もっと捕らえて

璃鵺〜RIYA〜

文字の大きさ
上 下
4 / 15
もっと捕らえて

もっと捕らえて 4

しおりを挟む


「忘れ物ないか?シートベルトしろよ」

緋音が運転席に座りながら、自身もシートベルトを締めながら、珀英に問いかける。
珀英は、緋音と自分の荷物をトランクに入れてから、助手席に座り、言われた通りにシートベルトを締めながら、

「大丈夫です!」

と笑顔で元気に答えた。

今日は緋音の誕生日前日。
マネージャーの尽力(じんりょく)のおかげで、緋音は今日から3日間休みとなり、珀英と一緒に温泉旅行に行くことができる。

珀英が提案してきたのは、箱根の温泉旅館で、大きな大浴場もあるけど、部屋付きの露天風呂がある、そこそこいいお値段のする所だった。

箱根周辺の観光地にも行きたかったので、電車で行ってもレンタカーが必要になりそうだったから、なら最初から車で行こうと緋音が提案して、緋音の車で行くことになった。

本当は珀英としては、緋音にのんびりして欲しかったから、電車で行ってレンタカーでも良かったのだが、運転し慣れていない珀英の隣に座りたくない緋音が、自分の車で自身で運転することを譲らなかった。

運転することは好きだから、箱根くらいだったら苦にならないので、緋音はこうして珀英を隣に乗せて旅行に行けるだけでも、嬉しかった。

プライベートで旅行なんて何年ぶりだろう・・・。

少なくとも、珀英と付き合うようになってからは、プライベートの旅行なんて行っていないことに気が付く。

それを言ったら、珀英も緋音にべったりだから、仕事以外で遠出することなんかなかった。

二人とも、二人で行く旅行が初めてで、何だか気恥ずかしい感じがしつつも、嬉しくて楽しくて仕方なかった。

テンション高めの珀英は、箱根に向けて運転している緋音に、ずっと取り留めのない話しをしていて、緋音はその相手をしつつ慎重に車を走らせて、東名高速に乗る。

早めの台風が来ることもなく、空は青く高く澄んでいる。
夏特有の白い大きな雲が遠くに見える。
旅行に行く時は天気がいいだけで、何だか楽しくなってくるから不思議だ。

箱根まで90分かそこいらの時間だが、東京から離れて、二人で旅行に行くこの時間が、二人には初めてで新鮮で、とても愛おしい時間だった。

「緋音さんどこか行きたい所とかあります?」

珀英はど定番の旅行のガイドブックを広げながら、助手席でいつもより楽しそうな声色で話しかけてくる。
緋音はハンドルに手を添えるくらいで運転しながら、横目でちらっと珀英を見る。

本当に嬉しそうに楽しそうに、にこにこ笑っている珀英を見て、思わずくすりと笑う。

「ん・・・何処でもいいけど・・・」
「あ、じゃあ遊覧船とか乗ります?」
「悪い・・・オレ船は無理。酔うから」
「そうなんですか?!」

珀英が目を大きく開いて驚いているのを見て、また笑ってしまった。
珀英のテンションが高いのを、緋音のライブくらいでしか見たことがないので、何だか面白かった。

「たぶん三半規管が弱いんだろうな。飛行機と電車は平気だけど、バスも結構酔う。自分で運転してる時は大丈夫だけど」
「そうなんですね・・・じゃあしょうがないですね」

緋音の知らない一面を知れて、珀英は少し嬉しくなっていた。
今後緋音と移動する時は、船とバスは除外して計画を立てようと心に誓う。

珀英は手にしているガイドブックをぺらぺらめくって、ここはどうだ?あそこはどうだ?と緋音に聞く。

緋音が微苦笑を浮かべながら、全部に行きたいかそうでもないかを答えている内に、箱根まで半分くらいの所まで来た。

テンション高めに喋(しゃべ)り続けている珀英に、緋音は、

「次のSA(サービスエリア)寄るぞ」

緋音が高速道路の案内標識を見ながら珀英に声をかけた。

「あ、わかりました」

珀英は緋音のその言葉に答えると、少し反省する。

緋音にぶっ続けで運転させないで、ちゃんと休憩を入れてあげなきゃいけないのに、本当は珀英が気をつけなきゃいけないことなのに、そこまで気が回らなかったことを反省していた。

一緒に旅行行けるのが嬉しくて失敗した・・・ちゃんと緋音さんの体のことも考えなきゃ!

緋音は本当は箱根まで休憩なしで行っても良かったが、一回くらいトイレ休憩は入れておいたほうが良いだろうという、ただの思いつきだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

嗜虐と恍惚と、屈辱と

璃鵺〜RIYA〜
BL
シリーズ4作目です。 バンドマン同士のBL小説です。 後輩ヴォーカリスト×先輩ギタリストです。 後輩(攻め)くんがストーカー気質で、先輩(受け)が女王様です。 女王様を書きたかったんです。 今回は女王様をいじめてみました。 足を舐めるの好きです。大好物です。 すみません・・・ ※性行為の描写あります。 ※重複投稿です。 ※オリジナルです。 
※何かあればご一報下さい。

そっと、口吻けを。

璃鵺〜RIYA〜
BL
シリーズ3作目です。 バンドマン同士のBL小説です。 もともと芸能で活動していたので、どうしても書きたくなりました! 後輩ヴォーカリスト×先輩ギタリストです。 後輩(攻め)くんがストーカー気質で、先輩(受け)が女王様です。 お互いを想う気持ちを再確認し合った話しです。 30代のおっさんの恋物語ですので、苦手なかたはご遠慮ください。 おっさん好きなかたのみ、よろしくお願いします(笑)
 ※性行為の描写あります。 ※重複投稿です。 ※オリジナルです。 
※何かあればご一報下さい。

【完結】ぎゅって抱っこして

かずえ
BL
幼児教育学科の短大に通う村瀬一太。訳あって普通の高校に通えなかったため、働いて貯めたお金で二年間だけでもと大学に入学してみたが、学費と生活費を稼ぎつつ学校に通うのは、考えていたよりも厳しい……。 でも、頼れる者は誰もいない。 自分で頑張らなきゃ。 本気なら何でもできるはず。 でも、ある日、金持ちの坊っちゃんと心の中で呼んでいた松島晃に苦手なピアノの課題で助けてもらってから、どうにも自分の心がコントロールできなくなって……。

灰かぶりの少年

うどん
BL
大きなお屋敷に仕える一人の少年。 とても美しい美貌の持ち主だが忌み嫌われ毎日被虐的な扱いをされるのであった・・・。

壁乳

リリーブルー
BL
俺は後輩に「壁乳」に行こうと誘われた。 (作者の挿絵付きです。)

絶対にお嫁さんにするから覚悟してろよ!!!

toki
BL
「ていうかちゃんと寝てなさい」 「すいません……」 ゆるふわ距離感バグ幼馴染の読み切りBLです♪ 一応、有馬くんが攻めのつもりで書きましたが、お好きなように解釈していただいて大丈夫です。 作中の表現ではわかりづらいですが、有馬くんはけっこう見目が良いです。でもガチで桜田くんしか眼中にないので自分が目立っている自覚はまったくありません。 もしよろしければ感想などいただけましたら大変励みになります✿ 感想(匿名)➡ https://odaibako.net/u/toki_doki_ Twitter➡ https://twitter.com/toki_doki109 素敵な表紙お借りしました!(https://www.pixiv.net/artworks/110931919)

ハンターがマッサージ?で堕とされちゃう話

あずき
BL
【登場人物】ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ハンター ライト(17) ???? アル(20) ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー 後半のキャラ崩壊は許してください;;

短編集

田原摩耶
BL
地雷ない人向け

処理中です...