飼ってあげる

璃鵺〜RIYA〜

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飼ってあげる 3

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「緋音さん!」

少し大きめの声で呼びかけると、緋音さんはぱっと顔を上げて、オレを見つけたらしく、ほっとしたように肩を落とした。

オレは緋音さんに駆け寄り、

「早かったですね」

と笑いかけた。緋音さんはスマホをポケットにしまうと、オレを見上げて笑った。花が咲いたような艶やかな笑顔が綺麗だ。

「広尾にいたからタクシーですぐだった」
「そうなんですね。じゃあ行きましょうか」
「うん」

緋音さんの歩調に合わせて移動し、先にエレベーターに乗ってもらい、再び3階まで上がる。
全て緋音さん優先での行動が身に染みついてしまっているので、先にエレバーターを降りてもらい、エスコートして座敷まで案内して。

ざわざわと喧騒(けんそう)が聞こえる、閉められていた扉を開けて、緋音さんが中に入ると、瞬間的に静かになった。

全員が一瞬で緋音さんに集中したのがわかった。
オレは後から中に入ると、緋音さんの鞄(かばん)とサングラスを預かって、荷物置き場と化している座敷の隅(すみ)に安置する。

何処に座ったらいいのか悩んでいる緋音さんに、千影がすかさず近づいて挨拶するのが視界に入った。
二人してやたらぺこぺこ頭を下げて挨拶している。
そういえば会うの2回目か3回目くらいじゃないだろうか。

そして座敷の中が再びざわざわしだす。雑談をしているというよりも、いきなり現れた緋音さんにびっくりして固まった人達が、緋音さんだということを認識して、ちょっと興奮ぎみにチラチラ見ながら騒ぎ始めた感じだった。

そういう反応されるのも、緋音さんは慣れているのだろう。全く気にする様子はなく、促(うなが)されるまま千影の隣に座って会話を続けている。

緋音さんは平気でも、オレは少しもやもやしていた。

こうやって目の前で見せられると、本当に、緋音さんという人の存在の大きさがわかる。東京ドーム公演とか世界ツアーとかやるような、何万人何十万人のファンがいるすごい人なんだなって、改めて感じて。

少しだけ淋しくなる。

本当はオレなんか触れちゃいけない人なんだろう。置かれている状況が違いすぎて、オレの手が届く範囲内にいる人じゃない。

でも、わかっていても頑張って、付き纏(まと)って、側にいて、今では半同棲みたいに付き合えるのは、オレの努力の結果だ。
誰に何を言われても、今のポジションは譲る気がない。
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