところ!

やめた方がいいと思うけど!

オレは嫌いじゃない!

何も言えずに歯を食いしばっていると、緋音さんはビンに残ったわずかなワインを自分のグラスに注いで、右手で頬杖をついて、左手でグラスを弄(もてあそ)びながら言った。

「明日、仕事夕方からだけど・・・」

それが何を意味するのか、緋音さんも、オレも充分すぎるくらいわかっている。

緋音さんがセックスしてもいい時に使う言い回し。
明日朝早く起きなくていいから、今夜してもいいっていう、誘い文句。

しかも緋音さんは普段は絶対しない、妙に熱っぽい瞳で見つめてきて、紅い口唇を更に紅い舌で舐めて、思いっきり誘ってくる。

本当にもうこの人は・・・!!

こうすればオレの機嫌が直るとか、そういうの全部わかってて、こういうこと言ってくる。

こんな風にわかりやすく、色っぽく艶(つや)っぽく誘ってきて。

本当にもう、やめて欲しいと思う。

でも・・・・・・・・・・・大好きっっっ!!

オレは残っていたワインを一気に呷(あお)って飲み干すと、ガタン!っと椅子を蹴(け)るように立ち上がった。

思いっきり眉根を寄せて、完全に拗ねた表情(かお)をしているのが自分でもわかる。
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